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第264話

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 ベリアルはヨシナリの言葉にアバターの向こうで僅かに眉を顰めた。
 彼のプセウドテイは幾度目かのバージョンアップを果たし、大きく強化されている。
 その威容、その力は正に闇の王と呼ぶに相応しいだろう。 何処までも光を吸い込む闇はやがてブラックホールのような全てを無に帰す存在へと至る。 いや、もう近づいていると思っていたのだが――

 「貴様は我が闇が光に掻き消される程度の物だというのか?」
 「……否、貴公の闇はその名に相応しい力を体現していると言える。 だが、それで良いのか?」

 僅かな間を置いてヨシナリは静かに、そして力強くベリアルに語り掛ける。
 
 「どういう意味だ?」
 「……闇の深さに終わりはない。 ベリアル、そしてその化身であるプセウドテイは深き深淵を何処までも潜行していく求道者とも言い換えられる。 ――俺の言っている事が理解できるか?」

 ――わからねぇよ!

 ヨシナリは自分の言葉に自分で突っ込みを入れた。 
 しかも疑問を疑問で返すとか馬鹿じゃないのかと思いながらも思考は全力でベリアルの琴線に触れるワードを語彙から抽出して組み上げていく。 これがヨシナリが分析したベリアルの高感度を最大限に上げる方法だった。

 簡単に言うとベリアルは重度の厨二病なのだ。 
 そんな大病を患っている彼に興味を抱かせつつ協力を促す方法はこれしか思いつかなかった。
 彼は別の世界に生きている以上、対話を試みるには同じ世界に飛び込むしかない。

 ベリアルはヨシナリの言葉の意味を考えているのか僅かな時間沈黙する。
 ややあってはっと何かに気が付いたように顔を上げた。

 「そうか、そういう事か! 魔弾の射手よ! 貴様はこう言いたいのだな! 俺は闇の王である事に満足しそこで停滞している。 確かに王である以上、その玉座は脅かされるが必定。 挑み来る簒奪者に対し常に圧倒的な力の差を示す為にも自己を高めろ、と」
 「…………ふ、闇に身を沈めてこそいるが自らが歩む道は見えているようだな。 俺の助言は余計だったようだ、な」

 言っていて死にたくなったが、ヨシナリはそんな事を欠片も悟らせずにふっと笑って見せる。
 ベリアルはその意味深な笑みに何かを感じ取ったのか同じようにふっと笑う。
 
 「いや、魔弾の射手よ。 貴様の言葉は俺に新たな風を吹き込む。 此度の召喚は俺にとっても飛躍を得る事となった」
 「……ふ、それは俺とて同じ事。 闇の王の助力は我が星の運行を大きく進ませた。 貴公は闇、そして俺達はその闇で瞬く星々。 我が星座盤は宇宙の縮図。 宇宙とは深淵と似て非なる物ではあるが、闇がなければ成り立たぬもの。 我々は並び立つ事で互いに高め合う事ができるだろう」
 
 要は互いの力を活かせばもっといい結果を出せると言っているのだが、何故ここまで遠回しな表現をしなければならないのだろうかと思ってしまう。 だが、ベリアルを相手にする場合はこれが正解なのだ。
 ただ、口を開く度にヨシナリの精神が大きく削られ、ワードの組み合わせを考える為に間が出来てしまうがAランクプレイヤーを戦力として組み込めるのだ。 安い代償――のはず。

 ベリアルは何か衝撃を受けたのか大きく仰け反った。
 反応的に大丈夫だよなと判断して、ヨシナリは努めて気にしない。

 「貴様の言う通りだ。 この戦いはただの先触れ、本当の戦いはこの後。 その言葉、しかと胸に刻んでおくとしよう。 では、また会おう」

 そう言ってベリアルは去っていった。
 プセウドテイの姿が完全に見えなくなった辺りでヨシナリは大きく息を吐く。

 ――つ、疲れる。

 元々、ベリアルを引き入れるのは選択肢に入っていた。 
 前回のユニオン対抗戦で傭兵として参加していた所を見ると条件次第では仲間になってくれると踏んでいたからだ。 後は彼がどんな人物なのかをリサーチしていけると判断したのだが、仲間にしたらしたで思った以上に消耗する。  

 一先ず、彼との約束は予選は基本的に好きにさせるが、Aランク以上の強敵が現れた場合は味方の救援に来て貰う事。 本戦では可能な限り召喚者・・・であるヨシナリの指示に従う事。
 この二点だ。 後者に関してはかなり強い不安要素だったが、話した感触から行けそうな感じだったので納得さえさせれば問題なく連携に組み込めるだろう。

 本戦では前衛のふわわ、中衛のマルメル、後衛のグロウモスと中~後衛の不足を補う形でヨシナリが入るフォーメーションとなるが、バランス的に強力な前衛がもう一枚欲しかった。
 ベリアルはその条件を充分以上に満たしていたので指示に従ってくれるのならありがたい。

 彼の得意距離は近~中距離。 特に接近戦での戦闘能力は同ランク帯でも上位に位置する。
 特殊な武装による変幻自在の攻撃に短距離転移による奇襲、疑似的な分身。
 そしてそれらを使いこなすプレイヤースキル。 総合力で言えばユウヤと同等だろう。

 今回の戦いはラーガストが不参加である以上、最大ランクはA。 
 つまり彼の力を最大限に引き出せば本戦でもかなりの位置を狙える。
 栄光を撃破した事でその確信は深まった。 

 ――後はくじ運と俺のメンタル次第か。

 ベリアルとの会話は酷く消耗するが、勝てるのであるなら必要経費と割り切れる。
 
 「よし、後は油断せずに予選突破を目指そう」

 そう呟いてヨシナリは機体を森の中へと移動させた。


 流石に二回目と言うだけあって参加者達は動き方を心得ている者が多かった。
 予選は五チーム以下になるまで続けられる潰し合いだ。
 つまりさっさと数を減らせば終わる以上、弱そうな相手を積極的に狙っていく形になる。

 中堅クラスのユニオンは徒党を組んでランカーを潰そうとする動きもあったが、ほとんど上手く行かずに返り討ちという結果に終わっていた。
 積極的に数を減らすべく攻勢に出る者、勝手に潰し合えと言わんばかりに隠れる者、強そうな相手を事前に潰して本戦を楽にしようと立ち回る者と様々だが、星座盤のスタンスはどうなのだろうか?

 ヨシナリの方針としては各々の判断に委ねる形にした。 『栄光』との戦いで分散してしまったので無理に合流する必要がないという意味も含まれている。
 栄光のように明確に狙いを定めて襲って来る相手がいるのなら話は別だが、そうでないなら全滅のリスクを減らす為に分散して行動した方が生存率は上がるからだ。 

 特に今回は隠密に特化したグロウモスがいるのでこのやり方は効果的であると言えた。
 だからヨシナリも空には上がらず、森で身を隠しつつ必要最小限の戦闘を行う事で本戦へと駒を進めようとしているのだ。 時間の経過に伴い生存している機体の数は徐々に減っていき――予選が終了した。

 星座盤は生存し、本戦へと駒を進める事に成功したのだった。
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