Intrusion Countermeasure：protective wall

第275話

　「――っ！？」

　コンシャスは咄嗟に回避行動。　
　真横にスライドすると一瞬前まで彼が居た場所にエネルギー弾が突き刺さる。
　グロウモスかとも思ったが違う。　何故なら真上から飛んできたからだ。

　ヨシナリの仕業かと上を向いた頃にはもう一発飛んでくる。　
　ただ、狙いはコンシャスではない。　他の機体だ。
　流石に一撃飛んできたところであっさり当たる者はおらず、躱すがズンと重たい銃声。
　
　回避した機体のコックピット部分に風穴が開いた。　今度こそグロウモスだった。
　爆散と同時にマルメルが手持ちの火器を連射しながら手近な機体へと飛び込む。
　銃口を押し付けるとそのまま連射。　至近距離での連射はどうにもならない。
　
　そのまま爆散。　これで二機やられた。　
　
　「しゃぁ！　一機撃破ぁ！　次は――」
　「あんまり調子に乗るな！」

　味方がやられた事でかっと頭に血が上ったコンシャスは突撃銃を連射しつつマルメルへと肉薄。　
　マルメルは腰の短機関銃を連射しながら突撃銃のマガジンを交換していたが、そんな暇は与えない。
　間合いに入ったと同時にエネルギーブレードを展開し横薙ぎに一閃。　マルメルの突撃銃が半ばで断ち切られる。　

　「クソッ」

　同時にマルメルの腰に短機関銃の弾も切れたようで完全に無防備になる。
　ブレードを振り上げる。　さっさとこいつを片付けて次はヨシナリを仕留めなければ。
　他に居場所の割れたグロウモスの処理を任せて――

　「愚かな。　影から目を逸らしたな？」　

　不意に真横から声が聞こえ、いつの間にかベリアルが肩を組める程の距離にいた。

　「ベリ――」
　「格下と侮った事が貴様の敗因だ」

　短距離転移。　
　焦りもあったが、基本的には攪乱と奇襲にしか使っている所を見た事がなかったので頭から抜けていた。

　「闇に呑まれよ！」
　
　脇腹の辺りに衝撃。　闇色のエーテルブレードがコンシャスの機体を貫き、そのまま爆散。
　他がベリアルに気が付いたが、構える前にふわわが手近な二機を液体金属刃で纏めて両断する。
　
　「間にあ～、ごめん」
　「いやぁ、こっちこそすんません」

　ふわわがマルメルに声をかけようとしたが、マルメルの機体にはエネルギーブレードが深々と突き刺さっていた。　やられる直前に突き立てたのだ。　マルメルの機体はそのまま崩れ落ちて機能停止。
　爆散はしなかったが撃破扱いだ。

　「戦士としての矜持、見事だ」
　「マルメル君の犠牲を無駄にしない為にも油断せずに行こか」



　――よし。

　地上での結果にヨシナリは大きく頷く。　
　一番厄介なAランクを仕留めた以上、地上はベリアルとふわわに任せておけば問題ないだろう。　後は自分の相手である二機のキマイラタイプの相手だ。　さっきの援護は敵と地上が重なるタイミングで狙ったのだが、リーダー狙いは欲張り過ぎた。　

　反省しなければと思いつつ目の前の戦場に集中。　
　リーダーが落とされて士気が落ちているにも関わらず動きに乱れはない。
　良いチームだと思いながらシックスセンスを全開にして全力で敵の動きを注視。
　
　キマイラタイプにシックスセンスは非常に刺さる装備だ。
　噴かし方を見れば加速と減速のタイミングを完全に掴めるので、先を読むのは容易い。
　一機が後ろ、もう一機が上から追い込んで来る。　ヨシナリは下に行くと見せかけて縦旋回で急上昇。　上に仕掛けるなら上昇、背後に仕掛けるなら減速が必要だが、上を選んだのには理由がある。

　背後の機体の武器は機銃。　そして上の機体はレーザー砲だ。
　そしてシックスセンスを用いればエネルギーの流れが見えるので発射のタイミングは楽に見切れる。
　充填中――来た。　機体を僅かに傾けて回避。　

　――ここだ。　変形しながら片足のブースターを全開にして蹴りを繰り出す。
　この距離なら拳銃を抜くよりもこちらの方が速い。
　敵機もヨシナリの意図に気が付いて変形してガードしようとしていたが間に合わないだろう。
　
　変形が完了したと同時に蹴りが胴体を完璧に捉え、くの字に曲げる。
　完璧に予想通りの展開にヨシナリは内心で笑みを浮かべた。　手応え的にコックピット部分を潰したので、このまま反対の足を噴かしながら加速して変形からのインメルマンターンで背後を――

　三手先まで考えていたヨシナリだったが、その瞬間に予想外の事が起こった。
　足が動かないのだ。　何でだよと視線を向けると蹴られた機体が両腕でホロスコープの足をホールドしていた。　敵機はやられると判断して道連れにする事を選んだのだ。

　咄嗟に引き剥がそうとしたが、この一瞬の隙は致命的だった。
　下から機銃の連射。　ヨシナリは強引に回避しようと思ったが足が離れない。
　キマイラタイプの足は推力偏向ノズル――要はブースターが付いているので封じられるとまともに飛べなくなる。　それでもこの状況で動きを止める事は死に繋がるのでどうにか引き剥がそうとしたのだが、どうにもならなかった。　

　「あー、クソ。　俺って奴は調子に乗るとすぐこれだ」

　足を掴んでいた機体が爆散。　それに巻き込まれてホロスコープも大破した。

　
　「おっす、お疲れー」

　撃破によりホームに戻されたヨシナリはマルメルに出迎えられた。

　「おっす。　いやぁ、しくじったー」
　「見てたけどあそこで掴まれたらどうにもならねぇよ」
　「あー、無理にでも銃で仕留めるべきだったか？　でもなぁ、抜いて撃ってってやってたら下から来てたから微妙だったんだよなぁ……」

　ブツブツとさっきの失敗を反芻する。　
　キマイラタイプは足に推進装置が付いている関係で片方を噴かして蹴りの威力を上げるのは悪くないと思っていたのだがまだまだ改善の余地はあるようだ。　

　「……いっそ装備で補うか？　確か重量が――」
　「おーい、反省会もいいが仲間が頑張ってるんだから応援しようぜ」
　「あ、あぁ、そうだな。　――っていってももう終わりそうだな」

　ヨシナリを撃破した機体はいつの間に撃墜されていたので、残りは地上の敵だけだった。

　「あれ？　敵のキマイラは？」
　「お前がやられた瞬間にグロウモスが狙撃して仕留めた」
　「俺を仕留めた際の隙を突いたのか。　無駄死ににならなくて良かったよ」
　「それを言うなら俺なんてほぼ囮で即死だぞ」
　「囮をしっかりやった上で一機仕留めてるんだから大したものだぞ」

　実際、その通りだった。　
　戦力構成的に真っ先に狙われるのはマルメルだと思っていたので、彼の主な役割は敵の釣り出しだ。
　それに成功している以上、マルメルは完璧に仕事をこなしたと言っていい。