Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第316話

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 ゆっくりと施設の一部が横にスライドして開く。 
 
 「全員、早く入れ!」

 ヨシナリはそう叫びながら内部に機体を滑り込ませる。
 真っ先に飛び込んだのには理由があった。 そのまま奥へ急ぐと同じ扉に突き当たる。
 このゲームに減圧の概念があるのかは不明だが、内部に水が入るのを防ぐ為に排水はするだろうと考えていたからだ。 扉に接触すると操作メニューがポップアップ。
 
 振り返り、全員がしっかりと中に入っている事を確認して操作を開始。
 入って来た扉が閉まる。 奥から叩くような音がしばらく続いたが、やがて諦めたのか静かになった。
 
 「し、死ぬかと思った。 いや、もうイカ多すぎ、やばすぎだろ……」
 「ウチは碌に戦えへん環境は嫌やわぁ」
 
 ユウヤは普段通りだが、他は全員かなり消耗しているようだった。
 だが、損耗ゼロで突破できたのは中々に幸先がいい。 ゴボリと音がして排水が始まる。
 ヨシナリはこの場所をぐるりと一瞥。 狭い。

 最初に抱いた感想はそれだ。 この空間では無理に詰め込んでも十機かそこらしか入らない。
 つまり大人数で挑んだ場合、開錠、侵入の手順を繰り返さなければならない。
 イカは減っている感じはあまりしなかったので、無限湧きの可能性は高かった。

 そんな状況であの場を長時間確保するのはあまり現実的ではない。
 つまり、少人数での突破を図ったのは結果的に良かったのかもしれなかった。

 ――まぁ、結果論だがな。
 
 ゆっくりと水が抜けていき、完全に排水が完了したと同時に扉が開く。
 開いた先は――

 「うわ、眩し」
 「あれ、電気着いてるやん」

 広い空間だった。 
 壁も床も全てが真っ白でビルに見立てたような塔がいくつも直立しており、まるでトレーニングルームのようだ。
 全員がゆっくりと着地し、水中戦装備をその場で下ろして身軽になる。

 「ふいー、これでまともに動けるわー」
 「な、なぁ、ここ何だと思う?」
 「ちょっと待て。 今、調べてる」 
 
 不安そうなマルメルを安心させながらヨシナリはざっとシックスセンスで調べるが、見れば見るほどにトレーニングルームに酷似している。 マルメルやふわわと散々、模擬戦をした場所だ。
 そう考えるなら用途は考えるまでもない。 

 「多分、なんか来るぞ」


 ヨシナリがそう呟いた頃、システム内部ではある処理が実行されていた。
 
 
 拠点ID:NEP-1に侵入したプレイヤーを検知。
 侵入プレイヤーへの迎撃措置として施設内へ投入する『trooper:type sacrifice』のリミッターを完全開放。
 各種機能をアンロック、MOD移植ユーザー『imitation warrior』の解凍作業開始。

 プレイヤーの総合個人ランク計測――完了。 投入数決定――一機。
 MOD選択――完了。 ユーザー選択――完了。 機体選択――完了。 武装選択――完了。
 
 ――投入開始。 


 ――ぞわりと寒気のような物を感じ、ヨシナリは僅かに身を震わせる。
 アバター状態でこんな事があるのかと思えるほど異様な経験だった。
 気の所為かなと思っていたが、ふわわとユウヤが既に構えている。 

 「どうしました?」
 「分からない。 でも、なんかヤバいのが来って感じがする」
 「警戒しろ。 ヤバそうだ」

 ふわわがこんな事を言うのも珍しいが、ユウヤがヤバいと形容した事も問題だった。
 一体何がとシックスセンスで周囲を調べていると壁の一部が開き、一機のトルーパーが現れる。
 識別は当然エネミー。 血のような紅い機体。 
 
 形状は上に居た機体と同系統だろうが、装備が完全に別物だった。
 背中には複数の突起、左右には謎の輪が浮かんでいる。  
 携行武装はないが、形状からあちこちに何か仕込んでいるのは明白なので油断はできない。
 
 「来るぞ! 散開!」

 ユウヤ以外とは散々、連携訓練をしてきたのだ。 
 こういった場合は考えるよりも体が先に動く。 それでも最初に動いたのはユウヤだ。
 真っすぐに敵機へと突っ込んでいく。 敵はふわりと浮かび上がる。

 それを見てヨシナリは何だこいつは?とその異様さに訝しむ。
 推進装置が既存の物ではない。 恐らくは重力を操作して浮力を得ている?
 詳細は不明だが、エネルギーの流動がこれまで視てきた機体とは全く違うのだ。

 ユウヤが即座に間合いに飛び込んで大剣を一閃。
 敵機は凄まじい旋回性能で回避と同時にユウヤの背後に回る。 速いなんてものじゃない。
 シックスセンスで視ているにも関わらず動きの起点が見えなかった。

 敵機が手の甲からエネルギーブレードを展開するがそれよりも先にふわわの太刀を用いた居合がその首を刎ねんと襲い掛かる。 当然のように回避して僅かに距離を取った。
 待ってましたとマルメルが突撃銃を連射し、グロウモスが支援。 実弾は敵機の周囲に浮いている輪が展開しているフィールドに阻まれて通らない。

 反応が良すぎる。 
 恐らく上の連中と同じで「やってる」のは間違いないだろうがそれを差し引いても動きがいい。
 敵機から背の突起が分離。 何だとスキャニングしてみるとどうやらレーザーの発射機構らしい。
 
 つまり攻撃用ドローンだ。 合計で十機。
 それぞれが意志を持っているかのように分散。 半分がヨシナリとアルフレッドへ、残りがマルメルとグロウモスの方へと向かっていく。

 「うぉ、なんだこいつ等!?」
 「攻撃用のドローンだ。 恐らくAI搭載型だからエネミーと思え!」

 ――ドローンに後衛を処理させて本体は前衛を処理するつもりか。
 
 どちらにせよドローンを処理しない事には始まらない。
 ヨシナリは背後から追って来るドローンを引き付ける為に空中へ。 
 追ってくるのは三機。 

 ――まずは観察して情報を集めないと――

 あまり時間をかけてはいられないが、とにかく今は情報が欲しい。 
 アノマリーを撃ち込むが、ドローンは最小の動きで回避しながら散開し、取り囲むような動き。
 変形して加速。 強引に包囲を抜ける。 一瞬、後れてホロスコープの居た位置にレーザーが交差して通り過ぎた。  

 まずは機動性はそこまでではなく、最大加速はホロスコープに分がある。
 だが、小さいので見た目以上に素早く見え、当てるのは少し難しい。
 動き、射撃は的確。 遠隔操作のドローンと思わず、小型の戦闘機か何かと認識するべきだ。
 
 アノマリーを実弾に切り替えて連射。 
 ドローンは回避しつつヨシナリを狙える位置にポジショニング。 
 位置取りも上手い。 明らかにヨシナリを狙える位置に無駄なく移動している。
 
 機動性で劣っている事を理解しているのか、変に追いかけず射線で捉えようとしてくる点も厄介だ。
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