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第302話

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 自分だけ逃げるのは確かに合理的だ。
 他にもエンジェルタイプを使っているプレイヤーは少ないが居るので、下級のプレイヤー達に時間を稼がせれば最低限の戦力は残る。 戦いは始まったばかりなのだ。
  
 この惑星を攻略する為に少しでも生き残らせるべき。 
 
 「ざけんナ!」

 ――がそれを彼女はくそ喰らえだと振り払う。

 こいつ等は全員、このイベントを楽しみにし、クリアを目指して昨日まで頑張って来たのだ。
 そんな連中を見捨てて自分だけイベントを続行? バカも休み休み言え。
 彼女はこの場を仕切る権限を与えられている以上、仲間を守る以上に彼等にこのゲームを楽しませる義務がある。 だから、逃げるなんて真似できる訳がなかった。

 「もうちょっとしたら援軍が来る! それまで意地でも粘れ! 気合を入れろ!」
 
 それを聞いて彼女の仲間達は苦笑。

 「何をマジになっちゃってんだよ。 ゲームだぜ?」
 「あんたそんな熱い奴だっけ?」
 「まぁ、でもちょっとがんばろって気持ちにはなったかな?」
 「よっし! ウチのリーダーが頑張ろうって言ってるんだ。 頑張ろー!」

 生き残ったプレイヤー達はおー!と拳を振り上げて奮起する。
 士気は上がっても状況は依然、悪いままだ。 ジンベエザメ型を仕留めるには火力が足りなさすぎる。 思金神からの情報によれば口の中が弱点なのだが、特攻をかけるにしても近寄れもしない。
 
 やはり他との合流まで粘るしか―― 
 
 『いやー、良い話を聞かせて貰いました。 やっぱり逃げるよりは勝って切り抜けたいですよね』

 ――不意に聞き覚えのある声が通信から入って来た。

 何だと反射的にレーダー表示を確認すると大きな反応が一つ凄まじいスピードで突っ込んで来る。
 振り返るとその正体が明らかになった。 シャトルだ。
 大型ブースターを限界まで噴かしたシャトルは敵の只中を突っ切り、背面のハッチを展開しながらジンベエザメ型の口に飛び込む。 突っ込む直前に内蔵されていたトルーパーが飛び出した。
 
 中の一機は特に目立つのですぐに分かった。 ホロスコープ、ヨシナリだ。
 
 「ヴルトム! 爆破ぁ!」
 「よっしゃ、任せとけ! 貴重なシャトルなんだ、ありがたく喰らえよ!」

 同時に口の中に突っ込んだシャトルが爆発。 
 重装甲のジンベエザメ型も流石にこれは耐え切れずに内部から破裂するように爆散した。 

 「はっはぁ! ざまあみやがれサメ野郎! ヨシナリ! これ貸しだからなぁ」
 「はは、分かってるって。 ――にしても初見とはいえあのクソでかサメ野郎を仕留められると気持ちいいな。 次はメガロドン型を仕留めてもっと気持ちよくなりたいなぁ」

 そんな軽口を叩き合いながら、一緒に来ていたふわわの機体が空中で不自然に機体を傾けたと同時に背にある野太刀を一閃。 それにより無数のエネミーが両断される。
 僅かに遅れてヴルトムと一緒に来ていたソルジャータイプ、後はマルメルの機体が着地し、ふわわの開けた穴を広げるように持ち込んだ重火器で弾をばら撒く。

 「ども、助けに来ましたよ。 見た感じ、無事とはいえませんが間に合いはした見たいですね」
 「ヨシナリ、お前――」
 「話は後で、今はこいつ等を片付けましょう。 来る途中で索敵は済ませておきました。 大暗斑とはかなり距離があるのでメガロドン型は多分来ませんが、時間をかけすぎると他が寄ってきます。 さっさと片付けて味方と合流しましょう」
 「お、おう、分かった」

 あまりの出来事に呆然としていた『豹変』のメンバー達も完全に立ち直ると押し返すように攻撃を再開。 ジンベエザメ型を失ったエネミーは徐々にその数を減らし――やがて全滅した。
 ポンポンとその周辺に降下した『豹変』の機体合計五十機中、十七機が生き残った。 全滅を覚悟していたポンポン達からすれば驚くべき結果だ。

 落ち着いた所でポンポンはヨシナリに近づく。

 「ヨシナリぃ! お前、滅茶苦茶格好いいじゃねーか! 助かったゾ! 超加点!」
 「はは、そりゃどうも。 ――にしても間に合って本当に良かった」

 通信の後、ヨシナリはかなり迷っていた。 助けに行くか否かを。
 実際、行くだけなら位置的に間に合いはしたのだ。 キマイラタイプの全力であるならそう時間はかからない。 ただ、ソルジャータイプでは間に合わない。

 つまり行くならヨシナリ単騎でという事になる。 一機加わった所で戦況の打開は不可能。
 あの状況をどうにかしたいのならジンベエザメ型を処理する手段が必須となるのだ。
 幸いにも弱点は口の中とはっきりしているので、メガロドン型に比べると比較的ではあるがどうにかなる相手でもあった事が幸いした。 手段も元々考えていたので、後はヴルトムの許可を得るだけ。

 要はシャトルを一機潰してジンベエザメ型を仕留めるという話だった。
 全力で噴かせばかなりのスピードが出るので頭数も運べる上、そのまま敵を仕留める武器にもできる。 ただ、この状況で貴重なシャトルを失う事は厳しい事には変わりはない。

 だから、ヴルトムの説得しなければと思ったのだが、彼は特に迷う事もなく快諾。 
 積める機体はそのままシャトルに搭乗し、内部に持ち込んだ爆薬をありったけ詰め込んでこうして助けに来たという訳だ。 残りは近くの氷山に隠れるように指示を出し、今に至る。

 「一先ず『豹変』の本隊と合流しましょう。 『栄光』も近くまで来てるので、もう当面は心配しなくても大丈夫だと思います」
 「あぁ、マジで助かった。 ありがとナ!」
 「いえいえ、礼を言うならヴルトムにも言ってやってください。 あいつがシャトルを使わせてくれなきゃ間に合わなかったんで」
 
 レーダー表示を確認するともう数分もしない内に合流できるだろう。
 
 「じゃあ俺は置いてきた仲間の所に戻るんで、また後で。 あ、ヴルトムやマルメル達は残していくんで何かあったらコキ使ってやってください。 では!」

 そう言うとヨシナリは機体を変形させるとそのまま飛び去って行った。
 ポンポンは慌ただしい奴だなと思いながらも生き残った味方を見てほっと胸を撫で下ろす。
 助かりはしたがイベント自体はまだこれからなのだ。 気を引き締めていかねばならない。
 
 「よし、移動するゾ!」
 
 ポンポンはそう言って声をかけると味方を引き連れて移動を開始した。
 命拾いした事は素直に喜ばしい事ではあるが、幸先はあまり良くない。
 それでも次のイベントへと駒を進める為には勝たなければならいのだ。
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