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第326話

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 ――おかしい。

 ヨシナリは違和感に首を傾げる。 
 確かに敵の防衛線は厚い。 恐らく生き残ったエネミーをかき集めて拠点防衛を担っているのは何となく分かる。 数の偏りからもそれは顕著で、こいつ等はリポップしたのではない。

 一応、設定上は生産拠点から湧いてくる形になっているはずなので機能が低下している以上、追加は湧き辛い。 理解はできるが、ここの運営がそんな温い真似をするだろうか?

 ――あり得ない。

 ならどこかで機を窺っているとみていい。
 そうだとすると仕掛けるのは何処だ? 考えるまでもなかった。
 エレベーターシャフトだ。 ヨシナリが敵なら広いが逃げ場が少ないあの場を狙う。

 「エレベーターシャフトに伏兵の可能性――」
 「大丈夫よ。 分かってるわ。 やりなさい!」

 ツェツィーリエがヨシナリの警告即座に反応。 彼女もその点は理解していたようだ。
 エレベーターシャフトに到達した者達がぽっかりと口を開ける大穴に持っていた手榴弾やミサイルを全て放り込む。 僅かな間を空けて無数の爆発が施設を揺らす。

 「やーっぱり何か居やがったナ。 ま、こっちのセンサーシステムをごまかせる訳ねーから無駄な努力だゾ――待て! まだ、反応が――」

 露払いが済んだと判断して飛び込んだプレイヤー達の反応が即座にロスト。
 撃破されたようだ。 そしてそれを成したエネミーの反応がゆっくりと上がって来る。
 数は十機。 姿を現したのは例の特殊武装を積んだ機体ではあったのだが、それだけではなかった。
 
 例のリング装備の機体が三機、両腕が異様に大きな明らかにパワータイプの機体が三機。
 そして両腕にブレードを装備した高機動機が三機。 最後に下半身がフロートタイプの機体が一機。
 先頭に追い付いたヨシナリはその姿を見て背筋が寒くなる。 初見の敵機の装備構成に見覚えがあったからだ。

 特にブレード装備の機体。 背面には四機のエネルギーウイング。
 明らかにエイコサテトラの下位互換と言った構成の機体。 そしてリーダー格っぽいフロート機は以前の防衛戦のボスが使用していた機体と酷似している。

 「あの腕が太い奴は前のサーバー対抗戦で出てきたアメリカのSランクと同じ装備だ」

 ポンポンの言葉になるほどとヨシナリは納得する。 
 つまりあの連中はSランクのコピー機という訳だ。 強い訳だ。
 だが、ジェネシスフレームは機体とプレイヤーが揃って初めて真価を発揮する。

 その為、その辺の奴に操作させてもポテンシャルを完全に引き出すのは無理だ。
 付け入る隙は充分にある。 それに――ヨシナリは少しがっかりしていた。
 イベント戦での最終局面。 ボスの前に立ちはだかるのがどんな壁かと思えばこんなチャチなパクリ連中とは。 ヨシナリは少し運営を買いかぶっていたのだろうかと思ってしまう。

 ――とはいっても強敵である事には変わりはない。

 敵機が散開して突っ込んで来る。 味方機も同様に散開して迎え撃つ構えだ。
 真っ先に突っ込んだのはユウヤで、エイコサテトラのコピーと思われる機体へと仕掛けに行った。
 ヨシナリは少し悩んだが、ユウヤに同期して援護に入る。

 大剣による斬撃を軽い動作で躱し、常時展開している二枚のエネルギーウイングを噴かして急旋回。
 背後に周りに行ったが攻撃動作に入るのに合わせてアノマリーを一撃。
 敵機は凄まじい反応で躱す。 分かってはいるが見えている範囲での反応が異様にいい。

 ――こいつもやってんな。

 だったらこっちにも考えがあるぞ。 

 「ユウヤ! 下だ!」

 ヨシナリがそう叫ぶと意図に気が付いたユウヤは小さく頷くとそのままエレベーターシャフトに落下。 ヨシナリもそれを追う形で戦闘機形態に変形してそれに続く。
 連中の目的がここの防衛なら優先順位は突破を図ろうとするプレイヤーのはず。

 つまり、脅威度の高さを見せつけた後にエレベーターシャフトに飛び込めば高確率で追って来る。
 背後から敵機が猛スピードで追撃。 来た。
 敵機が背後からエネルギーガンを連射。 ヨシナリは機体をバレルロールさせて回避、ユウヤは下に向けて壁を蹴って加速する事で躱す。 敵機は加速。

 距離を詰めてくるタイミングでヨシナリとユウヤが出鼻を挫く形で銃撃。
 散弾砲とアノマリーによる実弾斉射が敵機を襲うが、躱さずに腕に内蔵されているエネルギーシールドを展開して強引に突破。 それを見たヨシナリとユウヤは奇しくも全く同じ事を考えた。

 ――あぁ、この程度かと。

 ラーガストならギリギリまで引き付けて掻い潜り最短ルートで刈り取りに来るだろう。
 それができないこいつは所詮は猿真似。 見た目だけ似せたパクリ野郎でしかない。
 特にラーガストと共に戦った事のある二人としては仲間の浅い模倣を見せられて不快だった。

 挙動に関してもそれっぽい動きはするが、模倣の域を出ない。
 急旋回、急加速も動きが直線的。 これならBランクのプレイヤーに使わせた方がいい動きをするだろう。 さっき戦ったリングを使用している機体は初見であった事もあって手こずったが、防御面が貧弱なこの機体なら仕留める方法はいくつか思いつく。

 地下に到達するまであと数秒。 次のワンプレーで決める。
 ヨシナリはちらりとユウヤを一瞥。 ユウヤもヨシナリの動きに意識を向けているのが分かる。
 連携は問題なさそうだ。 なら、即興でも合わせてくれるだろう。

 ユウヤが散弾砲を発射。 広範囲に広がる散弾を敵機は大きな動きで躱す。
 その隙にヨシナリは背後からアノマリーを実弾で連射。 当然のように敵機は急停止からの急降下で回避に入る。 その軌道を読んだユウヤが下から接近しながら電磁鞭を一閃。 
 
 エネルギーブレードで切断されたと同時にユウヤは大剣を抜いて刺突、当然のように横にスライドして躱すが、そこまでは読み通りだ。 何故ならユウヤが突っ込んだ先にはヨシナリのホロスコープが腹を晒した状態で通り過ぎようとしていた。 ユウヤは反転してホロスコープを蹴る事で強引に方向転換。 再度、敵機に斬りかかる。

 敵機はこの挙動は予想していなかったのか、反応に僅かな後れこそあったが急上昇で躱そうとする。
 
 ――遅い。

 上か下かで迷ったな。 下は地面が近いから上に逃げた。
 移動先に向けてヨシナリはアノマリーのエネルギー弾を撃ち込む。 
 流石に躱せないと判断したのかエネルギーシールドで防御。 動きが完全に停止する。
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