Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第245話

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 片方はマルメルのアウグスト。 
 そしてもう片方のトルーパーにフォーカスするとウインドウにその姿がはっきりと映し出される。
 機体はソルジャーⅡ型なのだが、巨大な布ですっぽりと覆われていて良く分からない。

 持っているのは見えている範囲では狙撃銃のみ。 
 何か仕込んでいるのは明らかだが、それはこれから見る事になるだろう。

 「なにあの布」
 「レーダーやセンサーによる探知を防ぐ効果があります。 捲れると効果がなくなるので割と動く俺としては微妙な装備です」
 「ふーん。 ならあの子はあんまり動かへん感じなのかな?」
 「その辺は何とも」

 機体名は『ハイディングモッスィー』ステージはお馴染みの市街地なのでどう動くのかは参考になりそうだった。 カウントダウンが始まり、試合が開始される。
 真っ先に動いたのはマルメル。 レーダーには映らないが初期配置はほぼ決まっているので真っすぐに突っ込んでいく。 これは練習試合だからこその手ではあった。

 対するグロウモスは高所を取りに行くのかと思いきや、少し離れたビルに向けて空いた腕を伸ばす。
 腕にボリュームがある所を見ると何かを仕込んでいるようだが、疑問の答えはすぐに出る。
 アンカーだ。 射出された鉄の杭が少し離れたビルに突き刺さり、機体が宙に浮く。

 見えないがワイヤーか何かで繋がっているのか目を凝らすと光る何かが見える。
 そのまま巻き取って機体が移動。 驚くべき事に音がしない。

 「えらい静かやね」

 ふわわが不思議そうに首を傾げるが、ヨシナリは手品の種に心当たりがあった。

 「あー、多分ですけど静音フィールド発生装置でしょう」
 「何それ?」
 「名前の通り装置を中心に一定範囲の音を消す装置ですね。 光学迷彩みたいに姿を消してくれる訳でも防御能力がある訳でもないので隠密向きの装備ですね」
 「光学迷彩の方がええんと違う?」
 「燃費がいいんですよ」

 ふわわの疑問にヨシナリが即答する。 
 静音フィールド発生装置などはヨシナリの戦闘スタイル的に使えないかを検討した事があったので少し調べた事があったのだ。 光学迷彩と比較すると安価、携帯性、低燃費と優れている点は多いが、音を消す事しかできないので場合によっては前に出るヨシナリのプレイスタイルとは噛み合わなかった。

 「アレはずっと音消せるん?」
 「いえ、適度に休ませないと装置が強制冷却に入るんで無理ですね。 連続して使いたいなら三つぐらい装備してローテーション組めばまぁ、制限時間は気にしなくてもいいでしょうね」

 低燃費とはいっても比較的といったレベルだ。 
 ジェネレーターの出力を喰う関係で使いっぱなしはあまり賢い使い方とは言えない。 
 ヨシナリはふむと観察を続ける。 戦い方はセンドウとフカヤを足して二で割ったような印象だった。 隠密しつつ狙撃を行うのは一対一では割と難しいがどう動くのだろうか。

 見ている間にマルメルが近くまで来るが、当然ながらグロウモスの存在に気付いていない。 
 彼女はどう動くのか? 見ている間にグロウモスはすっとビルの陰から身を低くして狙撃銃を連射。
 無音で発射されたライフル弾がマルメルの背後から膝裏を撃ち抜く。 だが、小口径な上、先端には抑制器サプレッサーを装着している関係で威力はそう高くない。

 気づいたマルメルは即座に振り返って突撃銃を連射。 
 反応の速さは流石だがグロウモスは即座に離脱しており、既に建物の屋上だ。
 狙撃地点の真上になるように移動しているのはマルメルの動きを誘導する為だろう。

 マルメルが真下に来たと同時に三連射。 
 頭部に命中し、センサー類が集中している部分を破壊する。 
 
 「うわ、えげつないなぁあの娘」
 「徹底して気配を消すのはこの為か」

 グロウモスは最初から狙撃で一撃なんて狙っていなかったのだ。  
 自身の位置を悟らせないようにしつつ、チクチクと死角から攻撃を続ける。
 フカヤとはまた違ったステルススタイル。 撃ったと同時に位置を変えて仕掛け、追ってきた敵を引きずり回す。 マルメルが反撃に移った頃にはグロウモスは既にビルから降りて地上だ。

 「うーん、流石はEランク。 ヨシナリ君はどうやって捕まえる?」
 「一度でも捕捉出来たら勝ち筋が見えるんで下手に仕掛けずに動き回ってどうにか引っ張り出すって感じですかね」

 グロウモスの戦い方は一度でも完全に捕捉されれば効力が大きく落ちる。
 見つからないからこそ一方的に攻撃できるので、そのアドバンテージを守る事が彼女の戦い方の主軸。 敵の動きを読み切り、自らの位置を晒さずに勝つ。

 それがグロウモスの戦闘スタイル。 
 恐らくは狙撃主体で個人戦を勝ち抜く為に編み出した戦い方なのだろう。
 自身の攻撃すら相手を誘導する為の布石。 かなり緻密に計算された戦い方と言える。
 
 「あー、マルメルの奴、相当イラついてるなぁ」
 「そら、あんなんされたら堪らんやろ」

 完全に術中に嵌まったマルメルは見ている間にどんどん挙動が乱暴になっていく。
 怪しい場所に銃弾を撃ち込み、どうにか炙り出そうとしているようだ。
 その間、グロウモスは冷静に狙撃銃を背にマウントした後、腰からややバレルの長い拳銃を抜く。

 やや古めかしいデザインで、ヨシナリには見覚えのないタイプだった。
 グロウモスは特に焦った様子もなく、銃身を掴んで折る。 所謂、中折式の拳銃で大きな空洞が露出し、そこにかなり大きな弾丸を押し込む。 ゆっくりとした動作で銃身を戻し、すっと冷静に構える。

 マルメルは気付いていないがまだ撃たない。 恐らくは弾が切れる瞬間を狙っているのだろう。
 今のままでも充分に当てられる位置だが、外す確率を下げる為に待っているのだ。
 マルメルの意識がリロードに傾くのを。 

 「あの銃が切り札かな?」
 「でしょうね。 小口径のライフルを使っている時点で妙だなとは思ってたんですが、足を狙って機動力を削ぎ、頭部を狙って視野を奪ったのも今の一撃を放つ為の布石でしょう」

 思い返せば彼女の立ち回りは回避されるリスクを削ぎ落す為の物だったのだろう。
 その全てを集約させた一撃こそあの弾丸。 当てれば仕留められると確信しているといった様子が窺える。 

 ――このままじゃ負けちまうぞ。

 ヨシナリは内心でいい所を見せてくれよと念じながらも言葉には出さずに戦況を見守る。
 見ている先でマルメルは弾が切れた突撃銃のリロード作業に入った。
 狙うならここだろう。 グロウモスは隠れていたビルの陰から銃弾を放つべく飛び出した。
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