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第379話

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 ――舐められたものだ。

 Bランクプレイヤー『紫陽花あじさい』は目の前のソルジャータイプに機体を睨む。
 彼女の使用するフレームはエンジェルタイプの上位機種であるアークエンジェルタイプ。 
 性能差は明らかだが、それ以上に気になるのは相手のランクだ。 

 プレイヤー名『シニフィエ』。 ランクはI。
 つまり最低ランクだ。 『星座盤』が所属人数の少ない弱小である事は六対六という半端な数での対戦になっている点からも明らかなのだが、まさか最低ランクの初心者を出してくるとは思わなかった。

 それでも最低限の装備だけは整えてきたのか、Ⅱ型にアップグレードされている。
 背には高出力のブースターで、特徴としては可動域が広く、真横への加速など極端な挙動が可能な代物だ。
  
 手には大型のガントレット。
 恐らくは推進装置を内蔵した物で殴る際に拳を加速させる代物だったはずだ。

 足にも何か仕込んでいるのか膝から下の形状に違和感がある。 
 エネルギーブレードか何かを仕込んでいる可能性が高い。
 腰にも収納用の小さなボックスが見えるので何かしらの武器を仕込んでいると見て間違いない。

 結論。 接近戦特化の機体。 
 紫陽花はそれを見て再度舐められたものだと思う。 機動性に大きな開きがあるアークエンジェルタイプとの空中戦に機動力で大きく劣るソルジャータイプをぶつけるなど愚かとしか言いようがない。

 まさかとは思うが足止め狙いの捨て駒なのだろうか? だとしたら納得は行くが、Iランク程度に足止めできると判断されると思いそれはそれで不快だった。
 それを払拭する為にもさっさと片付けてタヂカラオを助けに行く事だ。

 ちらりと上をに視線をやるとタヂカラオの機体――『トガクシ』がリング状のエネルギー弾を連射しており、キマイラ+が凄まじい挙動で回避し続けている姿が見える。
 それだけではなく見事な縦旋回で背後へ回り込み、反撃まで行っていた。

 ――本当にEランクか?

 明らかにランクに不釣り合いな動きで、Bランクでも充分に通用しそうだった。
 そんな事を考えていると戦場のあちこちで銃撃や爆発音。
 他も戦闘を始めたようだが、恐らく一番早く片付けるのは自分だろう。
 
 確信を抱きながら射程に捉えたと同時にエネルギーライフルを発射。
 エネルギー弾が吸い込まれるように敵機に向かうが、敵機は機体を捻って回避。
 
 ――?

 Iランクにもかかわらず回避の挙動に随分と余裕が見える。
 警戒心が持ち上がり、雑に処理するのは良くないかもしれないと判断。
 エネルギーウイングの出力を上げて急加速。 即座に距離を潰し、相手の拳が届かない距離まで接近したと同時に再度エネルギーライフルを撃つ。 敵機は接近と同時にブースターを噴かして急上昇。

 上に逃げたと同時に敵機の背後に回り込む。 そもそも機動性に大きな開きがあるのだ。
 追いかけっこで負ける訳がない。 それでも最低限の警戒は行う紫陽花は拳の届く間合いには入らずに接近。 エネルギーライフルを発射。 また直前に噴かして躱す。
 
 流石にここまで躱されるとまぐれではない。 何故だと考えると、相手の動き出しを見れば疑問は氷解する。 驚くべき事に相手は自分が引き金を引くタイミングを見て躱しているのだ。
 
 ――なるほど。

 Iランクと侮るべきではなかったと敵の評価を上方修正。
 単発の火器では当たらないのなら連射武器で躱せない攻撃をすればいい。
 接近は容易いので接近して喰らわせれば充分に仕留められる。 敵機は更に上昇。
 
 妙に上昇するなと思いながら、ライフルを撃ちながら追撃。
 ソルジャータイプは仕様上、大気圏を突破できないので限界高度が存在する。
 その為、高度を必要以上に上げるのはあまり褒められた手段ではない。 

 ――狙いは何だ? 
 
 敵機は途中で方向転換。 雲に入るつもりのようだ。
 小賢しい。 仕掛けるのは雲に入る前だ。 そのタイミングで急加速してサイドアームの短機関銃で推進装置を破壊する。 そうなれば勝手に落ちて終わりだ。

 エネルギーウイングを噴かして急加速。 
 前か後ろかで迷ったが、敵機は明らかに背後からの攻撃を警戒しているのでギリギリまで接近して急旋回で前に回り込む。 意表をついてそれで終わりだ。

 接近、背後に付き、敵機が反応したと同時に再度エネルギーウイングを噴かして急旋回。 
 敵機を中心に半円を描く軌道で前に回り込む。 敵機は背を向けた状態。
 完全に読み切った。 短機関銃を構え――敵機のブースターが片方180°回転。

 連射。 同時に敵機が横に回転して上下が入れ替わった。 
 それにより胴体が下に行き、銃弾が狙ったブースターに当たらない。 
 だが、足が上に来たのでそこはどうにもならなかった。 無数の銃弾が足に命中し、次々と食い込むが破壊には至らない。 

 ――妙に硬いな。

 装甲を盛っていたようだが、ダメージは――
 
 『やーっと二回使ってくれた』

 不意に何かが飛んでくる。 高速で回転している何か。
 フォーカスすると特徴的な形状をした刃――恐らくは手裏剣だ。
 悪あがきを。 紫陽花はそれを頭部を傾ける事で躱す。

 『いやぁ、良い位置ですね』
 「何を――」

 頭部の真横に来たと同時に手裏剣が爆発。 
 大したサイズではないので頭部を破壊する事は不可能だ。 そう判断しての事だったのだが、手裏剣は破片の代わりに閃光を撒き散らした。 ほんの一瞬の事なので、大した被害ではない。

 そう、ほんのコンマ数秒視界がなくなるだけだ。 
 猛烈に嫌な予感がした紫陽花はエネルギーウイングを噴かして離脱しようとしたが、思った以上のスピードが出ない。 当然だった。

 追撃と回り込む際に二回ほど連続で噴かしたのだ。 
 三回目はジェネレーターに負担がかかるのでセーフティによって制限がかかる。
 それでも離脱する分には充分な推進力は出るが、ガクリと機体が何かに引っ張られて止まった。

 視界が戻ると機体にワイヤーのような物が巻き付いている。 
 何だこれはと敵機の装備構成を考え、腰にあったボックスを思い出した。 
 あれか。 アンカーの射出装置。 狙いは拘束――彼女の思考は一回転する視界に遮られる。

 天地が逆転したのだ。 混乱したが状況の把握には一秒もかからない。
 敵機がこちらの足を掴んで再度一回転したのだ。 どうやら射出したアンカーワイヤーで紫陽花の機体と自機を巻き付けて固定したらしい。 次にエネルギーウイングにエラー。

 密着と同時にエネルギーウイングを踏み折られた。 
 これら全てが一瞬の出来事なので状況に思考が追い付かない。
 
 ――何だ? 何が起こっている?
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