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第270話

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 翌日。 ほとんど準備期間を与えられないまま本戦の開始となる。
 星座盤のメンバーは全員、集合しておりトーナメントの発表を待っていた。
 マルメルは組み合わせが気になるのかそわそわしており、ふわわは普段通り、ベリアルは無言。
 
 そしてグロウモスは何故かヨシナリの方をじっと見ていた。 
 何か嫌だなと思っているとウインドウが表示され、トーナメント表が公開される。
 前回と同じく、予選突破は200チーム。 並んでいる名前の中から星座盤を見つける。 位置は真ん中からやや左側。 

 最初の対戦相手はユニオン『雷鳴』
 全然、知らない所だった。 ただ、ユニオンのランクはⅡなのでそこそこ人はいるようだ。
 参加はAランク一人、Bランク二人、Cランク二人、Dランク五人とバラつきがある。

 対するこちらはAが一人に、EとFが二人ずつ。

 ――相手はきっとラッキーな相手と当たったとか思ってるんだろうなぁ。

 適度に舐めてくれた方がありがたい。 
 ただでさえ不利なので勝因は少しでも多い方がいいと思ったからだ。
 
 「……やっぱり、本戦になると高ランクばっかりだなぁ」
 「ウチは歯応えがありそうで楽しみやわ」
 
 マルメルはやや不安そうにふわわは楽しみと言った様子だ。
 
 「ふ、闇に挑む者達が群れを成してきたか。 果たして奴らは我が闇の試練にどこまで抗えるのか楽しみだ」

 ベリアルは相変わらずでグロウモスはヨシナリから視線を外さない。
 さっきからなんなんだ。 正直、怖いと思ったが、努めて無視した。
 組み合わせが決まったので早々に試合開始時間のアナウンス。 三十分後だ。

 「相手は格上だが、俺達の連携が決まれば勝てない事はない。 行くぞ!」
 
 マルメル、ふわわはおーと拳を突き上げ、ベリアルは頷き、グロウモスはヨシナリに視線を固定したまま。 ヨシナリは差し当たっては情報収集だなとベリアルに声をかけた。

 「闇の王よ。 貴公の内に眠る叡智、今ここで披露して貰うとしよう」
 「ふ、敵を知り、己を知れば百戦危うからずという訳か。 いいだろう、我が闇の叡智――その一端を見せるとしよう!」

 それを聞いてヨシナリはほっと胸を撫で下ろした。
 良かった。 相手の事を知ってそうだ。 
 一先ずは作戦を立てる為に必要最低限の情報は集まりそうだ。

 その三十分後、参加プレイヤー達はフィールドへ移動。
 カウントダウンが始まり――やがてゼロになった。 


 ユニオン『雷鳴』のリーダーであるドンナーは星座盤という名前を聞いて僅かに顔を顰めた。
 見覚えのある相手だったからだ。 彼等は前回のイベントにも参加していたが、結果は予選落ち。
 敗因はたった一つ。 Sランクと当たってしまったからだ。

 当初は自分が仕留めて名を上げてやるぜと息巻いていたのだが、結果は無残な物で全員でかかったにもかかわらず十秒ほどで全滅してしまった。 単純計算で一人一秒だ。
 屈辱だった。 ドンナーはAランクプレイヤーとしてこのゲームの上位に位置する実力者という自負を持っていたのだが、集団で仕掛けるという卑怯な手を使ったにもかかわらずこの結果。

 その日は屈辱感で中々眠れなかった。 
 今回は出ていないとの事だが、ラーガストの居たユニオンがこうして目の前に現れたのだ。
 借りを返せと言う運命の粋な計らいと取る事にした。

 雷鳴の機体構成は隊長機である彼のジェネシスフレーム『ボルト・マンドリル』
 形状こそ人型だが、分厚い装甲により筋骨隆々とした印象を受けるフォルム。
 携行武器は持っていない。 必要ないからだ。
 
 彼の唯一の武器は機体と一体化している装置、指向性放電システム『ライトニングボルト』。
 これは機体の各所に埋め込まれている電極を用いて敵機に電撃を撃ち込むという物だ。
 高圧電流はトルーパーの機能をダウンさせる事ができるので当たり方によっては完全に動きを封じる事ができる。 加えて装甲表面に電流を流す事で打撃に電撃を付与する事も可能。

 そして電極を用いて特殊な磁界を発生させる事で実体弾を逸らす事も可能という攻防一体の武装だ。
 反面、周囲に放つ電流の所為で味方を巻きこむ事と、武器の故障を誘発するので通常の武器を装備できないという欠点もあった。 

 その性能はこのゲームに於いて紛れもなく最上位と言えるだろう。
 Bランクの二人は砲撃戦に特化したプリンシパリティ。
 Cランクの二人は機動力に優れるノーマルキマイラ。
 Dランクの五人は二機が走破能力に優れたキマイラパンテラと汎用性のソルジャータイプ。

 偏りも少なく、どんな相手でも柔軟に対応できるバランスの取れたチームだ。
 前回の予選落ちという屈辱的な結果を受けてチームの連携も磨いた。
 今回は優勝を狙う。 

 ――ラーガストがいない以上、最も警戒するべきは『思金神』や他の上位プレイヤーで構成された急造ユニオン。 

 「ラーガストとユウヤがいない出涸らしみてぇな連中なんぞ、眼中にねぇんだわ。 さっさとぶっ潰して次へ行くぜぇ!」

 フィールドは荒野。 遮蔽物が少なく、チームの地力が特に出やすい環境だ。
 対する相手はこちらの半分。 ベリアルが居る事は驚きだが、キマイラ一機にソルジャータイプが三機だけ。 負ける訳がない。

 「ベリアルは俺が仕留める。 お前らは残りの連中をぶっ潰せ!」
 「おう! 任せときな!」
 「終わったら援護に行くぜ!」
 「負けんじゃねーぞ!」

 仲間達は口々にそんな事を言って勝利を約束すると散開。
 ドンナーは機体を真っすぐに加速させる。 彼はベリアルという男の事を良く知っている。
 基本的に挑まれたら正面からくるタイプだ。 小細工はない。

 ドンナーは同じAランクとしてベリアルと何度も戦ってきた。
 勝率は大体五分五分。 ライトニングボルトはベリアルのパンドラに充分対抗できる。
 フィールドの中央に存在する小高い丘の頂上にそいつはいた。

 相変わらず自身を抱きしめるような珍妙なポーズを取っている。

 「ふ、誰かと思えば雷の戦士か。 久しいな」
 「よぉ、イキる為か知らねぇが、雑魚ばっかの弱小に入るとかお山の大将を気取ってんのか? それとも構ってくれる奴があいつらしかいねぇとかか?」
 「俺は召喚されただけだ。 この星々の海にな。 そして我が召喚者にして同胞である魔弾の射手。 奴はこの俺が認めた男。 侮辱は許さん」
 「へぇ、お前がそんな反応をするとは珍しいじゃねーか」
 「当然だ。 貴様如きと一緒にするな」

 そうしている間にドンナーは丘の麓へ。 
 ベリアルが見下ろし、ドンナーが見上げる形になった。 
 
 「引き摺り下ろしてやる」
 「引き摺り下ろす? 違うな。 貴様が我が闇に沈むのだよ」

 ベリアルのプセウドテイから闇が噴き出し、ドンナーのボルト・マンドリルからは紫電が迸った。
 空と少し離れた位置で無数の銃声と爆発音。 他でも始まったようだ。
 それを合図に両者が同時に動き出す。 ベリアルが地を蹴り、ドンナーの頭上から襲い掛かった。
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