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第324話
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「本音を言うとそうですが、独力では手に負えないので他に助けを求めるって事で納得しています」
嘘ではないが本当でもなかった。 独力でもう一度反応炉へと到達するのは非常に難しい。
突破には人数が必要で、情報を独占する事はこの戦い自体の敗北に直結すると理解していたからだ。
これがヨシナリ一人の戦いであったならもう少し気楽に構えられたが、他のプレイヤー達がいる以上は最低限の配慮は必要だった。
――だからと言って諦めた訳ではない。
他者の力を借りるだけで最終的に自分が決めてしまえばこの靄がかかった気持ちも晴れるだろう。
可能かは別としてそんな心構えで居れば健全に高いモチベーションを維持できる。
「ふーん? まぁ、そういう事にしとこっか?」
「そういう事にしておいてください」
ふわわは見透かすように――いや、実際に見透かしているのだろう。
その言葉にヨシナリが頷いて見せると満足したのか小さく笑う。
「ならええんよ」
ふわわはそれだけ言うとヨシナリと同様に小さく笑った。
やる事は最初に行った時と変わらない。
触手に埋まってこそいるが施設に侵入して例のエレベーターシャフトから反応炉へと向かう。
待ち構えているであろう、敵の兵隊――恐らくは強化されているであろう近衛兵と呼んだ方が適切なエネミーを突破して反応炉を破壊。 これがこのイベントの最終局面の突破方法だ。
「栄光」「豹変」を中心としたプレイヤーの総数は約千五百。
かなり減りはしたがまだまだ健在。 ただ、全機同じ場所からの侵入はエレベーターシャフトの広さからも現実的ではない。 その為、半分に割って二か所の侵入口から入る事となった。
ヨシナリ達は『豹変』の方に混ぜて貰う事となった。
流石にユウヤをカナタの指揮下に入れる訳にはいかなかったので選択肢はあってないような物だったが。 ツェツィーリエは特に気にした様子もなく、全体的な方針は私に従いなさいとだけ言って準備に入った。
「――それで? 侵入するのは例のエレベーターシャフトがある所ならどこでもいいの?」
移動中、目的地がそろそろと言った所でツェツィーリエがそう尋ねてきた。
「いえ、施設が残っている場所がよさそうです」
他は解散となったのだが、ヨシナリは相談役として同行させられる事となった。
ツェツィーリエとしては何かあった時に色々と喋らせる為に傍に置いておきたいようだ。
少しだけ居心地が悪そうにしているヨシナリが面白いのかポンポンが「緊張してんのか~」と突いてくる。
「こいつを見て欲しいんですよ」
ヨシナリはウインドウを可視化した映像を二人と共有する。
これは偵察に行ったアルフレッドが持ち返った映像だ。 入るにしてもどうなっているのかの確認とあの触手の挙動も近くで見ておきたかった事もあって偵察を頼んでおいた。
候補地としては三つほど挙げていたのだが、偵察の結果、内二つは止めておいた方がいいかもしれない。 映像には完全に破壊された通信設備の跡地が映し出されているのだが、完全に水没しており、地下への道も露出している状態だ。
「これが何?」
「周りを見て欲しいんですよ」
ツェツィーリエがじっと映像を見ていると施設跡周辺に生き残ったエネミーが空中を回遊しているのだが、一切触手に近寄らない。 防衛目的なら水中にいた方がいいにも関わらず、だ。
「ここに来るまで触手の近くを通った事もありましたが、特に攻撃される事はなかった。 恐らくあのボスは積極的にプレイヤーを潰しにいくスタイルじゃない。 俺の勘ですが、内部に侵入しようとする外敵に対して行動を起こすタイプに見えます」
「根拠は?」
「この辺――触手の中なんですけど、よーく見てください」
ヨシナリが映像の一部を拡大。
ツェツィーリエとポンポンが目を凝らすと内部に敵トルーパーの残骸が無数に浮いていた。
「多分、あの中に入ろうとするか下手に近づくとああなります。 正面から抉じ開けるのが現実的じゃないのは大規模破壊兵器が碌に通用しなかった事からも明らかですので、無事な施設から内部に侵入するのが無難ですね」
「ってかこれ施設を全部潰してたら詰みだったゾ。 勝利条件に施設の処分が入ってたから破壊する事が前提で考えさせられてたのも嫌らしいナ」
ラーガストも施設よりも反応炉を優先するように促している節があった。
あの時は反応炉を潰すと他が停止するから無駄だと解釈したのだが、今にして思えばそう言う事だったのかもしれない。 ヨシナリは地図の一か所をマーキング。
「――でその条件で入れそうな所はこの一か所になるんですが、もう少ししたら先行したユウヤとアルフレッドが到着するので様子が分かると思います。 幸いにもこの状態ではほぼ全ての拠点が機能を発揮しないので通信制限がなくなったのは数少ない朗報ですね」
「えぇ、分かったわ。 ――それにしてもあのユウヤを手懐けるなんて大したものね? ベリアルの時もそうだったけどあなたはそういった変人を引き付けるカリスマでもあるのかしら?」
話が一段落したと判断したのかツェツィーリエは唐突に話題を変えてきた。
ヨシナリはどう返したものかと少し悩む。
「ベリアルはいい奴ですよ。 確かに言動は理解し辛いかもしれませんが、俺が見たプレイヤーの中でもトップクラスにこのゲームと真剣に向き合って楽しんでいるし、向上心もあるんで一緒に戦って気持ちのいい戦友です」
本心だった。
会話するのに神経を使うが味方としては非常にやり易く、可能ならずっとユニオンに居て欲しい人材だ。 だからヨシナリはまたベリアルと共に戦える日を待っている。
その時は敵かもしれないが、それはそれで面白い。
「ユウヤに関しては利害が一致しただけで手懐けたとかそんなんじゃないです」
ユウヤは態度こそ悪いが、約束事には誠実だ。
スタンドプレーもするがヨシナリ達にとって不利益になるような行動は一切取らない。
そういった点からもヨシナリはユウヤを同盟相手として信用していた。
ユウヤ自身も情よりは割り切った関係を求めているような節があるので、そのラインさえ越えなければ手を組むにはいい相手で、それ以上でもそれ以下でもない。
可能であればもう少し心を開いて欲しいが、カナタとの件もあるので気長にやればいい。
そう思っていた。
嘘ではないが本当でもなかった。 独力でもう一度反応炉へと到達するのは非常に難しい。
突破には人数が必要で、情報を独占する事はこの戦い自体の敗北に直結すると理解していたからだ。
これがヨシナリ一人の戦いであったならもう少し気楽に構えられたが、他のプレイヤー達がいる以上は最低限の配慮は必要だった。
――だからと言って諦めた訳ではない。
他者の力を借りるだけで最終的に自分が決めてしまえばこの靄がかかった気持ちも晴れるだろう。
可能かは別としてそんな心構えで居れば健全に高いモチベーションを維持できる。
「ふーん? まぁ、そういう事にしとこっか?」
「そういう事にしておいてください」
ふわわは見透かすように――いや、実際に見透かしているのだろう。
その言葉にヨシナリが頷いて見せると満足したのか小さく笑う。
「ならええんよ」
ふわわはそれだけ言うとヨシナリと同様に小さく笑った。
やる事は最初に行った時と変わらない。
触手に埋まってこそいるが施設に侵入して例のエレベーターシャフトから反応炉へと向かう。
待ち構えているであろう、敵の兵隊――恐らくは強化されているであろう近衛兵と呼んだ方が適切なエネミーを突破して反応炉を破壊。 これがこのイベントの最終局面の突破方法だ。
「栄光」「豹変」を中心としたプレイヤーの総数は約千五百。
かなり減りはしたがまだまだ健在。 ただ、全機同じ場所からの侵入はエレベーターシャフトの広さからも現実的ではない。 その為、半分に割って二か所の侵入口から入る事となった。
ヨシナリ達は『豹変』の方に混ぜて貰う事となった。
流石にユウヤをカナタの指揮下に入れる訳にはいかなかったので選択肢はあってないような物だったが。 ツェツィーリエは特に気にした様子もなく、全体的な方針は私に従いなさいとだけ言って準備に入った。
「――それで? 侵入するのは例のエレベーターシャフトがある所ならどこでもいいの?」
移動中、目的地がそろそろと言った所でツェツィーリエがそう尋ねてきた。
「いえ、施設が残っている場所がよさそうです」
他は解散となったのだが、ヨシナリは相談役として同行させられる事となった。
ツェツィーリエとしては何かあった時に色々と喋らせる為に傍に置いておきたいようだ。
少しだけ居心地が悪そうにしているヨシナリが面白いのかポンポンが「緊張してんのか~」と突いてくる。
「こいつを見て欲しいんですよ」
ヨシナリはウインドウを可視化した映像を二人と共有する。
これは偵察に行ったアルフレッドが持ち返った映像だ。 入るにしてもどうなっているのかの確認とあの触手の挙動も近くで見ておきたかった事もあって偵察を頼んでおいた。
候補地としては三つほど挙げていたのだが、偵察の結果、内二つは止めておいた方がいいかもしれない。 映像には完全に破壊された通信設備の跡地が映し出されているのだが、完全に水没しており、地下への道も露出している状態だ。
「これが何?」
「周りを見て欲しいんですよ」
ツェツィーリエがじっと映像を見ていると施設跡周辺に生き残ったエネミーが空中を回遊しているのだが、一切触手に近寄らない。 防衛目的なら水中にいた方がいいにも関わらず、だ。
「ここに来るまで触手の近くを通った事もありましたが、特に攻撃される事はなかった。 恐らくあのボスは積極的にプレイヤーを潰しにいくスタイルじゃない。 俺の勘ですが、内部に侵入しようとする外敵に対して行動を起こすタイプに見えます」
「根拠は?」
「この辺――触手の中なんですけど、よーく見てください」
ヨシナリが映像の一部を拡大。
ツェツィーリエとポンポンが目を凝らすと内部に敵トルーパーの残骸が無数に浮いていた。
「多分、あの中に入ろうとするか下手に近づくとああなります。 正面から抉じ開けるのが現実的じゃないのは大規模破壊兵器が碌に通用しなかった事からも明らかですので、無事な施設から内部に侵入するのが無難ですね」
「ってかこれ施設を全部潰してたら詰みだったゾ。 勝利条件に施設の処分が入ってたから破壊する事が前提で考えさせられてたのも嫌らしいナ」
ラーガストも施設よりも反応炉を優先するように促している節があった。
あの時は反応炉を潰すと他が停止するから無駄だと解釈したのだが、今にして思えばそう言う事だったのかもしれない。 ヨシナリは地図の一か所をマーキング。
「――でその条件で入れそうな所はこの一か所になるんですが、もう少ししたら先行したユウヤとアルフレッドが到着するので様子が分かると思います。 幸いにもこの状態ではほぼ全ての拠点が機能を発揮しないので通信制限がなくなったのは数少ない朗報ですね」
「えぇ、分かったわ。 ――それにしてもあのユウヤを手懐けるなんて大したものね? ベリアルの時もそうだったけどあなたはそういった変人を引き付けるカリスマでもあるのかしら?」
話が一段落したと判断したのかツェツィーリエは唐突に話題を変えてきた。
ヨシナリはどう返したものかと少し悩む。
「ベリアルはいい奴ですよ。 確かに言動は理解し辛いかもしれませんが、俺が見たプレイヤーの中でもトップクラスにこのゲームと真剣に向き合って楽しんでいるし、向上心もあるんで一緒に戦って気持ちのいい戦友です」
本心だった。
会話するのに神経を使うが味方としては非常にやり易く、可能ならずっとユニオンに居て欲しい人材だ。 だからヨシナリはまたベリアルと共に戦える日を待っている。
その時は敵かもしれないが、それはそれで面白い。
「ユウヤに関しては利害が一致しただけで手懐けたとかそんなんじゃないです」
ユウヤは態度こそ悪いが、約束事には誠実だ。
スタンドプレーもするがヨシナリ達にとって不利益になるような行動は一切取らない。
そういった点からもヨシナリはユウヤを同盟相手として信用していた。
ユウヤ自身も情よりは割り切った関係を求めているような節があるので、そのラインさえ越えなければ手を組むにはいい相手で、それ以上でもそれ以下でもない。
可能であればもう少し心を開いて欲しいが、カナタとの件もあるので気長にやればいい。
そう思っていた。
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