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第378話

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 敵の姿が見えたと同時に連射。 
 無数の実体弾が敵機に襲い掛かるが、展開されたエネルギーフィールドによって威力が減衰したようで今一つ効いていない。 見た目は狼と言うよりはライオンに近い。
 
 四つ足だが、全体的に太く力強い印象を受ける造形だ。 やや鈍重な見た目だが、動きは速い。
 器用にビルからビルへと飛び移って的を絞らせない動きはランクが高いだけはある。
 マルメルは釣れたと判断してスラスターを全開で噴かして後退。 そのまま引き撃ちに移行する。

 敵機はビルの屋上を飛び回り時には隙間に入り、射線を切りつつ接近。
 四つ足のキマイラタイプを想定して訓練はしてきたつもりだったが、軽々と上回って来た。
 アノマリーを連射しながらちらりと残弾を確認。 まだ、二百発以上残っているので、無計画にばら撒かなければまだ交換は必要ない。

 今回はダブルドラムマガジンという巨大なマガジンを使用しており、装弾数は驚きの六百発。
 その為、重量もかなりのものではあるが、マルメルに素早い挙動は難しいので何の問題もないと採用した。
 敵機は素早くマルメルを追い越すとそのまま先回り。 

 ――クソ、機動性じゃ勝負にならねぇな。

 だが、遅いなら遅いなりに考えてはいる。 正確にはヨシナリが考えたのだが。
 マルメルはエネルギーウイングを噴かして強引に横回転。 高速機動は無理でもこういった方向転換に利用できる。 タイミングは完璧だ。

 敵機がビルの陰から飛び出してくるのに合わせて連射を――

 「マジかよ」

 敵機は飛び出さずにビルの壁に張り付いて止まっている。
 何でだよと注視すると四肢を中心にビルの壁面に亀裂が走っていた。
 恐らくは四肢に返しのついたアンカーのような物があってそれで機体を固定しているのだ。

 こんな形で制動をかけるとは思わず、マルメルはそのまま何もない場所を薙ぐように銃弾をばら撒くが、咄嗟にエネルギーフィールドを全開にする。 僅かに遅れて敵機の肩に搭載された機関砲が火を噴く。 無数の徹甲弾がエネルギーフィールドに接触して減衰こそしたが、マルメルに機体に次々と食い込む。 

 ――畜生、一旦下がって――

 無意識に下がろうとしたが、不意に以前にヨシナリに言われた事が脳裏を過ぎる。
 
 ――お前は負けそうになると守りに入る癖がある。
 
 ヨシナリは言った。 それが悪い事ではないが、敵はその弱気に付け込んで来ると。
 それを聞いたふわわは苦笑して死中に活を求めるべきだと付け加えた。
 
 「そうだよな。 相棒、ここはビビる所じゃねぇよなぁ!」

 マルメルはスラスターとエネルギーウイングの出力を最大にして前進。
 同時にアノマリーを手放し、腕を交差させて完全に防御姿勢を取る。
 敵の銃撃を正面から受け止めて突破を狙う。 流石に突っ込んで来るとは思っていなかったのか、敵機が僅かに動揺に揺れる。 だが、上位のプレイヤーだけあって振り幅は僅か。
 
 即座にビルから地上に降り、銃撃を継続しながら人型形態に変形。
 持っていた大型の散弾砲を構える。 発射。 
 正面から喰らって爆発が発生。 マルメルの機体が爆炎に呑まれた。


 
 ――やった。

 思金神所属のBランクプレイヤー『水仙すいせん』は確かな手応えを感じていた。
 彼女は今回の模擬戦にあまり乗り気ではなく、どうせ楽勝だろうと侮ってさえいたのだ。
 キマイラループスの四つ足形態による機動は下位ランク帯ではあまり見られないので、早々見切られる事もないと思っていた事もあって、得意な動きで追い込んでそれで終わり。

 相手の星座盤に関しては知ってはいたが、情報としては限定的で精々が前のイベントで手柄を掻っ攫った連中程度の認識だった。 リーダーのヨシナリは何故かランカーの間で持ち上げられているので取り入るのが上手いとしか思っていない。 

 目の前のマルメルに関しても雑魚の腰巾着、構成から機体の供与を受けているのは明白だったのでいいお友達に恵まれたねと馬鹿にすらしていたのだ。
 だが、マルメルは水仙の動きに喰らいつき、想定を超えた動きまでしてきた。

 ――無謀ではあるが。

 いくらエネルギーフィールドと強化装甲の複合防御であっても徹甲弾の連射を無傷で防ぐのは不可能だ。 だからこそ腕を交差させてダメージを抑える手を取ったのだろうが、甘いと言わざるを得ない。
 接近された事に対する備えをしていないとでも思っているのか?

 大型散弾砲「パンチドランカー」欠点こそ多いが、有効射程内であれば大抵の相手は即死させられる必殺の威力だ。 プラスフレームとは言え、ソルジャータイプなら確殺と言っていいだろう。
 それをマルメルは正面から喰らった。 間違いなく即死――するはずなのに、何故か止まらずに突っ込んで来る。 何故だと目を凝らすと答えが分かった。

 強化装甲だ。 マルメルは水仙の発射と同時に装甲をパージして目の前にばら撒いたのだ。
 爆発したのは飛ばした装甲。 散弾である以上、一粒一粒の威力はそこまで致命的ではない。
 その為、装甲に当てさせて胴体に集中した散弾によるダメージを減らしたのだ。 

 エネルギーフィールドで減衰しているとはいえ、無傷はあり得ない。
 爆炎を突き抜けたマルメルの機体は各所が散弾によって穴だらけになっている。 
 
 『オラぁぁぁ!』

 マルメルは肩を前にしてタックル。 躱しきれずにまともに喰らう。
 銃を抜かなかったのはダメージの所為でまともに動かなかったからかもしれない。 
 近くのビルに叩きつけられながらもならばまだやりようはあると立て直す為の手段を脳裏で組み立てていたが、彼女は一つ勘違いをしていたようだ。

 『は、どうせ闇雲に撃ってもヒラヒラ躱されるのがオチだからなぁ』

 マルメルはそう言って水仙の機体の腹に腕を押し付ける。 
 アームガン。 体勢から何をしてくるのかを悟ってどうにか引き剥がそうとするが、背部、腰部のブースターとスラスターの半分以上がエラーを吐いている。 今の衝撃で壊れたようだ。
 
 だが、全てではない。 それに足が残っている。
 足のスラスターを最大出力で噴かして強引に膝を上げて、マルメルの腕を跳ね上げた。
 よしこれで――乗り切った水仙の視界はグシャリという音と共に真っ暗な闇に覆われて前が見えない。

 正確には押し付けられた反対側の腕に付いていたアームガンの銃口だったのだが、エネルギーの充填が始まりバチバチと紫電を発しながら発光。 

 『両手に付けといて良かったぜ。 サンキュー相棒』
 「ちょ、待っ――」
 『待つ訳ねぇだろ。 消し飛べ』
 
 光が水仙の視界を焼き、巨大な弾体が彼女の視界一杯に広がった。
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