Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
240 / 466

第240話

しおりを挟む
 「いまいち理解してないんだが、俺ってなんでやられたんだ?」

 最後に見えたあの槍、恐らくはバイク乗りの仕業だろうがいつの間に来たんだ?
 
 「あのバイク乗りのAランクだよ」
 「それは分かるんだが、一応は全方位に気を配ってたんだけど何で喰らったのか分からない」
 「あぁ、それなら俺でも分かるぞ。 やられた後、見てたんだけどあのバイク乗りはあの蜘蛛と一緒にカナタを仕留めようとしてたんだけど実はお前を狙ってたみたいで、突撃かます際にカナタとお前が重なるタイミングで突っ込んでいったんだ」
 
 別の相手を狙っているように見せていたから無意識に来ないと認識していたのか。
 乱戦でのシックスセンスの運用にはまだまだ課題が多いなと小さく溜息を吐く。
 情報量が多すぎて処理しきれなかったのだ。 

 「頭では分かっていたつもりだったんだが、サーバー対抗戦クラスの規模になるとまだまだだなぁ」
 「次までの宿題だな。 それよりも俺こそあっさり沈んで悪いな」
 「いや、謝るのは俺の方だ。 擦り付ける形になってしまってすまん」
 
 マルメルは「お互い様だな」と小さく肩を竦めるとウインドウを可視化。

 「反省会するのもいいが、イベント自体はまだ終わってないから応援でもしようぜ」
 「そうだな」

 マルメルが表示させた戦場の映像にはふわわの姿が映っていた。


 左、右、下、刺突。 敵はAランクだけあって攻撃は非常に鋭い。
 次々と繰り出される斬撃をふわわは小太刀で次々といなす。
 面白い相手、面白い動きだ。 武器は手の甲から伸びる三本の爪。

 実体の刃に見えるが、数度受けただけで小太刀の刃が傷み始めていた。
 それなり以上に頑丈な素材の刀だったのだが、五回も受けない内に刃毀れしてしまっている。
 
 ――受けるのはあかんかー。

 動きに関しても素晴らしい。 回転の速い攻撃、特に初速――出が速すぎてタイミングを取り辛い。
 この距離で受けに回らされるのは流石はAランクといった所だろうか?
 特に足の使い方が上手い。 緩急をつけた足捌きで間合いを微妙に変えてくる。

 恐らくは逆関節の脚部の所為だろう。 
 人間で言う爪先立ちのような姿勢が影響を及ぼしていると見ていい。 
 鳥の歩行にも似た跳ねるようなステップも面白い。 

 ――もうちょっと見てたいけどそろそろやなぁ。

 本来ならもっとじっくりと動きを観察していたかったが、今回は乱戦となるので早めに仕留めに行かないと邪魔が入る。 ふわわはふぅと大きく呼吸して心を落ち着けて集中力を高めた。
 動きは速いが攻撃の組み立てのバリエーションはそう多くない。 恐らくは不要だからだろう。
 
 あれほどの攻撃速度があるなら大抵の相手はまともに受けきれずにあっさりと沈む。
 相手は利き腕がそうなのか最初は左からが多い。 その左も大抵は殴るような刺突。
 放物線を描くような一撃、その後は状況に応じて右。 来るのは大抵脇腹を狙ったフックか掬い上げるようなアッパー。 ステップの入り方等を見ると剣というよりは拳が異様に伸びるボクサーと認識した方がしっくりくる。

 それだけ分かれば仕留めるまでの道も付けられるので、後は誘い込むだけだ。
 左の一撃。 体を傾けつつ爪の間に小太刀を差し込んで止めるが、耐え切れずに刃が砕け散る。
 僅かに体勢を崩したふわわを見て勝負所と判断して下から右。 威力のあるショートフックで胴体を貫くつもりだろう。 ここだ。

 ふわわは残りの小太刀を手放し、下がらずに前に出る。 
 爪が一本脇腹を抉るが、無視して抱き着ける距離まで接近。

 「つーかまえーた」

 そのまま右腕を掴んだまま敵機の体を巻き込み、自機の腰に乗せてそのまま地面に叩きつける。
 柔道の大腰という腰技だ。 ズシンと重たい音がして砂煙が舞う。
 
 「こうなったら自慢の足は使えへんやろ」

 そのまま流れるように敵機の上腕を両足で挟んで固定。 
 腕挫十字固。 人間で言う骨盤付近を支点にして捻り上げる。
 
 「ほい、いただき」
 
 バキリと嫌な音がして敵機の腕が肩の辺りから引き千切れる。 
 それにより拘束が解け、敵機が素早く立ち上がりる。 そのまま残った腕でふわわを切り裂こうとするが、べしゃりと頭部に液体がかかる。 グルーキャノンだ。
 
 最初は透明だった液体がパキパキと白濁して硬化。 敵機の視界を塞ぐ。
 咄嗟に拭おうとしたのが事態の悪化を招き残った腕まで固まってしまった。
 危険と判断し、距離を取ったのが決め手。 そこまで読み切っていたふわわは既に野太刀を抜刀する体勢に入っていた。 前が見えない敵機はどうにか視界を確保しようとやや強引にグルーを剥がそうとするがもう遅い。 

 野太刀を一閃。 液体金属刃の刃は見た目以上の長さを持って敵機を両断した。
 

 「うわ、ふわわさんやべーな。 Aランクを単騎で撃破しちまったぞ」
 
 ヨシナリもマルメルとまったく同じ気持ちだった。
 敵機は間違いなく近接戦のエキスパートだ。 特徴的な逆関節の脚部と腕のクロー。
 恐らくは何らかの機能を備えた特別製だろう。 独特なステップと異様なまでに回転の速い攻撃。
 
 Aランクに相応しい実力者といえる。 そんな相手にふわわは数度の攻防で動きの癖を掴んで武器の破壊を囮に懐に飛び込んだ後、投げ技で地面に叩きつけて動きを封じ、腕を関節技で破壊。
 格下に手酷い損傷を与えられてプライドを傷つけられたのか、Aランクは拘束が解けたと同時に反撃を選択。 あの機体の真髄はステップと両腕を用いたコンビネーション。

 片腕になった以上、強みが死んでしまっている。 
 そんな有様でふわわに仕掛けるのは自殺行為でしかなかった。
 動きに合わせて顔面にグルーをぶっかけられ、咄嗟に拭おうとした結果、頭部と腕が固まり攻撃が出来なくなった。 その時点で勝てないと諦め、撤退を選んで距離を取ったのだが、それが致命的。

 野太刀による一撃で両断。 撃破となった。

 「ヨシナリ、お前よくあれに勝てたな」
 「自分でもびっくりしてる」

 明らかに前に戦った時よりも強くなっていた。
 ふわわはかなり機体に負担のかかる動きをしたのか、動きが悪い。
 どうするのかと見ていると後退を開始、拠点に引き上げて補給と整備を行いに戻るようだ。

 ヨシナリはマルメルに許可を取ってウインドウを操作。 
 視点を移動させて他の戦いへフォーカスする。
 まずはポンポン達。 仕切ると言った手前、どうなったのかと見るとしっかり生き残っていた。 

 それにほっと胸を撫で下ろし、カナタの方を見るとちょうど蜘蛛を仕留めていたのでこちらも問題なさそうだ。 ツガルを探したが、いなかったので確認するといつの間にか撃破されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

Panssarivaunu Saga

高鉢 健太
SF
ふと気が付くとどうやら転生したらしい。 片田舎の村でのんびりスローライフが送れていたんだけど、遺跡から多脚戦車を見つけた事で状況が変わってしまった。 やれやれ、せっかくのスローライフを返してほしい。 ビルマの鉄脚の主人公「戦闘騎」を魔法世界へ放り込んでみた作品。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

処理中です...