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第237話

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 放たれたのは赤い光のような何か。
 範囲は機体を中心にドーム状。 範囲は――六十から七十メートル。
 連中が距離を取る訳だと納得しつつ、ヨシナリはシックスセンスから得た情報から今の攻撃の正体を分析。 恐らくは熱波のような物を短時間放射して敵機を焼く代物なのだろう。

 逃げ切れなかった機体を見る。 機体へのダメージ自体はそこまでではないが、内部に許容量を遥かに超える熱が溜まり、強制冷却の為に行動不能になっていた。
 要はオーバーヒートを起こしているので排熱が完了するまで動けないのだ。

 ――厄介な。
 
 敵機はまともに動けなくなった機体を狙って自前の武器を連射。
 ガトリング砲が味方のエンジェルタイプを粉々にし、エネルギー砲がキマイラタイプやソルジャータイプを消し飛ばす。 当然ながら「豹変」のメンバーも黙って見ている訳もなく、即座に反撃に転じる。

 敵機はフィールドを展開せずに後退したが、鈍重な動きで逃げ切れる訳もなく無数の銃弾やエネルギー弾が標的を捉える。
 ――が、展開されたフィールドに阻まれて届かない。
 そこから先はさっきと同じ展開だ。 相手の防御を貫けずにひたすらの削り合い。
 
 ――なるほど。

 「今の攻撃で何かわかったか?」
 
 近寄って来るポンポンに頷きで答える。

 「取り敢えず今の攻撃の正体は機体内部に溜め込んだ熱を放出して敵機の機体温度を急上昇させる代物みたいです。 まともに喰らうと強制冷却させられるので身動きが取れなくなりますね」

 トルーパーには安全装置が付いているので内部機構が破損するような挙動は取れないようになっている。 その為、強制冷却が始まると身動きが取れなくなるのだ。
 敵機の攻撃はそれを利用した物なのだろう。 トルーパーという存在の欠陥を突くような攻撃手段はなるほどと思わせる。 ただ、無敵かと聞かれるとそうでもない。

 「厄介だナ。 熱を吐き出すって事は排熱を兼ねてるのか?」
 「はい、それで間違いないと思います」
 「うーん、どうしたものか……」
 「そうでもないですよ」 

 ポンポンは小さく唸るがヨシナリは突破口があると口にする。

 「本当か?」
 「えぇ、初見だと割とヤバい代物ですが、こちとら最高級のセンサーシステムでばっちり見ましたからね。 弱点っぽいのも見えましたよ」
 「流石だナ! 覗きに関してはお前の右に出る奴はいねーナ!」
 「言い方」

 実際、弱点らしきものを二つも見つけたので派手な分、脇が甘い機体ではあると思った。
 
 「で? どうするんだ?」
 「一人じゃ厳しいんで何人か借りられません?」
 「いいぞ。 ここはお前が仕切れ」

 即答。 ヨシナリはポンポンの返答に少しだけ驚いたが、ややあって小さく笑う。

 「了解。 後悔はさせませんよ!」

 ヨシナリの指揮の下、戦場の動きが僅かに変化した。

 
 
 ――動きが変わった。

 ヨシナリ達の動きの変化を敏感に察知したアメリカのAランカー『アンドリュー』は自身の愛機である『フォーマルハウト』を操作し、攻撃を継続しつつ抜かりなく警戒する。
 超が付くこの重量系の機体を手足のように操る彼ではあったが、攻撃手段が面制圧に偏っているので命中精度自体はお世辞にも高くはない。 そんな彼の戦い方は『耐えて勝つ』だ。

 敵の攻撃を耐えて耐えて耐え抜き。 相手が力尽きた時にとどめの一発を喰らわせる。
 持久力と忍耐力には自信がある彼ならではの戦い方といえた。
 ジェネレーターの出力を確認しながらエネルギーフィールドを維持しつつ、攻撃を繰り返す。

 先述の通り、彼の戦い方は耐える事を主眼に置いている事もあって、攻撃をばら撒きこそするがそこまで本気で当てる気はなかった。 本命は彼の機体に搭載された切り札にある。
 特殊排熱ジェネレーター『ファム・アル・フート』ヨシナリは兵器と認識していたが、実際はジェネレーター兼冷却装置だ。 フォーマルハウトの燃費の悪さを補いつつ、機体内部の熱を吸収する役割を担っている。 そして溜め込んだ熱を攻撃に変換し、敵機の動きを封じるのだ。

 敵の攻撃をひたすらに耐えて溜め込んだ熱をファム・アル・フートで放出。
 敵機の動きを封じてとどめを刺す。 それがAランクプレイヤーアンドリューの戦い方。
 単純故に穴が少なく、単純故に突破が難しい。 だがらと言って弱点がない訳ではない。

 まずは排熱の瞬間。 
 排熱中はエネルギーフィールドの展開ができないので防御力が大きく低下する。
 彼が負ける時は大抵この瞬間を狙われて沈む。 当然ながら自分の弱点をよく理解しているアンドリューは対策を講じている。 フォーマルハウトには極限まで耐弾性能を上げた分厚い複合装甲に表面には対エネルギー兵器用のコーティング剤(最高級)を惜しみなく使用しているのでトルーパーの携行武器程度では早々貫通しないと自負していた。

 それでも何度も同じ個所に喰らえば危険ではあるが彼にとって戦いは我慢比べなので、勝ちに焦る相手がそこまで彼を追い込む事はないと確信している。
 今回も敵の数が多いだけでやる事は何ら変わらない。 熱を溜めて吐き出し、動けなくなった敵を仕留める。 だからと言って何も考えていない訳ではないが。

 弾丸をばら撒きながら敵機の動きを観察する。 最初は機動力の差を活かして死角から散発的に攻撃して削る事を目的としていたが、今は一点を狙って火力を集中している。
 明らかにフィールドの突破を狙っていたが無駄な事だ。 確かに喰らいすぎるとジェネレーターの出力を超過して貫通はされる。 しかし、その瞬間には排熱に必要なエネルギーが溜まっているので熱波でそのまま焼き尽くす。 

 ピンポイントで高火力を叩きこみたいと思っているのかもしれないが、フォーマルハウトは伊達に重量系の機体ではない。 ファム・アル・フートと通常のジェネレーター、大型コンデンサーによってスタミナはジェネシスフレームの中でもトップクラス。 そう簡単に突破できる代物ではない。

 突破できるとしたら実体弾だが、複合装甲を貫ける銃はそう多くない。
 仮に条件を満たしていたとしても一発では無理。 少なくとも数発は必要だ。
 つまり、フィールドの突破すらできない連中にこの鉄壁の守りを破る事は不可能。

 ステータスを確認すると排熱に必要なエネルギーが溜まった。
 敵を引き付けて――解放。 アンドリューにとって我慢が実るこの瞬間は爽快感もあって好きだった。 熱波が敵に襲い掛か――

 「what?」

 自身の機体に起こった出来事が信じられずに思わずそう呟いた。
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