Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
301 / 455

第301話

しおりを挟む
 ――クソ、ついてないナ。

 ポンポンはヨシナリと同じく前回も今回も入念な準備を行ってから臨んだ。
 特に今回は二回目という事もあって思金神から提供された情報を精査して自分なりの立ち回りも研究してきた。 別に全体の勝利の為に頑張りたいなどといった高尚な考えはないが彼女なりに全力でこのゲームを楽しみたいと思ったからだ。

 手を組む味方も確保し、皆で協力してクソったれなエネミー達に一泡吹かせてやろう。
 そんな事を言い合いながら今回のイベント戦に飛び込んだのだが、開始早々に不運に見舞われた。
 彼女の所属する『豹変』の総数は約八百。 一機のシャトルには十機まで搭載する事が可能となる。

 つまり彼女達は八十機のシャトルに分乗しての降下を行うのだ。
 このイベントのシステム上、同じユニオン所属の機体が搭載されたシャトルはなるべく近い位置に配置される事になり、降下後は速やかに合流する手筈になっていた。

 他の降下は比較的上手く行っていたのだ。 ポンポンのシャトルは本隊から離れてしまったが、合流は十分可能な距離。 想定からは外れたが、許容範囲内だ。
 合流後はシャトルを利用して即席の拠点を構築して橋頭保とする予定になっていた。
 
 ――が、ポンポン達の乗ったシャトルは着陸の際に偶然近くに居た哨戒エネミーを潰してしまったのだ。
 
 結果、ポンポン達の元に敵が殺到する事となってしまった。
 彼女と同乗している九人は襲ってきたエネミーを危なげなく返り討ちにはしたのだが、不運は重なる物で敵の救援信号を受信したのがその辺にいる雑魚エネミーだけでなく、輸送艦であるジンベエザメ型が含まれていたからだ。 ジンベエザメ型、メガロドン型といった大型エネミーはポンポン達が扱うエンジェルタイプと非常に相性が悪かった。

 理由は周囲を覆うエネルギーフィールドにある。 エネルギー系の兵器はほぼ完全無効化。
 実体弾は無効化できないが、重装甲で内部にダメージを与えたいのなら相当撃ち込まなければならない。 ならフィールドの内側での接近戦なら可能ではないか?という疑問に関しては前回の時点で答えが出ていた。

 あのエネルギーフィールドは内部に入った機体のジェネレーター出力を下げる機能もあるのでエンジェルタイプが突っ込めば行動不能とまでは行かないが機能が大きく制限されてしまう。
 その為、あの大型エネミーとパフォーマンス低下させずに近接戦闘がしたいならジェネレーターではなくノーマルタイプのエンジンを積んだ機体でなければならない。 

 ポンポンは早い段階で無理だと判断して敵を振り切るつもりだったのだが、ジンベエザメ型は彼女達の事が気に入ったのか執拗に追いかけてきた。 
 機動性には分があるが、逃げ切るのは少し難しい。 大きな要因としては二つ。

 まずはこの環境。 強烈な風が吹くこの惑星は長距離の飛行に向いておらず思ったように速度が出ない。
 もう一つは燃費だ。 エンジェルタイプは高出力のエネルギーウイングを推進装置としているだけあって瞬間加速は他の追随を許さない。 だが、その機動性を支えるジェネレーター出力は有限だ。

 つまり持久力がない。 
 よって瞬間的に距離を取る事は可能だが、無理に噴かすと身動き自体が取れなくなってしまうのだ。
 その為、逃げる事が出来ない。 最後にポンポン達は五十機近くで固まって降下したのだ。

 中にはソルジャータイプやパンツァータイプなどの足の遅い機体も多い。
 そんな彼等を見捨てて逃げるような真似は出来なかった。 結果、ポンポンは後退しつつ応戦という消極的な判断をせざるを得なかったのだ。 リーダーのツェツィーリエも早い段階で状況に気付いてはいたが、彼女達の降下地点は離れていた事もある上、下手に人数を送り込むと構築中の拠点に気付かれると全滅の危険があって送り込めなかった。 

 この状況の打開には数が必要だが、移動中に襲われれば目も当てられない。
 その為、合流予定の『栄光』に任せる事となってしまった。
 ジンベエザメ型は次から次へとエネミーを吐き出しながら追いかけてくるので敵が一向に減らない。
 
 この環境に適応しているエネミーの動きはポンポンの想像以上に早く、徐々にだが包囲されつつあった。 シックスセンスに入って来る情報は常に事態の悪化を示し続け、彼女の神経をガリガリと削る。
  
 「あのデカブツは無理だ。 遠距離攻撃してくる奴を順番に仕留めろ!」

 ポンポンは指示を飛ばしながら一番厄介なレーザー攻撃を繰り出してくるデメニギス型を集中的に狙わせて味方の被害を減らす事に集中。 そんな中、敵の集中砲火を受けていたまんまるがやられた。
 彼女は敵を引き付ける為に敢えて前に出て砲撃を繰り返していたからだ。 元々、プリンシパリティは防御に優れた機体だったが、ジェネレーター出力も装甲も無限ではない。
 
 デメニギス型のレーザー攻撃を防いでいたエネルギーフィールドを維持できなくなった彼女は今回の為に持ち込んだ実弾兵器で応戦。 とにかく撃ちまくって狙いを自分に引き付けるつもりのようだ。
 ポンポンは止めろと声を上げたが、彼女は最後まで敵の矢面に立ち続け、やがて限界を迎えた。

 次に脱落したのはニャーコだ。 
 彼女は敵の只中に飛び込む事で敵の全体速度を落とす事にした。
 デメニギス型が誤射を嫌ってか狙ってこなかったが、トカゲハダカ型が次々と群がる。
 
 近接戦に優れた彼女であっても全方位から押し寄せる敵には抗しがたく瞬く間に機体が破壊される。
 戦闘継続が不可能と悟った彼女は最後にジンベエザメ型に特攻をかけようとしたが、飛んだのが良くなかった。 デメニギス型の集中砲火を受けて撃墜。 脱落となった。

 敵の猛攻に晒され味方が次々と脱落。 最初は五十機居た味方も既に二十機を切ろうとしていた。
 
 ――あぁ、ここまでか。

 ポンポンの胸中に諦めが満ち始めていた。 このままでは逃げ切れない。
 仲間を見捨てる選択ができない以上、このまま数を減らし続けるしかなかった。
 
 「ポンポン! こっちはもういいから逃げろ!」
 「お前の機体なら逃げ切れるだろ? ここはあたし達が抑えとくからさ!」
 「逃げる時間ぐらいは稼いでやるから行け!」

 仲間達はそう言って彼女に逃げろと促す。 

 「は、はぁ? バカなこと言ってんナ! あたしがどうにかしてやる! だから、諦めるナ!」

 反射的にそう言い返すがこの状況は明らかに積んでいた。 
 この状況を打開できる手段? ある訳がないと彼女の冷静な部分がそう囁く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...