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第364話

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 システムは稼働し、そこで動くプレイヤー達を監視しその動きを数値化する。
 現在、このタスクが監視しているプレイヤーは十二人。 
 内、一人にフォーカスする。 

 プレイヤーネーム:ホーコート
 個人ランク:G
 戦闘能力評価:15/100 E+
 指揮官適性:0/100    E 
 兵員適性:5/100     E
 戦闘貢献度:10/100    E   
 総合評価:30/500   E

 備考:戦闘能力はランク帯でも平均以下。 特に得意距離よりも遠い相手との戦績は著しく悪い。
 指揮官適性は皆無。 他責思考の為、不和を生む事によって連携だけでなくコミュニケーションにも大きな齟齬を生み、集団戦には不向き。 

 戦闘貢献度:極低。 三戦を通して一切の連携を拒み、突出した結果撃破。
 挙動に関しては特筆すべき点なし。 総合評価Eは妥当であると判断される。

 sacrifice:0/100 E
 slave:68/100    C+   
 
 社会、反社会性に対しての詳細は別記。 
 ――以上の要因からプレイヤーネーム『ホーコート』は『ネットワーク経由による『フォーマット』及び『インストール』実験に適していると判断。 キャリアエネミーの精製開始――完了。
 

 ――何もかもが面白くなかった。
 振り返っても誰も追ってこない。 ホーコートは苛立ちが募り、叫び出したい衝動を抑えながらも肩を怒らせるように地下道らしき通路を進む。 三戦を通してホーコートは何もできなかった。

 一戦目は撃破こそされなかったが、一方的にやられて終わり、二戦目、三戦目に至っては早々に撃破されて終わった。 欠片も活躍できず、彼のモチベーションは完全に枯渇していた。
 可能であるなら早々にログアウトしていたが、イベントが終わるまでログアウトができないのでやるしかなかったのだ。 移動しながらヨシナリの事を考える。

 ――あのコバンザメ野郎、上手くやりやがって……。

 彼の中ではヨシナリは他人を利用して成果を掠めとる狡賢い卑怯者で、正しい方法でやっている自分はそれによって上手く行っていない。 そんな思考が脳裏を渦巻く。
 指摘されても一切認める気はないが、彼はヨシナリの事を非常に妬んでいた。

 ランクではヨシナリの方が上ではあったのだが、実はゲームを始めたのはホーコートの方が先だったのだ。 後から入ってきて早々に個人ランクを抜き去り、この前のイベントでは大きな戦果を挙げた。
 あちこちの大手ユニオンのプレイヤー達が注目しており、あのラーガストですら一目置いているとの事。 後から入って来た癖にといった気持ちが前面に出ているが、結局の所は自身の能力不足をすり替える逃避行動でしかなかった。

 ――何であいつばかりが上手く行って俺は――

 元々、ホーコートはこのゲームに対しての適性は低かった。 
 個人戦でも勝率は三割を切っており、イベント戦でも碌に活躍できないまま沈む。
 性格的にも向いておらず、このゲームに限っていうのであるなら『才能がなかった』のだ。

 なら辞めればいい。 このゲームはアカウント登録したからと言ってプレイしなければならないといった義務もない。
 そんな彼がこのゲームにしがみついている理由は一つ。 金だった。
 特殊通貨であるPはリアルマネーに換金できる。 ある日の事だ。

 彼は一度だけ緊急ミッションを受注した事がある。 
 慣れない作業用機体の操作に四苦八苦し、目標を達成できなかったが報酬は手に入れた。
 5P。 それが彼の得た報酬だ。 換金できる事は知っていたので物は試しと行ってみたのだが、実際に可能だった。 自分の口座に五万クレジットが振り込まれており、未成年である彼には大金と言える額だ。

 以降、彼は換金した時の感覚が忘れられず、このゲームにのめり込んだのだった。
 目指すはPを恒常的に入手できるCランク以上。 B以上になるとそこらのサラリーマンの月収以上の金額を入手できるのだ。 文字通り、金に目の眩んだ彼は今日までプレイを続けたのだが、何をやっても上手く行かない。 そんな中、イベント戦でボスを撃破したヨシナリを見れば報酬をたんまりと貰ったに決まっていると妬みが無限に沸き上がるのだ。 それが彼のヨシナリを嫌う本当の理由だった。

 だから、ホーコートはヨシナリの事を一生嫌い続け、同時に相容れないと思っているが、こうして顧みる事すらされなくなると惨めな気持ちになる。 それが振り返った理由なのだが、当然ながら彼の気持ちを汲み取ってくれる優しい存在はこのフィールド内には存在しない。

 その為、一人で離れた彼を追いかけ、諭してくれる存在も当然いなかった。

 ――こんなイベントに参加しなければ良かった。

 賞金に目が眩んで参加したのは良かったのだが、何もかもが面白くない。
 だからと言ってどこかに隠れるというのも違う気がして取り敢えずはとマーキングされたポイントへと向かっていたのだ。 彼の装備は散弾銃と突撃銃を二挺ずつ。

 この閉所なら散弾銃の方が有効なので突撃銃を肩に、予備の散弾銃を腰裏にマウントしている。
 静かだった。 自機の足音以外、何も聞こえない。 そしてその静寂が彼をより惨めにしていた。
 黙々と歩いていると不意に音がする。 ホーコートは弾かれたように散弾銃を構えた。

 音源は正面、通路は薄暗いが等間隔でライトが点灯しているので視界は確保できている。
 感じから何かが地面に落ちたような音だ。 

 ――敵か? それとも他のチーム?

 不明ではあったが、ここは長い一本道。 逃げ場もないので引き返す選択肢はなかった。
 慎重に歩を進めると通路の真ん中に物資が入っていると思われるコンテナが一つ置いてある。
 メカニカルな見た目に上部には触れと言わんばかりの緑のアクセスパネル。

 非常に怪しかったが、基本的に楽観的な思考の彼は物事を自分に都合良く解釈する。
 恐らくこれはプレイヤーの為に用意された隠しアイテム的な物だと。
 ホーコートは慎重に近づくと緑のアクセスパネルに接触、機体が自動でアクセスし『解放しますか?』といった確認メッセージがポップアップ。 この状況を打開できる物が入っていてくれよと祈りながら解放を選択。 空気が抜けるような音がしてボックスが開く。

 何が入ってるんだろうなと覗き込んだ瞬間、ボックスの中から無数のコードのような物が伸びる。
 
 「な、なんだこれ!? 放せ! 放しやがれ!」

 叫ぶがコードは次々とホーコートの機体に絡みつき、一部が突き刺さる。 
 同時にエラーメッセージがポップアップ。 

 内容は『当機はハッキングを受けており、このままでは機体の制御を奪われます』との事だった。 
 ホーコートはふざけるなと怒声を上げるがその声は誰にも届かず――やがて消えた。
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