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第265話

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 「お疲れ様! いやぁ、危ない場面も多かったけど無事に全員生き残れてよかったな!」

 場所は変わって星座盤のユニオンホーム。 マルメルがやや興奮気味に喜びを口にする。
 
 「そうやね。 ウチはあんまりいいとこなしやったから本戦はもうちょっと頑張らんと」
 
 ふわわは不完全燃焼気味に呟き、グロウモスはうんうんと頷きながらヒヒと奇妙に高い笑いを漏らす。
 そしてベリアル――影のように真っ黒なアバターが壁を背にもたれかかったまま無言。
 ヨシナリも皆と同じ気持ちだったが、勝利に胡坐をかいていれば足元を掬われる。

 「一先ずは予選突破お疲れ。 これから感想戦やるから皆、意見があれば遠慮なく行ってくれ!」

 マルメルとふわわはいつもの事なので何も言わず、グロウモスは小さく頷く。

 「ふ、勤勉だな。 魔弾の射手よ」
 「……闇の深みへ向かうにはその浮力に抗わなければならない。 停滞は俺や貴公の身を浮かび上がらせ、慢心は闇を見通す目を奪うだろう」
 「道理だな」

 ベリアルも納得してくれたようだ。 マルメルがじっとヨシナリを見つめているが、努めて無視する。 ともあれ話は纏まったようなのでそのままリプレイ映像を再生。
 全員の動きを確認していく。 まずは分かり易いグロウモスから。
 今回のイベントは彼女と非常に相性が良かった。 豊富にある隠れる場所は彼女のステルス性を極限まで高め、立ち回りもほぼ言う事はない。 特にあのセンドウを狙撃で完璧に抑えたのは見事としか言いようがなかった。 

 事前準備として塹壕を用意。 持ち込んだシャベルで穴を掘り、掘り返した土と穴の内部をグルーで固めて楽に出入りできるようにしている。 合間にヨシナリの援護もしていたので、見えていないがしっかりと仕事はしていた。

 「これはお前の入れ知恵か?」
 「あぁ、前の時に俺もやったんだけど案外見つからなくってさ。 穴を固めたり土を固めて蓋をしたりはふわわさんのグルーキャノンを見てて使えるなって思ったんだ」

 準備完了後、早々に仕掛ける。
 初手で相手のメインの狙撃銃を破壊し、自身の排除を強く意識させる事で味方の安全を確保。

 「上手いなぁ。 センドウさん完全にグロウモスさんに釘付けじゃん」
 
 狙われていたマルメルとしては助かったと言った思いが強い。 
 こうしてリプレイ映像で見るとセンドウがかなりグロウモスを意識しているのが分かる。
 森の中を進み、途中で変形。 明らかに狙撃を誘っている動きだ。

 「あー、これはグロウモスさんの位置が分かってないから特定する為の動きか」
 「マルメルの言う通りだ。 味方の援護もあるからさっさと片付けたいってのが丸わかりだな」
 
 その間、グロウモスは穴から半身を出している状態で狙いを付けていた。
 仕留めるのは難しいと判断し、発砲と同時に穴へと隠れる。
 掘り返した土を固めて蓋にしているのでよくよく見れば不自然ではあるが、初見で見切るのは難しい。 穴の内部でグロウモスはゆっくりと大口径の拳銃を用意。 

 センドウがあれで気付くと判断したのもヨシナリからすれば好印象だった。
 相手の技量をしっかりと認識できている。 誘い出されたセンドウが狙撃地点に現れ、グロウモスの姿を探し――違和感に気付く前に地中から一撃。 

 「お見事」

 ヨシナリの見立てではセンドウは相手を自分のペースに引き込む事でリズムを作る傾向にある。
 その為、逆にリズムを乱される、もしくは相手のリズムに引き込まれると脆さが目立つ。
 たらればを言っても仕方がないが、まだ味方のキマイラが一機残っていたのでその機体に怪しい場所を爆撃させる等のやり方はあった。 実際、それをやられるとグロウモスはかなり苦しかっただろう。

 その後も見つからない事を念頭に置き、チクチクと味方の邪魔になりそうな敵にひたすら嫌がらせを繰り返していた。 ヨシナリは敵でこれやってくる奴、死ぬほど腹立つだろうなと思いつつ味方で良かったと強く思った。

 「次は俺のを見てくれよ!」

 マルメルは自分の活躍をアピールしたいのか見てくれ見てくれと言うのでフォーカスする。
 基本的に今回の予選は栄光との戦闘以外はそこまで派手な戦いはなかったので、自然とさっきの場面の別視点となる。 『栄光』に仕掛けられたタイミングからなのだが、マルメルの戦い方は堅実そのものと言えた。 事前にヨシナリがしたアドバイスを愚直なまでに守り、地形を上手く利用して敵を削る。 

 言うには易いが実行できるかはまた別の話。 
 三機を相手に撃破されずに抑え込めたのは紛れもなくマルメル自身の実力と言えるだろう。
 フカヤの奇襲を防ぐ為に遮蔽物を上手く利用して移動経路を制限し、牽制をかかさない。

 そんな粘りが勝機を呼び込んだ。 元々、フカヤは精神的に脆い面が目立つ。
 それを補う為のイワモトとのセットだったのだろうが、センドウとツガルが完全に抑えられている状態で脳裏に負けの二文字が浮かんだのかもしれない。 どうにか無理に仕留めたいと言った様子が見て取れる。 
 
 「こうして見てみるとセンドウさんもだけど焦りすぎじゃね?」
 「誰も彼もが自分がはよ仕留めて味方を助けなあかんって感じが透けて見えるなぁ」

 ふわわの感想が最も的を射ているとヨシナリは思った。
 基本的に『栄光』は良くも悪くもカナタありきのチームだ。 
 彼女が先頭で戦い、他がそれを支える。 一人のエースの力を最大限に活かすと言えば聞こえはいいが、対処する側としてはカナタとそれ以外を切り離して考えればいいので手強い相手ではあるが決して勝てないという訳でもない。 特に他がカナタに合わせる形に慣れ切っているのでカナタ自身が他に合わせる事に慣れていない印象を受ける。

 今回はそこを突かせて貰う形になった。 カナタと他を切り離す。
 後は個別に相性のいい相手をぶつける。 方針としてはシンプルだが、この面子であるなら充分に勝算のある手だった。 ウインドウの中では焦ったフカヤが位置取りを致命的にしくじり、マルメルのハンドレールキャノンの餌食になっている所だ。

 「いやぁ、普段は全く当たらねぇからこういうデカい当たりが来ると最高に気持ちいいぜ!」

 マルメルが褒めろと言わんばかりにヨシナリを肘で小突く。
 
 「あぁ、これに関してはお見事だ。 焦ってポジショニングを意識しなくなるまで粘ったお前の勝ちだよ」
 「だろ? 褒めろ! 俺をもっと褒めろ!」
 「マルメル偉い! 凄い! 頼りになる! 流石!」
 「きゃーマルメル君素敵ー!」

 何故かふわわまで乗っかり、マルメルはいやぁそれほどでもとくねくねした。
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