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第286話
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ざっと方針は決まったので、さっさと行動に移そう。
そう言いだしたのはふわわだった。 具体的に何をするのかというと一人ずつランク戦を行ってそれについて皆でダメ出しをするという割と酷い催しだ。
「言いだしっぺだしウチが最初にやるよー!」
そう言ってふわわが早速、ランク戦にエントリーを開始した。
すぐに相手が見つかったらしく早々にふわわのアバターが消える。
「いや、あの人の即断即決は凄いと思うわ。 マジで」
「自分で提案して真っ先に行く辺り強いとは思うな」
マルメルは感心したようにヨシナリは苦笑交じりだ。
グロウモスは無言で可視化されたウインドウを注視。
見ている先で試合が始まった。 ステージはおなじみの市街地。
画面の向こうにふわわの機体と敵らしきⅡ型が現れる。
「最初の生贄がエントリーされたな」
「いや、生贄って……」
ふわわの機体構成は前のままだ。
肩に二本の液体金属刃の野太刀、両方の腰に太刀と小太刀が二本ずつ。
改めて見るとソルジャータイプとしては割と珍しいフォルムになっているなとヨシナリは思った。
Ⅱ型は機動力向上の為、大型のブースターを搭載する。
単純な話、ブースターは大きければ大きいほどに高い推進力を得られるので基本的にⅡ型を扱うプレイヤーはメインのブースターを肩に装着する。 マルメルは例に漏れず肩で、ヨシナリも使っていた頃は同じだった。
グロウモスは隠密性を上げる為に目立つ大型ブースターは邪魔なので取り外しているが、彼女のような例は稀だろう。 ふわわは肩に野太刀を付けている関係でメインブースターを肩に積めない。
代わりにやや小型化した物を腰に積んでいた。 推進力に関しては落ちるだろうが、代わりに足にスラスターを増設する事で補っているようだ。
長距離での加速には向かないが短距離の瞬間加速なら充分だと判断したのだろう。
こうして改めて見るとしっかり考えられている事が分かる。
対する相手は散弾銃と突撃銃装備のバランス型だ。 見た所、得意レンジは近~中距離といった所だろう。 明らかに遠距離には自信がないといった様子で射程の長い武器を持っていない。
試合開始。 敵機がメインのブースターを噴かして急上昇する。
「やっぱメインのブースターは肩に付けた方が安定するよなぁ」
「言いたい事は分からんでもないが、ふわわさんの場合は中距離以上を完全に捨ててるから瞬間的にスピードが出るならどうでもいいんだよ」
敵機の目的は索敵だ。 空中からふわわの位置を特定し、発見と同時に突っ込んでいく。
そして射程に入ったと同時に突撃銃を連射。 シンプルだが思い切りの良い戦い方だ。
「おぉ、突っ込むなぁ。 俺、怖くて真似できねぇよ」
「うーん。 組み立てとしてはそのまま突っ込んで散弾銃かな?」
ヨシナリの言う通り敵機は突撃銃の弾が切れたと同時に散弾銃へと持ち替える。
武器の切り替えが凄まじくスムーズだ。 何度もやって最適化を行った熟練のような物を感じる。
大抵の相手なら下がるか物陰に隠れ、弾切れを待って反撃を考えるだろうがそうなった瞬間に散弾銃が飛び出す訳だ。 初見なら大抵の相手には有効だろう。
――大抵の相手なら。
ふわわは躱さずに前に出ると二本の小太刀を抜いて飛んできた銃弾を片端から切り払う。
「もう見慣れたけど、マジで訳が分からねぇ。 どうやって突撃銃のフルオートを捌いてるんだ?」
「いやぁ、俺も気になってふわわさんの戦闘映像を見返したりして気付いたんだけどさ。 あの人、前よりもヤバくなってるんだよな」
「どういう事だ?」
「よく見てみ? 銃弾の散らばり方」
マルメルは目を凝らすようにウインドウを注視。 ふわわが弾き飛ばした銃弾は周囲や近くのビル、要は適当にばら撒いたような形であちこちに食い込んでいた。
よく理解できなかったのかマルメルは首を傾げているが、グロウモスはそうでもなかったようで小さくひぇと悲鳴を上げる。
「え? 何? 何が起こってんの?」
「あ、あの人、弾いた弾丸を別の弾丸に当てて一度に複数弾いてる。 信じられない……」
「は? え? どういう事?」
「要はな。 あの人、銃弾使っておはじきしてるんだよ」
ヨシナリの説明が分かり易かったのかマルメルの脳裏にも徐々にだが理解が広がる。
「――あれか? 弾いたのを別のにぶつけて軌道を逸らしてるって事?」
「そうだな」
「マジで言ってる?」
「あれ見て他にどう判断しろって言うんだよ」
「やべぇ、やってることは分かるのに意味が分からねぇ……」
敵機は突撃銃のフルオートを正面から凌ぎきられるとは思っていなかったのか明らかに動揺していたが、自らのプレイを貫く事を決めたようだ。 弾が切れたと同時に散弾銃を抜いて構える。
「ちょっと早いな」
「うん、そんなに射程もないし散弾ならもうちょっと近づかないと」
ヨシナリの呟きにグロウモスが同意する。
一粒弾ならまだしも散弾ならかなり接近しなければ機能停止まで追い込むのは難しい。
――にもかかわらず抜いたのは焦りからだろう。
早めに仕掛ける判断自体は悪くなかったが、相手が悪すぎた。
持ち替えた瞬間を見計らってふわわは肩の野太刀に手をかけて一閃。
流石にこの距離で斬撃が飛んでくるとは思わなかったのか、敵機は何もできずにまともに受ける事となった。 縦に綺麗に両断されて爆散。
文句のつけようのない瞬殺だった。
「これは酷い」
「相手の人、かわいそう」
ヨシナリは若干引き気味でそう呟き、グロウモスは哀れみの視線を向け、マルメルは何度も同じ目に遭っているので同情の眼差しを向けた。
「いやー、自分から突っ込んで来るとか楽な相手やったわー」
ふわわは口調こそ軽いがやや不完全燃焼と言った様子で戻って来た。
「お疲れ様です」
「お疲れー。 で? どうやった? ウチの戦いは?」
「あの内容でなんか言う事あります?」
突撃銃の連射を小太刀で弾き返し、間合いに入った所を野太刀で一撃。
口を出す余地が全くの皆無だ。
「えー? ウチ、リーダーのアドバイス欲しいなぁ?」
「その調子で頑張ってください。 はい次、誰行く? 居ないなら俺が行くけど?」
「ま、順番的に俺だろ?」
マルメルが胸を張って自己主張。
グロウモスが手を上げかけていたが、マルメルは気付いていない。
ヨシナリは少し悩んだが――
「いや、マルメルは次の次で頼む。 先にグロウモスさんで」
――そういった。
そう言いだしたのはふわわだった。 具体的に何をするのかというと一人ずつランク戦を行ってそれについて皆でダメ出しをするという割と酷い催しだ。
「言いだしっぺだしウチが最初にやるよー!」
そう言ってふわわが早速、ランク戦にエントリーを開始した。
すぐに相手が見つかったらしく早々にふわわのアバターが消える。
「いや、あの人の即断即決は凄いと思うわ。 マジで」
「自分で提案して真っ先に行く辺り強いとは思うな」
マルメルは感心したようにヨシナリは苦笑交じりだ。
グロウモスは無言で可視化されたウインドウを注視。
見ている先で試合が始まった。 ステージはおなじみの市街地。
画面の向こうにふわわの機体と敵らしきⅡ型が現れる。
「最初の生贄がエントリーされたな」
「いや、生贄って……」
ふわわの機体構成は前のままだ。
肩に二本の液体金属刃の野太刀、両方の腰に太刀と小太刀が二本ずつ。
改めて見るとソルジャータイプとしては割と珍しいフォルムになっているなとヨシナリは思った。
Ⅱ型は機動力向上の為、大型のブースターを搭載する。
単純な話、ブースターは大きければ大きいほどに高い推進力を得られるので基本的にⅡ型を扱うプレイヤーはメインのブースターを肩に装着する。 マルメルは例に漏れず肩で、ヨシナリも使っていた頃は同じだった。
グロウモスは隠密性を上げる為に目立つ大型ブースターは邪魔なので取り外しているが、彼女のような例は稀だろう。 ふわわは肩に野太刀を付けている関係でメインブースターを肩に積めない。
代わりにやや小型化した物を腰に積んでいた。 推進力に関しては落ちるだろうが、代わりに足にスラスターを増設する事で補っているようだ。
長距離での加速には向かないが短距離の瞬間加速なら充分だと判断したのだろう。
こうして改めて見るとしっかり考えられている事が分かる。
対する相手は散弾銃と突撃銃装備のバランス型だ。 見た所、得意レンジは近~中距離といった所だろう。 明らかに遠距離には自信がないといった様子で射程の長い武器を持っていない。
試合開始。 敵機がメインのブースターを噴かして急上昇する。
「やっぱメインのブースターは肩に付けた方が安定するよなぁ」
「言いたい事は分からんでもないが、ふわわさんの場合は中距離以上を完全に捨ててるから瞬間的にスピードが出るならどうでもいいんだよ」
敵機の目的は索敵だ。 空中からふわわの位置を特定し、発見と同時に突っ込んでいく。
そして射程に入ったと同時に突撃銃を連射。 シンプルだが思い切りの良い戦い方だ。
「おぉ、突っ込むなぁ。 俺、怖くて真似できねぇよ」
「うーん。 組み立てとしてはそのまま突っ込んで散弾銃かな?」
ヨシナリの言う通り敵機は突撃銃の弾が切れたと同時に散弾銃へと持ち替える。
武器の切り替えが凄まじくスムーズだ。 何度もやって最適化を行った熟練のような物を感じる。
大抵の相手なら下がるか物陰に隠れ、弾切れを待って反撃を考えるだろうがそうなった瞬間に散弾銃が飛び出す訳だ。 初見なら大抵の相手には有効だろう。
――大抵の相手なら。
ふわわは躱さずに前に出ると二本の小太刀を抜いて飛んできた銃弾を片端から切り払う。
「もう見慣れたけど、マジで訳が分からねぇ。 どうやって突撃銃のフルオートを捌いてるんだ?」
「いやぁ、俺も気になってふわわさんの戦闘映像を見返したりして気付いたんだけどさ。 あの人、前よりもヤバくなってるんだよな」
「どういう事だ?」
「よく見てみ? 銃弾の散らばり方」
マルメルは目を凝らすようにウインドウを注視。 ふわわが弾き飛ばした銃弾は周囲や近くのビル、要は適当にばら撒いたような形であちこちに食い込んでいた。
よく理解できなかったのかマルメルは首を傾げているが、グロウモスはそうでもなかったようで小さくひぇと悲鳴を上げる。
「え? 何? 何が起こってんの?」
「あ、あの人、弾いた弾丸を別の弾丸に当てて一度に複数弾いてる。 信じられない……」
「は? え? どういう事?」
「要はな。 あの人、銃弾使っておはじきしてるんだよ」
ヨシナリの説明が分かり易かったのかマルメルの脳裏にも徐々にだが理解が広がる。
「――あれか? 弾いたのを別のにぶつけて軌道を逸らしてるって事?」
「そうだな」
「マジで言ってる?」
「あれ見て他にどう判断しろって言うんだよ」
「やべぇ、やってることは分かるのに意味が分からねぇ……」
敵機は突撃銃のフルオートを正面から凌ぎきられるとは思っていなかったのか明らかに動揺していたが、自らのプレイを貫く事を決めたようだ。 弾が切れたと同時に散弾銃を抜いて構える。
「ちょっと早いな」
「うん、そんなに射程もないし散弾ならもうちょっと近づかないと」
ヨシナリの呟きにグロウモスが同意する。
一粒弾ならまだしも散弾ならかなり接近しなければ機能停止まで追い込むのは難しい。
――にもかかわらず抜いたのは焦りからだろう。
早めに仕掛ける判断自体は悪くなかったが、相手が悪すぎた。
持ち替えた瞬間を見計らってふわわは肩の野太刀に手をかけて一閃。
流石にこの距離で斬撃が飛んでくるとは思わなかったのか、敵機は何もできずにまともに受ける事となった。 縦に綺麗に両断されて爆散。
文句のつけようのない瞬殺だった。
「これは酷い」
「相手の人、かわいそう」
ヨシナリは若干引き気味でそう呟き、グロウモスは哀れみの視線を向け、マルメルは何度も同じ目に遭っているので同情の眼差しを向けた。
「いやー、自分から突っ込んで来るとか楽な相手やったわー」
ふわわは口調こそ軽いがやや不完全燃焼と言った様子で戻って来た。
「お疲れ様です」
「お疲れー。 で? どうやった? ウチの戦いは?」
「あの内容でなんか言う事あります?」
突撃銃の連射を小太刀で弾き返し、間合いに入った所を野太刀で一撃。
口を出す余地が全くの皆無だ。
「えー? ウチ、リーダーのアドバイス欲しいなぁ?」
「その調子で頑張ってください。 はい次、誰行く? 居ないなら俺が行くけど?」
「ま、順番的に俺だろ?」
マルメルが胸を張って自己主張。
グロウモスが手を上げかけていたが、マルメルは気付いていない。
ヨシナリは少し悩んだが――
「いや、マルメルは次の次で頼む。 先にグロウモスさんで」
――そういった。
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