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第238話
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堅牢さを誇るAランクの機体――その胴体に向こうが見えそうなレベルの風穴が開いている。
「は、はは、マジかよ」
それをやった当人は驚きのあまり声が震えていた。
マルメルは目の当たりにしてなお、自分が大金星を上げた事が信じられないのか冷却中のハンドレールキャノンと爆散した敵機を見比べている。
ヨシナリはその結果にほっと胸を撫で下ろす。
あのAランク機体の特性に関しては一通り見た事もあって条件さえ満たせば撃破は比較的ではあるが、容易だった。
――分かり易い弱点が二つもあったからなぁ……。
一対一の対戦であるなら突く事は難しかったかもしれないが、これは集団戦だ。
数の利を十二分に活かさせて貰った。 あのAランク機体、一見して穴がない堅牢な機体と思われがちだが、大きな穴が開いていたのだ。
第一に熱波を放出する際にエネルギーフィールドが消失する事。
恐らく展開したままだと自機が蒸し焼きになるからだ。
つまり放出の瞬間は防御能力が大きく低下する。 これが一つ目の弱点。
そして二つ目。 ヨシナリに言わせればこれは割と致命的で、熱波の放出は機体の冷却も兼ねているので一定以上の蓄積は機体のパフォーマンス低下に繋がるのでいつまでも溜め込んで置く事ができない。
そして機体を行動不能にするレベルの熱波を生み出す為には相応の熱量が必要だ。
――つまり使えるタイミングを自分で選べない。
最後にヨシナリにはシックスセンスという相手の熱の変動を観測するセンサーシステムが搭載されている。 これだけの情報と手札があれば攻略は容易い。
問題はあの重装甲を貫通させる武器だが、幸いな事に当てがあった。
マルメルだ。
ちょうど少し離れた所で『大渦』の面子に混ざって戦っていたので、こっそりと来てもらっていたのだ。 彼に出した指示は非常に簡単でステルスマント――機体を探知され難くするための布を被って身を隠しつつ接近し、合図したタイミングでぶっ放せという物だった。
マントに関しては『大渦』のメンバーに持っている者がいたので頼んで貸して貰ったようだ。
そこそこ離れた位置からでないと探知される危険があるので当てられるのかは微妙な距離だったが、ここ最近は一発を狙う為に練習しているとふわわから聞いていた事もあって分の悪い賭けではないと判断し、この重要な局面を任せる事にしたのだ。
――マルメルはその期待に最高の形で応えてくれた。
ハンドレールキャノンから放たれた一撃は敵機の複合装甲をあっさりと貫通し、文字通り風穴を開けた。 あの武器は使い勝手が悪い代わりに威力は絶大だ。
重装甲のジェネシスフレームであろうともまともに喰らえばまず即死する。
ヨシナリがマルメルにそんな武器を薦めたのは相手への動きを牽制する為だ。
当たらないと分かっていても当たれば終わる武器を相手が持っているという事実は僅かながらも圧を与える。 一発撃って見せて意識させるとなおいいが、迂闊に離れすぎると不味いと思わせるだけで充分と言える。 元々、マルメルは中距離戦を得意としたプレイヤーだ。
その為、射程外の遠距離から一方的に攻撃される事に弱い。
知られてしまえば執拗にそこを突かれる事となるだろう。 なら、どう克服するか?
それが大砲を持っているとアピールする事だ。 あれがあると相手は迂闊に距離を取れなくなる。
彼の腕で当てる事は難しい。 だが、当たるかもと思う相手は離れすぎる事が出来なくなる。
結果、脅威度を正しく認識しているプレイヤーほど、彼の土俵である中距離で戦う事を余儀なくされるのだ。 当然ながら通用しない場合もある。
自身の技量に自信がある、ハンドレールキャノンの脅威度を正しく認識できない。
要因は様々あるが、そういった相手は一定数は必ずいる。 だが、ヨシナリとしては上に行けば行くほど慎重なプレイヤーが増えると思っているのでハッタリでも効果があると思っていた。
――そんな理由で勧めたのだが、マルメルはハッタリではなく使いこなそうとしている様だ。
ふわわとの練習試合で色々と模索しているとの事だったので今回はその熱意に賭けたのだ。
「ナイスだマルメル! 助かったぜ!」
「お、おう、まさか当たるとは思わなかった」
「はは、当たったし結果オーライ――マルメル!」
ヨシナリが咄嗟に警告を飛ばすが、僅かに遅かった。
仲間をやられた逆関節がマルメルに狙いを定めたのだ。 カナタに仕掛けると見せかけて突っ込んでいったので反応が遅れてしまった。 ポンポンと彼女の仲間達がフォローしようと銃撃するが、当たらない。
マルメルも自分が狙われていると理解していたので突撃銃を連射して相手を近寄らせまいとしたが、Aランク相手にはあまり意味がなく、あっさりと間合いを詰められる。
伸びた爪がマルメルの機体を引き裂こうとするが、直前で急停止。 後ろに下がったと同時に地面を何かが切り裂く。 何だと訝しむ者が多かったが、一度見ているヨシナリからすれば誰なのかすぐに分かった。
「そういえば最前線にいるって言ってたな」
「ちょっと見いひん内におもろい事になっとるやん。 ウチも混ぜてぇな」
液体金属刃。 ふわわだ。
「もしかしてタイミングを窺ってました? 美味しすぎでしょ?」
「いややわぁ。 ウチがそんな事する訳ないやん」
「ごもっとも」
強そうな相手を見ると大喜びで斬りかかるのが彼女だ。
恐らくはさっきの通信を聞いて面白そうだと戻ってきたのだろう。
「そんな事より、マルメル君には声をかけてウチはスルーとか酷くない?」
「いえいえ、お楽しみ中だと思ったので俺なりに気を利かせた結果ですよ」
「そう? まぁ、そういう事にしとこか?」
逆関節のAランクはふわわの機体を脅威をみなしたのか、僅かに身を沈めて警戒を露わにする。
「おもろい形してるね。 関節が逆やん」
「Aランクです。 強敵ですよ」
「そら楽しみや。 さっきのもAやったけど固いだけで大した事なかったからこっちは楽しませてくれるんやろか?」
ふわわは太刀と小太刀を抜いて構える。
「こっちはえぇから他を助けに行き」
要は邪魔するなという事だろう。
ヨシナリは「了解」とだけ答え、遠慮なくこの場を彼女に押し付けた。
周囲の機体が離れた所でふわわは目の前の敵に意識を集中。
「じゃあ始めよか」
それが合図だったかのように二機は同時に地を蹴った。
「は、はは、マジかよ」
それをやった当人は驚きのあまり声が震えていた。
マルメルは目の当たりにしてなお、自分が大金星を上げた事が信じられないのか冷却中のハンドレールキャノンと爆散した敵機を見比べている。
ヨシナリはその結果にほっと胸を撫で下ろす。
あのAランク機体の特性に関しては一通り見た事もあって条件さえ満たせば撃破は比較的ではあるが、容易だった。
――分かり易い弱点が二つもあったからなぁ……。
一対一の対戦であるなら突く事は難しかったかもしれないが、これは集団戦だ。
数の利を十二分に活かさせて貰った。 あのAランク機体、一見して穴がない堅牢な機体と思われがちだが、大きな穴が開いていたのだ。
第一に熱波を放出する際にエネルギーフィールドが消失する事。
恐らく展開したままだと自機が蒸し焼きになるからだ。
つまり放出の瞬間は防御能力が大きく低下する。 これが一つ目の弱点。
そして二つ目。 ヨシナリに言わせればこれは割と致命的で、熱波の放出は機体の冷却も兼ねているので一定以上の蓄積は機体のパフォーマンス低下に繋がるのでいつまでも溜め込んで置く事ができない。
そして機体を行動不能にするレベルの熱波を生み出す為には相応の熱量が必要だ。
――つまり使えるタイミングを自分で選べない。
最後にヨシナリにはシックスセンスという相手の熱の変動を観測するセンサーシステムが搭載されている。 これだけの情報と手札があれば攻略は容易い。
問題はあの重装甲を貫通させる武器だが、幸いな事に当てがあった。
マルメルだ。
ちょうど少し離れた所で『大渦』の面子に混ざって戦っていたので、こっそりと来てもらっていたのだ。 彼に出した指示は非常に簡単でステルスマント――機体を探知され難くするための布を被って身を隠しつつ接近し、合図したタイミングでぶっ放せという物だった。
マントに関しては『大渦』のメンバーに持っている者がいたので頼んで貸して貰ったようだ。
そこそこ離れた位置からでないと探知される危険があるので当てられるのかは微妙な距離だったが、ここ最近は一発を狙う為に練習しているとふわわから聞いていた事もあって分の悪い賭けではないと判断し、この重要な局面を任せる事にしたのだ。
――マルメルはその期待に最高の形で応えてくれた。
ハンドレールキャノンから放たれた一撃は敵機の複合装甲をあっさりと貫通し、文字通り風穴を開けた。 あの武器は使い勝手が悪い代わりに威力は絶大だ。
重装甲のジェネシスフレームであろうともまともに喰らえばまず即死する。
ヨシナリがマルメルにそんな武器を薦めたのは相手への動きを牽制する為だ。
当たらないと分かっていても当たれば終わる武器を相手が持っているという事実は僅かながらも圧を与える。 一発撃って見せて意識させるとなおいいが、迂闊に離れすぎると不味いと思わせるだけで充分と言える。 元々、マルメルは中距離戦を得意としたプレイヤーだ。
その為、射程外の遠距離から一方的に攻撃される事に弱い。
知られてしまえば執拗にそこを突かれる事となるだろう。 なら、どう克服するか?
それが大砲を持っているとアピールする事だ。 あれがあると相手は迂闊に距離を取れなくなる。
彼の腕で当てる事は難しい。 だが、当たるかもと思う相手は離れすぎる事が出来なくなる。
結果、脅威度を正しく認識しているプレイヤーほど、彼の土俵である中距離で戦う事を余儀なくされるのだ。 当然ながら通用しない場合もある。
自身の技量に自信がある、ハンドレールキャノンの脅威度を正しく認識できない。
要因は様々あるが、そういった相手は一定数は必ずいる。 だが、ヨシナリとしては上に行けば行くほど慎重なプレイヤーが増えると思っているのでハッタリでも効果があると思っていた。
――そんな理由で勧めたのだが、マルメルはハッタリではなく使いこなそうとしている様だ。
ふわわとの練習試合で色々と模索しているとの事だったので今回はその熱意に賭けたのだ。
「ナイスだマルメル! 助かったぜ!」
「お、おう、まさか当たるとは思わなかった」
「はは、当たったし結果オーライ――マルメル!」
ヨシナリが咄嗟に警告を飛ばすが、僅かに遅かった。
仲間をやられた逆関節がマルメルに狙いを定めたのだ。 カナタに仕掛けると見せかけて突っ込んでいったので反応が遅れてしまった。 ポンポンと彼女の仲間達がフォローしようと銃撃するが、当たらない。
マルメルも自分が狙われていると理解していたので突撃銃を連射して相手を近寄らせまいとしたが、Aランク相手にはあまり意味がなく、あっさりと間合いを詰められる。
伸びた爪がマルメルの機体を引き裂こうとするが、直前で急停止。 後ろに下がったと同時に地面を何かが切り裂く。 何だと訝しむ者が多かったが、一度見ているヨシナリからすれば誰なのかすぐに分かった。
「そういえば最前線にいるって言ってたな」
「ちょっと見いひん内におもろい事になっとるやん。 ウチも混ぜてぇな」
液体金属刃。 ふわわだ。
「もしかしてタイミングを窺ってました? 美味しすぎでしょ?」
「いややわぁ。 ウチがそんな事する訳ないやん」
「ごもっとも」
強そうな相手を見ると大喜びで斬りかかるのが彼女だ。
恐らくはさっきの通信を聞いて面白そうだと戻ってきたのだろう。
「そんな事より、マルメル君には声をかけてウチはスルーとか酷くない?」
「いえいえ、お楽しみ中だと思ったので俺なりに気を利かせた結果ですよ」
「そう? まぁ、そういう事にしとこか?」
逆関節のAランクはふわわの機体を脅威をみなしたのか、僅かに身を沈めて警戒を露わにする。
「おもろい形してるね。 関節が逆やん」
「Aランクです。 強敵ですよ」
「そら楽しみや。 さっきのもAやったけど固いだけで大した事なかったからこっちは楽しませてくれるんやろか?」
ふわわは太刀と小太刀を抜いて構える。
「こっちはえぇから他を助けに行き」
要は邪魔するなという事だろう。
ヨシナリは「了解」とだけ答え、遠慮なくこの場を彼女に押し付けた。
周囲の機体が離れた所でふわわは目の前の敵に意識を集中。
「じゃあ始めよか」
それが合図だったかのように二機は同時に地を蹴った。
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