上 下
325 / 352

第325話

しおりを挟む
 「――話は分かったわ。 結局、入れそうなのはこの一か所だけって事になるのね?」
 「俺の言葉を信用してもらえるのでしたら」

 ツェツィーリエは小さく笑う。
 彼女としては単独で反応炉の位置を特定し、一気に終盤までイベントを進めたヨシナリの言葉を今更疑うなんて真似はする必要がないと考えていた。 感触から誰かから何か入れ知恵されたような印象こそ受けはするが、ここまで至ったのは紛れもなく彼の実力によるものだ。

 「勿論、信用するわ。 機体のメンテこそ済んでるけど、補給が頭打ちな以上は実弾系の武器は長く扱えない。 なら、さっさと勝負したほうがいいわ」
 「分かりました。 信じて貰えて助かります」
 
 ヨシナリが内心でほっと胸を撫で下ろしているとユウヤ達が偵察を終えたらしく映像を送って来た。
 場所はこれから突入する予定の施設だ。 映っている映像を確認するが――

 「まぁ、こうなるよなぁ……」

 ツェツィーリエ達に共有しながそう呟く。
 映像には大半が水没した施設とそれを守るように無数のエネミーと敵性トルーパー。
 トルーパーはこれまでに見てきた機体ばかりで上位の機体は見当たらない。
 
 エネミーも雑魚ばかりでメガロドンやジンベエザメ型はいないようだ。
 触手を遠巻きに囲む形で防衛に就いているが時折、不用意に近づいたエネミーやトルーパーが触手に絡めとられて内部に取り込まれて圧壊する様子が映し出されていた。

 「確かに、潜るのは現実的じゃないわね」
 「道理で背の高い建物が多い訳だ。 上から入れるようになってるって事だったんだナ」
 
 生産拠点の時も妙に背が高いなとは思っていたのだがこういう事だったようだ。
 施設へとフォーカスすると触手から屋上が突き出ているのであそこから入れという事だろう。
 
 「ついでに施設を壊しすぎると浸水するからどちらにせよ入れなくなる、と」
 「クソみたいな仕様だナ」
 「やる事は決まってるので後は攻めるだけですね。 あ、勝手とは思いましたが、『栄光』の方にもさっきの映像は送っておきました」

 ツガルとフカヤに事情を添えて送ったので向こうも問題ないだろう。
 『豹変』を中心としたトルーパーが部隊、約千機。
 この戦力で挑む事となる。 他のユニオンにも情報は送ってあるので生き残っているプレイヤー達も独自に侵入を試みるはずだ。 

 「できればこのステージはこれっきりにしたいし、クリアするつもりで行くわ」
 「勿論ですよおねーたま! うらぁ! 行くぞぉ!」

 ポンポンが声を張り上げると他のプレイヤー達も応じるように拳を突き上げた。


 流れが決まった以上は後はやるだけだ。
 突破を図るので下手に広がるよりは密集――矢印にも似た鋒矢の陣形で突っ込む。
 目的は一機でも多く内部に戦力を送り込む事だ。 出し惜しみはしないというのがツェツィーリエの考えで、ヨシナリ達もそれを支持した。 この戦いは反応炉を処分すれば完了なのだ。

 いかなる犠牲を払ってでも内部に戦力を送り込むべきだった。
 
 「うらうらぁ! 後の事は考えずに今、この局面を打開する事に全てを注ぎ込め!」
 
 ポンポンがそう吼えてエネルギー式の突撃銃を連射しながら突っ込む。
 陣形の内訳は先頭にキマイラ、エンジェルタイプといった機動力に優れた機体が敵機を撃破しながら道を切り開く。 残りはそれに続く形にはなるが、例外はあった。

 パンツァータイプだ。 彼等は空中戦ができないので外で味方の突入支援を行った後、全滅するまでこの場で戦い抜くとの事。 僅かに離れた位置から彼等は武装を惜しみなく解放してばら撒く。
 そんな中、ヨシナリは先頭を飛んでいた。 ゲートの開け方は既に頭に入っている。

 破壊よりハックして開けた方が早いからだ。 
 だから、誰よりも早く取り付いて入口を抉じ開ける。 アノマリーと機銃で進路上のエネミーを捌きながらバレルロール――横回転させて器用に回避して敵陣を切り裂くように飛翔する。

 かなり目立つ飛び方をしている所為か敵のヘイトが向くが、ヨシナリに仕掛けようとする前に敵機が次々と撃墜されていく。 それを成したのは紅い機体。
 ツェツィーリエの『ハウラス』だ。 速い。 エネルギーウイング特有の急加速を用いて、まるで残像のように赤い帯が見える。 手に持ったエネルギー式のレイピアで的確に敵の急所を刺し貫く。

 しかも自身を狙った敵を処理しながらヨシナリに意識を向けた敵も的確に処理していた。
 とんでもない腕だ。 ヨシナリが感心している間にも銃口を向けようとしていたエネミーの背後に回ってレイピアで急所を一突き。 

 「急ぎなさいな!」
 「はい!」

 返事をしながらヨシナリはホロスコープを人型に変形。 触手から突き出ている屋上に着地。
 仕組みは地下の施設と同じ。 接触すると操作メニューが――出た。
 ハッキング開始。 インジケーターが現れ、ゆっくりと進捗を示す。

 追いついてきた味方機がヨシナリの護衛に着く。 何をしているのかを察した敵機がやや強引に突っ込ん来たが、追いついてきたユウヤがハンマーで叩き潰す。 
 
 「アルフレッド!」

 追いついてきたアルフレッドや他の電子戦装備を搭載している機体も屋上へと取り付き、支援を開始。 インジケーターが一気に進み。 屋上のハッチが解放された。

 「開きました!」
 「全員、突入! 急ぎなさい!」

 次々と味方機が突入し、一部の機体がハッチの近くに陣取って敵を追い払うべく銃撃。
  
 「行け行け行け!」
 「急げ! 早く!」

 声を上げるプレイヤー達の声を聞きながらヨシナリも銃撃で突入を支援。
 入っても良かったが、ユニオンメンバーがまだ来ていないので全員来るまで粘っていたかったのだ。
 ユウヤとアルフレッドは既に突入済み。 少しの間、待っているとふわわ、マルメルが追いついてきてそのまま突入し、その後にグロウモスが内部へと入った。 

 ユニオンメンバー全員の突入が済んだ事を確認したヨシナリは近くのプレイヤー達に声をかけて内部へ。 施設内には敵性トルーパーはいなかったが、エネミーだらけだったようで既に戦闘が繰り広げられていた。 ツェツィーリエと他のAランクプレイヤーが先頭で道を切り開きながら叫ぶ。

 「全滅はさせなくていい! 障害物として捌きなさい! 目的は地下のエレベーターシャフトよ!」

 その通りだ。 
 ヨシナリは一番足の遅いグロウモスの後ろに付いて彼女の移動を助けながら下を目指す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...