上 下
326 / 351

第326話

しおりを挟む
 ――おかしい。

 ヨシナリは違和感に首を傾げる。 
 確かに敵の防衛線は厚い。 恐らく生き残ったエネミーをかき集めて拠点防衛を担っているのは何となく分かる。 数の偏りからもそれは顕著で、こいつ等はリポップしたのではない。

 一応、設定上は生産拠点から湧いてくる形になっているはずなので機能が低下している以上、追加は湧き辛い。 理解はできるが、ここの運営がそんな温い真似をするだろうか?

 ――あり得ない。

 ならどこかで機を窺っているとみていい。
 そうだとすると仕掛けるのは何処だ? 考えるまでもなかった。
 エレベーターシャフトだ。 ヨシナリが敵なら広いが逃げ場が少ないあの場を狙う。

 「エレベーターシャフトに伏兵の可能性――」
 「大丈夫よ。 分かってるわ。 やりなさい!」

 ツェツィーリエがヨシナリの警告即座に反応。 彼女もその点は理解していたようだ。
 エレベーターシャフトに到達した者達がぽっかりと口を開ける大穴に持っていた手榴弾やミサイルを全て放り込む。 僅かな間を空けて無数の爆発が施設を揺らす。

 「やーっぱり何か居やがったナ。 ま、こっちのセンサーシステムをごまかせる訳ねーから無駄な努力だゾ――待て! まだ、反応が――」

 露払いが済んだと判断して飛び込んだプレイヤー達の反応が即座にロスト。
 撃破されたようだ。 そしてそれを成したエネミーの反応がゆっくりと上がって来る。
 数は十機。 姿を現したのは例の特殊武装を積んだ機体ではあったのだが、それだけではなかった。
 
 例のリング装備の機体が三機、両腕が異様に大きな明らかにパワータイプの機体が三機。
 そして両腕にブレードを装備した高機動機が三機。 最後に下半身がフロートタイプの機体が一機。
 先頭に追い付いたヨシナリはその姿を見て背筋が寒くなる。 初見の敵機の装備構成に見覚えがあったからだ。

 特にブレード装備の機体。 背面には四機のエネルギーウイング。
 明らかにエイコサテトラの下位互換と言った構成の機体。 そしてリーダー格っぽいフロート機は以前の防衛戦のボスが使用していた機体と酷似している。

 「あの腕が太い奴は前のサーバー対抗戦で出てきたアメリカのSランクと同じ装備だ」

 ポンポンの言葉になるほどとヨシナリは納得する。 
 つまりあの連中はSランクのコピー機という訳だ。 強い訳だ。
 だが、ジェネシスフレームは機体とプレイヤーが揃って初めて真価を発揮する。

 その為、その辺の奴に操作させてもポテンシャルを完全に引き出すのは無理だ。
 付け入る隙は充分にある。 それに――ヨシナリは少しがっかりしていた。
 イベント戦での最終局面。 ボスの前に立ちはだかるのがどんな壁かと思えばこんなチャチなパクリ連中とは。 ヨシナリは少し運営を買いかぶっていたのだろうかと思ってしまう。

 ――とはいっても強敵である事には変わりはない。

 敵機が散開して突っ込んで来る。 味方機も同様に散開して迎え撃つ構えだ。
 真っ先に突っ込んだのはユウヤで、エイコサテトラのコピーと思われる機体へと仕掛けに行った。
 ヨシナリは少し悩んだが、ユウヤに同期して援護に入る。

 大剣による斬撃を軽い動作で躱し、常時展開している二枚のエネルギーウイングを噴かして急旋回。
 背後に周りに行ったが攻撃動作に入るのに合わせてアノマリーを一撃。
 敵機は凄まじい反応で躱す。 分かってはいるが見えている範囲での反応が異様にいい。

 ――こいつもやってんな。

 だったらこっちにも考えがあるぞ。 

 「ユウヤ! 下だ!」

 ヨシナリがそう叫ぶと意図に気が付いたユウヤは小さく頷くとそのままエレベーターシャフトに落下。 ヨシナリもそれを追う形で戦闘機形態に変形してそれに続く。
 連中の目的がここの防衛なら優先順位は突破を図ろうとするプレイヤーのはず。

 つまり、脅威度の高さを見せつけた後にエレベーターシャフトに飛び込めば高確率で追って来る。
 背後から敵機が猛スピードで追撃。 来た。
 敵機が背後からエネルギーガンを連射。 ヨシナリは機体をバレルロールさせて回避、ユウヤは下に向けて壁を蹴って加速する事で躱す。 敵機は加速。

 距離を詰めてくるタイミングでヨシナリとユウヤが出鼻を挫く形で銃撃。
 散弾砲とアノマリーによる実弾斉射が敵機を襲うが、躱さずに腕に内蔵されているエネルギーシールドを展開して強引に突破。 それを見たヨシナリとユウヤは奇しくも全く同じ事を考えた。

 ――あぁ、この程度かと。

 ラーガストならギリギリまで引き付けて掻い潜り最短ルートで刈り取りに来るだろう。
 それができないこいつは所詮は猿真似。 見た目だけ似せたパクリ野郎でしかない。
 特にラーガストと共に戦った事のある二人としては仲間の浅い模倣を見せられて不快だった。

 挙動に関してもそれっぽい動きはするが、模倣の域を出ない。
 急旋回、急加速も動きが直線的。 これならBランクのプレイヤーに使わせた方がいい動きをするだろう。 さっき戦ったリングを使用している機体は初見であった事もあって手こずったが、防御面が貧弱なこの機体なら仕留める方法はいくつか思いつく。

 地下に到達するまであと数秒。 次のワンプレーで決める。
 ヨシナリはちらりとユウヤを一瞥。 ユウヤもヨシナリの動きに意識を向けているのが分かる。
 連携は問題なさそうだ。 なら、即興でも合わせてくれるだろう。

 ユウヤが散弾砲を発射。 広範囲に広がる散弾を敵機は大きな動きで躱す。
 その隙にヨシナリは背後からアノマリーを実弾で連射。 当然のように敵機は急停止からの急降下で回避に入る。 その軌道を読んだユウヤが下から接近しながら電磁鞭を一閃。 
 
 エネルギーブレードで切断されたと同時にユウヤは大剣を抜いて刺突、当然のように横にスライドして躱すが、そこまでは読み通りだ。 何故ならユウヤが突っ込んだ先にはヨシナリのホロスコープが腹を晒した状態で通り過ぎようとしていた。 ユウヤは反転してホロスコープを蹴る事で強引に方向転換。 再度、敵機に斬りかかる。

 敵機はこの挙動は予想していなかったのか、反応に僅かな後れこそあったが急上昇で躱そうとする。
 
 ――遅い。

 上か下かで迷ったな。 下は地面が近いから上に逃げた。
 移動先に向けてヨシナリはアノマリーのエネルギー弾を撃ち込む。 
 流石に躱せないと判断したのかエネルギーシールドで防御。 動きが完全に停止する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...