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第329話

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 「データリンクは?」
 「問題ない。 見えてる」 

 ならいちいち、指示をする必要はないな。
 攻略の糸口は見えたのだが、突破の為にはまだピースが足りない。
 そして何が足りないのかも分かっていた。 手数だ。

 敵機はフィールドの密度を上げる事で攻撃を防ぐ。 
 裏を返せば薄い場所を狙えば攻撃が通る。 単純な話だ。
 なら何が問題なのかというと、敵機は同時に三か所まで攻撃を防げる。

 対するヨシナリとユウヤは二人。 要は二人の攻撃に同時に対処してまだリソースが余っているのだ。
 これを突破するには単純に三人以上用意すればいいだけなのだが、先行してしまっているこの状況で援軍は来るとは思うが読めない。 

 ――どうする? このまま時間を稼ぐか?

 仮に来たとしてもこっちの意図を汲んでくれるか? 
 基本的にヨシナリはあまり不確定な要素を当てにし過ぎる事に抵抗を覚えるので思考は今の手札でどう勝負するかに傾いているが、当てにしないと厳しいと現状が告げていた。 

 ユウヤとヨシナリで敵の周囲を回りながら攻撃を続けるが、一切通らない。
 敵機の反撃はユウヤが意識して前に出る事で引き付ける。 
 思考を続けながらユウヤのフォローを行いつつ、攻撃を繰り返す。 このままダラダラと引き延ばしても消耗するのは自分達だ。 武器はいつまでも使えない。
 
 アノマリーも実弾はそろそろ弾が尽きる上、撃ちすぎて内部機構のいくつかに細かなエラーが出てる。 アトルムとクルックスはまだ弾が残っているが、アノマリーに比べて火力が落ちるので使い物にならなくなるのは不味い。
 
 ――こんな事なら無理にでもマルメル達を引っ張るべきだったか?

 いや、それをしてしまうと突出したユウヤがやられていた可能性が高い。
 味方、今の自分達と連携を取ってくれて、この強敵に一緒に立ち向かってくれる味方が欲しい。
 誰か。 誰かいないのか? この状況を打開できる奴は――
 
 「――ふっ、俺を召喚んだようだな――」

 その時、不意にヨシナリ達の通って来たゲートから一機のトルーパーが飛び込んで来る。
 漆黒の機体はユウヤに斬りかかろうとしていた敵機に腕を形状変化させたブレードを叩きこむ。
 エーテルブレード。 闇を凝縮したようなその機体は見間違いようがない。

 「ベリアル!」
 
 ――プセウドテイ。 

 「本来なら貴様達と肩を並べるのは未来と定めていたが、余りにも熱い舞台に衝動を抑えきれなかった。 刮目するがいい。 今、この時、この瞬間より、この舞台は我が闇の領域となる」

 この状況で最も欲しいカードが舞い込んで来たのだ。


 
 「ベリアル。 どうして――」
 
 彼が現れたのはヨシナリ達の通って来たゲート。 
 つまりベリアルは二人の後を追ってきたのだ。 それに――
 ヨシナリのシックスセンスはベリアルとプセウドテイの状態を誰よりも把握していた。

 ジェネレーター出力が安定していない。 つまり少なくない損傷を受けている。
 エーテルの装甲でごまかしているが、満身創痍だ。 恐らくここまで単騎で強行突破してきたのだろう。 その事実から彼がどれだけ強引にこの場に現れたのかを物語っていた。

 「忘れたか? 星の瞬く所、闇がある。 戦友よ、我が闇は貴様の星と共に在ると言う事をな!」
 「は、どうした厨二野郎? いつの間にそんな気持ちの悪いポエムを垂れ流すようになったんだ?」
 
 ベリアルの介入で危機を脱したユウヤは散弾砲を撃ちこみつつ距離を取りながらベリアルの隣へ。
 
 「久しいな、煉獄の化身よ。 本来、貴様と俺は敵対する運命さだめ。 だが、星の導きにより、俺達の道は交わった。 それにより、好敵手は共に轡を並べる戦友ともとなる」
 「……お前、どうした? 何か変な物でも拾って食ったのか? それとも病気が脳にまで……」

 ユウヤは混乱していた。 
 ベリアルとは何度も対戦し、その性格は概ね理解しており、何を言っているのか、言いそうな事は何となくなだが分かっていたのだが『戦友』なんてワードはこれまでに一度も聞いた事がない。
 
 付け加えるならこいつは独りでいる事が格好いいと思っており、それに酔っぱらっているアホなので、誰かとの共闘を積極的に行うなんて真似はまずしない。
 少なくともユウヤはベリアルの事をそう認識していたのだが、今目の前にいる男は普段であるなら言いそうにない事を口走り、自らの損傷を顧みずにここに現れた。 

 一体、何が起こったのか。 ユウヤはちらりとヨシナリを見る。
 ベリアルの口振りからこいつが何かしたのは明らかだ。 
 
 ――思っていたよりも大物だったのかもな。

 ユウヤは内心でヨシナリに対する評価を大きく引き上げる。
 個人的な感情はさておき、ベリアルの事を良く知っているからこそ、この状況での援軍はありがたい。
 
 「ふ、今は目の前の敵を屠るが先決。 行くぞ!」

 そういったベリアルが真っすぐに敵機へと切り込む。
 攻撃の瞬間に短距離転移。 敵の斬撃が中身の抜けたエーテル体を切り裂くがその間にプセウドテイは敵機の背後。 腕を硬質化させ爪を伸ばして振るう。

 敵機は即座に反応。 ユウヤが電磁鞭を叩きつけるように上から振り下ろす。
 同期してヨシナリが下に回ってアノマリーを連射。 敵機は回避しつつ後退。
 それを見たヨシナリは行けると確信。 シックスセンスで視えている。

 敵機はベリアルの分身と本体に対応した状態でユウヤとヨシナリの攻撃を同時に捌けない。
 つまりさっきの攻撃は片方を防いだ場合、残りが通っていた可能性が高いからだ。
 
 ――行ける。

 既にデータリンクはプセウドテイとも行っているのでベリアルにも敵機のフィールドが見えているはずだ。 そして自身の役割を完全に理解したベリアルは敵機を完全に粉砕するべくその力を振るう。
 短距離転移を織り交ぜたラッシュ。 一機にもかかわらずエーテル体をその場に残す疑似的な分身のお陰で敵機は複数機分のリソースを割かなければならない。 その隙を突く形でヨシナリとユウヤが攻撃を繰り返す。 

 以前のユニオン対抗戦でもそうだったが、ベリアルの近接スキルは更なる飛躍を遂げていた。
 エーテル体を変化させての爪、ブレード、刃に変形させた足による蹴り、ただでさえ見切るのが難しい嵐のような猛攻に短距離転移を織り交ぜる事で単騎とは思えない攻撃密度を実現させていた。

 強い。 明らかに以前のイベント戦の時よりも動きのキレが増している。 

 そしてそれ以上にベリアルの姿は眩しかった。
 彼は大きな飛躍を得たのだ。 殻を破り、一つ上の領域に上がったベリアルのプレーは彼自身が努力した証。 少なくともヨシナリにとってはとても眩しい光景だった。
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