Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第331話

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 挙動から自動と遠隔操作に切り替えるタイプと推測。
 根拠はユウヤやベリアルに嗾ける三鈷杵は囲むような動きをしてしっかりと当てに行っているが、迎撃に使用している分は肉薄したベリアルに自動で向かって行っているように見えるからだ。

 後者には自動特有の固さを感じられるので基本はエリアに入って来た敵機を自動で攻撃し、自由に遠隔操作に切り替える事ができる代物なのだろう。
 強度はそこまでではなく、アトルムとクルックスの一発で破壊できる点からも比較的脆い。
 
 だが、謎の機能で破壊した分だけ追加が湧いてくるので無意味とまでは言わないが、排除にこだわるとこちらの損耗が大きくなる。  
 せめてもの温情なのか追加には数秒のタイムラグがあるのが救いか。

 ――羨ましいな。 俺にも使わせてくれよ。

 あんなチート野郎よりも俺の方が十倍は上手く使えるぞと思いながら次は飛び回る腕に意識をフォーカス。 重装甲により実体弾は効果が薄いアノマリーの実弾では効果なし。 
 アトルムとクルックスは至近距離でないと貫くのは無理だ。 ただ、エネルギー系の攻撃には脆弱。

 アノマリーのエネルギー弾で一撃で破壊は可能。 
 ただ、動力などが集中している手首より下に当てなければならない。
 こちらに関しては挙動は完全に遠隔操作。 動きが滑らか過ぎる。
 
 操作の傾向としては相手の拘束を狙う。 
 特にベリアルに対しては執拗で、どうにか捕縛しようとかなりの数を割いている。 

 ――が、ベリアルのプセウドテイは簡単には捉えられない。

 短距離転移と緩急を付けた独特な挙動で全方位から飛んでくる腕を掻い潜る。
 それどころか本体の攻撃すらも器用に捌いて喰らいつく。 
 凄まじい挙動だが、まるで燃え尽きる寸前の流星のようだった。

 「ベリアル! 下がれ!」

 あまりにも危ういその戦い方にヨシナリは下がるように声をかけるが、返って来たのは小さな笑いだった。

 「はっ、見縊るな! ――魔弾の射手よ。 貴様の戦いはまだ続く。 その魔眼で刮目するがいい! この闇の王の戦いを!」

 ――こいつ、最初から――
 
 その一言でヨシナリはベリアルの意図を察した。
 恐らくベリアルは最初から捨て石になる為にここに現れたのだ。
 プセウドテイのジェネレーター出力が不自然な乱高下を繰り返し始めた。

 「厨二野郎! 下がれ! 機体が保たねぇぞ!」

 限界が近い。 
 ユウヤもそれを察してどうにか下がらせようと散弾砲を撃ちこむがベリアルは構わずに小刻みな短距離転移を繰り返して敵機への攻撃を止めない。 

 ――恐らくベリアルの狙いは――

 敵機は徐々に目が慣れてきたのかベリアルの転移先を読めるようになってきたのか、攻撃が正確になっていく。 そしてベリアルが転移したと同時に背後に一閃。
 タイミングは完璧。 不可視の刃はプセウドテイを横一文字に両断した。

 「はっ! 海神の走狗よ! 貴様の勝ちだ! だが、この戦いは長き神話の一幕に過ぎん。 幕が下りれば新たな幕が上がるは必定。 星の運行は進み、新たな星々の輝きが貴様を焼き尽くさんと現れるだろう」

 爆発する直前。 プセウドテイは敵機の腕をしがみつくようにホールド。
 
 「此度の舞台、俺はここまでだが闇に還る前に土産を貰っていくとしよう」

 敵機はプセウドテイを振り払おうとするが遅い。 ベリアルは高らかに笑い、機体が臨界を迎えて爆発する。 敵機はプセウドテイの爆発に巻き込まれ残った腕が消し飛ぶ。 
 それでも機体の損傷が少なかったのは防御フィールドのお陰だろう。 

 同時に彼が捨て身で稼いだ時間が結実した瞬間でもあった。
 ゲートの一つから無数の銃弾とエネルギー弾が飛来。 敵機は防御リングで受けるが、集中砲火に晒され、展開されているフィールドが効果を失ったと同時に巨大な弾体の一撃で破壊された。

 ハンドレールキャノン。 マルメルだ。

 「待たせたなぁ! 騎兵隊の登場だぜ!」

 飛び込んで来たマルメルの左右から二機が飛び出す。 
 ツェツィーリエとふわわだ。
 
 「状況は良く分からないけどあいつをやればいいって事は分かるわ!」

 ツェツィーリエのレイピアによる刺突が矢のように敵機を襲う。 
 三鈷杵が回転しながら襲い掛かるが、直線加速で彼女に追いつけずに迎撃が間に合わない。
 防御フィールドを集中して防御。 刃が止まる。

 「上!」
 「いただき!」

 ツェツィーリエが鋭く叫ぶ。 ふわわが敵機の上で既に抜刀の態勢に入っていた。
 バチバチと鞘の隙間から紫電が迸り、彼女の野太刀が閃く。
 敵機は危険と判断したのか咄嗟に三鈷杵と腕、防御リングを間に差し込んで完全な防御態勢。

 斬。 ふわわの一閃は無数の三鈷杵と浮遊する腕、そして防御リングを両断したが、本体には僅かに届かなかった。 余計な物を斬ったお陰で防御フィールドを突破できなかったのだ。
 だが、攻撃はまだ終わっていなかった。 エンジェルタイプが一機、ポンポンだ。

 「空間情報と重力変動!」
 「なるほどナ! 偉いぞヨシナリぃ! 後でヨシヨシしてやるからな!」

 ヨシナリが鋭くそう叫び、意図を汲んだポンポンはシックスセンスのセンサーを切り替えて防御フィールドの密度を確認。 頭部を狙ってエネルギーライフルを連射する。
 敵機は防御フィールドを上部に集中させつつ回避――したと同時に右胸の頭部にライフル弾が数発食い込んで穴だらけになった。 飛んできたのは下方。 ヨシナリが視線を向けると光学迷彩を解除したグロウモスが狙撃銃を構えた状態で姿を現した。

 三鈷杵の制御が乱れ、フィールドの密度が不規則に明滅。
 敵機は胸部にある二つの頭部を大きく損傷した事で、フィールドの維持と三鈷杵の操作に支障をきたしていた。 行ける。 このまま押し切れる。 

 敵機はもう死に体だ。 
 後はとどめを刺して反応炉を破壊すればこのクソみたいなイベントはクリアできる。
 ヨシナリは半ば勝ちを確信していたが、心のどこかでそうはならないだろうなと冷静に考える自分がいた。 考えてもみろ。 これまでにこの運営がまともに勝たせてくれた事があったか? 

 ――否定できなかった。

 それを払拭する意味でも目の前の敵機は一刻も早く処理しなければならない。
 
 「――あぁ、俺の悪い予感っていつも当たるんだよなぁ……」

 思わずそう呟く。  
 何故ならこの空間の底に存在するハッチが勝手に解放され中から何かが上がって来たからだ。
 それはゴボゴボと嫌な音をさせて立ち昇り、敵機を飲み込んだ。
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