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第334話

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 攻防が巧みだと思ったが単純に三人いるからバランス良く意識を割けるという訳だ。
 まず、防御フィールドの密度を上げる事と攻撃は両立できない。
 つまり一人が攻撃を行うと残りの二人が防御に専念するのだろう。

 裏を返すと防御を三か所展開している状態だと、空間砲や空間震を使えない。
 変形させた手足を振り回したり、回避行動を取る時はリソースを使い切っている時なのだろう。
 つまり、その状態が攻撃を当てるチャンス。 それさえ分かればこの面子なら充分に潰せる。

 「――という訳です。 意識して狙っていきましょう」

 折角、突破口が見えたのだ。 全員で共有して容赦なく狙っていくべきだ。
 
 「ふーん? なら、それが合ってるか答え合わせしよっか?」
 「どちらにせよこのままだとジリ貧なのは目に見えてるし試してみましょう」

 真っ先に反応したのはふわわとツェツィーリエだ。 
 ふわわは正面から、ツェツィーリエはエネルギーウイングの旋回性能を利用して背後へ。
 エネミーは腕を鞭状に変化させて振るうが、ふわわは全て掻い潜る。

 「適当に振り回してるだけやからもう覚えたわ」

 太刀による斬撃。 
 同時に背後からツェツィーリエの刺突が繰り出され、両方とも防御フィールドに阻まれる。 
 これで二つ。 いつの間に上に移動していたグロウモスが光学迷彩を解除して腐食弾を発射。 

 フィールドに阻まれて空中で静止。 これで三つ。
 ヨシナリがアノマリーのエネルギー弾を発射すると回避。 これは当たりと見て間違いなさそうだ。
 エネミーが防御フィールドの密度を調整する前にその足にユウヤの電磁鞭が巻き付く。

 「喰らっとけ」

 放電。 エネミーが電撃を喰らって硬直。 
 生物っぽい見た目に変わった事で電撃の効果が上がったのかもしれない。
 完全に停止しており、防御フィールドも消失。 完全に隙だらけだ。

 「っしゃぁ! とどめ頂きぃ!」
 「さっさとくたばれ!」

 マルメルとポンポンが手持ちの武器をフルオートで連射。 
 さっきまでの攻防が嘘のようにエネミーの全身が穴だらけになる。 
 二人の弾幕が途切れたと同時にユウヤの散弾砲が火を噴き、胴体に風穴が開く。

 普通なら完全に撃破を確信する場面だが、このエネミーには不明な点が多すぎる。
 彼女達もそう考えたのか、ふわわが太刀で首を刎ね飛ばし、ツェツィーリエの刺突が胴体の頭部を貫く。

 「これはやっただろ?」

 ヨシナリは思わず呟く。 
 シックスセンスで確認しても胴体の心臓らしき器官はユウヤの散弾砲で完全に破壊され、何のエネルギー反応も示さない。 飛行も不可能になったようで力なく落下。

 開いたハッチの向こうにある水溜まりに着水し、やや大きな水音がして静かになった。
 
 「……終わった、のか?」
 
 エネミーは間違いなく強敵だった。 だが、本当にこれで終わりなのか?
 不明な点は多いが、今はやるべき事を済ませよう。 反応炉はハッチの向こう、水で満たされた場所だ。 潜っていくべきだと思っているが、外にいるデカブツの胎内と考えると無策で突入しても大丈夫かといった不安が沸き上がる。

 「取り敢えずだが邪魔者は片付いたナ。 後は反応炉を――」

 ポンポンが何か言いかけたと同時に施設が寄れる。
 何だとヨシナリはシックスセンスで状況の変化をキャッチするべく確認したのだが、確認すまでもなかった。 何故なら下から高エネルギー反応が上がってきているのだから。

 「どうやら反応炉の方からこっちに来てくれるみたいだな」
 「なぁ、ヨシナリ。 俺ぁ嫌な予感しかしねぇんだが?」

 マルメルが少し不安そうにしていたが、全くの同感だったので何も言えなかった。
 さっきと同様に水の柱が上がり、内部から巨大な球体をしている装置が上がって来る。
 最初に見た時との違いは赤い何かを垂れ流して水を染め上げている事だ。

 ぼこぼこと水が嫌な音を立てて気泡を上げる。 
 
 「う、何だこれ。 気持ち悪い……」

 ポンポンが思わず声を漏らす。 ヨシナリも全くの同感だった。
 シックスセンスは目の前の反応炉から謎の生体反応・・・・を検知していたからだ。
 つまりあれは何かしらの生物なのだ。 同時に赤く染まった水からも似た反応が増殖し始めている。

 ヨシナリはアノマリーのエネルギー弾を撃ち込んだが水に阻まれて届かない。
 
 「な、なぁ、ヨシナリ。 あれ、どんどんヤバそうな事になってるように見えるんだけど何とかならないのか?」
 「多分、ならない。 今は変身途中だから邪魔すんなって事だろう」

 恐らくあの反応炉が行っているのは水の変換作業だ。
 水をさっきのエネミーと似たような素材に変換する事で戦闘形態へと形を変える為だろう。
 指をくわえて見てないで攻撃しろと言いたい所ではあるが、攻撃したいのなら変換してくれた方がいいのだ。 さっきのエネミーをあっさり撃ち抜けた点からもそれは明らか。

 その為、この場は待って敵の準備が整うのを見ているしかなかった。
 
 ――のだが――

 赤く染まった水がどんどん黒ずんでいき、液体から謎の肉塊に変わろうとしている様子を見て、これは本当に正解だったのだろうか?と思ってしまう。
 余剰部分がただの液体として地面に落ちたと同時に反応炉の変態が完了した。

 形状は一言で言うなら肉団子だ。 黒ずんだ赤い肉塊と表面には無数の顔。
 どれも苦悶の表情を浮かべており、ヨシナリ達を見る目には憎悪のような感情が窺える。
 ヨシナリはシックスセンスで変異の様子を常にモニターしており、完全に肉塊として成立したと同時にアノマリーを発射。 全く同じ事を考えていたポンポンも同様に射撃を開始。

 エネルギー弾は肉塊に突き刺さり、穴を開けるが最奥には届いていない。
 だが、効いてはいる。 要はこのまま削って仕留めろと言う事なのだろうが――
 
 「防御フィールドを使ってこない上、あのデザイン。 絶対、攻撃に全振りしてるだろ……」

 ヨシナリは思わずそう呟き、シックスセンスによって拡張された知覚が無数の空間の歪みを検知する。 例の空間歪曲――サイコキネシスだ。 

 「全員、前に出ろ!」

 そう警告を飛ばして肉塊へと肉薄。 サイコキネシスの攻撃範囲は大雑把に機体一機分だ。
 加えて特性上、近くで使うと自身も巻き込むのである程度、離れた位置にしか使用できない。
 びっしり埋まっている顔の分だけ使用できるのは分かっていたので、文字通りの飽和攻撃が可能なのだろうが、自身の周囲という死角は消しようがない。
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