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第266話

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 次はふわわの番なのだが――

 「うーん。 ウチのはあんまり見どころがないなぁ……」

 彼女の場合は『栄光』に遭遇する前までは目についた敵を片端から斬り倒して森を進み、しばらくするとカナタと遭遇。 戦闘に入ったのだが、ふわわとはどうも相性が良くなかったようだ。
 ふわわはいつもの超が付く反応でカナタの斬撃を掻い潜って肉薄しようとしているが、凄まじい回転の斬撃で彼女を近づけない。 

 カナタの機体であるヘレボルス・ニゲルは大剣を用いた近、中距離戦仕様の機体だ。
 その最大の武装は装備されている大剣にある。 通常は実体剣として用いられるが、間合いの外の相手には巨大なエネルギーブレードを展開して刃を届かせる。

 威力は絶大でまともに喰らえば大抵の機体はまず一撃で沈む。 
 加えて厄介なのはエネルギーブレードを瞬時に出し入れして攻撃の回転を上げる事だ。
 ついでに長さも調節してくるので間合いとタイミングが掴み辛い。 ふわわは早々に刃を見る事を放棄して剣自体を見る事で斬撃の軌道を見切っていたが、カナタはふわわの反応の良さを察して攻撃方法を切り替えた。

 「これきつかったわぁ……」

 刺突と薙ぎ払いを中心に変えたのだ。 エネルギーブレードを展開しての刺突。
 回避されたと同時にブレードを消して次撃の準備に入っている。 
 とんでもない速さだ。 ライフルを連射しているのと変わらない。

 だがふわわも負けていない全てを掻い潜って肉薄。 
 ただ、得意の間合いに持ち込める事は難しいと判断したのか野太刀を抜いて一閃。
 液体金属刃の一撃は最初から知らなければ見切るのは難しいが、恐ろしい事にあのふわわの斬撃にタイミングを合わせてきたのだ。

 ふわわの野太刀は肩にマウントされている関係で上段からの振り下ろししかできない。
 それを理解していたのかふわわが振り切る直前のタイミングで斬撃を打ち落としたのだ。
 
 「うっそだろ」

 思わずヨシナリは呟き。 マルメルも絶句。
 人間の動体視力でアレができるのかよ。 ヨシナリは真似できるかと自問する。
 答えは出来なくはない、だ。 シックスセンスをフル稼働させれば鞘にエネルギーが充填されるのは事前に察知できるが、あそこまで完璧にタイミングを合わせられるのかと尋ねられれば難しいと答えるだろう。 要はぶっつけ本番では恐らく無理。 

 それだけの超絶技巧だ。 改めてヨシナリはカナタの凄まじさを知った。
 
 「多分やけど野太刀で来るって分かってたんやろうなぁ。 ウチもベリアル君が来たら交代って言われてたからちょっと焦ってもうたわ」

 カナタの斬撃は野太刀を圧し折り、鞘を半ばで断ち切る。
 その少し後にベリアルが乱入し、そのまま戦闘に突入すると言った形になったのだが――

 「……これは凄まじいな」

 思わず呟く。 
 展開されたAランク同士の戦いは筆舌に尽くしがたいほどに凄まじいものだったからだ。 
 改めて見れば見るほどにベリアルというプレイヤーの技量の高さが窺える。
  
 プセウドテイという特殊な機体に目が行きがちだが、あの性能を最大限に引き出すのは並のプレイヤーには無理だ。 一度、見せて貰ったのだが、機体のデザインから普通ではない。
 何故なら手足がないのだから。 プセウドテイの本来のデザインは胴体と頭部、一応手足らしき物はあるのだが、人間で言うのなら肘と膝から先がない。

 デザインもマネキンのようにのっぺりとしたものだが、それを見る事は敵わない。
 何故なら機体の表面を闇色のエネルギーが覆い隠しているからだ。 
 エネルギー変換システム「パンドラ」。 詳しい理屈はヨシナリには今一つ理解できなかったが、どうもエネルギーをエーテルという半物質に変換して固定する仕組みのようだ。

 ブレードのような収束させるだけとは訳が違う。 
 固定化したエーテルの鎧を身に纏い、エーテルの手足で大地に立ち、エーテルを武器として扱う。
 収束、分離しての射出。 傍から見れば非常に使い勝手のいい機体に見えるだろう。

 だが、武装だけでなく機体の成立すらエネルギーに依存しているのだ。
 管理の難しさはエンジェルタイプの比ではない。 派手に使ってキャパシティーを越えてしまえば直立すらできなくなる。 そんな危うさを持った機体こそがプセウドテイ。

 そこに居るが影のように虚ろな存在。 彼のロールプレイを体現したかのような機体だ。
 ヨシナリとしては付き合うのはしんどいと思っているが、ここまで貫けるのは尊敬に値すると思っていた。 さて、そんな彼の戦いだが、彼の普段の言動などとは裏腹に非常に繊細かつトリッキーだ。

 カナタの斬撃を器用に躱し、死角へと回る。 
 ふわわですら近づけなかった距離を容易く踏破するのはスペックもあるが、紛れもなく彼の技量によるものだ。 そして最大の要因は――

 「は? すご、分身したぞ!」

 マルメルが思わず声を上げる。 
 カナタの正面から突っ込む機体とは別に全く同じ機体が彼女の背後に現れたのだ。
 短距離転移システム「ファントム・シフト」。 移動距離は十数メートルと言った所だろうか?

 それだけでも凄まじいが、この機能の凄まじさはもう一つある。
 プセウドテイは全身にエーテルの鎧を纏っている状態だ。 その状態で空間転移するとどうなるのか? 鎧だけがその場に残るのだ。

 固定化されたエーテルの鎧は僅かな時間そこに残り、本体は敵の死角へ出現。
 傍から見ると何もない場所にもう一機現れたという不可思議な事象となる。
 マルメル達は気が付いていなかったが、ヨシナリはベリアルが脱ぎ捨てた抜け殻に注目していた。

 カナタの斬撃を喰らって形状を維持できずに消滅していたが、僅かではあるが動いていた・・・・・のだ。 恐らくこの武装を用いた戦い方はまだ未完成。
 最終的にはデコイではなく、本当の意味での分身となるだろう。

 ――凄げぇ。

 こんなにも強いのにベリアルはまだ満足しておらず、更なる高みを目指しているのだ。
 ヨシナリは彼に停滞しているのではないか?などといった自分が少しだけ恥ずかしくなった。
 ちらりと振り返ると何かを察したのかそうでないのかベリアルが大きく頷いた。 

 よく分からなかったが頷き返しておいた。 
 その後はカナタが切り札を切り、ベリアルを圧倒する場面になったが、ヨシナリの奇襲で大きな隙を作りそこをベリアルが突く形で決着となった。

 「流石は魔弾の射手。 敵の意識の間隙を的確に突くとは、な」

 カナタが撃破された場面を見てベリアルは何故か唐突にヨシナリを褒めだした。
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