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第312話

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 ハンガーは使えるが奥の生産設備の使用にロックがかかっているので、上の制圧がまだのようだ。
 ヨシナリはツガルに連絡を取る。 

 「どうした?」
 「こっちは片付きました。 そっちはどうです?」 

 ツガルはすぐに応答。 その様子に内心でほっとしながらも状況を訊ねる。

 「ちょっと手こずってるが問題ねぇよ。 デカブツの方は仕留めたから後は銀の機体だけだ。 ただ、前に出くわしたのより動きがいいんでもう少しかかりそうだ」

 この様子だと片付くのは時間の問題のようだ。

 「どうします? 援護しに行きますか?」
 「いや、そこまでは――」

 ツガルの言葉を遮るように不意にそれは起こった。 
 地面が縦に揺れたのだ。 振動は地下にも伝わり、揺れによって設備のあちこちが軋む。
 
 「な、なんだ? 何が起こった??」

 あちこちで困惑の声が上がるが、ヨシナリには凡その想像がついていた。
 恐らくは他の拠点を落としたプレイヤーが大規模破壊兵器を使用し始めたのだ。
 
 「ツガルさん」
 「ああ、見えてる。 とんでもねーな。 吹雪やらで視界が終わってるのにあれだけは良く見えらぁ。 お前にも見せてやりてぇよ。 あのキノコ雲を」

 キノコ雲が出るほどの爆発を起こせるという事は核兵器の類だろう。
 ショップでバカみたいな値段で売られており、使用するとフィールドが消し飛ぶので敵も味方も誰一人生き残れないネタ武器扱いされていた代物だったが、こんな使い道があるとは驚きだ。

 そしてそれを皮切りにあちこちで巨大な振動が連続して響く。
 工場の機能を掌握して装備の生産を開始するとしても完成まで少しかかる。
 
 ――やはり早い所はもう落としていたか。

 この様子ならもう見ているだけで大半の施設は片付きそうだ。 
 ここに関しても上にいるカナタやツェツィーリエ達が機能の掌握を妨げている機体を撃破するだろう。 後はここでも大量破壊兵器を生産して適当な基地なり拠点なりに撃ち込むだけでいい。

 つまり、全体の意向に従うのはここまでだ。
 これからはヨシナリは自分の好きに動いていいという事になる。 
 ヨシナリはちらりと味方のステータスを確認。 マルメル、ふわわ、ユウヤは現在ハンガーで機体のメンテナンス中、グロウモス、アルフレッドは外での戦いはほぼ決着したと判断してこちらに向かっている。
 
 ヨシナリはホロスコープをハンガーに預け、通信をユニオンメンバー限定に切り替えながらアバターで集まるように指示。 メンバーがぞろぞろとヨシナリ下へと集まる。

 「一先ずはお疲れさまです。 上はまだ片付いていませんが、しばらくの間は俺達の出番はほぼないと言っていいでしょう」
 「確かこの後って核やらなんやらを作りまくってあちこちの敵拠点を吹っ飛ばすんだろ? 確かに俺達の出番はないよなぁ」
 「ウチとしてはそんな事が罷り通る事が驚きやわ」
 『……し、ショップのラインナップには早い段階で並んでた。 つまりは運営はこの使い方を想定して用意したと思う』

 グロウモスは移動中なので通信での参加だ。

 「前置きはいいからさっさと結論を言え」

 ヨシナリの言葉に各々が反応するが、本題はここからだ。
 
 「つまりは俺達はしばらくの間、暇になるって訳です。 待っている間、座っているのも時間がもったいない。 ちょっと考えていた事があったんで良かったら付き合って欲しいって提案です」
 「あぁ、そう言えば全体の方針には従うって話だったけどなんか含みあったな。 ヨシナリ、何を企んでるんだ?」
 
 マルメルの質問にヨシナリは笑って見せる。

 「準備が出来たら地下に降りて敵の反応炉を探さないかって話だ」
  
 それにマルメルは「マジかよ」と呟き。 ふわわは「へぇ」と笑う。
 
 「他を出し抜いてメインの破壊目標をやっちまうって話か。 面白そうだ。 で? 反応炉が地下にあるって根拠は?」
 「流石に絶対にあるって言いきれませんが一番怪しいのはあそこです」

 思金神の集めた情報を総合すると全ての基地は地下で繋がっており、施設の冷却と稼働する為のエネルギー供給を受けている。 
 それはヨシナリも確認していた。 前回、地下に降りた際も無数のパイプのような物が下に向かって伸びているのを見ているので間違いないとみていい。

 「でもあの地下通路。 なーんもなかったように感じたけど?」
 「いたのはうざったいイカだけだしな」
 「俺が一番気になってるのはそのイカが出てきた穴です」

 暗かった上、イカの襲撃で調べられなかったが無限湧きするなら結構な広さがあるはずだ。
 現状、視えている範囲で反応炉がありそうな場所はあそこだけだった。 
 それにラーガストの言っていた反応炉を破壊すれば基地や拠点はどうにでもなるといった言葉とも矛盾しない。

 「ははーん。 ヨシナリ君は皆と潜水がしたいって事やね?」
 「まぁ、有り体に言えばそうです」
 「いや、潜るのはいいんだが、水中戦は想定してないぞ? 装備はどうするんだ?」
 「そこで作ればいいだろ?」
 「あ、そうか……」
 
 マルメルが納得したように頷く。 その間にグロウモスとアルフレッドが合流。
 二人もハンガーに機体を預けてメンテナンスに入る。
 
 「お、お待たせ」
 「いえいえ、お疲れさまでした」

 グロウモスも機体を預けてアバター状態で合流。

 「えっと、水中に潜るのは分かったし、装備の生産ができるのも分かったけど、生産って操作プレイヤーの所持装備からしか作成できないんじゃなかった? ヨシナリは持ってるの?」
 「俺は持ってませんけど、なんでも持ってそうなAランカー様がそちらに」

 話題の矛先が向くとは思わなかったのかユウヤが僅かに驚いたように仰け反る。

 「お前、最初から俺を当てにしてたのか?」

 当てしていなかったと言えば嘘になるが、仮にユウヤの参戦がなかった場合はツガルかポンポンに頼んで作って貰うか、持っているプレイヤーへの繋ぎを頼むつもりだった。

 「持ってるでしょ?」
 「……あぁ」
 「これで装備の問題は解決ですね」
 「いやいや、まだだろ。 水中戦の装備は問題ないけど、肝心のイカはどうするんだよ。 水中であいつらに勝てる気がしないぞ」
 「そっちに関しても対策は練っておいた。 上手く行けば追い払うぐらいはできるはずだ」

 ヨシナリはイカにやられた事を執拗に覚えていたので次に会ったら完璧に対策してやろうと資料には穴が開くほど目を通した。 加えてラーガストから貰った情報を加味すれば対策に関しては恐らくは問題ないだろう。 効果のありそうな装備もユウヤなら持っている可能性は高く、持ってないなら持ってる奴を探して作って貰えばいい。 

 そうこうしている内に上での戦いに決着が着いたようで設備にかかっていたロックが解除された。
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