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第333話

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 一瞬で全滅した増援を見てヨシナリはアバターの下で表情を歪める。
 何をしたのかは見えていた。 さっきの空間を捩じる攻撃の応用で衝撃波のようなものを発生させたのだ。 発現点を中心に爆発するような形で広がるので範囲内に居た機体は耐え切れずに一機残らず砕け散った。

 ――一先ずはこれで出尽くした、か?

 まだありそうな気がするが攻撃、防御と一通りの挙動は見た。
 結論から先に言うとさっきまでの機体とは完全に別物だ。 
 まずは攻撃、肉体の形状を変えての打撃。 確認できた範囲では手足を伸縮させて鞭のように振り回している。 ふわわとツェツィーリエは驚異的な反応で全て回避しているので威力がどの程度の物かは不明だが、当たると碌な事にならないのは確かだろう。

 次に謎の遠距離武器。 既存の兵器に該当しないのでヨシナリは射撃を「空間砲」衝撃波を「空間震」謎の捩じり攻撃を「空間歪曲」と暫定的に呼称。
 空間砲は三つの頭部から吐き出される遠距離攻撃。 威力は低いが拡散範囲が非常に広いので攻撃範囲内であるなら回避は非常に難しい。 まだ使っていないが、拡散できている以上は収束できる可能性も高いので見た目よりは汎用性が高そうだ。 死角は背後、攻撃範囲はあくまで頭部の正面が起点なので後ろに回れば一応は回避できる。

 空間震は発現点を中心に爆発のような物を発生させる攻撃で、発動から約二秒で起爆。
 衝撃波が範囲内の機体を吹き飛ばす。 こちらは見えているのなら躱せなくはないが、巻き込まれたら良くて大ダメージ、悪くて即死だ。 最後の空間歪曲、これが一番厄介な攻撃で、範囲内の空間を捩じって対象を絞った雑巾のような有様にする。 あんなナマモノになる前も使ってはいたが、発動に三秒から五秒もかかっていたので当たる訳がないと判断したのか使用頻度は低かった。

 だが、今の状態だと一秒から二秒で対象を捻じ切る事ができるようになっている。
 攻撃範囲は大体、機体一機分だが、掠っただけでその部分は完全に持って行かれるので可能な限り貰いたくない攻撃だ。 そしてこの全てに共通するのが、まともに視えない事。
 
 恐らくシックスセンスか専用のセンサーシステムを搭載しないと何をされたのかすら分からずに撃破されるだろう。 控えめに言ってクソのような敵だった。
 初見で視認不可能な攻撃を繰り出してくる辺り殺意が高い。 

 次に防御フィールド。 機能自体はそのままだが、密度と防御を集中させる範囲が広がった。
 変わらず焦点を絞れるのは三か所だが、集中すれば一方向からの攻撃は完全に防げる。
 防御の理屈としては他の敵性トルーパーも使っていた防御リングに近く、攻撃を防ぎ続けると防御密度が下がっている点からも閾値を超えた攻撃を叩きこめば突破は可能だろうが、耐久が段違いなのであまり現実的ではない。

 ――それにしても、こいつ頭が三つあるからか? 同時に三か所を防げるのは厄介すぎる。

 攻撃、防御も非常に厄介だが、どちらか片方だけならまだどうにでもなるのだ。
 両方揃っているからこそ厄介だった。 どうにか片方だけでも無効化しないと負ける。
 エネミーの空間砲をどうにか背後に回り込むように回避。 

 「厳しいナ」
 
 同じ方向に逃げてきたポンポンが声をかけてくる。

 「そうですね。 攻撃か防御、どっちかだけでも崩せるならそこから潰せるんですけどあいつの攻撃って何なんでしょう? 攻撃範囲の確定は任意なのは分かりますが、三か所同時にあそこまで正確に狙えるのはちょっと信じられませんね」

 チートを使っていると言われればそれまでだが、仕組みだけでも理解しておきたい。

 「あたしもそれ考えてた。 ちょっと思い出した事があってナ」
 「思い出した事?」
 「年末にやる特番で世界の不思議を取り扱ったのがあるんだけど知ってるか?」
 「いえ、ちょっと分からないです」

 散開して銃撃を繰り返しながら話を続ける。
 ヨシナリにはポンポンがなにが言いたいのかよく分かってなかったが、重要そうなので戦闘を続けながら先を促す。

 「その番組で超能力について触れてたんだ」
 「超能力? ――あー、まさかとは思いますけど、あいつの使ってる攻撃や防御がサイコキネシスの類だと?」
 
 超能力の存在は完全否定はされていないが、あると断言もされていない。
 その為、ヨシナリ個人としては超能力と言う存在にやや懐疑的だった。
 信じていない訳ではないのだが、信じられるに足る物も見ていないので半信半疑だ。

 「あぁ、正確にはそれっぽい何かだけどナ」
 「マジっすか」
 「まぁ、聞けって。 あたしの見た番組に出演していた自称超能力者はサイコキネシスを扱うに当たって重要なのは『意識のピントを合わせる事』らしい」

 ――なるほど。

 そこまで聞いてポンポンの言いたい事を概ね理解した。
 仮にそうだとしたら別の事実も浮かび上がる。 

 「ポンポンさんの話がマジだったら腑に落ちる事が多いですね。 攻撃と防御の傾向に関しては特に」

 攻撃、防御は近く範囲内を意識する事によって決定される事になる。
 なら何であいつの意識の焦点は三つもあるんだという話になるが、あのエネミーのデザインを見ればその謎も解けた。 

 「要はあれを操作してるのは一人じゃなくて三人って事か」
 「あぁ、あたしはそう思っている。 お前はどう思う?」

 あの胸に埋まっている頭部はパーツではなく機体扱い。
 恐らくは機体の操作を担うメインパイロットと残りは火器管制と捉えれば理解はできる。
 胸部の頭部を破壊された時に防御密度が落ちたのも単純に撃破されてパイロットが一人行動不能になったと考えれば説明が付く。
 
 「――ちょっと検証してから判断させて貰っていいですか?」
 
 そう言ってヨシナリはエネミーをよく視る。 
 視るのは機体全体ではなく、攻防それ自体をだ。 鞭のようにしなる敵の打撃を掻い潜りふわわが太刀を一閃。 それに合わせて死角からツェツィーリエの刺突が繰り出される。

 防御フィールドで防ぐ。 マルメルとユウヤがフィールドの密度が薄い場所を狙って銃撃。
 エネミーは回避するが、回避先にグロウモスが現れ拳銃を抜いて腐食弾を発射。
 フィールドで防御。 これで三か所。 
 
 ――ここからだ。

 攻撃を捌き切った所で反撃に移る。 狙いはふわわ。
 例の空間歪曲だ。 視えているふわわは旋回して回避。
 
 「――なるほど」

 空間が捻じれる瞬間、ヨシナリはエネミーの防御フィールドに意識をフォーカスする。
 防御の濃い部分が二つしかない。 それを確認し、アバターの奥で小さく笑う。
 やっと綻びが見えた。
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