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第274話

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 フィールドは前回と同じ渓谷ステージ。 
 やはりステージ構成は完全に前回と同じとみていい。 
 
 ――そうなると次は吹雪かぁ……。

 今回はシックスセンスがあるのでかなり楽にはなるだろうが、色々と厳しくなりそうだった。
 そんな事を考えている間にグロウモスは狙撃に適した場所を見つけて移動、マルメルは少し前に出てふわわとベリアルは完全に突出している。

 カヴァリエーレ。 前回の作戦は完全にラーガストを意識したもので、エネルギーの無効化フィールドを展開してエイコサテトラの出力を落とし、弱体化を狙ったのだが通用しなかったようだ。 
 彼等の機体構成から元々は機動力を活かした速攻を得意としている印象を受ける。

 つまりラーガストが居ない以上、今回は彼等本来の戦い方で仕掛けてくるはずだ。
 ヨシナリの見立てではかなりの高速戦闘になると思われる。 
 機体構成はノーマルのキマイラ六、エンジェルタイプ三、そしてジェネシスフレームが一機だ。

 動きは相手が自分達をどの程度舐めているかで変わる。
 可能であれば戦力に差がある事を活かして分散してくれるとまだ楽なのだが――

 「まぁ、そんな訳ないよなぁ……」

 試合開始と同時に敵機は全て前衛のふわわとベリアルに襲い掛かった。
 エンジェルタイプがエネルギーライフルを連射して退路を断ち、残りが包囲して全力攻撃。
 
 ――する前にヨシナリが先制してアノマリーを撃ち込む。 

 二発三発と撃ち込んだ後、急上昇。
 次は直上から仕掛けるぞと言った意味を含んだ挑発だ。 
 ヨシナリは乗って来いと思いながら加速すると三機が追ってきた。

 「よし、半分釣れたか。 三機なら逃げ回ればなんとかなる」
 
 元々、倍の物量差がある以上、下手に数を減らすよりは生き残る事に集中する。
 この不利な戦いで最も重要なのは死なない事。 こちらの戦力の喪失は敵の倍以上の被害となるのだ。 生きてさえいれば敵の注意を削げるのでやられない事は最も重視するべき事だった。

 
 ――絶対に勝つ。

 ユニオン『カヴァリエーレ』のリーダー、コンシャスはそう意気込んでこの戦いに臨んでいた。
 前回はラーガストという理不尽の化身に文字通り蹂躙されたが、今回はラーガストもユウヤも居ない。 ベリアルが居たのは意外ではあったが、星座盤の戦力は前回と比べると大幅に落ちこんでいる。

 戦力差は倍。 ランクなどを加味すればそれ以上だ。
 負けられない。 いや、負ける事はあってはならない。
 だから確実に勝てる戦い方を選択した。 確実に一機ずつ減らす。

 要は狙いを一機に絞って集中攻撃だ。 コンシャスは冷静に敵機を一機ずつ確認する。
 敵の戦力構成はキマイラ一機、ソルジャータイプ三機にベリアルだ。
 キマイラは一当てしてきた後、急上昇。 戦力の分断を狙っているのは見え見えだ。

 無理に乗ってやる必要はないので三機を割いて抑え込む。
 逃げに徹されると余計な時間を喰ってしまう。 数を減らす場合は落としやすい奴を狙うべきだ。
 そうなるとソルジャータイプ三機の内どれか。 一機は狙撃戦仕様なので姿が見えない。

 もう一機は前に出ているが、ここ最近目立つ刀使いだ。 油断できる相手ではない。
 ベリアルは論外である以上、消去法で一機しか残っていない。
 中衛を担っているソルジャータイプ――マルメルというプレイヤーだ。

 「作戦通りに行くぞ!」

 敵の陣形は見えている範囲ではベリアルとふわわが突出し、マルメルが少し後方で援護。
 グロウモスは隠れて狙撃、ヨシナリはキマイラ三機が抑えているので無視してもいい。
 ならばコンシャス達がやるべき事は決まっている。 エンジェルタイプのエネルギー兵器で先制し、ベリアルとふわわ散開。 散った所を全機で囲んで一斉射撃――とでも思っているのだろう。

 コンシャス達は前衛の二人を完全に無視して全機でマルメルの方へと向かう。 
 
 「げ、マジかよ」

 マルメルが思わずといった様子でそう漏らすと即座に銃撃しながら後退。
 キマイラとソルジャータイプでは機動力には大きな差があるので、逃げ切る事は不可能。 
 それに渓谷地帯は予選ステージと違って身を隠す場所が多いとは言えない。

 完全に捕捉してしまえばもう逃がさない。 
 コンシャスの機体『ヘヴストザイン』は総合力に優れた機体でコンセプトとしてはソルジャータイプの特徴を色濃く残しつつ全体的に強化された発展機だ。
 
 両足と人体で言う肩甲骨の辺りにブースターを搭載しており、機動力はキマイラを上回る。
 装備はエネルギー、実弾を撃ち分けられる突撃銃とエネルギーブレードのみとシンプルだ。
 彼は基本的に攻撃手段は選択に困るので最小限であればいいと思っていた。

 どうせ咄嗟の状況になれば使い慣れた装備に手が伸びるのだ。 なら、それだけ使っていればいい。
 そんな考えが彼に装備の厳選を行わせた。 突撃銃はアタッチメントを使用して後付けで機能を追加できるので戦場に合わせればいいのだ。

 今回は銃身の下に榴弾砲を付けており、手持ちと合わせて合計で六発の榴弾を叩きこめる。
 コンシャスは逃げるマルメルの進路上に榴弾を撃ち込む。 ポンと何かがすっぽ抜けたような音が響き、放物線を描いた榴弾が着弾して爆発。 足が止まる。

 「今だ! 仕留めろ!」

 そう言いつつ周囲を警戒。 コンシャスは星座盤の事を格下とは思っているが、侮ってはいない。
 乱戦を経験している者は獲物を仕留めるタイミングこそが最も危険と認識している。
 そしてこの場には姿を見せない狙撃手が居るのだ。 

 ――さぁ、撃って来い。 隙が出来たぞ。

 コンシャスの本命はマルメルではなく姿が見えないグロウモスだ。
 このフィールドは隠れる場所が少ない関係上、一度でも捕捉するとそうそうロストしない。
 味方が危機に陥れば助けに入らざるを得ないだろう。 さぁ、撃って来い。
 
 そしてこの戦場の不確定要素を確定させる。 そうすれば後は純粋な実力勝負。
 敵の手札さえ捲ってしまえば怖い事はないのだ。 コンシャスはセンサーシステムの感度を最大にして周囲の警戒を行う。 

 ――さぁ、味方の命が惜しければ撃って来い。 居場所を晒せ。 
 
 機動力にものを言わせてふわわとベリアルは完全に振り切った。
 助けに入るまで最低でも数秒はかかる。 マルメルを救えるのはお前だけだ。
 コンシャスを含めて七機のトルーパーがマルメルを包囲。 

 一斉射撃の体勢に入った。 そして全ての機体が引き金に指をかけ――
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