248 / 397
第248話
しおりを挟む
――負けたくない。
グロウモスはその一心で三戦目に臨んだ。
ユニオン『星座盤』。 前回のユニオン対抗戦でハイランカーを二人も擁して参戦した謎のユニオンだった。
リーダーのヨシナリとはランク戦で一度当たっていたので実力がある――少なくとも同じ狙撃戦仕様の同条件で敗北した以上、上と認めざるを得ない事は分かっていた。
彼女がこのユニオンに助っ人参戦しようと考えたのはイベントに参加したいという事もあったが、それ以上に強くなるチャンスを逃したくなかったからだ。
彼女は非常に内向的な性格であった。 だが、それ故に内に溜め込んだヘドロのような感情を吐き出す場所を常に求めていたのだ。 このICpwはその手段の一つで、勝利する事により彼女の内に堆積した感情は消化される。
――逆に敗北すると悪化するリスクはあるが。
彼女が求めているのは勝利。 ただ勝利だけだった。
要は勝って気持ちよくなれればそれで良い。
最初のマルメルはかなり追いつめたが最後の最後に喰らったラッキーパンチで即死。
あれさえなければ私の勝ちだったのにと頭を掻き毟りたい衝動に駆られたが、もう一回と言わなかったのは辛うじて存在する彼女なりの矜持だったのかもしれない。
次のふわわ。 何故負けたのか理解できなかった。
気配は完璧に消していたはずだ。 Ⅱ型の索敵能力で発見できるわけがない。
彼女はソルジャータイプを長く使っているだけあって性能の上限値に関しても熟知している。
このゲームは基本的にフレームによって装備できるパーツに制限がかかっており、彼女の動きを探知できるレベルの装備となると目立つ形になるか、キマイラフレーム以上の上位フレームが必要だ。
仮にキマイラを使っていたとしてもかなりの高精度のそれこそバカみたいな値段のセンサーシステムが必要になる。
――にもかかわらず結果は瞬殺。
試合時間はそこそこ経過しているが捕捉されたと同時に撃破されたのだ。
彼女の中では充分に瞬殺とカテゴライズされる試合内容だった。
近接主体の機体と侮っていたつもりはなく、絶対に発見されずに一方的に仕掛けて仕留めるつもりでいたのだが目論見はあっさりと崩れ落ちる。 チートではないのならどうやって自分の位置を掴んだのか是非とも教えてもらいたいが、他人に話しかける事に対して非常に高いハードルが存在する彼女には難しい話だった。
後でリプレイ映像を見て研究しよう。 絶対に借りを返してやるからなと思いながら三戦目。
ヨシナリ。 彼に関しては戦い方はある程度掴めている。
狙撃主体で戦闘スタイルが自分と似通っている点からも勝つ自信はあった。
前回は遭遇戦と戦闘スタイルの更新途中だった事もあって後れを取ったが今回は違う。
自身も狙撃手である以上、何をされると嫌なのかは熟知しているつもりだ。
この戦いは技量よりも読みの深さが勝敗を分ける。
グロウモスは頭の中で戦闘の流れをシミュレート。
序盤はステルス性能の高い自分にアドバンテージがある。
ここを活かす事が勝敗に繋がるだろう。 先に見つけて仕留めに行く。
マップに存在する建物の位置も頭に入っている。 行ける。
必ず勝つ。 深く呼吸して気持ちを落ち着ける。
試合が開始。 グロウモスは静音フィールドを発生させ、素早く移動する。
まずは高所を取って――
「はえ?」
思わず間抜けな声が漏れる。
何故なら彼女の思惑はソルジャータイプでは到底不可能な速度で高度を上げる姿に掻き消された。
戦闘機が真っすぐに高度を上げている。 どう見てもソルジャータイプではない。
――き、キマイラフレーム!? Eランクでキマイラ!?
どうやって?といった疑問はあったが、実際に目の前にいるのだから受け入れるしかない。
当初のプランが瓦解した事により戦い方を見直さなければならなかった。
高度を取って来る敵に対しての対処は経験がある。 彼女の主兵装である狙撃銃は小口径なので離れすぎると命中しても大した威力が出ない。
小口径のメリットは銃自体が軽量なので持ち運びが容易な点だ。
彼女の機体『ハイディングモッスィー』は静音性と隠密性を極限まで高めた機体で、相手に見つからない事に軸を置いている。 代償に火力が大きく落ちたが、それを補うための中折れ式の専用銃と腐食弾だ。
狙撃で敵から機動力を奪い、腐食弾で致命の一撃を見舞う。
それがEランクプレイヤー『グロウモス』の戦い方。 相手が飛んでいるのなら推進装置を撃ち抜いて叩き落せばいい。 小口径でも適切な位置にライフル弾を叩きこめば推進装置の破壊は可能だ。
そしてキマイラタイプとはいえ無限に飛び続ける事は出来ない。
少なくとも速度と高度を落とすタイミングは必ずある。 そして自分の位置はまだ掴まれていない。
この二つの要素を最大限に活かして勝利をつかみ取る。 忍耐力には自信があるのでヨシナリが隙を晒すまで粘って――
グロウモスがそう考えているとズンと機体を衝撃を襲う。
「え?」
視線を落とすと機体の胴体に文字通り、風穴が開いていた。
何故? 発見された? どうやって? いつの間に?
疑問が解消される間もなく機体が爆散し、試合が終了。
――ちなみに試合時間は二十五秒だった。
正直、楽勝だった。
ヨシナリは早い段階で勝ちを確信しており、結果に驚きは少ない。
精々、予定通りに行ったなといった程度だ。 まずグロウモスの武装。
小口径の狙撃銃では高度を取れば当たっても意味がないので無力化できる。
上を押さえた以上、グロウモスの取れる手はそう多くない。
ヨシナリが高度を落とすのを待つか、一か八かで空中戦を挑むかだ。
後者の可能性は非常に低い。
ステルスに力を入れている彼女がそれを放棄するとは考え難いからだ。
自らの長所を殺す思い切りの良さはヨシナリの見立てではなさそうだった。
そうなれば隠れて隙を窺う事になるだろうが、ヨシナリにはシックスセンスがあるので上からは丸見えだ。 防護幕でレーダーやセンサーを静音フィールドで音を消してはいるが、シックスセンスには動体、熱源、エネルギー流動と観測手段は無数にあるので、全てに対応できない彼女にはどうしようもなかった。
見つけてしまえば後はアノマリーの最大出力で一撃入れて終了だ。
こちらが見つけた事を悟らせないように気を付けたのであっさりと命中。 そのまま撃破となった。
グロウモスはその一心で三戦目に臨んだ。
ユニオン『星座盤』。 前回のユニオン対抗戦でハイランカーを二人も擁して参戦した謎のユニオンだった。
リーダーのヨシナリとはランク戦で一度当たっていたので実力がある――少なくとも同じ狙撃戦仕様の同条件で敗北した以上、上と認めざるを得ない事は分かっていた。
彼女がこのユニオンに助っ人参戦しようと考えたのはイベントに参加したいという事もあったが、それ以上に強くなるチャンスを逃したくなかったからだ。
彼女は非常に内向的な性格であった。 だが、それ故に内に溜め込んだヘドロのような感情を吐き出す場所を常に求めていたのだ。 このICpwはその手段の一つで、勝利する事により彼女の内に堆積した感情は消化される。
――逆に敗北すると悪化するリスクはあるが。
彼女が求めているのは勝利。 ただ勝利だけだった。
要は勝って気持ちよくなれればそれで良い。
最初のマルメルはかなり追いつめたが最後の最後に喰らったラッキーパンチで即死。
あれさえなければ私の勝ちだったのにと頭を掻き毟りたい衝動に駆られたが、もう一回と言わなかったのは辛うじて存在する彼女なりの矜持だったのかもしれない。
次のふわわ。 何故負けたのか理解できなかった。
気配は完璧に消していたはずだ。 Ⅱ型の索敵能力で発見できるわけがない。
彼女はソルジャータイプを長く使っているだけあって性能の上限値に関しても熟知している。
このゲームは基本的にフレームによって装備できるパーツに制限がかかっており、彼女の動きを探知できるレベルの装備となると目立つ形になるか、キマイラフレーム以上の上位フレームが必要だ。
仮にキマイラを使っていたとしてもかなりの高精度のそれこそバカみたいな値段のセンサーシステムが必要になる。
――にもかかわらず結果は瞬殺。
試合時間はそこそこ経過しているが捕捉されたと同時に撃破されたのだ。
彼女の中では充分に瞬殺とカテゴライズされる試合内容だった。
近接主体の機体と侮っていたつもりはなく、絶対に発見されずに一方的に仕掛けて仕留めるつもりでいたのだが目論見はあっさりと崩れ落ちる。 チートではないのならどうやって自分の位置を掴んだのか是非とも教えてもらいたいが、他人に話しかける事に対して非常に高いハードルが存在する彼女には難しい話だった。
後でリプレイ映像を見て研究しよう。 絶対に借りを返してやるからなと思いながら三戦目。
ヨシナリ。 彼に関しては戦い方はある程度掴めている。
狙撃主体で戦闘スタイルが自分と似通っている点からも勝つ自信はあった。
前回は遭遇戦と戦闘スタイルの更新途中だった事もあって後れを取ったが今回は違う。
自身も狙撃手である以上、何をされると嫌なのかは熟知しているつもりだ。
この戦いは技量よりも読みの深さが勝敗を分ける。
グロウモスは頭の中で戦闘の流れをシミュレート。
序盤はステルス性能の高い自分にアドバンテージがある。
ここを活かす事が勝敗に繋がるだろう。 先に見つけて仕留めに行く。
マップに存在する建物の位置も頭に入っている。 行ける。
必ず勝つ。 深く呼吸して気持ちを落ち着ける。
試合が開始。 グロウモスは静音フィールドを発生させ、素早く移動する。
まずは高所を取って――
「はえ?」
思わず間抜けな声が漏れる。
何故なら彼女の思惑はソルジャータイプでは到底不可能な速度で高度を上げる姿に掻き消された。
戦闘機が真っすぐに高度を上げている。 どう見てもソルジャータイプではない。
――き、キマイラフレーム!? Eランクでキマイラ!?
どうやって?といった疑問はあったが、実際に目の前にいるのだから受け入れるしかない。
当初のプランが瓦解した事により戦い方を見直さなければならなかった。
高度を取って来る敵に対しての対処は経験がある。 彼女の主兵装である狙撃銃は小口径なので離れすぎると命中しても大した威力が出ない。
小口径のメリットは銃自体が軽量なので持ち運びが容易な点だ。
彼女の機体『ハイディングモッスィー』は静音性と隠密性を極限まで高めた機体で、相手に見つからない事に軸を置いている。 代償に火力が大きく落ちたが、それを補うための中折れ式の専用銃と腐食弾だ。
狙撃で敵から機動力を奪い、腐食弾で致命の一撃を見舞う。
それがEランクプレイヤー『グロウモス』の戦い方。 相手が飛んでいるのなら推進装置を撃ち抜いて叩き落せばいい。 小口径でも適切な位置にライフル弾を叩きこめば推進装置の破壊は可能だ。
そしてキマイラタイプとはいえ無限に飛び続ける事は出来ない。
少なくとも速度と高度を落とすタイミングは必ずある。 そして自分の位置はまだ掴まれていない。
この二つの要素を最大限に活かして勝利をつかみ取る。 忍耐力には自信があるのでヨシナリが隙を晒すまで粘って――
グロウモスがそう考えているとズンと機体を衝撃を襲う。
「え?」
視線を落とすと機体の胴体に文字通り、風穴が開いていた。
何故? 発見された? どうやって? いつの間に?
疑問が解消される間もなく機体が爆散し、試合が終了。
――ちなみに試合時間は二十五秒だった。
正直、楽勝だった。
ヨシナリは早い段階で勝ちを確信しており、結果に驚きは少ない。
精々、予定通りに行ったなといった程度だ。 まずグロウモスの武装。
小口径の狙撃銃では高度を取れば当たっても意味がないので無力化できる。
上を押さえた以上、グロウモスの取れる手はそう多くない。
ヨシナリが高度を落とすのを待つか、一か八かで空中戦を挑むかだ。
後者の可能性は非常に低い。
ステルスに力を入れている彼女がそれを放棄するとは考え難いからだ。
自らの長所を殺す思い切りの良さはヨシナリの見立てではなさそうだった。
そうなれば隠れて隙を窺う事になるだろうが、ヨシナリにはシックスセンスがあるので上からは丸見えだ。 防護幕でレーダーやセンサーを静音フィールドで音を消してはいるが、シックスセンスには動体、熱源、エネルギー流動と観測手段は無数にあるので、全てに対応できない彼女にはどうしようもなかった。
見つけてしまえば後はアノマリーの最大出力で一撃入れて終了だ。
こちらが見つけた事を悟らせないように気を付けたのであっさりと命中。 そのまま撃破となった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる