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第315話

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 ヨシナリは改めて下を見る。 
 凄まじい光景だ。 イカの群れが蠢いており、近寄ればアレが全部襲って来るのかと考えると逃げ出したくなる。 だが、ここを突破できれば他を出し抜いて反応炉まで直通だ。

 反応炉を破壊して自分達がこのイベントのMVPになった事を考えると気分が凄まじく高揚する。
 表にこそ出していないが、ヨシナリは非常に興奮していた。 
 まるで新大陸を発見したかのような高揚感だ。 だが待てとヨシナリは己を戒める。

 彼は自分の性格をよく理解していた。 調子に乗ると碌な事にならない。
 この衝動に任せて本当に大丈夫なのだろうか? そう考えると少しだけ不安になったので小さく仲間達を振り返る。

 「これからあそこに突っ込もうという訳ですが、覚悟はいいですか?」
 
 そう尋ねるが、反応は即座だった。

 「は、これから上を必死こいて焼き払ってる連中を纏めて出し抜くんだろ? いいじゃねーか」
 「こんな面白そうな物見せといて行かないはなしだろ?」
 「ウチは早よ中に入ってこの窮屈な荷物下ろしたいわー」
 「……行こう」

 ユウヤはヨシナリと同様に他を出し抜ける事にわくわくしているのか少し楽し気で、マルメルからは信頼が伝わってくる。 
 ふわわはいつも通り、グロウモスは聞かなくていいと言わんばかりに頷いた。

 「よし、では行きますか!」

 
 フォーメーションはユウヤが先頭でその後ろにヨシナリとアルフレッド。
 左右にはマルメルとグロウモス。 ふわわが一番後ろだ。
 この状況で小細工は通用しない。 そのまま突っ込んで目的地へと辿り着く。

 接近に気が付いたイカが向かって来るが、ふわわ以外の全員が榴弾砲グレネードランチャーを構えて発射。 命中と同時に周囲の水とイカの一部を凍結させる。
 この気温なので簡単には溶けない。 いちいち、核に喰らわせて行動不能を狙ってられないので、別の方法での無力化を狙う。

 「敵が固まってるところを狙え! こいつ等に連携なんて概念はない」

 ヨシナリがそう叫び、発射した榴弾が内部に封入された冷気を炸裂させ範囲内の全てを凍り付かせる。 氷結は数体のイカを巻き込み強引に連結させた。
 イカ達は好き勝手に獲物を狙うので強引に引き剥がそうと動いた結果、バキリと凍り付いた部分が砕ける。 そうなるとどうなるのか?
 
 あのイカは内部の強酸性の液体を核が操るといったデザインだ。
 液体は膜のような物で覆われており、それによってイカとしての形を保っている。
 つまり、あのイカは水風船のような物なのだ。 そんな存在が形状を強引に崩せばどうなるのか?

 答えは直ぐに明らかになる。 破損部分から液体が漏れるのだ。
 漏れた液体は周囲の水と混ざり拡散していく。 

 「うわ、マジで勝手に萎んでいきやがるな」
 
 マルメルがイカに冷凍弾を喰らわせながら呟く。 

 「水棲生物モチーフの癖に穴が開いたら周りと混ざるとか割と致命的なデザインだよな」
 「運営の良心的な物なのかねぇ?」
 「そこは分からん。 とにかく、一番近い敵の塊に撃ち込み続けろ! 弾が切れたら申告してリロード。 絶対に隙を作るな。 ここは地上と違って全方位から敵が来るからマジで油断したら即死だから気を付けろよ」

 全方位から来るが冷凍弾は水中では非常に高い効果を発揮し、当たりさえすればイカは勝手に萎んで消えるので普通ならまず数秒で即死するような状況でもどうにか進めている。
 加えて全員が背負っている水中用の推進装置が一気に目標への距離を縮めていく。

 半分を越えた辺りでヨシナリはレーダー表示を確認すると凄い事になっていた。 
 自分達の反応を追って次々と敵が集まっており、周囲は敵の反応で埋め尽くされている。
 それを自分達の反応が切り裂くように進んでいた。 スピードが出ている分、左右を無視して前と後ろだけに集中。 とにかく進む事だけに全てを傾ける。 

 ユウヤ、ヨシナリ、アルフレッドが道を切り開き、マルメルとグロウモスが背後の敵を足止めし、ふわわが弾が切れた味方の銃を受け取ってリロードする。
 
 「なぁ、まだか!? そろそろヤバいんだけど!?」
 「三分の二は越えた! もう少し粘れ!」
 「ヨシナリ君、弾が半分切った!」
 「げ、マジっすか!? つっても出し惜しみしてる余裕はありません。 やれるところまで頑張りましょう!」
 
 ふわわは空になった弾丸を積んでいたコンテナを切り離しつつ加速。 
 ヨシナリはまだかまだかと目を凝らす。 相変わらず目視では一寸先は闇だが、ライトを使用しているお陰で多少は見える。 それでもイカの蛍光色しか見えないが。
 
 イカを掻き分け深く深く潜っていき、みるみる内に減っていく残弾に焦りを感じていると――不意に闇の奥に建造物のような物が見えた。 巨大な球体で全方位から伸びた直通通路のお陰で心臓のようにも見える。
 
 「あれだ!」
 
 通路の終点である以上、間違いない。
 
 「行ける! 行ける! 取付け!」

 最初にユウヤが着地。 僅かに遅れてヨシナリ、アルフレッドの順で球体の表面に取り付いた。
 
 「急げ! この状況では長くは保たねぇぞ!」

 流石のユウヤも口調に焦りが滲んでいた。 
 ヨシナリは焦りをどうにか抑えつけながら建造物をスキャニング。
 出入口は何処だ? 施設の体をなしている以上、メンテナンス用の出入り口ぐらいはあるだろう。
 
 ないならどこか脆い所を探して――
 ヨシナリが探していると不意にアルフレッドが発見を伝えてきた。 
 そのまま屋上の床の一部に触れるとハッキング中と表示。 ヨシナリは慌ててアルフレッドの下へと向かい、持っていた榴弾砲をマルメルに押し付け、同じように床に触れると解錠作業を開始しますかと指示を求める内容がポップアップ。
 
 了解しアルフレッドの作業を援護する。 ハッキングの進捗スピードが大きく向上。 
 
 「ヨシナリ君! どれぐらいかかるん?」
 「このペースなら三十秒も要りません!」
 「は、はよしてぇ~」

 手が足りないと判断したのかふわわも榴弾砲を抱えて滅茶苦茶に撃ちまくっている。
 ヨシナリは早く、早くと念じながら上昇していくパーセント表示を見つめていた。
 ――60%、65%――
  
 「クソ、弾が切れた!」

 マルメルが弾が切れた榴弾砲を投げつけ、ハンドレールキャノンを展開して発射。 
 
 ――70%、75%――

 グロウモスも残弾がなくなったのか狙撃銃でイカの核を撃ち抜き始めた。 
 この状況でも彼女の腕は正確で近づこうとするイカを的確に仕留める。 
 ふわわは持っている物を投げつけてどうにか追い払おうとしていた。

 ユウヤは内部で弾丸を自動精製できるので散弾砲を撃ち込んでいる。
 急げ、もう少し。 

 ――95%、100%――
 
 「――よし! 開いたぞ!」
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