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第256話

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 二機がホロスコープの後ろに張り付いて機銃とレーザーを撃ち込んで来る。
 対するヨシナリは機体を左右に振って回避運動。 その間に残りの二機が退路を潰す形で上下から仕掛けてくる。 

 ――これは本気で潰しに来てるな。

 格下のヨシナリ相手にツガルを含めて四機。 
 味方としてなら頼りになるツガルだが、こうして敵として現れると非常に厄介だ。
 だが、それなりの期間、味方として戦ってきたので挙動の癖に関しては掴んでいる。 それは相手にも言える事だが、シックスセンスを手に入れたヨシナリの方が相手の動きを読む精度は上だと自負していた。

 多人数が相手であるならまず数を減らす事が重要だ。 
 その際に間違ってはいけないのは誰を狙うか。 まずは逃げ回りながら視る。
 そして探すのだ。 この集団の綻びを。 

 「躱すじゃねーか!」
 「師匠の教えが良かったんですね。 お陰様で大人げなく袋叩きにしようとしてくる相手にも難なく対処できますよ」
 「言うじゃねーか。 味方だと頼もしいが、お前は敵だと厄介なんでな。 この予選で潰させて貰う」
 「はは、お手柔らかにお願いしますよ」

 ――かかって来いよ。 今度こそ直接叩き潰していつかの借りを返してやる。

 口調とは裏腹にヨシナリはこの状況を歓迎していた。
 ツガルを完膚なきまでに叩き潰せるのだ。 
 仮に逃げた所でこんな逆境で躓く程度では本戦では生き残れない。 

 この戦いで注意すべき点は大きく二つ。 ツガルとセンドウだ。
 ツガルは言わずもがな。 センドウが今回の襲撃に乗り気だったというツガルの言葉。
 それが本当であるなら彼女も前回の敗北を払拭する為にヨシナリを狙うはずだった。

 現状で居場所を把握しているのは九人。 
 ツガルとその取り巻き三人。 森でマルメルと戦っている三人――フカヤとイワモトとキマイラ使いが二人。 後はカナタ。 センドウの居場所だけが現状不明だ。

 しっかりと探せば見つかるだろうが今はそんな事をしている余裕がない。
 まずは手近な敵を片付けてからだ。 センドウからの狙撃を防ぐ方法は難しくない。
 ホロスコープを加速させて一気にその場から離脱。 これでセンドウはヨシナリを狙えない。
 
 ――はずなのだが――

 「……ちょっと確認しとこ」

 小さく呟くとヨシナリはわざと直線的な動きをして攻撃を誘う。
 そろそろかなといったタイミングで急降下。 一瞬前までヨシナリの居た場所をエネルギー弾が通過する。
 
 「マジかよ」

 ――センドウも俺の事を狙ってるのかよ。 厄介だなぁ……。

 お陰で大体の位置は分かったのでグロウモスへデータを共有。 
 上手く排除してくれることを祈って目の前の敵に意識を傾ける。 逃げ回っている間に敵の動きは凡そ視れた。 後は慎重に崩していくだけだ。

 前回のサーバー対抗戦は非常に勉強になった。 シックスセンスが万能ではないという事。
 正確には使用するヨシナリ自身のリソースが足りないのだ。 
 このセンサーシステムの性能を完全に扱うにはヨシナリの処理能力ではとても足りない。
 一応、情報量を減らして処理をし易くする事も可能で、重力変動と空間情報という使いどころがなさそうな項目をカットした。 

 ――マジで何に使うんだよこれ。

 結構な回数の戦闘で使用したが、他の情報と重複もするのではっきり言って要らなかった。
 そうやって余計な情報をカットする事で多少はマシにはなったはず。

 そもそもこれを百パーセント扱う事は人類では不可能なのではないのだろうか?
 だからと言って悲観する必要はない。 使えないのなら使えないなりに工夫すればいい。
 ヨシナリはキマイラタイプの飛行訓練に加え、シックスセンスによる情報処理の訓練を行った。

 訓練と言ってもそう難しいものではなく、どの情報の優先度が高いのかを見極める事だ。
 今回の場合は敵機のエネルギー分布。 特にキマイラタイプはメインのブースター――推力偏向ノズルの内部エネルギー上昇量で加速のタイミングを掴めるので相手の動きを先読みできる。

 キマイラタイプは可変機能こそ備えているが、飛行形態時の動きは戦闘機のそれから逸脱しない。
 動き――特に旋回性能には限度があるので速度が落ちるそこを狙えば撃墜はそう難しくなかった。
 問題は四対一にプラスして狙撃手がいる状態でそれを決められるかだが。

 ――行ける。 いや、俺なら絶対にやれる。

 キマイラタイプを手に入れた事でよりこの機体への理解が深まった。
 そして味方として見てきた彼等の動き。 これまでに得た物を組み合わせればツガルであろうとも落とす事は可能だ。 まずは包囲の一角を崩す。

 ヨシナリは機首を持ち上げて慣れた空戦機動を行った。



 ――とんでもねぇな。

 ツガルはヨシナリの挙動を見てそう思った。 そして同時に恐ろしさも感じている。
 ヨシナリの動きはキマイラタイプに慣れた熟練者のそれだ。 背後に張り付かれても冷静に回避。
 下手な反撃はせずに様子を見るように逃げ回っている動きは恐らく自分達のフォーメーションの穴を探しているのだろう。 

 味方である時はその分析力に何度も助けられたが敵として対峙すると脅威でしかない。
 加えてセンドウが狙っている事も最初から看破しており、狙撃を誘って綺麗に回避をして見せた。
 
 ――あぁ、本当に味方に欲しかったなぁ……。

 正直、未だにツガルはヨシナリがユニオンに入ってくれる事を望んでいた。
 見ている間にどんどん上手くなっていく成長性もそうだが、何よりも初見の相手とすら連携を取れる柔軟な対応力は稀有な才能と言える。 特に個人戦から集団戦にシフトしつつあるこのゲームの変化に高いレベルで適応できている人種なので、居るだけでチームの総合力は大きく上がる。

 付き合い易い性格もあってツガルはヨシナリの事を非常に気に入っていた。
 だからこそ色々と世話を焼いたのだが、やり過ぎたのかもしれない。
 気が付けばランク差があるのにもかかわらず同格に近い強敵へと化けてしまった。

 ――まぁ、つっても今は俺達の方が上だ。 調子に乗られる前にここで潰させて貰うぜ。

 ツガルもヨシナリの動きとプレイスタイルは何度も見てきたのだ。 
 仕留める方法にはいくつか心当たりがある。 彼の強みは視野の広さと読みの深さ。
 ならそれを封じる為に畳みかけて思考する余裕を可能な限り削ぎ落す。 だからこそ大人げないがセンドウを含めて五対一という構図を作ったのだ。

 包囲にセンドウからの狙撃まで警戒しなければならない以上、パフォーマンスを完全に発揮は出来ないはず。 こちらの弱点を探り出される前に速攻で落とす。 
 ふわわも同様に厄介ではあるが、カナタと戦って勝てるとは思わないので任せて問題ない。

 マルメルは味方と連動する事で最大限、力を発揮するタイプなので分断してやれば脅威度は落ちる。
 フカヤとイワモトの二人なら問題ないだろう。 これで星座盤のメンバーは完全に抑えた。
 後はどれか一機でも落とせたなら――
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