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第288話

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 開始と同時に両者はフィールドの中央へと向かう。
 互いに射程はそう変わらないので接近しなければ話にならない。
 マルメルはビルの隙間を縫うように移動。 模擬戦でよく利用するフィールドなので動きは非常に滑らかだ。 常に身を隠せる場所を意識しながら移動しているのが分かる。

 「前は真っすぐ突っ込んでいくだけやったのに成長したなぁ……。 お姉さん嬉しいわ」
 「何処から目線ですか……」

 そう返しはしたが、ふわわの言う通りマルメルの動きは以前と比べてかなり良くなっていた。
 対する相手だが、こちらは真っすぐ突っ込むタイプのようだ。 強化装甲のお陰で鈍重そうな見た目だが、動きの速さ自体はマルメルとそう変わらない。 

 「……思ったより速い」
 「前の侵攻イベントで俺も少し触ったんですけど、外装自体にジェネレーターが搭載されてるから機動性自体は寧ろ上がるんですよ」
 
 ただ、重量と着膨れで挙動は重くなるので一長一短ではあるが。 
 双方ともそろそろ相手を射程内に捉えようという所で、先に動いたのは敵機だ。
 散弾銃を構え、マルメルが居るであろう場所に向けて発砲。

 重たい銃声が響き、マルメルが居る位置から二つほど手前のビルに風穴が開く。
 結構な衝撃だったようでビルに開いた穴から放射状に亀裂が入っていた。
 
 「おぉ、思ったよりも威力凄いな」
 「当たったらほぼ即死やけど連射は無理そうやね」

 ふわわの視線の先では敵機が排莢している最中だったが、銃自体がかなり重いのか遅い。
 
 「そうですね。 今のは牽制のつもりでしょうが、マルメルに似たような訓練を勧めていたので問題はないでしょう」

 最初に大砲を喰らわせて警戒させ、相手の動きを制限する。
 以前にヨシナリがマルメルに勧めた戦い方そのものだ。 そういった意味でもよく似た相手だった。
 マルメルは驚きはしているようだが、挙動に固さは感じられないので焦ったりなどはしていなさそうだ。 加えて、今の一撃で相手の位置も割れた。

 マルメルは即座に飛び出して突撃銃を連射する。 弾が切れたと同時に後退。
 ビルに身を隠しはするが、二棟分を挟む形にしている。 一棟に風穴は空いたが、二棟を貫通する威力はないと判断したようだ。 
 
 「冷静やね」
 「……闇雲に動いてる訳でもないと思うから、何か考えがあると思う」
 「あぁ、なるほど」

 ヨシナリは何となくマルメルの狙いを悟った。 
 マルメルの大雑把な位置を把握した敵機は後退に合わせて前進。
 即座に散弾銃を構え、マルメルが隠れているであろうビルに向けて発射。

 ズシンと重たい音がしてビルに風穴が開くが、それで終わりだった。
 同時に弾を撃ち込んだビルを貫通してハンドレールキャノンが敵機を貫いたからだ。
 胸部に風穴を開けられた敵機はそのまま爆散。 試合終了となった。

 「ふいー。 相手に恵まれたなぁ」

 戻って来たマルメルはほっとしたような様子で戻って来た。
 
 「お疲れ。 ハンドレールキャノン、使いこなしてきたんじゃないか?」
 「そうでもない。 まだ命中率が安定しないから使いこなせてるかは微妙な所だよ」
 「お見事やったわぁ。 最後のアレは狙ってたん?」
 「あぁ、はい。 相手も俺と同じで大砲をチラつかせるタイプだと思ったのでそれを利用させて貰いました」 

 上手く決まったのでマルメルは少し得意げだった。

 「多分ですけど相手はあの大砲で圧をかけて相手がビビッて飛び出してくるのを待つタイプだと思ったんで、逃げ回るよりは攻めたいって感じなんでしょうね」
  
 ヨシナリは内心で当たっていると思った。 派手な威力と音が出る武装に重装甲。
 相手を威圧したいといった思惑が透けて見える。 委縮する相手なら有効だろうが、上に行けば行くほどそう言った気弱なプレイヤーは減るのでヨシナリの基準ではあまり褒められた戦い方ではなかった。

 「あんまり回避とか意識してなさそうだったんで、相手が撃ってきたのに合わせてこっちの大砲を喰らわせました。 ビル越しだったので当たるかは微妙でしたが、当たって良かったですよ」

 明らかに躱す暇があるなら攻めると言った感じだったのでマルメルの行動は最適解だったと言える。
 回避をあまり意識していない相手からすればビルを二枚貫いてくるとは思わなかっただろう。
 
 「よし、なら次は俺の番だな」

 ヨシナリはランク戦にエントリーしてマッチングを待つ。
 ややあって相手が見つかり、試合が決まった。

 「ま、お前なら大丈夫だと思うけど頑張れよ」
 「ベストを尽くすよ」

 ここまでで全員勝っているので自分だけ負けたら死ぬほど格好が悪いなと思っていたので、少しプレッシャーかかるなと思いながらフィールドを移動した。

 
 ヨシナリの姿が消えるのを見てマルメルはウインドウへ注目する。
 誰も何も言わなかったが、沈黙に耐えられなかったのかグロウモスが「大丈夫かな」と小さく呟く。

 「まぁ、大丈夫やない? ヨシナリ君やし」
 「ですね」

 マルメルに言わせれば同ランク帯でヨシナリが負ける姿があまり想像できなかった。
 気が付けば技量でも機体性能でも随分と差を付けられたので、個人ランクでは置いて行かれないように頑張らねばと少しだけ焦る気持ちを浮かべる。

 ウインドウの向こうに見慣れたホロスコープが現れた。
 武装などが変わっていないのは単純に金がないからだろう。 
 フレームを買う為に随分と無理をしたので財布の中身が心許ないと言っていたからだ。

 対戦相手はと見てみると珍しい機体だった。 ソルジャー+タイプ。
 最近、実装された新フレームだ。 武装はエネルギーガン、エネルギーライフル、腰にはエネルギーウイングと最新装備がずらりと並んでいる。

 「はー、随分と思い切った買い物したんやねぇ」
 「いや、多分ですけど買って貰ったんじゃないですか?」
 「……多分そうだと思う。 所属……」
 「んー? あぁ『思金神』になっとるなぁ。 確かにあそこやったらフレーム買うぐらいの資産はあるかぁ」
 「自力って可能性もなくはないですけど、ヨシナリみたいな稼ぎ方はそうそう真似できないんで俺は買って貰ったと思ってます。 羨ましい話ですよ」

 このサーバー最大のユニオンで所属数は三十万人越えという馬鹿げた人数を誇る。
 そんな事もあってマルメルは自力で購入したとは思っていなかった。
 
 「まぁ、どんなにいい装備でも扱えないと意味ないし、思金神さんの実力を見せて貰お」
 
 試合が開始され両者が動き出した。
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