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第258話

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 マルメルは突撃銃をばら撒くように撃った後、即座に移動。
 今回のイベントでの動きに関してはヨシナリが一人一人に立ち回りのアドバイスをくれていた。
 彼の場合はとにかく地形を利用して敵の牽制に専念する事だ。

 基本的に相手は格上、大人数という二重の不利を常に背負っていると想定しての動きなので納得はしていた。 正面からやっても勝てる訳がないので時間を稼いでアタッカーであるふわわやヨシナリが戻って来るまで敵を削りつつ足止めをする。 それがマルメルに与えられた役目だ。

 グロウモスとどうやって連れて来たのか不明な謎の助っ人という追加の戦力はいるが、それでも枠を半分しか使えていない。 マルメルはその事実を正確に理解していた。
 戦力の上限が半分である以上、変なプライドやこだわりは勝利を得る上でのノイズでしかない。

 だからこそ彼は自らの役割に徹していたのだが――
 敵の戦力はキマイラ二機とイワモトという盾持ちのⅡ型が一機とフカヤというステルス使い。
 イワモトはマルメルの意識を釘付けにする為に盾を構えつつ、ゆっくりと接近し、射程に入ると散弾銃で攻撃してくる。 一応、当てるつもりはあるようだが、主目的は圧をかける事だ。
 
 目立つからどうしても意識がそちらに行ってしまう。 
 その隙を突く形で上からキマイラ、そして地上からはフカヤがマルメルの隙を狙ってくる。 
 フカヤに関してはヨシナリから散々、対処法を聞いていたので近づけない事は可能だった。

 機体のステルス性は勿論だが、何よりも当人による隠形――気配を消すテクニックによる物が大きい。 グロウモスもステルス機だが、フカヤの方が気配を消すという点では格が上だ。
 そんなフカヤをどう捉えるか? 対処法としては二つ。

 まず、移動の痕跡を見逃さない。 
 センサーシステムに引っかからないが、歩けば足跡が残り、動けば空気の流れが発生する。
 痕跡という物は隠す事は出来ても完全に消す事は難しい。 それを見逃さなければいいとの事だが、そんな真似が平然とできるのはふわわのような常人とは別の物が見えているか、洞察力の怪物であるヨシナリだけだ。 だが、地形の力を借りればある程度はどうにかなる。

 マルメルはわざと木々が深い場所を移動している。 
 そうする事によってフカヤも木々を掻き分けなければならない。 
 居場所を晒す事は暗殺者にとっては致命的だ。 その為、フカヤは痕跡が残る移動経路を避ける。

 結果、気配を消せそうなルートしか残されなくなるわけだ。 
 後は来そうだなと思ったタイミングで弾をばら撒く。 ここでポイントは闇雲にばら撒いているのではなく、何か意図があると思わせるような撃ち方をしろとの事。 そうすればフカヤは勝手に深読みして慎重になるとの事。 

 ――いや、マジでヨシナリの言う通りになったな。

 ヨシナリは基本的に気になった相手――将来叩き潰したいと考えている相手は徹底的に分析する。
 マルメルが対策を叩きこまれたのは『栄光』を始め、前回のイベントで当たったチーム全て。
 メンバーか変わっている可能性はあるが戦い方の方向性までは大きく変わらないので無駄にはならないとの事。 

 確かにヨシナリの言う通りだった。 
 そして当たったのが『栄光』である事はある意味幸運だったかもしれない。
 以前に敗北した事もあって特に力を入れてリサーチしたチームだからだ。

 マルメルの相手として想定されているのはフカヤとイワモト。
 フカヤの対策に関しては実践済みで、イワモトに関しては他に比べると対処は楽だ。
 彼は回避技能は同ランク帯の中でもかなり低い部類に入るので、しっかりと当てられる環境を整えれば脅威度は低い。 特に味方を守る事を主目的としているポジションなので、味方がいなくなれば脅威度は相当落ちる。 

 一発に気を付けつつ、距離を置けばいい。
 この戦いにおいて注意するのはフカヤの奇襲、空からの攻撃、イワモトの順だ。
 センドウに関してはグロウモスが完璧に抑え込んでいるので無警戒は危険だが、ある程度は気にしなくて済むのはありがたい。 

 ――『栄光』というチームは良くも悪くもカナタが中心のチームだ。

 彼女の機体は攻撃範囲が非常に広いので連動する事が非常に難しい。
 下手な事をすると巻き込まれるからだ。 その為、彼女という最大戦力を効率よく使いたいのなら『カナタ』と『それ以外』を綺麗に分ける事が一つの解だった。

 結果、カナタが単独で突出し、周囲がそれに合わせる形になっていったのだ。
 事実としてこれまでの戦闘で彼女が他のユニオンメンバーと連動する――要は彼女が他の動きに合わせると言った場面はほぼ皆無。 逆はあっても彼女からはない。

 栄光に対しては対処もカナタとカナタ以外を分けて考えればいい。
 ふわわがカナタを抑えている以上、あのAランクは気にしなくていいとの事だった。
 
 ――いや、全部合ってるんだから本当に大したものだよ……。

 相棒の本気具合に若干引きながらもマルメルはそのアドバイスに全力で従っているのだが、そろそろ自分でも活躍的な物を捥ぎ取りたいと思っていた彼は虎視眈々と機会を窺っていた。
 要は想定内の仕事をやって終了では色んな意味でつまらない。 ここは分かり易い活躍をしていい所を見せつけてやりたい、そんな事を考えていた。

 
 ――ヤバい。

 フカヤは焦っていた。 星座盤に仕掛ける。
 それ自体は歓迎していた。 以前のユニオンイベントであっさりやられたのは彼なりに少しは気にしていたのでここで借りを返しておきたい。 特にセンドウはあのやられ方がかなり堪えたようで意地でも仕留めてやると闘志を漲らせていたので止める者は居なかった。

 フカヤは戦力差はあるので充分に勝てると判断していたが、油断していい相手ではないとも思っている。
 だから全力で殺しに行ったのだ。 彼等の最大の強みは高度な連携にある。
 動きの連結に関しては彼等の方が上を行っているとすら思っていた。  

 その為、星座盤を全滅させる場合、真っ先に行うのは分断だ。
 後は数で圧し潰せばいい。 ヨシナリにはツガル、ふわわにはカナタを当てて残りでマルメルを圧し潰し、数が減れば他に回す。 単純だがそれ故に効果的な手だったのだが――

 空を見てフカヤは思わずアバターの奥で顔をひきつらせた。
 何故ならツガル達が全滅したからだ。 
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