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第261話
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――どこまで見えていたんだろう?
グロウモスはヨシナリから持たされた装備を見て内心で首を傾げる。
彼女が持たされた装備は武器ではない。 伸縮式で持ち運びが容易なシャベルだ。
要はこれで穴を掘って塹壕を作れと言う事だった。 最初は約に立つのか?と思ったが蓋を開ければしっかりと役に立ったのでヨシナリの判断は正しかったという事になる。
当人曰く「地中に隠れるのは悪い手ではない」との事。
読みの深さに少し怖い物を感じたが、ややあって気が付いた。
ヨシナリは自分に気がある。 つまり好きな彼女の為に全力で様々な場面を想定したのだ。
――いやいや、ヨシナリってそんなに私の事好きなの? 必死過ぎ―。
グロウモスはクヒ、クヒヒと傍から見るとあまり気持ちの良くない笑みを漏らす。
ともあれ目の前の敵は排除したのだ。 他の援護に向かうべきだろう。
彼女は笑みを漏らしながらその場を後にした。
「――いやぁ、流石やわ。 ここまで一方的にやられるとは思わんかった」
ふわわはそう言って笑う。
液体金属刃の野太刀は片方破壊されており、機体にも大小無数の傷が刻まれていた。
近接主体のカナタとは一度、正面から戦ってみたいと思っていたのでこの状況は望むところではあったのだが――
「それはこっちのセリフ。 ソルジャータイプでここまで動けるのってちょっと信じられないわ」
カナタもカナタでふわわの異様な強さに戦慄していた。
ここまで優勢に進められているのは機体性能差と事前情報があったからだ。
ふわわの近接スキルの高さはもはや周知の事実なので、カナタも格下と侮らずに彼女の得意レンジを外しつつ自らの強みを活かせるように立ち回った。
彼女の機体ヘレボルス・ニゲル。
その主兵装である大剣『レンテン・ローズ』は実体剣でありながら伸縮自在のエネルギーの刃を展開する事で広い間合いで自由に攻撃できる。 それによりふわわの間合いに入らない立ち回りを徹底したのだ。 だが、ふわわは恐ろしい事に掻い潜ってこようとしていた。
味方機が全滅した事は知っているが、今は目の前の事で手が離せない。
カナタはふわわを速やかに屠る事に全てを傾けなけれならなかったからだ。
対するふわわもこれは厳しいかと思っていた。 カナタは近接スキルだけで見るならふわわよりも劣るが、機体の扱い――要はあのヘレボルス・ニゲルという機体の性能を十全に引き出している。
そもそも彼女の特性に合わせた機体なのだ。 見方を変えれば機体が彼女のポテンシャルを引き出しているとも言える。
性能差もあるが機体との親和性の差がこの展開を形成した大きな要因と言えるだろう。
戦い方も巧みだ。 付かず離れずの距離で踏み込むには遠く、逃げるには近い距離、常に刃が届かない位置から一方的に仕掛けられてはふわわとしても手を出し辛い。
一度、やや無理をして野太刀を使おうとしたが、カウンターを合わせられて破壊されてしまった。
ふわわの事をよく研究している。 実際、カナタの動きは明らかにふわわを想定したものだったからだ。 互いに苦しい戦いだった。
カナタは武器を握る手に力を籠める。 努めて落ち着くようにはしているが、焦りはあった。
味方が全滅した以上、早く片を付けないと他のメンバーが雪崩込んで来るので急がなけらばならない。
焦っているのはふわわも同じだった。 野太刀を使ったのは決着を急ぐ必要があったからだ。
戦闘前にヨシナリとした約束。 Aランク以上の強敵と戦う場合は時間制限を設ける事だ。
それが来てしまうと下がらなければならない。 そうなると折角の獲物を取られてしまう。
故に彼女は攻め急いてしまったのだ。
確かに焦って失敗はしたが、そろそろ目が慣れてきた。 次はもっと上手く対処できる。
戦い方は巧みだが、カナタの戦い方には穴があった。 そこを突けば――
「……あー、ふわわさん。 時間切れです」
彼女の思考は不意に入って来たヨシナリからの通信に遮られた。
水を差されてふわわは思わず押し黙る。 彼女の不機嫌を察してかいないのか、ヨシナリは「下がってください」と一言。 一瞬、反発しかけたが、約束は約束だ。
「……分かった。 助っ人君のお手並み拝見と行くわ」
最初から助っ人が来るまでの間に仕留められればふわわの好きにしていいという約束だったので面白くはないが納得はしているので彼女は大きく後退。
「逃がすと思ってるの?」
それを察したカナタが前に出ようとするが、ふわわが小さく肩を竦める。
「ウチに構っててええの?」
「どういう――」
咄嗟にカナタは後ろに飛ぶ、僅かに遅れてふわわの背後から黒い何かが地面を切り裂いた。
「――ふっ、光の騎士よ。 今のを躱すとは中々やるな」
そう言ってふわわの背後に現れたのは闇色に揺らめく蜃気楼のような機体。
Aランク以上のプレイヤーで彼の事を知らない者はいないだろう。
ジェネシスフレーム『プセウドテイ』。 それを駆るAランクプレイヤー『ベリアル』の名を。
「星の瞬きに導かれ、闇の王の召喚は成った。 契約に従い、貴様らの敵を屠る刃となろう」
ユニオン『星座盤』最後のメンバー。 それこそが彼だったのだ。
大会、特に本戦を戦うにはAランク以上のプレイヤーが絶対に必要だった。
戦力不足に悩むヨシナリだったが、一人だけ無所属で力を貸してくれそうなプレイヤーに心当たりがあったのだ。 ユウヤ曰く「とんでもない厨二病」と評される彼は集団に馴染む事が出来なかったので、仲間に引き入れるハードルは非常に高い。
だが、可能性が全くない訳ではなかった。 何故なら彼は前回のイベントにも参加していたからだ。
つまり折り合いが付くなら彼は引き入れられると考えた。
ベリアルを仲間にするに当たってユウヤとラーガストに聞き込みを行う。
情報量自体は大した事はなかったが一つ分かった事がある。
ベリアルは思春期特有の病を重く患っており、自身に定めた設定を堅守する傾向にあるという事。
ならばやりようがある。 相手に話を聞いて貰うにはまずは興味を持たせる事だ。
だからヨシナリはあるメールを送った。 本文はなく、内容は一枚の画像。
巨大な魔法円と呼ばれる図形とその近くに魔法三角という三角形を添えたものだ。
これは悪魔を召喚する為の召喚魔法陣でベリアルという悪魔に関係のある種類だ。
詳しくは知らないが調べたらそう書いてあった。
メッセージは不要。 何故なら、反応は即座だったからだ。
返事は一言。 「我が闇を求めるか?」だ。
この反応を引き出しただけで脈は充分にあった。 後はしくじらないように言葉を選べばいい。
単純な返事だけでは相手は満足しない。 ヨシナリは過去へと回帰する。
そう、ああいうのが心の底から格好いいと思えていたあの時へと。
あの克服した(と思う)病を患っていた時を思い出すのだ。
それは非常に苦痛を伴う作業だったが、勝つために必要だったので躊躇う事はなかった。
グロウモスはヨシナリから持たされた装備を見て内心で首を傾げる。
彼女が持たされた装備は武器ではない。 伸縮式で持ち運びが容易なシャベルだ。
要はこれで穴を掘って塹壕を作れと言う事だった。 最初は約に立つのか?と思ったが蓋を開ければしっかりと役に立ったのでヨシナリの判断は正しかったという事になる。
当人曰く「地中に隠れるのは悪い手ではない」との事。
読みの深さに少し怖い物を感じたが、ややあって気が付いた。
ヨシナリは自分に気がある。 つまり好きな彼女の為に全力で様々な場面を想定したのだ。
――いやいや、ヨシナリってそんなに私の事好きなの? 必死過ぎ―。
グロウモスはクヒ、クヒヒと傍から見るとあまり気持ちの良くない笑みを漏らす。
ともあれ目の前の敵は排除したのだ。 他の援護に向かうべきだろう。
彼女は笑みを漏らしながらその場を後にした。
「――いやぁ、流石やわ。 ここまで一方的にやられるとは思わんかった」
ふわわはそう言って笑う。
液体金属刃の野太刀は片方破壊されており、機体にも大小無数の傷が刻まれていた。
近接主体のカナタとは一度、正面から戦ってみたいと思っていたのでこの状況は望むところではあったのだが――
「それはこっちのセリフ。 ソルジャータイプでここまで動けるのってちょっと信じられないわ」
カナタもカナタでふわわの異様な強さに戦慄していた。
ここまで優勢に進められているのは機体性能差と事前情報があったからだ。
ふわわの近接スキルの高さはもはや周知の事実なので、カナタも格下と侮らずに彼女の得意レンジを外しつつ自らの強みを活かせるように立ち回った。
彼女の機体ヘレボルス・ニゲル。
その主兵装である大剣『レンテン・ローズ』は実体剣でありながら伸縮自在のエネルギーの刃を展開する事で広い間合いで自由に攻撃できる。 それによりふわわの間合いに入らない立ち回りを徹底したのだ。 だが、ふわわは恐ろしい事に掻い潜ってこようとしていた。
味方機が全滅した事は知っているが、今は目の前の事で手が離せない。
カナタはふわわを速やかに屠る事に全てを傾けなけれならなかったからだ。
対するふわわもこれは厳しいかと思っていた。 カナタは近接スキルだけで見るならふわわよりも劣るが、機体の扱い――要はあのヘレボルス・ニゲルという機体の性能を十全に引き出している。
そもそも彼女の特性に合わせた機体なのだ。 見方を変えれば機体が彼女のポテンシャルを引き出しているとも言える。
性能差もあるが機体との親和性の差がこの展開を形成した大きな要因と言えるだろう。
戦い方も巧みだ。 付かず離れずの距離で踏み込むには遠く、逃げるには近い距離、常に刃が届かない位置から一方的に仕掛けられてはふわわとしても手を出し辛い。
一度、やや無理をして野太刀を使おうとしたが、カウンターを合わせられて破壊されてしまった。
ふわわの事をよく研究している。 実際、カナタの動きは明らかにふわわを想定したものだったからだ。 互いに苦しい戦いだった。
カナタは武器を握る手に力を籠める。 努めて落ち着くようにはしているが、焦りはあった。
味方が全滅した以上、早く片を付けないと他のメンバーが雪崩込んで来るので急がなけらばならない。
焦っているのはふわわも同じだった。 野太刀を使ったのは決着を急ぐ必要があったからだ。
戦闘前にヨシナリとした約束。 Aランク以上の強敵と戦う場合は時間制限を設ける事だ。
それが来てしまうと下がらなければならない。 そうなると折角の獲物を取られてしまう。
故に彼女は攻め急いてしまったのだ。
確かに焦って失敗はしたが、そろそろ目が慣れてきた。 次はもっと上手く対処できる。
戦い方は巧みだが、カナタの戦い方には穴があった。 そこを突けば――
「……あー、ふわわさん。 時間切れです」
彼女の思考は不意に入って来たヨシナリからの通信に遮られた。
水を差されてふわわは思わず押し黙る。 彼女の不機嫌を察してかいないのか、ヨシナリは「下がってください」と一言。 一瞬、反発しかけたが、約束は約束だ。
「……分かった。 助っ人君のお手並み拝見と行くわ」
最初から助っ人が来るまでの間に仕留められればふわわの好きにしていいという約束だったので面白くはないが納得はしているので彼女は大きく後退。
「逃がすと思ってるの?」
それを察したカナタが前に出ようとするが、ふわわが小さく肩を竦める。
「ウチに構っててええの?」
「どういう――」
咄嗟にカナタは後ろに飛ぶ、僅かに遅れてふわわの背後から黒い何かが地面を切り裂いた。
「――ふっ、光の騎士よ。 今のを躱すとは中々やるな」
そう言ってふわわの背後に現れたのは闇色に揺らめく蜃気楼のような機体。
Aランク以上のプレイヤーで彼の事を知らない者はいないだろう。
ジェネシスフレーム『プセウドテイ』。 それを駆るAランクプレイヤー『ベリアル』の名を。
「星の瞬きに導かれ、闇の王の召喚は成った。 契約に従い、貴様らの敵を屠る刃となろう」
ユニオン『星座盤』最後のメンバー。 それこそが彼だったのだ。
大会、特に本戦を戦うにはAランク以上のプレイヤーが絶対に必要だった。
戦力不足に悩むヨシナリだったが、一人だけ無所属で力を貸してくれそうなプレイヤーに心当たりがあったのだ。 ユウヤ曰く「とんでもない厨二病」と評される彼は集団に馴染む事が出来なかったので、仲間に引き入れるハードルは非常に高い。
だが、可能性が全くない訳ではなかった。 何故なら彼は前回のイベントにも参加していたからだ。
つまり折り合いが付くなら彼は引き入れられると考えた。
ベリアルを仲間にするに当たってユウヤとラーガストに聞き込みを行う。
情報量自体は大した事はなかったが一つ分かった事がある。
ベリアルは思春期特有の病を重く患っており、自身に定めた設定を堅守する傾向にあるという事。
ならばやりようがある。 相手に話を聞いて貰うにはまずは興味を持たせる事だ。
だからヨシナリはあるメールを送った。 本文はなく、内容は一枚の画像。
巨大な魔法円と呼ばれる図形とその近くに魔法三角という三角形を添えたものだ。
これは悪魔を召喚する為の召喚魔法陣でベリアルという悪魔に関係のある種類だ。
詳しくは知らないが調べたらそう書いてあった。
メッセージは不要。 何故なら、反応は即座だったからだ。
返事は一言。 「我が闇を求めるか?」だ。
この反応を引き出しただけで脈は充分にあった。 後はしくじらないように言葉を選べばいい。
単純な返事だけでは相手は満足しない。 ヨシナリは過去へと回帰する。
そう、ああいうのが心の底から格好いいと思えていたあの時へと。
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