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第365話

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 慎重に進んでいると不意に味方のステータスに変化。
 ホーコートのシグナルがロスト。 どうやら撃破されたらしい。 

 「いくら何でも雑魚過ぎますぅ!」

 思わずまんまるが声を上げる。 正直、ヨシナリも同感だった。
 まだ十分も経っていないのに早々に撃破されるとかホーコートは何をやっているんだと言いたくなる。
 だが、撃破された事でこの地下道にも敵がいるという事が分かったのは収穫かもしれない。

 「ど、どうしますぅ?」
 「大雑把な位置は分かってるので一応、見に行きましょう」

 そこまで離れていないのでホーコートを仕留めたであろうエネミー、もしくはプレイヤーの情報を取っておきたかった。 
 まんまるが慎重に進み、ヨシナリが直ぐにカバーできるポジションを維持して進む。
 元々、奇襲を警戒して慎重に進んでいたので移動速度が遅く、ホーコートとの距離はかなり開いていた。

 やられたのであれば猶更慎重に進む必要がある。 

 「一体、何にやられたんでしょうかぁ?」
 「そうですね。 俺もそれは気になってました。 ちょっとこの地形的に奇襲って考え難いですよね」

 トルーパーが余裕で移動できる広さはあるのだが、壁は継ぎ目もない滑らかな素材。
 等間隔で電灯が並んでいるので光源はあるが、薄暗いので距離が離れすぎると見え辛いかもしれない。 だが、奇襲に気付けないほどだろうか?

 グロウモスのように光学迷彩と静音フィールドの合わせ技なら可能ではあるかもしれないが、このトンネルのような空間ではあまり現実的ではない。
 
 「そろそろですぅ」
 「ですね。 気を付けてください」

 いくつかの分岐を抜け、ホーコートのシグナルが消えた辺りが見えてきたのだが――

 「妙だな」
 「ですねぇ」

 戦闘の痕跡が一切ない。 念の為、マップを確認するが、位置は間違っていないようだ。
 何か居る気配もない。 本当に何もない通路だった。
 到着。 ぐるりと見回すが何もない。 戦闘の痕跡――弾痕や破砕された跡は見当たらない。
 
 床も壁も綺麗な物だった。

 流石におかしい。 
 いくらホーコートが弱いと言ってもここまで無抵抗にやられるなんて事があるのか?
 まるで性質の悪いホラー映画のような消え方だ。 何だか背筋が寒くなる。
 まんまるもおかしいと思っているのか警戒しつつ床や壁を触って確認していたが特に何もなさそうだ。

 「ど、どうしますぅ?」
 「……不明な点が多すぎます。 ここを通るのは止めておきましょう」

 ここまで来る途中、いくつもの分岐を通ったので回り道などは可能だろう。
 マーカーはこの先を指しているが、いくら何でも危険すぎる。
 やや後ろ髪を引かれるような感触を覚えながらもヨシナリとまんまるは踵を返した。

 
 念の為、分岐を二つほど戻ってから進むと道が緩やかな登りになっているのでこれは正解かなと思っていると通路の途中に巨大な扉のような物が見えた。
 取っ手が付いた横開きの扉だ。 ヨシナリが小さく頷いて取っ手を掴み、まんまるが突撃銃を構える。

 「ゆっくり? それとも勢いよくですかぁ?」
 「……怖いからゆっくり開けます。 撃つ判断はお任せで」

 まんまるが頷いたと同時に扉をゆっくりと開く。
 ギシギシと軋むような音を立てる。 まんまるは撃たない。
 やがて扉が完全に開き、まんまるはゆっくりと外へ。

 ヨシナリも狙撃銃を構えながら素早く後を追う。 
 扉の先は小高い丘の上で、確かに都市ではあった。 だが、まるで激しい戦闘が起こったかのようにあちこちが崩壊している。 マーカーが差しているのは中央にある巨大なドーム状の建造物――外観から闘技場のようにも見えた。

 「いい位置に出ましたね。 ここからなら全体を見れる」
 「で、ですねぇ……。 い、移動しますぅ?」
 「いや、ここでしばらく様子を見ましょう。 もしも他のプレイヤーが居るのなら見えるかもしれません」

 この状況は不気味すぎる。 
 空を見上げると分厚い雲に日光は遮られて全体的に薄暗い。
 ヨシナリは機体のカメラを最大望遠にして街の様子を窺うが、廃墟にしか見えなかった。

 ――いきなりテイストを変えて来たな。 ホラーゲームかよ。

 エネミーもプレイヤーの姿も見えない。 
 ヨシナリは考える。 仮に他のプレイヤーと合流できた場合、どう動くかだ。
 正直、これはホラーゲームを意識して動いた方がいいかもしれない。

 何が出てくるのか分かったものじゃなかった。 
 前回の侵攻イベントのボスエネミーと反応炉の有様を見ればクリーチャー系が出て来ても驚きはない。 数分ほど街を眺めていると不意にパンと銃声が響いた。

 ヨシナリとまんまるは弾かれたように銃を向ける。 

 「……結構離れてますね」
 
 音から距離がある。 
 まんまるがどうしますかと視線で訴えてくるので頷きで応えると彼女は慎重に前に進む。
 あちこちにある枯れた木々を盾にしながら慎重に進んでいく。 見た感じから元は森だったのだろうか? そんな疑問を抱きながら枯れた森を抜け、開けた場所に出るとそこには三機のトルーパーが居た。

 ヨシナリ達に気が付いた三機は咄嗟に銃を向けようとしたが、リーダー機らしき機体が僚機の銃を押さえて下ろさせる。 それを確認したヨシナリとまんまるも応じるように銃を下ろした。

 「来てくれて感謝するよ。 君は――おや? ヨシナリ君ではないか」

 聞き覚えのある声だと思ったら『栄光』のイワモトだった。
 
 「あぁ、イワモトさん! どうもです」

 ここで知り合いと出くわしたのはラッキーだ。 
 イワモトであるなら話もし易いのでそういった意味でもありがたかった。
 
 
 ――結論から言うとイワモトもこの状況がよく分からないようだ。

 「我々も地下道のような通路を移動していたのだが、驚くほどに何も出てこない。 流石に不気味に感じてマーカーを無視して地上への道を探したんだ。 ついさっき出られたのだが、この有様を見れば普通ではないと判断せざるを得ない。 闇雲に動き回るのも危険だったので音を出して気付いてもらえるようにしたという訳だよ」

 そう言ってイワモトは親指で背後を指すとヨシナリ達が出てきたような扉があった。
 
 「正直、困り果てていてね。 良ければヨシナリ君の意見を聞かせて貰えないかな?」
 「――俺も分からない事だらけですが、この状況が普通じゃないって事だけは分かります。 まず前提として俺達と組んでくれるって事でいいんですよね?」
 「あぁ、我々は君達と敵対しない。 個人的にも君は敵に回したくないと思っているしね?」

 そう言ってイワモトは笑って見せる。
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