Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第328話

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 ――何なんだこいつは!?
 
 ヨシナリは機体を操りながら必死に敵機についての分析と考察を続ける。
 少なくとも先に辿り着いて全滅したプレイヤー達はこいつの防御を突破できなかったので、諦めて取り巻きを道連れにしたのだ。 視線をこの空間全体に巡らせる。

 眼下の窪んだ場所に味方機の残骸が多い。 
 恐らくはエネミーを無視して突破できないかを試したのだろう。
 数が多い点から上のハッチ同様、ハッキングを用いての解放は可能。
 そうでもなければあの数は説明が付かない。 恐らくは捨て身で何度も試したのだろう。

 そしてその全ての試行を阻まれた。 つまりここを突破したいならあの敵機を叩き潰す必要がある。
 挙動に関してはチートでブーストしているのだろうが、他よりも明らかに速いので技量面でもランカークラスといった所だろうか? 少なくとも接近戦を得意とするユウヤの攻撃を捌けている時点でそこそこ以上の技量があるとみていい。 

 ユウヤが大剣での斬撃からの散弾砲、大剣を持ち替えて電磁鞭の順で攻撃を繰り出すが、敵機は斬撃を体を傾けて躱し、散弾砲――実弾は効果なしと判断してエネルギー式に切り替えたのだが、剣の一閃でかき消される。 返す刀でユウヤの首を狙おうとするがアノマリーでその背中を狙う。

 敵機は後ろの目が付いているのではないかといった反応で剣を振ってエネルギー弾を無効化。
 その隙にユウヤは後退。 本来なら追撃に繋げたいが、敵の防御手段に不明な点が多いので迂闊に仕掛けられないのだ。  

 まず分かった事がある。 敵は視野が異様に広いが素の反応自体は「良い」といったレベルだ。
 ふわわのような超人的な反応は出来ていない。 次に攻撃手段。
 あの剣による斬撃。 どの程度斬れるのかが不明だが、あちこちに切断面が綺麗な残骸が多く転がっている点からも受けるのは非常に危険だ。 

 次に謎の攻撃。 シックスセンスで感知できなかったので詳細不明。
 壁が渦巻き状になっている点からも何らかの手段で空間を捩じっているものと判断する。
 厄介なのが攻撃の起点が全く見えない事だ。 恐らくは攻撃範囲を確定してから威力を発揮するまで一秒から一.五秒のタイムラグがあるとみていい。 当てられないと判断しているようで、ここまでで一度しか使ってこない点からも動き回る相手には安定して命中させられないと判断。

 次に防御手段。 謎のフィールド。
 エネルギーの流動自体は機体から外部へと発生しているので、何かしらの防御機構を使用しているのは確定だが、その防御手段が観測できないのだ。 恐らくは攻撃、防御に同じ原理を用いているからだろう。 実弾は完全に停止。 弾丸に衝突による変形を観測できなかった点からも運動エネルギーを根こそぎ奪い取られたと判断している。 エネルギーは剣で防いでいる点からエネルギー系の攻撃に効果はないか、二種類の攻撃を同時に処理できないかのどちらかだ。 
 
 剣による防御。 こちらは比較的ではあるが分かり易い。
 振った範囲の空間に何らかの干渉を起こしてエネルギー兵器を無効化している。
 剣の振り方からふわわのように切り払っている訳ではないからだ。

 まだ何かを隠している可能性が充分にあり得るが、ここまでで出た情報はこのぐらいだ。
 ここから突破の糸口を探す。 

 ――まずは奴の防御手段の正体を見つけなければ話にならない。

 シックスセンスで視えないのは明らかにおかしい。 
 ハッキングも疑ったが、セルフチェックでは異常なし。 
 つまり、今使っている観測手段では視えない何かを使っているのだ。

 だったらとシックスのステータスを呼び出し、普段は使っていない項目を呼び出す。
 情報量の多さでユーザーを混乱させる事で使用者が非常に少ない癖の強い装備だが、一応はフィルタリング機能が付いており、使わない項目をオフにする事である程度ではあるが情報量を減らす事ができるのだ。 ヨシナリはそれをオンに切り替える。

 項目名は重力関係と空間情報というこれまでの戦いで全く役に立たなかった情報だ。
 前者は重力の変動、後者はその空間にある情報を取得する事で範囲内の物体を探知するといった内容なのだ。 前者は極端な重力変動が怒るようなステージを経験していなかった事、後者は空間情報は動体や熱源と探知範囲が被るので邪魔だと思って切っていたのだが――

 「マジかよ」

 思わず呟く。 何故なら防御手段がはっきりと見えたからだ。 
 機体を中心に球状に空間の歪みが覆っている。 特徴としてはその歪みに濃淡がある事だ。
 異様に濃い部分が三か所。 恐らく防御を集中している場所と見ていい。

 次に剣に視線を向けるとこちらもはっきりと見えた。 
 柄から刃と呼ぶにはやや不定形な靄のような物が伸びている。 
 重力変動をオンにしたお陰で敵の推進装置に関しても見えた。 両足と腰からリング状の何かが広がり、重力を操作しているのだろう。 
 
 ――これはもっと早く使っておくべきだったな。

 斥力場を発生させるリングを使っていたエネミーも似た技術を使っていたのなら楽に仕留められたかもしれない。
 我ながら余裕がなかったなと反省しながら、観測データをユウヤへと送って共有。
 
 「何だ。 見えるんじゃねーか」
 「普段使わない機能だったのでオフにしてたんですよ。 これでどうにかですが仕留める算段は立てられそうですね」
 「取り敢えず、攻撃が通るかを試すぞ」
 「了解」

 突っ込んで来た敵機をユウヤは下、ヨシナリは急上昇で躱す。
 示し合わせた訳ではないが、片方が常に敵機の死角に入るポジショニング。
 ヨシナリはさっきと同様に実弾をばら撒く。 敵機は振り返りもしないが、展開されているフィールドには変化があった。 銃弾が命中した場所が濃くなったのだ。

 やはりフィールドの強度を集中させないと銃弾は防げない。
 色が濃い場所は三か所。 つまり三方向からの攻撃までなら同時に対応できる。
 ユウヤの散弾砲も同じだ。 色が濃くなり、そこに当たった銃弾が静止する。

 次。 アノマリーをエネルギー弾に切り替えて連射。
 防がせる為にユウヤは電磁鞭を横薙ぎに振るう。 敵機は電磁鞭を静止、エネルギー弾を剣の一振りで防御。 剣を振った範囲の空間が歪んでおり、そこに接触したエネルギー弾が霧散した。

 散らされたというよりは形状を維持できなくなって崩れたという印象が強い。
 
 ――要はあの色が濃い部分の外から仕掛ければいい。 

 初見では理不尽な防御だとは思ったが、種が割れれば突破が可能に思えてきた。 
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