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第349話

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 試合を片付けて戻って来たヨシナリをマルメル達が迎える。
 
 「お疲れ! 割とあっさり勝ったな!」
 「相手がキマイラの空戦機動に慣れてなかったから助かったよ」

 明らかにキマイラに乗り換えてから日が浅かったので、動きに硬さがあった。
 その為、性能差で押し切るだけで楽に勝てたのだ。 これがC以上のランカーだった場合はこうは行かなかっただろう。 勝ち星は拾えたがあまり得る物の少ない戦いではあった。

 「どうだった?」
 「見た目はそこまで変わってないけど、動き自体は目に見えて良くなってたな! 相手と比べると挙動とスペック差が露骨に出てたぞ」
 「まぁ、強化前だったらもうちょっと手こずったかもしれないけど、今の機体なら同ランク帯の相手は大抵は楽に勝てそうだな」

 実際、マルメルから見てもヨシナリの動きには余裕があった。
 どの程度戦闘スタイルを変えたのかは分からなかったのでまだまだ色々と隠しているように見える。
 
 「よし、取り敢えず、一周したし次は全員でユニオン戦行っときますか!」
 「いいねぇ。 このメンバーだったら大抵の奴には負ける気がしねぇし勝ち確だろ」
 「よーし、ウチも頑張るよ!」

 グロウモスもふんふんと頷く。 

 「あのー私も混ぜて貰っても大丈夫ですか?」
 「勿論、前衛を頼むよ」

 シニフィエは見てろと言われると思っていたのだが、ヨシナリはあっさりと参加を許可されたので少しだけ意外だった。 

 「えーっと、ユニオン戦って言うのはどんな感じなんですか?」
 「ルールは個人戦とそう変わらないよ。 マッチングして当たった相手のユニオンとの集団戦。 マッチング条件に人数も含まれるから同数での集団戦。 相手か自軍が全滅したら終わり」

 ヨシナリは分かり易いだろと付け加える。 

 「俺達のユニオンは最低ランクだから、そこまで強い相手とはまず当たらないし気軽に行こう。 フォーメーションはいつも通り、状況や地形にもよりますがシニフィエはふわわさんが面倒を見てくれるのを期待しても?」
 「勿論、しっかりとコキ使ったるから覚悟してな?」
 「よろしく、姉さん」

 ヨシナリは小さく頷きながらユニオン戦に参加、マッチングが完了。
 相手のユニオンとその詳細が表示される。 同ランクだけあってランカーはいない。
 
 「いつも通り落ち着いていこう。 ミスらなきゃ充分に勝てる」

 ヨシナリが小さく拳を持ち上げるとふわわ達も「おー!」と追従し、反応の遅れたシニフィエも小さく拳を上げた。 


 ランクⅤユニオン『大雪山だいせつざん
 構成人数五名の小規模ユニオンだ。 
 リーダーの『あさひ』はユニオン戦にエントリーし、マッチング相手を待っていたのだが表示された対戦相手の名前を見て眉を顰める。

 ――『星座盤』
 
 低ランクながらここ最近、様々なイベントなどで顔を見せるようになったユニオンだ。
 小規模ながら少しだけ有名なのは理由があった。 このサーバー唯一のSランクプレイヤーであるラーガストが一時的に所属していた事だ。

 第一回のユニオン対抗戦では凄まじい強さで数多のプレイヤーを屠り、本戦へと駒を進めた。
 旭としては強力なランカーの力を背景に勝ち進んだように見えたのであまりいい印象がなかったのだが、二回目にたったの五人で本戦まで勝ち上がったのを見た以上は認めざるを得ない。

 二回とも予選落ちした旭としては妬みもあったが、格上と判断して挑むのだ。
 
 「ユニオンとしては同格だが、対抗戦を本戦まで勝ち抜いた強敵。 だが、チームとしての完成度は俺達の方が上だ! 連中に見せつけてやろうぜ! 俺達の力を!」

 旭はリーダーとして仲間達にそう檄を飛ばすと皆は応と力強く返す。
 連中に大雪山の力を見せてやる。 そう意気込んでフィールドへ移動。
 チームの機体構成は一人を除いて全員がソルジャーⅡ型で、残りの一人はパンツァータイプだ。

 個人ランクは旭がEで残りのメンバーがF。 
 装備構成は旭は無理して買った強化装甲に追加のブースターを装備した突破力重視。
 武装は大型の散弾銃と腕に搭載されたパイルバンカーと背には巨大なタワーシールドがマウントされている。 彼の戦闘スタイルは突破力に物を言わせ、一気に肉薄して、パイルバンカーでの一撃必殺を狙う。

 他のメンバーは彼の突撃を援護する為に手数の多いロングマガジンの突撃銃やミサイルランチャーなどを装備している。 リーダーであり、最強戦力である旭の力を最大限に活かす形での戦い方を中心に組み立てていた。

 ステージは山岳地帯。 彼等「大雪山」にとって最も得意なステージだ。
 地の利はこちらにある。 そう考え、旭はほくそ笑む。
 
 ――行ける。

 このステージは普段からトレーニングに使用しているので知り尽くしていると言っていい。
 試合開始。 距離があるのかレーダー表示には何も映らないが何の問題もない。
 初期配置の場所は把握済みだ。 

 「旭! いつものやり方で行こう!」

 そう言って前に出たのは『愛別あいべつ』。 このユニオンのサブリーダーで、旭の彼女だ。
 愛別の言ういつもの手というのはミサイル系統の武装を積んだ者達が爆撃を行い敵を炙り出す作戦を指す。 繰り返しになるが彼等はこのステージを知り尽くしているのでどこにミサイルを撃ち込めば土砂崩れを引き起こせるのかも熟知している。

 それによって敵の行動を制限して旭の戦い易い場所に誘導するのだ。
 
 「よし、ならまずは――」

 旭の言葉は最後まで紡がれなかった。 何故なら前に出た愛別の機体に風穴が開いたからだ。
 コックピット部分を綺麗に貫通。 確認するまでもなく即死だ。
 
 「さ、散開! 狙われてるぞ!」

 飛んできた角度から少し離れた山頂からの狙撃だ。 
 パンツァータイプが空中にミサイルポッドを連射。 空中で弾けたミサイルが煙幕を撒き散らす。
 始まってから三十秒も経っていないのにもうこちらの位置を割り出して狙撃ポイントまで移動したのか。 旭は戦慄すると同時に理解して敵もこのステージを理解していると。

 「黒と白雲は左右に散って敵に狙いを絞らせるな。 麓まで行けば角度的に狙えないはずだ! 北鎮はそのままミサイルで牽制しつつ狙えそうなら仕留めに行くんだ!」

 指示を出しながら旭は一人シールドを構えて前に出る。 
 
 ――まずは敵の位置を――

 レーダー表示に視線を向けると瞬く間に僚機の反応が全てロスト。
 速すぎる。 何が起こっているのか旭にはさっぱり分からなかった。
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