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第350話

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 正直、楽な相手だった。 ユニオン『大雪山』。
 重量級のリーダー機の突破力を中心に、他はそれを支えるという戦い方。
 良し悪しはともかく、戦い方として確立は出来ている。 地形にも明るいらしく、動きに迷いもなかったので上手に地形を使いそうだなと思ったが、褒められる点はそれぐらいだった。
 
 楽な相手だからと言ってヨシナリは手を抜く気は欠片もないので、レーダーに映っている敵機が居なくなるまで全力を叩きつけるだけだ。 まずはグロウモスが一機を狙撃。
 スコーピオン・アンタレスの射程は長く、山頂から数キロ離れた地上の敵機を撃ち抜く事など彼女の腕を以ってすればそう難しくはない。 

 あっさりと一機を撃破。 
 その間にヨシナリは変形してシニフィエを背に乗せて低空を飛行し、敵の背後に回り込む。
 いい位置で彼女を投下し、気付かれない位置で変形してアシンメトリーを一撃。

 ヨシナリの接近に気付いていなかった一機を背後から撃ち抜く。 
 同時にふわわとシニフィエが敵機に忍び寄って撃破。 接敵してから撃破まで異様に早い事に若干の恐怖を覚えたが、これで四機。 残りのリーダー機は攻撃を引き付ける為なのか目立つ形で突出していたが、こうなるとほぼ完全に詰みだ。 せめて一機でもと思ったのか手近な敵機――マルメルの方へと突っ込んでいくが、ハンドレールキャノンで一撃。 盾で防ごうとしていたが、無駄だった。

 盾ごと機体の中心に風穴を開けられて崩れ落ちて爆散。 全滅した事により試合終了となった。


 「うえーい! 楽勝!」

 試合が終了し、ユニオンホームに戻ってくると、マルメルが勝てた事による喜びの声を上げる。
 
 「特になんもなかったなぁ。 そこまでの相手やない事も歩けど、貰った機体が強すぎるわ」
 「う、うん。 と、遠くの敵も簡単に当たる。 ヨシナリが私の為に組んだ機体、凄い。 私の為にわ、私の、フヒ、ウヘフヘヒヒヒ」

 ヨシナリは不気味な笑いを上げているグロウモスからそっと目を逸らしながら考える。
 ふわわ達の言う通りだった。 機体をバージョンアップした事で戦力強化を行ったのはいいのだが、同ランク帯のユニオンやプレイヤーでは相手にならなくなってしまった。
 
 個人ランクに関してはこのまま勝ちを重ねればCどころかBも充分に狙えるポテンシャルだ。
 ふわわ、マルメル、グロウモス。 三人とも渡した機体をしっかりと使いこなしてくれている。
 その事実はヨシナリとって嬉しく、同時に今のメンバーなら充分にBランク以上に食い込めるだろうと確信が持てたのは収穫だった。 

 この調子で行けば個人戦に関してはそう遠くない内に実力に見合った相手と当たる事にはなるだろうが、問題はユニオン戦だ。 ユニオンランクはユニオンの総資産、ミッションクリア回数、ランク戦での戦績が昇給条件なので、この調子だとまず上がらない。 勝数は問題ないが、資産とミッションクリアの累計を突破するのは現実的ではなかった。 

 元々、メンバーの細かな装備代の足しになればいいぐらいの気持ちで結成したのだが、こうなるとランクを上げて上位のユニオンと戦ってみたいといった気持ちがムクムクと膨らんでいく。
 
 ――うーん、欲張るのはあんまりよくないんだがなぁ……。

 どちらにせよ、現状ではどうにもならない。 
 今はもう少し見たい物もあるので、ユニオン戦を続けよう。

 「あっさり片付いたし、良かったらもう何戦かしてみないか?」

 感想戦が終わった所でヨシナリはそう提案した。


 最初の戦闘と併せて合計で十戦。 戦績は全戦全勝。
 素晴らしい結果ではあるが、ヨシナリの興味は別にあった。
 シニフィエについてだ。 ふわわの妹だけあって近接戦闘が得意な事には驚かなかったが、技量面でも非常に優れていると言える。 それはこのICpwでも遺憾なく発揮されており、ランク以上の戦闘能力だ。 

 ただ、ふわわと違って刀剣はあまり得意でないのか、使用する武器はナックルダスターやレガースなど、打撃を補助する類の物が多い。 散弾銃を持ってはいるが、基本的にはとどめ用だ。
 戦いの組み立てとしては正面からだと頭部に拳の一撃を入れてカメラやセンサー系を破壊し、態勢を崩しながら蹴り。 最初は足元を崩すローキックだったが、人体とトルーパーは違うという事を早々に理解したようでコックピット部分への打撃に切り替えた。

 突き刺すような膝蹴り。 動きからムエタイに近い印象を受ける。
 胴体を狙う際も比較的に脆い個所を探してから狙う辺りも非常に手慣れているように見えた。
 回避に関してはふわわのように掻い潜るのではなく地形を上手に活かしている点から、反応速度に関しては姉ほどではないのだろう。
 
 代わりに動きが凄まじい、パルクールというのだろうか?
 地形を利用して飛び跳ねるような動きは初見で見切るのは難しいだろう。
 市街地ではビルを蹴って屋上に上がり、転がって姿勢を調整して次の移動に繋げる動きは見ていて面白い。 

 打撃や投げに特化した近接戦を主体とした戦い方。 
 それがシニフィエの戦闘スタイル。 今は人体の延長といった認識ではあるようだが、トルーパーという肉体ではなく機体の扱いに慣れれば自然と適応した戦い方が身に付くだろう。

 「あれぇ? お義兄さん、私の動き見てます? もしかして私に興味津々ですか?」
 「あぁ、面白い動きをするね。 これも道場で覚えた動き?」
 「そんな所ですねー。 ――いいフレームをくれたらもっといい動きをしてみせますよ?」

 正直、お義兄さん呼びもどの程度本気なのか掴みかねている事もあって、どうにも人間的な意味ではあまり好きになれない。 少なくとも適度に距離を置く事が無難だろう。
 
 「えー? 私だけ、Ⅰ型なのやだなー? フレーム買って欲しいなー?」
 
 ちらちらと上目遣いをしてくるが、初期アバターなので欠片も可愛くない。 声は可愛いけど。  
 
 「なら、語尾に『にゃん』ってつけろ」
 「買って欲しいにゃん♪」

 躊躇なしかよ。 ふわわとは別のベクトルでメンタル強いな。

 「イベントで活躍して個人ランクEぐらいになったら考えるわ」
 「酷い!」

 後、何故かグロウモスがどろりとした視線を向けてくる。 謎の圧がかかって怖い。 
 ヨシナリは小さく溜息を吐くと――不意にメールの受信を知らせる通知音。
 全員が同時に反応した所を見ると恐らく運営からだろう。 

 ――来たか。

 そろそろ次のイベントの詳細が来る頃だと思っていた。
 ヨシナリはアバターの奥で楽しみだと思いながらメールを開いた。 
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