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第318話

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 「いやぁ、きついわぁ……」

 思わずふわわはそう呟いた。 太刀を構え、敵機に対して撃ち込むが浮遊しているリングに阻まれる。
 このリングが厄介だった。 防ぐタイミングで衝撃のような物を発生させて攻撃を跳ね返してくる。
 斬撃なので射撃に比べるとまだマシかもしれないが、態勢を大きく崩されるのでやり難い相手だ。

 加えて攻撃に対する反応が異様にいい。 挙動や動きに不自然な点が多くみられるので、ヨシナリのチートを使っているという考えは間違っていないとふわわも思っていた。
 この敵の厄介な所は常にリングをふわわの前面に持ってくるように動かし、回り込もうとしてもぴったりと目の前に居座ってくる点だ。 邪魔で仕方がない。

 無理に突破を図ろうとすればその隙を突いて本体が仕掛けに来る。
 分かり易いが突破が難しい厄介な戦い方だった。 かといって何もしないと腕に内蔵したエネルギーガンを撃ち込んで来る。 ユウヤはハンマーで強引にリングの破壊を狙っているようだが、インパクトの瞬間に打撃が跳ね返されるので上手く行っていない。

 敵は接近戦は不利と判断したのか後退しながらリングを盾にしてエネルギーガンでチクチクと削りに来る。 鬱陶しい上、機動性には大きな開きがあるので逃げに回られたら追いつけない。
 明らかに既存の推進装置とは別物で、自由に距離を選べるといった余裕が透けて見える。

 お陰で近接に優れたプレイヤーが二人もいるのに攻め切れない。
 不意に空中から機銃による斉射。 キマイラタイプが戦場を切り裂くように現れる。
 ホロスコープ。 ヨシナリだ。

 「お待たせしました!」
 「そっちは終わったん?」
 「ドローンが全て片付けたのでマルメル達も追いついてきます」
 「ヨシナリ! こいつの弱点を探れ!」
 「言われなくてもやります。 情報が欲しいので仕掛け続けてください」

 ユウヤの言葉に返しながらヨシナリは機体を人型に変形させてアノマリーを連射。 
 敵機は滑るような動きで後退。 リングを使用しなかったのはふわわとユウヤに張り付ける為だろう。 これまでの攻防でリング自体は防御にしか使用していないので無視してもいいと思うが、なんだか怪しかった。 根拠はないが、ふわわの勘が言っているこのリングは単なる防御の為だけの代物ではないと。 
 
 恐らくは仕掛けどころとしてはそこだ。 だから――

 ――今はちょーっと我慢しよか。

 ふわわは敵をじっと観察しながら牙を研ぐ事にした。
 
 
 ――とんでもないな。

 敵機を観察してヨシナリが思った事だ。 
 まずは武装。 ドローンは全て排除したので存在しないが、浮遊しているリングは非常に高い防御能力を有しており、恐らくは斥力のような物を発生させているようだ。 斬撃、打撃は例外なく弾き返す。 問題はその弾き返す事にある。 そうする事により、パリング――要はいなされる形になるのだ。

 特に近接機にとって体勢を崩されるのは非常によろしくない。
 場合によっては致命的な隙を晒す結果になるからだ。 穴はないかとシックスセンスで観察。
 無視するのも手だが、現状では難しい。 リングを覆う斥力場に穴はないので、力技での突破が一番分かり易いが――ちらりとユウヤの方を見る。

 プルガトリオの散弾砲が火を噴く。 
 打撃力の特化した一粒弾だったが、あっさりと跳ね返されて明後日の方向へと飛んでいった。
 ハンマーも同様に弾かれていた事から干渉自体を完全に防いでいるので防御兵装としては最高峰と言えるだろう。 

 ――だが、無敵ではない。

 シックスセンスで視れば分かるが、防いだ瞬間に斥力場に歪みが発生しているからだ。
 要求値が高いだけで閾値を超えれば貫く事は可能。 次に攻撃手段。
 こちらに関しては今の所はそこまで脅威度の高い武装は使用していない。

 内蔵型のエネルギーガンとエネルギーブレードのみ、随分と慎ましいと思わなくもないがこいつの本領はドローンとの併用だ。 そのドローンを全て喪失している以上、攻撃能力が大きく低下している。
 ――最後に最も問題である部分、機動性についてだ。

 反重力とでもいうのだろうか? 既存の推進装置と違い、慣性等の影響を完全に無視ししている。
 そのお陰で流れるような滑らかな挙動にエンジェルタイプ以上の旋回性。
 まともにやればどんな下手糞が扱っても大抵の攻撃はかわせるだろう。 
 
 後は敵を操っている中身について。 有人操作なのは間違いない。
 AIであんな無駄の多い挙動はあり得なのでほぼ確定だ。 そして技量自体は何とも言えない。
 理由は攻撃行動に関しては割と的確だったからだ。 狙い、ポジショニングも秀逸とまでは行かないが、下手ではない。 反応に関してはチートでブーストしているのでもはや人外だ。

 その為、他の敵性トルーパーの中身のようにちぐはぐさが目立つ。 
 ただ、機体の特性を活かせているか?と尋ねられば答えはノーと即答する。
 恐らくはジェネシスフレーム規格の装備なのだろうが、あの武装群に対する装備に適性があるプレイヤーが扱えばこんなものではないだろう。 

 ――つまり、付け入る隙は充分にある。
 
 そろそろ観察は終わりだ。 マルメル達が戻って来る。
 複数いたら詰んでいる程の性能差だが、中身の技量は低く、機体の性能を引き出せない。 
 ヨシナリは頭の中で戦い方を組み立てていく。

 「ヨシナリ! 待たせたなぁ」

 マルメルが銃撃しながら突っ込んで来る。 僅かに遅れて本体目掛けて銃弾が飛ぶ。
 グロウモスの狙撃だ。 そしてアルフレッドが近くで身を潜めているのが分かる。
 これで全員が揃った。 性能とチート頼りの似非プレイヤーとこんな連中を繰り出してくる運営に本物のICpwプレイヤーの力を見せつけてやる。

 ヨシナリは始める前に片付ける事があったのでユウヤに通信。

 「ユウヤ。 俺に従って貰えますか?」
 「……分かった。 従ってやる」

 間があったのは自分一人であの防御を突破する事が難しいと判断したからだろう。
 ゲームに真摯であるからこそ彼は自らの力不足を認めたのだ。
 
 「普通にやっても捉えられない。 まずは邪魔なリングを潰します。 マルメル、ハンドレールキャノンは?」
 「後三発。 多めに持ってきといてよかったぜ」
 「俺達でリングの動きを止める。 そこを撃ち抜け」
 「分かった――って言いたいけどアレに正確に当てる自信は――」
 「本体に当てなくてもいい。 目的は本体の周囲に展開されている斥力場を剥がす事だから、防がせればいいんだ」
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