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第339話
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あれから丸一日が経過し、疲労も寝る事で回復したのだが、嘉成は震えていた。
目の前にある物が彼の想像を遥かに超えており、上手く息ができない。
理由は表示されているウインドウだ。 そこにはICpwから受け取った報酬が表示されていた。
10000P。 Pは限られた手段でしか入手できない特殊通貨で、主な入手方法は緊急ミッションとランク戦報酬(Cランク以上)の二つだ。
そしてこの特殊通貨の凄まじい点はクレジットに換金――要はリアルマネーに変換できる事だ。
換金レートは1P約一万から一万五千クレジット。 社会人の平均月収は三十万から五十万クレジット。
つまりこのPを金に換えると――
「十万、百万、千万、一お――嘘だろ?」
正直、換金に興味がなかった事もありできる事は知っていたが、レートを知らなかった。
何の気なしに換金レートを見るとなるほどと納得してしまう。
ランカーがPを売却して生計を立てているという話も頷ける。
――反応炉を潰しただけでこれだけくれるのか。
信じられない。 このゲームの運営は頭がおかしいのか?
あまりの金額に思考が変な方向に行きかけたが、別に直ぐに判断しなければならない事でもない。
それに戦力強化に使うのであんまり残らないだろうなとも思っていた。
自室のベッドに横になって一つ深呼吸。 思考を切り替える。
考えるのはイベント戦の反省会だ。 まず、立ち回り自体はいくつかのイレギュラーこそあったが、概ね想定内に収まったと言える。 いや、上手く行き過ぎたなとすら思っていた。
ラーガストから得た情報を元に水中戦用の装備を揃え、他を無視して反応炉を直接叩きに行くやり方は理に適っており、無駄も少なく合理的だ。
熱核兵器があったとしても千じゃ利かない数の拠点をチマチマ潰すよりはよっぽど効率的とすら思っている。 加えて、他を出し抜きたいという嘉成の隠された欲望を満たされた。
――あぁ、本当にラーガストは酷い奴だな。
自分でも意識していなかったエゴと呼べるような感情を掘り起こされた。
アレが無かったらもう少し慎重に動いていただろう。 だが、そうはならなかったので、もしかするとラーガストはその辺を見透かしていたのかもしれない。
小さく溜息を吐く。 自分の内面の事はどうでもいい。
感情を排した純粋な問題点だ。 まず、機体の問題。
ホロスコープはジェネレーターと推進装置をエネルギー式に変えているのである程度の継戦能力は担保されていると思っていたのだが、全力での戦闘行為を何度も行う連戦であちこちにガタが来ていた。
つまり、機体の消耗が思った以上に大きかったのだ。
あそこまでになると腕でカバーするのは無理なので、機体の強化は必須だろう。
次に武器の問題だ。 基本的にアノマリーだけに頼った戦い方は喪失した際に大きな火力低下を齎す。 あそこまで酷使して動いてくれたのは上出来ではあるが、最後まで保たなかった事が問題だった。
武装面での強化も必須だ。
マルメル達にも装備を揃える必要があるので、その辺の擦り合わせも行いたかった。
「……取り敢えず、ログインするか」
そう呟き、脳内チップを操作。 ICpwを呼び出し、ログイン。
嘉成からヨシナリへ。
ユニオンホームにはまだ誰もおらず、フレンドリストを見ると誰もログインしていなかった。
近くのソファーに腰掛け、ショップ画面を呼び出す。 幸いにも金はあるので、アノマリーよりもランクの高い武器を手に入れたいと思っていた。
細かく条件を絞って候補を表示。 実弾、エネルギーの撃ち分けが出来て長射程。
「手頃なのはこれか?」
多目的複合突撃銃『アシンメトリー』アノマリーより一回り大きくなるが、エネルギー、実弾の撃ち分けも可能で、内蔵ジェネレーターも大型化によりエネルギー弾の発射可能回数、チャージ時間、どの面でもアノマリーよりも上だった。 何よりも目を引いたのはアトルムとクルックス同様にオプションパーツを購入する事で自由にカスタムする事が可能な点だ。
ロングマガジン、ドラムマガジン、ボックスマガジンといった様々なマガジンに対応しており、装弾数を大きく伸ばせるのも魅力だった。 その他、マガジンを挿入するスロットに小型のジェネレーターを差し込む事でエネルギー弾に特化した構成に可能といった状況に応じて偏らせる事も可能。
マガジンの自動排出、レーザー誘導によるオートリロード。
最も素晴らしいのが、銃身が特殊な素材で作られており、収縮、膨張させる事が可能となる。
それが何を意味するのかというと、口径をある程度弄れるのだ。 それに加えてマガジンを挿入するスロットも複雑な形状をしており、大抵の規格の物は使用可能という凄まじさ。
要は実弾が切れたらその辺に落ちているマガジンを拾って使う事も可能なのだ。
「や、やべぇ、超欲しい……」
当然、ホロスコープのアタッチメントにも対応しているので接続する事で機体側からトリガーを操作できる。 つまり戦闘機形態でも撃てるのだ。
カタログスペック上はアノマリーと使用感も変わらない。
気が付けばヨシナリは次々とカートに商品を放り込んでいた。
アシンメトリーとそのカスタムパーツ各種、大出力ジェネレーター、コンデンサー、推力偏向ノズル。 アトルムとクルックス用のカスタムパーツ、予備のジェネレーター――そしてキマイラ+フレームとエネルギーウイング。 金額がとんでもない事になったが、ヨシナリは何の躊躇もなく購入ボタンを押す。
「か、金を一気に使うの気持ちいい~」
そんな仄暗い快感を味わいながら機体をリビルド。 ホロスコープを一気に生まれ変わらせる。
キマイラ+フレームは無印との最大の違いは若干の大型化と引き換えにジェネレーターの搭載スロットが増えているので二基も積める事だ。 お陰でスタミナが大きく向上する。
機体を買ったパーツで組みなおし、完成させる。
カラーリングなどは特に変えなかったので見た目はそこまで変わっていないが、装甲もグレードを上げたので見た目は同じでも強度に優れ、ついでに軽い。 冷却装置など、機体にかかる負荷を軽減させる装置をあれこれと搭載した。 次に弄るのは武器だ。
アシンメトリーとアトルム、クルックスのカスタムを開始。
楽しい。 楽しすぎる。 まさに至福の時間だった。
そして終わった後はトレーニングルームで死ぬほど乗り回すんだ。
組み上げるのも楽しく、その先に更なる楽しみが待っている。
ヨシナリは心の底からの笑顔で機体と武器を弄繰り回した
目の前にある物が彼の想像を遥かに超えており、上手く息ができない。
理由は表示されているウインドウだ。 そこにはICpwから受け取った報酬が表示されていた。
10000P。 Pは限られた手段でしか入手できない特殊通貨で、主な入手方法は緊急ミッションとランク戦報酬(Cランク以上)の二つだ。
そしてこの特殊通貨の凄まじい点はクレジットに換金――要はリアルマネーに変換できる事だ。
換金レートは1P約一万から一万五千クレジット。 社会人の平均月収は三十万から五十万クレジット。
つまりこのPを金に換えると――
「十万、百万、千万、一お――嘘だろ?」
正直、換金に興味がなかった事もありできる事は知っていたが、レートを知らなかった。
何の気なしに換金レートを見るとなるほどと納得してしまう。
ランカーがPを売却して生計を立てているという話も頷ける。
――反応炉を潰しただけでこれだけくれるのか。
信じられない。 このゲームの運営は頭がおかしいのか?
あまりの金額に思考が変な方向に行きかけたが、別に直ぐに判断しなければならない事でもない。
それに戦力強化に使うのであんまり残らないだろうなとも思っていた。
自室のベッドに横になって一つ深呼吸。 思考を切り替える。
考えるのはイベント戦の反省会だ。 まず、立ち回り自体はいくつかのイレギュラーこそあったが、概ね想定内に収まったと言える。 いや、上手く行き過ぎたなとすら思っていた。
ラーガストから得た情報を元に水中戦用の装備を揃え、他を無視して反応炉を直接叩きに行くやり方は理に適っており、無駄も少なく合理的だ。
熱核兵器があったとしても千じゃ利かない数の拠点をチマチマ潰すよりはよっぽど効率的とすら思っている。 加えて、他を出し抜きたいという嘉成の隠された欲望を満たされた。
――あぁ、本当にラーガストは酷い奴だな。
自分でも意識していなかったエゴと呼べるような感情を掘り起こされた。
アレが無かったらもう少し慎重に動いていただろう。 だが、そうはならなかったので、もしかするとラーガストはその辺を見透かしていたのかもしれない。
小さく溜息を吐く。 自分の内面の事はどうでもいい。
感情を排した純粋な問題点だ。 まず、機体の問題。
ホロスコープはジェネレーターと推進装置をエネルギー式に変えているのである程度の継戦能力は担保されていると思っていたのだが、全力での戦闘行為を何度も行う連戦であちこちにガタが来ていた。
つまり、機体の消耗が思った以上に大きかったのだ。
あそこまでになると腕でカバーするのは無理なので、機体の強化は必須だろう。
次に武器の問題だ。 基本的にアノマリーだけに頼った戦い方は喪失した際に大きな火力低下を齎す。 あそこまで酷使して動いてくれたのは上出来ではあるが、最後まで保たなかった事が問題だった。
武装面での強化も必須だ。
マルメル達にも装備を揃える必要があるので、その辺の擦り合わせも行いたかった。
「……取り敢えず、ログインするか」
そう呟き、脳内チップを操作。 ICpwを呼び出し、ログイン。
嘉成からヨシナリへ。
ユニオンホームにはまだ誰もおらず、フレンドリストを見ると誰もログインしていなかった。
近くのソファーに腰掛け、ショップ画面を呼び出す。 幸いにも金はあるので、アノマリーよりもランクの高い武器を手に入れたいと思っていた。
細かく条件を絞って候補を表示。 実弾、エネルギーの撃ち分けが出来て長射程。
「手頃なのはこれか?」
多目的複合突撃銃『アシンメトリー』アノマリーより一回り大きくなるが、エネルギー、実弾の撃ち分けも可能で、内蔵ジェネレーターも大型化によりエネルギー弾の発射可能回数、チャージ時間、どの面でもアノマリーよりも上だった。 何よりも目を引いたのはアトルムとクルックス同様にオプションパーツを購入する事で自由にカスタムする事が可能な点だ。
ロングマガジン、ドラムマガジン、ボックスマガジンといった様々なマガジンに対応しており、装弾数を大きく伸ばせるのも魅力だった。 その他、マガジンを挿入するスロットに小型のジェネレーターを差し込む事でエネルギー弾に特化した構成に可能といった状況に応じて偏らせる事も可能。
マガジンの自動排出、レーザー誘導によるオートリロード。
最も素晴らしいのが、銃身が特殊な素材で作られており、収縮、膨張させる事が可能となる。
それが何を意味するのかというと、口径をある程度弄れるのだ。 それに加えてマガジンを挿入するスロットも複雑な形状をしており、大抵の規格の物は使用可能という凄まじさ。
要は実弾が切れたらその辺に落ちているマガジンを拾って使う事も可能なのだ。
「や、やべぇ、超欲しい……」
当然、ホロスコープのアタッチメントにも対応しているので接続する事で機体側からトリガーを操作できる。 つまり戦闘機形態でも撃てるのだ。
カタログスペック上はアノマリーと使用感も変わらない。
気が付けばヨシナリは次々とカートに商品を放り込んでいた。
アシンメトリーとそのカスタムパーツ各種、大出力ジェネレーター、コンデンサー、推力偏向ノズル。 アトルムとクルックス用のカスタムパーツ、予備のジェネレーター――そしてキマイラ+フレームとエネルギーウイング。 金額がとんでもない事になったが、ヨシナリは何の躊躇もなく購入ボタンを押す。
「か、金を一気に使うの気持ちいい~」
そんな仄暗い快感を味わいながら機体をリビルド。 ホロスコープを一気に生まれ変わらせる。
キマイラ+フレームは無印との最大の違いは若干の大型化と引き換えにジェネレーターの搭載スロットが増えているので二基も積める事だ。 お陰でスタミナが大きく向上する。
機体を買ったパーツで組みなおし、完成させる。
カラーリングなどは特に変えなかったので見た目はそこまで変わっていないが、装甲もグレードを上げたので見た目は同じでも強度に優れ、ついでに軽い。 冷却装置など、機体にかかる負荷を軽減させる装置をあれこれと搭載した。 次に弄るのは武器だ。
アシンメトリーとアトルム、クルックスのカスタムを開始。
楽しい。 楽しすぎる。 まさに至福の時間だった。
そして終わった後はトレーニングルームで死ぬほど乗り回すんだ。
組み上げるのも楽しく、その先に更なる楽しみが待っている。
ヨシナリは心の底からの笑顔で機体と武器を弄繰り回した
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