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第299話

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 「しっかし、シックスセンスって便利だなぁ。 この状況でも見えるってのはマジでありがたいぜ」

 そう口にしたのはマルメルだ。 星座盤は大渦と合流する為に北へと向かって進んでいた。
 前回と変わらず日光が届かないので暗く、その上、吹雪で視界まで塞がっていると環境としては最悪の場所だ。 そんな状況ではあるが、シックスセンスでの観測データを味方と共有する事で視えない状況をかなり改善する事が出来ていた。

 実際、マルメルの表示には味方の位置がはっきりと見えていた。
 前回は文字通りの手探りだったので味方を誤射する恐怖もあって、見えるという事は非常にありがたい。 飛行はせずに徒歩での移動となるので速度はでなく、どうしても時間がかかってしまうので誰かが沈黙に耐えかねて話し始めるのは目に見えていた結果だった。

 本来なら集中した方がいいのだが、ヨシナリとしては前回、たった一人でこの環境を進むという苦行を行った事もあってうるさい事は言いたくなかったのもあって積極的に話に乗る。

 「観測項目を絞って味方と共有できるからすっげ―視やすいだろ?」
 「そうなのか?」 
 「お前に俺の機体に表示されている情報ウインドウを見せてやりたいぜ。 項目が滅茶苦茶多いから慣れるまではかなり苦労したな」
 「へぇ、そんなに凄いのか?」

 隊列はふわわ、マルメルが先頭、ヨシナリがその後ろで、グロウモスが最後尾だ。
 
 「ほう、だったら見てみるか?」

 そう言ってヨシナリはマルメルへのデータ送信制限を解除。
 マルメルのウインドウに無数の情報がポップアップ。

 「うおお、なんじゃこりゃ!? 見辛ぇな、ってかなんだこれ……」
 「気温とか風とか湿度の情報とかまで観測するからな。 最初とか訳わかんなくて全然集中できなくてさぁ。 一応、フィルターをかけられるから絞れるけど、やりすぎると意味なくなるから慣れるまで結構かかったな」
 
 言いながらマルメルへ送る情報を元に戻しながら肩を竦める。

 「常にあんなの見ながらあんな動きするのかぁ。 大変だな」
 「慣れてくるとそんなに気にならなくなってくるけど――っと止まれ。 例のフグがいる」

 シックスセンスがあるとエネミーを見つけるのも楽になる。 
 撃破は論外なので気付かれないように動きを指示して迂回。 そのままやり過ごす。
 
 「あいつって下手に潰したら敵が寄って来るんだから罠だよなぁ」
 「まったくだ。 前に大暗斑の調査にいった時も出て来たんだが、仕留めるか無視かでちょっと迷ったけどスルーして正解だったぜ」
 「そう言えばヨシナリ君って例の大暗斑の調査やった時、どうやって逃げたん? あれってあの嵐に捕まると逃げられへんやろ?」
 「運が良かった事もありましたが、行く途中にクレバスを見つけたんでそこに隠れてました。 あのサメは武装に偏ってる分、センサー類は貧弱なのかもしれませんね」

 捕捉されていたのなら隠れている場所に砲撃されて終了だったからだ。
 
 「それで? あのサメを仕留めるのは行けそう?」
 「状況次第ですね。 俺達だけじゃかなり厳しいですからどれだけ戦力が集まるかで変わってくると思いますよ」

 仕留める方法自体は見えている。 後は単純に戦力を揃えるだけだ。
 
 「最低限一体でいる内に――あぁ、まぁ、そうなるよなぁ……」

 ヨシナリは何かを言いかけて小さく息を吐いた。 
 理由は視線の先、吹雪と闇によって隠された先で無数の小さな光と銃声が瞬いていたからだ。
 グロウモスがすっと狙撃銃を構える。 
  
 「エネミーが五十から六十。 合流予定の『大渦』と交戦中」

 スコープで状況を観測したのだろう。 

 「流石に前回での反省を活かしてはいるみたいだけど旗色はあんまりよくないな」

 大渦の機体は五十機いたらしいが、今では三十五機まで減っていた。
 撃破された機体の位置的に敵の攻撃を回避した結果、隊列を崩して現在地を見失ったという所だろう。
 機体の残骸が不自然に離れている事から外れてはいないはずだ。

 「援護に入りましょう。 センサーリンクが切れるから全員、俺から離れすぎないように」

 全員が小さく頷き、それぞれが動き出した。



 ――ツいてねぇぜ。

 ヴルトムはエネルギーライフルでエネミーを破壊しながらそう小さくぼやいた。
 降下地点は周囲に目立つ施設もなかったので比較的ではあるが安全な場所で、メンバーに欠けもなく集まる事が出来たのだが、一人が哨戒していたフグ型を反射的に仕留めてしまったのだ。

 始めたばかりの新米で初のイベント戦で緊張していた事もあってやらかしてしまった。
 後は前回のイベント戦で嫌という程に視た光景だ。 敵が次々に湧いてきて今の状況となった。
 ヴルトムは仕方がないとシャトルを盾にして応戦していたのだが――

 不意に敵機の一部――レーザー攻撃を繰り出してくる厄介なデメニギス型が次々と撃ち抜かれて撃破される。 頑丈なトカゲハダカ型も空からのエネルギー弾で次々と大破。
 奇襲によって敵の攻撃が分散。 それを見てヴルトムはほっと胸を撫で下ろす。

 「……間に合ったか」

 どうやら合流予定の星座盤が助けに来てくれたようだ。 
 密集していたエネミーをハンドレールキャノンが薙ぎ払い、残った敵をふわわが突っ込んで片端から切り刻んでいた。 対処に動こうとしたエネミーは地上と空中の狙撃で次々と沈む。

 「味方が来たぞ! 押し返せ!」

 明らかに敵の勢いが落ちていたので、ここだとヴルトムは声を張り上げた。
 それにより諦めが入っていた味方が息を吹き返し攻勢に転じる。
 敵が全滅したのはそれから数分後だった。

 
 「すまねぇ、助かったぜ」
 
 ヴルトムはヨシナリと固い握手を交わした後、小さく頭を下げる。

 「いや、無事でよかった。 ここでは補給と整備は出来ても戦力の補充なんて無理だからな」
 
 本当に無事でよかったと思っていた。 正直『大渦』の戦力は当てにしていたのでいきなり消えられたらどうしようかと少し焦っていたのだ。
 ヨシナリはちらりとシャトルを一瞥。 エネミーによりかなりの損傷を受けていた。
 少なくとも飛ぶのはもう無理そうだ。 

 「シャトルの損傷は?」
 「五機あったんだが、襲撃で三機潰されて一機は飛べないが整備は出来る。 最後の一機は着陸にミスって近くのクレバスに落ちちまってな。 それが幸いして無事ではある」
 「飛べるのか?」
 「一応はな。 ただ、中で引っかかっちまって抜けなくなってるから引っ張り出す必要はあるが」
 
 ヨシナリは話を聞きながらそうかと呟いて考える。 
 今の所は敵がくる気配はないが、追加が来るのは分かり切っているので早く移動した方がいい。
 だが、損傷している機体も多いので現在、シャトル内で補給と整備を行っていた。
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