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第235話
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――数十万、数百万の機体が飛び交うこの戦場。
観察していると見えてくるものがある。 ヨシナリは徐々にだが、この戦場に適応しつつあった。
アメリカ側は割合としてはキマイラタイプが非常に多い。
その為、能力的にもピンキリだ。 飛び方を見ているとそれがよく分かる。
ホロスコープを戦闘機形態に変形させて敵機にアノマリーを撃ち込んで撃墜。
特にこの乱戦ともいえる状況で敵機の撃墜に意識を向けすぎると自身の背後が疎かになる。
そこを狙い撃てば撃墜はそう難しくない。 単純に撃墜数を稼ぎたいなら動きの悪い奴をひたすら狙えばいい。 あまり面白くはないが、ある程度撃墜しておかないとこのイベントは勝てなければ報酬は完全歩合制になるので多少はカウントを稼ぎに行く必要がある。
――今はとにかく金がないからなぁ……。
キマイラ、エンジェルタイプは最終到達点のジェネシスフレームを除けば最高峰の機体だ。
大半のプレイヤーはどちらか、もしくは両方を通る。 総合力で言うのならエンジェルタイプ一択だろうが、こうしてみるとプレイヤーによって適性があるのではないか? そう感じでしまう。
事実としてキマイラタイプでエンジェルタイプを次々と撃墜しているプレイヤーも居れば、エンジェルタイプで碌に活躍できないプレイヤーもいる。
見れば見るほどこのゲームはプレイヤースキルが物を言うと感じてしまう。
強い機体を手に入れる事よりもいかに機体の性能を引き出せるのか。
そんな能力を運営はプレイヤーに求めているのではないか?
果たして自分はどうなのだろうか? ヨシナリはホロスコープの性能を引き出せているのだろうか?
少なくとも自分ではイメージ通りに動けており、完璧とは行かないが及第点のプレーをしていると自負している。 背後に張り付かれそうになったので機体を捩じりながら縦旋回、インメルマンターンを行って逆に敵機の背後を取って機銃を連射。 そのまま撃墜する。
死ぬほど練習したのでこのぐらい挙動はスムーズに可能だ。
そこそこ動かせるようにはなったが、まだまだ覚えなければならないマニューバは多い。
キマイラタイプを完全にマスターするには時間が必要だろう。
――つまりまだまだ伸び代があるって事だ。
できなかった事ができるようになる――それはヨシナリにとって自身の成長を感じさせる瞬間で、自覚するとそれなり以上にいい気分になれる。 彼が地味なトレーニングを高いモチベーションを維持したまま長時間行える理由でもあった。
高いパフォーマンスを発揮するには日頃の反復練習が効果的。
ヨシナリの持論ではあったが、少なくとも成果は出ているので間違ってはいないと彼は固く信じている。 正面からエネルギーライフルを連射してくるエンジェルタイプにすれ違い際に一撃。
比較対象が多いので動きの良し悪しが何となく見えてくる。
加えて、シックスセンスによる情報の取捨選択にも徐々にだが慣れて来た。
必要な情報をある程度ではあるが選別できるようになってきたので、より戦場が見えるようになってきたのだ。
――全方位に敵機が居るが俺に意識を向けているのは全体の二割も居ない。
――あぁ、あいつは目の前の敵を撃墜する事しか考えてない。
ヨシナリは機体を操作。 急旋回。
――今狙うぞ。 装備はレーザー、エネルギーの充填を始めた。
アノマリーを発射。 敵機に照準を合わせようとしていた敵機の腹を撃ち抜いて撃墜。
――読み通り。 今ので一部が俺に反応した。 こっちに来る。
――四機。 二機が上下、残りは後ろを取って追いかけ回す気だ。
普段なら焦るが極限まで集中できているヨシナリにはもっと広く、多くの事が見えていた。
これは個人戦ではなく、集団戦だ。 なら一機を撃墜する事に固執している連中など、取るに足らない。
加速。 敵機も僅かに遅れて加速。
下の機体と上の機体がこちらにロックオン。 上はエネルギーを収束させている事からレーザー、下はミサイル。 背後の二機は機銃。
撃って来ないのは味方への誤射を警戒しての事だ。 要は射線が通らないのでまだ撃てない。
――なら、撃ちたくなるようにしてやるよ。
速度が乗っている事を確認してインメルマンターン。
現状で一番自信を持って扱える空戦機動がこれなので、回避の時は多用せざるを得ないが一番完成度の高い動きなのでそう簡単に見切らせはしない。 ホロスコープがUの字を描く機動で上昇。
そうする事で腹を晒す事になり、敵機がそんな美味しい状態を見逃すはずがない。
レーザー砲がこちらに向き、発射されそうとしていたが真下から来たエネルギーライフルに撃ち抜かれて爆散。 その間に下に居た敵機がミサイルを発射する。
誘導機能は付いているが、機銃で数発撃墜すればそれで充分だ。
何故なら――
「オラオラー、ポンポンさまのお通りだゾ!」
ミサイルの発射直後を狙われた敵機がいつの間にか背後に居たポンポンの機体に撃墜されたからだ。
残りの機体もヨシナリだけに集中していた事もあって反応が僅かに遅れ、次々と撃墜される。
ヨシナリは変形させて減速。 振り返るとポンポンと『豹変』のメンバーが居た。
「よぉ、危ない所だったナ!」
「助かりましたよ」
「よく言う。 あたしらを見つけて狙い易い位置に誘導してただろ?」
「美味しい獲物だったでしょう?」
「はは、違いない! ところでこれから『栄光』の連中を助けに行くんだが、良かったら一緒に来ないか? 今は少しでも戦力が欲しいからナ!」
「俺で良ければ喜んで」
返事をしながらヨシナリはマップで位置を確認。 少し離れているが、中々に良い位置だ。
話によればAランクを四機も相手にしていてかなりの苦戦を強いられているとの事。
Aランク。 撃墜報酬が美味しそうな相手という事もあったが、アメリカのランカーを観察するチャンスだ。 逃す手はない。
――そして今に至る。
戦況は『栄光』が不利。 カナタが敵のAランクを四機も相手取る状況となっており、他のメンバーが取り巻きを抑えつつ彼女を援護するといった状態だった。
同時に敵のジェネシスフレームを四機確認。
下半身が蜘蛛のような多脚型。 足が逆関節の人型。
エア・バイクにまたがった騎兵。 そして重砲兵装の多脚。
手強そうな機体だらけだ。 ただ、特定方向に突き抜けた性能をしているであろう事は明らか。
偏った分だけ、弱点があるはずだ。 目的は『栄光』の支援だが、別に仕留めに行っても問題はない。
――どれを狙うべきか――
観察していると見えてくるものがある。 ヨシナリは徐々にだが、この戦場に適応しつつあった。
アメリカ側は割合としてはキマイラタイプが非常に多い。
その為、能力的にもピンキリだ。 飛び方を見ているとそれがよく分かる。
ホロスコープを戦闘機形態に変形させて敵機にアノマリーを撃ち込んで撃墜。
特にこの乱戦ともいえる状況で敵機の撃墜に意識を向けすぎると自身の背後が疎かになる。
そこを狙い撃てば撃墜はそう難しくない。 単純に撃墜数を稼ぎたいなら動きの悪い奴をひたすら狙えばいい。 あまり面白くはないが、ある程度撃墜しておかないとこのイベントは勝てなければ報酬は完全歩合制になるので多少はカウントを稼ぎに行く必要がある。
――今はとにかく金がないからなぁ……。
キマイラ、エンジェルタイプは最終到達点のジェネシスフレームを除けば最高峰の機体だ。
大半のプレイヤーはどちらか、もしくは両方を通る。 総合力で言うのならエンジェルタイプ一択だろうが、こうしてみるとプレイヤーによって適性があるのではないか? そう感じでしまう。
事実としてキマイラタイプでエンジェルタイプを次々と撃墜しているプレイヤーも居れば、エンジェルタイプで碌に活躍できないプレイヤーもいる。
見れば見るほどこのゲームはプレイヤースキルが物を言うと感じてしまう。
強い機体を手に入れる事よりもいかに機体の性能を引き出せるのか。
そんな能力を運営はプレイヤーに求めているのではないか?
果たして自分はどうなのだろうか? ヨシナリはホロスコープの性能を引き出せているのだろうか?
少なくとも自分ではイメージ通りに動けており、完璧とは行かないが及第点のプレーをしていると自負している。 背後に張り付かれそうになったので機体を捩じりながら縦旋回、インメルマンターンを行って逆に敵機の背後を取って機銃を連射。 そのまま撃墜する。
死ぬほど練習したのでこのぐらい挙動はスムーズに可能だ。
そこそこ動かせるようにはなったが、まだまだ覚えなければならないマニューバは多い。
キマイラタイプを完全にマスターするには時間が必要だろう。
――つまりまだまだ伸び代があるって事だ。
できなかった事ができるようになる――それはヨシナリにとって自身の成長を感じさせる瞬間で、自覚するとそれなり以上にいい気分になれる。 彼が地味なトレーニングを高いモチベーションを維持したまま長時間行える理由でもあった。
高いパフォーマンスを発揮するには日頃の反復練習が効果的。
ヨシナリの持論ではあったが、少なくとも成果は出ているので間違ってはいないと彼は固く信じている。 正面からエネルギーライフルを連射してくるエンジェルタイプにすれ違い際に一撃。
比較対象が多いので動きの良し悪しが何となく見えてくる。
加えて、シックスセンスによる情報の取捨選択にも徐々にだが慣れて来た。
必要な情報をある程度ではあるが選別できるようになってきたので、より戦場が見えるようになってきたのだ。
――全方位に敵機が居るが俺に意識を向けているのは全体の二割も居ない。
――あぁ、あいつは目の前の敵を撃墜する事しか考えてない。
ヨシナリは機体を操作。 急旋回。
――今狙うぞ。 装備はレーザー、エネルギーの充填を始めた。
アノマリーを発射。 敵機に照準を合わせようとしていた敵機の腹を撃ち抜いて撃墜。
――読み通り。 今ので一部が俺に反応した。 こっちに来る。
――四機。 二機が上下、残りは後ろを取って追いかけ回す気だ。
普段なら焦るが極限まで集中できているヨシナリにはもっと広く、多くの事が見えていた。
これは個人戦ではなく、集団戦だ。 なら一機を撃墜する事に固執している連中など、取るに足らない。
加速。 敵機も僅かに遅れて加速。
下の機体と上の機体がこちらにロックオン。 上はエネルギーを収束させている事からレーザー、下はミサイル。 背後の二機は機銃。
撃って来ないのは味方への誤射を警戒しての事だ。 要は射線が通らないのでまだ撃てない。
――なら、撃ちたくなるようにしてやるよ。
速度が乗っている事を確認してインメルマンターン。
現状で一番自信を持って扱える空戦機動がこれなので、回避の時は多用せざるを得ないが一番完成度の高い動きなのでそう簡単に見切らせはしない。 ホロスコープがUの字を描く機動で上昇。
そうする事で腹を晒す事になり、敵機がそんな美味しい状態を見逃すはずがない。
レーザー砲がこちらに向き、発射されそうとしていたが真下から来たエネルギーライフルに撃ち抜かれて爆散。 その間に下に居た敵機がミサイルを発射する。
誘導機能は付いているが、機銃で数発撃墜すればそれで充分だ。
何故なら――
「オラオラー、ポンポンさまのお通りだゾ!」
ミサイルの発射直後を狙われた敵機がいつの間にか背後に居たポンポンの機体に撃墜されたからだ。
残りの機体もヨシナリだけに集中していた事もあって反応が僅かに遅れ、次々と撃墜される。
ヨシナリは変形させて減速。 振り返るとポンポンと『豹変』のメンバーが居た。
「よぉ、危ない所だったナ!」
「助かりましたよ」
「よく言う。 あたしらを見つけて狙い易い位置に誘導してただろ?」
「美味しい獲物だったでしょう?」
「はは、違いない! ところでこれから『栄光』の連中を助けに行くんだが、良かったら一緒に来ないか? 今は少しでも戦力が欲しいからナ!」
「俺で良ければ喜んで」
返事をしながらヨシナリはマップで位置を確認。 少し離れているが、中々に良い位置だ。
話によればAランクを四機も相手にしていてかなりの苦戦を強いられているとの事。
Aランク。 撃墜報酬が美味しそうな相手という事もあったが、アメリカのランカーを観察するチャンスだ。 逃す手はない。
――そして今に至る。
戦況は『栄光』が不利。 カナタが敵のAランクを四機も相手取る状況となっており、他のメンバーが取り巻きを抑えつつ彼女を援護するといった状態だった。
同時に敵のジェネシスフレームを四機確認。
下半身が蜘蛛のような多脚型。 足が逆関節の人型。
エア・バイクにまたがった騎兵。 そして重砲兵装の多脚。
手強そうな機体だらけだ。 ただ、特定方向に突き抜けた性能をしているであろう事は明らか。
偏った分だけ、弱点があるはずだ。 目的は『栄光』の支援だが、別に仕留めに行っても問題はない。
――どれを狙うべきか――
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