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第233話
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ランドルフ自身も理解はしていたのだ。
自身の攻撃が単調で読まれやすいと。 だが、彼はそれがどうしたと笑う。
単調であるなら来ると分かっていても躱せないほどに練り上げればいい。
彼は欠点を克服するよりも長所を最大限に伸ばす事のみを考えてここまで来たのだ。
だからお前はここが駄目だと言われたところでその通りだと笑って受け流す。
それは彼の欠点でもあるが、間違いなく大きな強みでもあった。
ふわわはランドルフの繰り出した斬撃を次々に躱すが、彼も馬鹿ではない。
何度も繰り返し、彼女の回避モーションを何度も見た。
そろそろ目が慣れて来た頃だ。 ふわわは確かに近接戦での立ち回りはランドルフよりも遥かに上を行っている。 しかし、人間である以上は何かしらの癖があるはずだ。
ランドルフは注意深く観察し、それをどうにか読み取ろうとする。
一番いいのは鍔迫り合いに持っていく事だ。 そうすれば彼女の武器を破壊する事ができる。
武器を破壊される事は自身の戦意を砕かれる事に等しい。 個人差はあるが、動揺はするはず。
振り幅が小さいとしてもそれは明確な隙として動きのリズムを崩す。
振り下ろしは無駄のない挙動で躱され、追撃の横薙ぎに繋げて刺突。
ふわわは横薙ぎを跳躍で躱し、刺突を空中でブースターを噴かして回避する。
その繰り返しだが、今回は違う。 刺突の二連撃を喰らわせる。
同じ攻撃の組み合わせで散々、意識に刷り込んで置いたのだ。 これは躱せないはずだ。
脳内でシミュレートして勝負に出る。 振り下ろし、予想とまったく同じ挙動で躱す。
横薙ぎの一撃、そして回避の為の跳躍――しない。
ふわわは驚くべき事に掻い潜って懐に入ってきたのだ。
流石にこれは想定していなかった。 ランドルフは驚きに目を見開く。
「単純なのはえぇけど、それがいつまでも通用すると思ってるのはちょっと舐めすぎと違う?」
『侮ってなどいないとも。 自身のスタイルを貫徹する。 それこそが我が騎士道!』
何の迷いもなくそう返すランドルフにふわわはつまらなさそうに「ふーん」と返すと指を揃えて腕を突きこんで来る。 所謂、貫手という奴だ。
当然ながらアウルムアーマーによって遮られる。 何が狙いかは不明だが、動きが止まったのなら好機。 何かする前に捉えて――
「抜ーけた」
――強引にアウルムアーマーを突破したふわわの腕から謎の液体が飛び出す。
頭部から胸部にかけて液体が叩きつけるようにぶちまけられた。
『ぐ、なんだこれは!?』
液体は瞬く間に白濁し、パキパキと音を立てて凝固を始める。
そこでこの液体がグルー――接着剤である事に思い至った。
グルーキャノンを内蔵している事を全く想定していなかったランドルフは僅かな時間だが、思考が真っ白になるがすぐに立て直す。 視界がほぼゼロになったが、センサー類はまだ生きている。
捕捉は可能だ。 そんな事よりもふわわの機体を捕まえる事が重要だ。
レザネフォルのパワーはソルジャータイプと比較にならない。
力比べなら絶対的な自信がある。 掴もうとして腕は空を切った。
センサー類はふわわの居場所を正確に捉えていたが、視界を封じられているとここまで間合いが図れないのかとランドルフは内心で歯噛みする。 だからと言って戦闘に支障はない。
『視界を封じたのは見事だが、この程度で我がアウルムアーマーは破れんよ!』
「ふーん? そう? ご自慢の金ぴか鎧、よーく見てみ?」
『何?』
ステータスをチェックするとアウルムアーマーにエラー。
エラー内容は噴出口に異物。 どうやらさっきのグルーが詰まって動かなくなったようだ。
だったらと出力を上げて強引に剥がそうとするが、機体内部の温度が急上昇するだけで詰まりは解消できない。
「宇宙船の修理に使うような代物やから簡単には剥がれんよ。 さて、鬱陶しい防御も剥がれたし、そろそろ終わりにしよか?」
『我がアウルムアーマーを封じた手腕は見事! だが、こちらには愛剣「アール・デコ」と――』
ランドルフの言葉は最後まで紡がれる事はなかった。
気が付けば胸部装甲の隙間を狙って太刀が突き立てられていたからだ。
アウルムアーマーなしでも堅牢を誇るレザネフォルの装甲を何の抵抗もなく刃を突き立てた。
迷いなく継ぎ目を狙った所から早い段階から装甲の弱い部分を見切られていたようだ。
こうなると言い訳のしようがない。 完敗だった。
『見事、潔く敗北を認めよう。 素晴らしい剣技であった。 叶うならばまた見てみたい。 良ければ連絡先――』
「あ、ナンパはお断りで」
刃が捻られてレザネフォルのコックピット部分が破壊され、彼は退場となった。
力を失い、膝から崩れ落ちたレザネフォルを見てふわわは小さく息を吐いた。
防御を信じて思い切りのよい攻撃を繰り出せる環境を常に維持し続ける。
安全地帯を確保した上での戦い方は悪いとは言わないが、ふわわの好みとは合わない。
その為、ランドルフというプレイヤーは彼女にとってあまり面白味のない相手だった。
だからと言って弱かったかと聞かれればそうでもないと答える。
実際、あの防御を破るのは非常に難しかった。 最終的には思いついただろうが、ヨシナリのアドバイスがなければもっと時間がかかっていたとみていい。
「ふぅ、ちょっと疲れる相手やったなぁ。 さーて、戦場は――って結構離れてもうたなぁ」
ぐるりと周囲を見回すと最前線から随分と離れてしまっていた。
戦っている内に戦場からもかなり離れてしまっている。 道理で横槍が入らない訳だと納得し、ふわわは次の戦いを求めて最前線へと戻っていった。
戦況は膠着と言いたいところではあったが、日本側が押されている状態だった。
致命的な破綻こそ起こっていないが、徐々に押し込まれ始めている。
本来ならメインの火力として機能するはずのAランク以上のハイランカーがほぼ全員抑え込まれている事が要因として大きかった。 アメリカ側はその辺りを徹底しており、日本のAランク一人に付き、同格を二人当てる事で抑え込みつつ確実に数を減らそうとしている。
互いに互いの戦力の内訳を把握している訳ではないが、二対一が成立している時点でAランクの数は日本とアメリカでは倍近くの物量差がある。
そんな中、最前線でカナタは敵のAランクを四機纏めて相手をしていた。
理由は単純で味方のAランクがやられたのでフリーになった機体が流れて来たのだ。
当然ながらカナタ一人に戦わせるなんて真似は彼女の仲間達が許容しない。
『栄光』のメンバーはどうにか彼女の死角を埋めようとしていたが――
自身の攻撃が単調で読まれやすいと。 だが、彼はそれがどうしたと笑う。
単調であるなら来ると分かっていても躱せないほどに練り上げればいい。
彼は欠点を克服するよりも長所を最大限に伸ばす事のみを考えてここまで来たのだ。
だからお前はここが駄目だと言われたところでその通りだと笑って受け流す。
それは彼の欠点でもあるが、間違いなく大きな強みでもあった。
ふわわはランドルフの繰り出した斬撃を次々に躱すが、彼も馬鹿ではない。
何度も繰り返し、彼女の回避モーションを何度も見た。
そろそろ目が慣れて来た頃だ。 ふわわは確かに近接戦での立ち回りはランドルフよりも遥かに上を行っている。 しかし、人間である以上は何かしらの癖があるはずだ。
ランドルフは注意深く観察し、それをどうにか読み取ろうとする。
一番いいのは鍔迫り合いに持っていく事だ。 そうすれば彼女の武器を破壊する事ができる。
武器を破壊される事は自身の戦意を砕かれる事に等しい。 個人差はあるが、動揺はするはず。
振り幅が小さいとしてもそれは明確な隙として動きのリズムを崩す。
振り下ろしは無駄のない挙動で躱され、追撃の横薙ぎに繋げて刺突。
ふわわは横薙ぎを跳躍で躱し、刺突を空中でブースターを噴かして回避する。
その繰り返しだが、今回は違う。 刺突の二連撃を喰らわせる。
同じ攻撃の組み合わせで散々、意識に刷り込んで置いたのだ。 これは躱せないはずだ。
脳内でシミュレートして勝負に出る。 振り下ろし、予想とまったく同じ挙動で躱す。
横薙ぎの一撃、そして回避の為の跳躍――しない。
ふわわは驚くべき事に掻い潜って懐に入ってきたのだ。
流石にこれは想定していなかった。 ランドルフは驚きに目を見開く。
「単純なのはえぇけど、それがいつまでも通用すると思ってるのはちょっと舐めすぎと違う?」
『侮ってなどいないとも。 自身のスタイルを貫徹する。 それこそが我が騎士道!』
何の迷いもなくそう返すランドルフにふわわはつまらなさそうに「ふーん」と返すと指を揃えて腕を突きこんで来る。 所謂、貫手という奴だ。
当然ながらアウルムアーマーによって遮られる。 何が狙いかは不明だが、動きが止まったのなら好機。 何かする前に捉えて――
「抜ーけた」
――強引にアウルムアーマーを突破したふわわの腕から謎の液体が飛び出す。
頭部から胸部にかけて液体が叩きつけるようにぶちまけられた。
『ぐ、なんだこれは!?』
液体は瞬く間に白濁し、パキパキと音を立てて凝固を始める。
そこでこの液体がグルー――接着剤である事に思い至った。
グルーキャノンを内蔵している事を全く想定していなかったランドルフは僅かな時間だが、思考が真っ白になるがすぐに立て直す。 視界がほぼゼロになったが、センサー類はまだ生きている。
捕捉は可能だ。 そんな事よりもふわわの機体を捕まえる事が重要だ。
レザネフォルのパワーはソルジャータイプと比較にならない。
力比べなら絶対的な自信がある。 掴もうとして腕は空を切った。
センサー類はふわわの居場所を正確に捉えていたが、視界を封じられているとここまで間合いが図れないのかとランドルフは内心で歯噛みする。 だからと言って戦闘に支障はない。
『視界を封じたのは見事だが、この程度で我がアウルムアーマーは破れんよ!』
「ふーん? そう? ご自慢の金ぴか鎧、よーく見てみ?」
『何?』
ステータスをチェックするとアウルムアーマーにエラー。
エラー内容は噴出口に異物。 どうやらさっきのグルーが詰まって動かなくなったようだ。
だったらと出力を上げて強引に剥がそうとするが、機体内部の温度が急上昇するだけで詰まりは解消できない。
「宇宙船の修理に使うような代物やから簡単には剥がれんよ。 さて、鬱陶しい防御も剥がれたし、そろそろ終わりにしよか?」
『我がアウルムアーマーを封じた手腕は見事! だが、こちらには愛剣「アール・デコ」と――』
ランドルフの言葉は最後まで紡がれる事はなかった。
気が付けば胸部装甲の隙間を狙って太刀が突き立てられていたからだ。
アウルムアーマーなしでも堅牢を誇るレザネフォルの装甲を何の抵抗もなく刃を突き立てた。
迷いなく継ぎ目を狙った所から早い段階から装甲の弱い部分を見切られていたようだ。
こうなると言い訳のしようがない。 完敗だった。
『見事、潔く敗北を認めよう。 素晴らしい剣技であった。 叶うならばまた見てみたい。 良ければ連絡先――』
「あ、ナンパはお断りで」
刃が捻られてレザネフォルのコックピット部分が破壊され、彼は退場となった。
力を失い、膝から崩れ落ちたレザネフォルを見てふわわは小さく息を吐いた。
防御を信じて思い切りのよい攻撃を繰り出せる環境を常に維持し続ける。
安全地帯を確保した上での戦い方は悪いとは言わないが、ふわわの好みとは合わない。
その為、ランドルフというプレイヤーは彼女にとってあまり面白味のない相手だった。
だからと言って弱かったかと聞かれればそうでもないと答える。
実際、あの防御を破るのは非常に難しかった。 最終的には思いついただろうが、ヨシナリのアドバイスがなければもっと時間がかかっていたとみていい。
「ふぅ、ちょっと疲れる相手やったなぁ。 さーて、戦場は――って結構離れてもうたなぁ」
ぐるりと周囲を見回すと最前線から随分と離れてしまっていた。
戦っている内に戦場からもかなり離れてしまっている。 道理で横槍が入らない訳だと納得し、ふわわは次の戦いを求めて最前線へと戻っていった。
戦況は膠着と言いたいところではあったが、日本側が押されている状態だった。
致命的な破綻こそ起こっていないが、徐々に押し込まれ始めている。
本来ならメインの火力として機能するはずのAランク以上のハイランカーがほぼ全員抑え込まれている事が要因として大きかった。 アメリカ側はその辺りを徹底しており、日本のAランク一人に付き、同格を二人当てる事で抑え込みつつ確実に数を減らそうとしている。
互いに互いの戦力の内訳を把握している訳ではないが、二対一が成立している時点でAランクの数は日本とアメリカでは倍近くの物量差がある。
そんな中、最前線でカナタは敵のAランクを四機纏めて相手をしていた。
理由は単純で味方のAランクがやられたのでフリーになった機体が流れて来たのだ。
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