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第358話

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 ――持ち運びを楽にするために手足を落としたのは失敗だったな!

 マルメルが胴体を狙って来る事を読んで高い位置で盾を構えていたので手足が完全にがら空きだ。
 足を狙えばブースターを積んでないⅠ型は碌に動けなくなる。
 意表を突いたつもりだろうが、らしくないパワープレイだったなとマルメルは照準を足に向けて連射。

 貰ったと思ったがマルメルが引き金を引いたと同時にヨシナリは彼の想像を超える動きをした。
 盾を落としたのだ。 完璧なタイミングで足を狙った銃弾を防ぎ、落とした盾に蹴りを入れて飛ばしてきた。 

 「うお!?」 

 マルメルは咄嗟に身を屈めて障害物へと身を隠す。
 
 「悪いけど、今なら狙えるから私が貰うわ」

 センドウが盾を失ったヨシナリに銃を向けるが、マルメルは違和感を感じていた。
 確かに相棒は意表を突く戦い方は得意ではあったが、ここまでだっただろうかと。
 突っ込んで来た機体とヨシナリの動きが重ならないのだ。 センドウが狙いを敵の狙撃手の牽制からヨシナリへ切り替えた瞬間、マルメルはヨシナリの狙いに気がついた。

 「違う! センドウさん、そっちじゃない!」

 マルメルの警告は遅く、センドウが引き金を引く前に彼女の機体のコックピット部分に穴が開いた。
 センドウは何が起こったのか分からないと言わんばかりの様子で息を呑んだが、機体が機能停止した事により撃破となった。 マルメルは咄嗟に障害物から飛び出し、僅かに遅れてヨシナリの振りをしていた機体が突撃銃を連射し、弾が切れたと同時に拳銃に持ち替えて追撃。

 よくよく見ると挙動が完全に別人だ。 さっきまでヨシナリだったのにいつの間に入れ替わった?
 怪しいのは合流した時。 恐らくはそのタイミングで武器とポジションを交換したのだろう。
 まさか、武器ごと入れ替わるとは思わなかった。 センドウがやられた以上、自分しか残っていない。 どうにか逆転の目を探らないと――

 「追いつめられると守りに入る癖、まだ抜けてないな」
 「げっ!?」

 不意に目の前に別の機体が現れ、持っていたブレードを一突き。
 マルメルはガードしようとしたが間に合わずにそのままコックピット部分を貫かれた。
 悔しさにアバターの向こうで表情を歪めるが、ややあって苦笑。 やられたぜと小さく呟く。

 「はは、流石だぜ相棒」
 「できればお前は味方に欲しかったよ相棒」

 ヨシナリの声は本当に残念そうだった。 
 それを聞いてマルメルは苦笑。

 「俺もだ。 ま、くじ運だな。 頑張れよ。 応援してるからな!」
 「あぁ、ありがとう」
 
 ヨシナリが突き立てたブレードを捻るとマルメルの機体が完全に機能停止。
 全滅により、試合終了となった。 



 「――ふぅ」

 かなり危ない戦いだった。 地の利を抑えられた状態での二対三。
 まんまるがいなければ確実に負けていた。 終わった後に知ったのだが、狙撃手の正体はセンドウだったらしい。 どうりで手強い訳だ。

 「か、勝ちましたぁ! 流石ですぅ! 凄いですぅ!」

 まんまるが太鼓持ちのようにひたすらに持ち上げてくるが、どちらかというと彼女の方が貢献としては大きいので褒められるべきは彼女だった。

 「いや、まんまるさんこそお見事です。 俺の作戦に付き合ってくれてありがとうございました。 マジで助かりました」

 そう言って頭を下げる。 
 あの時、ヨシナリが立てた作戦は簡単に言うと相手の目が慣れたタイミングでポジションを交代して動きを変調させて刺すというものだ。 特に相手がマルメルと気付いてからは確実に刺さると思ったので実行した。 ある意味、マルメルを信用していたからこその作戦だ。

 狙撃の腕はヨシナリの方が上だったので、相手がまんまるの腕を見極めたタイミングで入れ替わればマークは緩くなり、突出したまんまるを狙いに行くであろう事は読めたのでそこを一刺しした。
 外したら最悪だったが、何とか当てられたので結果オーライだ。 まんまるはやや慌てたように「そんな事ないですぅ」と手をブンブンと振っていた。

 ――ただ、勝ったのに面白くないと言わんばかりの態度の奴が一人いた。

 「んだよ! お前の言う通りにしたのにやられちまったじゃねーか!」

 早々に脱落した役立たずホーコートが文句を言い出したので、ヨシナリは内心で小さく溜息を吐く。 
 
 「だから慎重に上がれって言っただろう。 あんな雑な確認で身を晒したんだから撃たれて当然だろうが」
 
 適当に首を振って視界に敵の姿がない事を見た後に一気に上がったのだ。
 マルメル達は恐らく開始と同時に崖を上がって高所を確保し、三機でヨシナリ達が上がってくるであろう場所に当たりを付けて待っていた。 そんな中で大きな動きで顔を出したら撃たれるのは火を見るよりも明らかだ。 そもそもホーコートがごねなければ先に上がれた可能性もあったので、フォローする気も起こらなかった。 

 「いらない時間を使わせて足を引っ張る事しかできない間抜けは隅で小さくなってろですぅ! お前価値なしですぅ。 もう次からは武器だけ置いて消えろですぅ!」

 ここぞとばかりにまんまるが煽るがヨシナリは努めて無視。 
 
 「一応、確認しときたいんだけど、次も一応は指示を聞いてくれるって認識でいいのか?」
 「あ!? お前がちゃんと指示――」
 
 ヨシナリはすっと手を翳して遮る。 

 「余計な言葉は要らない。 俺が聞きたいのはやるのかやらないのかだけだ」
 
 本来ならこんな力で従えるような真似はしたくないのだが、次の相手は更に手強くなるだろう。
 そんな状態で足を引っ張られると非常に困るのだ。 マルメルと交換したいと思いながらホーコートに対してはそう冷たくあしらう。 

 折り合いが付く相手なら妥協点を探すが、反発したくてたまらないといった様子の相手にそこまでしてやる義理はなかった。 返事に関してもやると答えたなら前回と同じように指示は出すが、期待はあまりしない。 やらないのなら別行動を取ってもらうが、纏わりつくなら敵よりも先に片付けて装備を剥ぎ取るだけだ。

 「やりたくないならやらなくていいですぅ。 雑魚は足しか引っ張らないから居ても邪魔ですぅ! 消えろですぅ」

 ――どうでもいいけどこの人、二言目には消えろとかいうなぁ……。

 「あぁ!? 誰が雑魚だこらぁ! お前こそ後ろでコソコソしてただけだろうがゴミ女がよぉ!」

 そして煽るまんまるとキレるホーコートとの熾烈な言い合いが始まった。
 それを見てヨシナリは表面上は無言で直立。 
 内心では顔を覆って蹲りたい気持ちでいっぱいだった。
 
 ――もう嫌だ……。

 全然楽しくない。 マルメルやふわわが恋しかった。
 これはアレなのか? もしかしなくても運営が俺の忍耐力を試そうとしているのか?
 そんな疑問が自然と浮かぶ程度にはヨシナリは疲弊していた。 
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