Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
235 / 456

第235話

しおりを挟む
 ――数十万、数百万の機体が飛び交うこの戦場。
 
 観察していると見えてくるものがある。 ヨシナリは徐々にだが、この戦場に適応しつつあった。
 アメリカ側は割合としてはキマイラタイプが非常に多い。 
 その為、能力的にもピンキリだ。 飛び方を見ているとそれがよく分かる。

 ホロスコープを戦闘機形態に変形させて敵機にアノマリーを撃ち込んで撃墜。
 特にこの乱戦ともいえる状況で敵機の撃墜に意識を向けすぎると自身の背後が疎かになる。
 そこを狙い撃てば撃墜はそう難しくない。 単純に撃墜数を稼ぎたいなら動きの悪い奴をひたすら狙えばいい。 あまり面白くはないが、ある程度撃墜しておかないとこのイベントは勝てなければ報酬は完全歩合制になるので多少はカウントを稼ぎに行く必要がある。

 ――今はとにかく金がないからなぁ……。

 キマイラ、エンジェルタイプは最終到達点のジェネシスフレームを除けば最高峰の機体だ。
 大半のプレイヤーはどちらか、もしくは両方を通る。 総合力で言うのならエンジェルタイプ一択だろうが、こうしてみるとプレイヤーによって適性があるのではないか? そう感じでしまう。

 事実としてキマイラタイプでエンジェルタイプを次々と撃墜しているプレイヤーも居れば、エンジェルタイプで碌に活躍できないプレイヤーもいる。
 見れば見るほどこのゲームはプレイヤースキルが物を言うと感じてしまう。

 強い機体を手に入れる事よりもいかに機体の性能を引き出せるのか。
 そんな能力を運営はプレイヤーに求めているのではないか? 
 果たして自分はどうなのだろうか? ヨシナリはホロスコープの性能を引き出せているのだろうか?
 
 少なくとも自分ではイメージ通りに動けており、完璧とは行かないが及第点のプレーをしていると自負している。 背後に張り付かれそうになったので機体を捩じりながら縦旋回、インメルマンターンを行って逆に敵機の背後を取って機銃を連射。 そのまま撃墜する。

 死ぬほど練習したのでこのぐらい挙動はスムーズに可能だ。 
 そこそこ動かせるようにはなったが、まだまだ覚えなければならないマニューバは多い。
 キマイラタイプを完全にマスターするには時間が必要だろう。

 ――つまりまだまだ伸び代があるって事だ。

 できなかった事ができるようになる――それはヨシナリにとって自身の成長を感じさせる瞬間で、自覚するとそれなり以上にいい気分になれる。 彼が地味なトレーニングを高いモチベーションを維持したまま長時間行える理由でもあった。 

 高いパフォーマンスを発揮するには日頃の反復練習が効果的。
 ヨシナリの持論ではあったが、少なくとも成果は出ているので間違ってはいないと彼は固く信じている。 正面からエネルギーライフルを連射してくるエンジェルタイプにすれ違い際に一撃。

 比較対象が多いので動きの良し悪しが何となく見えてくる。 
 加えて、シックスセンスによる情報の取捨選択にも徐々にだが慣れて来た。
 必要な情報をある程度ではあるが選別できるようになってきたので、より戦場が見えるようになってきたのだ。

 ――全方位に敵機が居るが俺に意識を向けているのは全体の二割も居ない。
 ――あぁ、あいつは目の前の敵を撃墜する事しか考えてない。

 ヨシナリは機体を操作。 急旋回。
 
 ――今狙うぞ。 装備はレーザー、エネルギーの充填を始めた。
 
 アノマリーを発射。 敵機に照準を合わせようとしていた敵機の腹を撃ち抜いて撃墜。
  
 ――読み通り。 今ので一部が俺に反応した。 こっちに来る。
 ――四機。 二機が上下、残りは後ろを取って追いかけ回す気だ。

 普段なら焦るが極限まで集中できているヨシナリにはもっと広く、多くの事が見えていた。
 これは個人戦ではなく、集団戦だ。 なら一機を撃墜する事に固執している連中など、取るに足らない。 

 加速。 敵機も僅かに遅れて加速。
 下の機体と上の機体がこちらにロックオン。 上はエネルギーを収束させている事からレーザー、下はミサイル。 背後の二機は機銃。

 撃って来ないのは味方への誤射を警戒しての事だ。 要は射線が通らないのでまだ撃てない。
 
 ――なら、撃ちたくなるようにしてやるよ。

 速度が乗っている事を確認してインメルマンターン。 
 現状で一番自信を持って扱える空戦機動がこれなので、回避の時は多用せざるを得ないが一番完成度の高い動きなのでそう簡単に見切らせはしない。 ホロスコープがUの字を描く機動で上昇。

 そうする事で腹を晒す事になり、敵機がそんな美味しい状態を見逃すはずがない。
 レーザー砲がこちらに向き、発射されそうとしていたが真下から来たエネルギーライフルに撃ち抜かれて爆散。 その間に下に居た敵機がミサイルを発射する。

 誘導機能は付いているが、機銃で数発撃墜すればそれで充分だ。
 何故なら――

 「オラオラー、ポンポンさまのお通りだゾ!」

 ミサイルの発射直後を狙われた敵機がいつの間にか背後に居たポンポンの機体に撃墜されたからだ。
 残りの機体もヨシナリだけに集中していた事もあって反応が僅かに遅れ、次々と撃墜される。

 ヨシナリは変形させて減速。 振り返るとポンポンと『豹変』のメンバーが居た。

 「よぉ、危ない所だったナ!」
 「助かりましたよ」
 「よく言う。 あたしらを見つけて狙い易い位置に誘導してただろ?」
 「美味しい獲物だったでしょう?」 
 「はは、違いない! ところでこれから『栄光』の連中を助けに行くんだが、良かったら一緒に来ないか? 今は少しでも戦力が欲しいからナ!」
 「俺で良ければ喜んで」

 返事をしながらヨシナリはマップで位置を確認。 少し離れているが、中々に良い位置だ。
 話によればAランクを四機も相手にしていてかなりの苦戦を強いられているとの事。
 Aランク。 撃墜報酬が美味しそうな相手という事もあったが、アメリカのランカーを観察するチャンスだ。 逃す手はない。

 
 ――そして今に至る。
 
 戦況は『栄光』が不利。 カナタが敵のAランクを四機も相手取る状況となっており、他のメンバーが取り巻きを抑えつつ彼女を援護するといった状態だった。
 同時に敵のジェネシスフレームを四機確認。 

 下半身が蜘蛛のような多脚型。 足が逆関節の人型。
 エア・バイクにまたがった騎兵。 そして重砲兵装の多脚。

 手強そうな機体だらけだ。 ただ、特定方向に突き抜けた性能をしているであろう事は明らか。
 偏った分だけ、弱点があるはずだ。 目的は『栄光』の支援だが、別に仕留めに行っても問題はない。 

 ――どれを狙うべきか――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ベル・エポック

しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。 これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。 21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。 負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、 そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。 力学や科学の進歩でもない、 人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、 僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、 負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。 約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。 21世紀民主ルネサンス作品とか(笑) もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正でリメイク版です。保存もかねて載せました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...