上 下
229 / 397

第229話

しおりを挟む
 ラーガストはライランドと無言で対峙。
 ライランドは目の前の敵に対して僅かに震える。 強敵、それも自分よりも同格以上の。
 これほどの相手は三人目だった。 

 最初の一人は初めての大規模イベント。 基地の防衛戦の最後に現れた謎の有人エネミー。
 圧倒的な力でプレイヤーを蹂躙し、一人残らず虐殺されたのは記憶に新しい。 
 何故かプレイヤーを全滅させた後、基地には手を出さなかったのでミッション自体はクリア扱いとなったのだが、ライランドからすれば勝った気が全くしなかった。

 屈辱的な勝利ではあったが、勝ちは勝ちでイベントは進む。 
 二回目のトライで成功した事もあって、アメリカ第三サーバーは日本サーバーよりも早く対抗戦への参加資格を得た。 最初の対戦相手はアメリカ第一サーバー。
 
 この地区で最も早く成立したサーバーだ。 
 先行している分、格上ではあったがSランクとして自分の力はこのサーバー外でも通用する事を証明する為に勝利を誓い戦いを挑んだのだが――

 ――結果は惨敗だった。

 ライランドの力は通用しなかった。 同じSランクでもここまでの差が出るのか。
 それが二人目の相手。 そして三人目の相手が目の前にいる。
 理屈ではなく本能に近い物が囁くのだ。 彼我の実力差を。

 これは挑戦だ。 ライランドは自身を最強とは思っていない。
 常に挑戦者と認識している。 強者を打倒する事で更に上に行けると彼は根拠なく信じていたからだ。 

 ――それに――

 どうしても確かめたい事があった。 
 ラーガストの機体がブレードを展開。 背中のエネルギーウイングが輝きを強める。
 次の瞬間、エイコサテトラの姿が消失。 ライランドは右腕持ち上げてガード。

 右腕に衝撃。 斬撃とは思えない重たさだ。
 恐らくは瞬間的に加速する事で威力をブーストしているのだろう。
 ライランドとその機体『テラゾ・テスタメント』はラーガストのエイコサテトラとは対極の性能の機体と言える。 自身は動かずに両腕と内蔵武装によって正面から相手を叩き潰すといった戦い方を得意とする機体だ。

 本来ならランクが上がる度に高速、高火力が要求されるこのゲームで戦い抜くのは難しい機体構成。
 防御を固めるのであれば多少は通用するだろう。 だが、Aランク以上となると論外だ。
 だが、ライランドはこの戦闘スタイルでSランクの称号を手に入れた。

 ――それは何故か?

 答えは彼に備わっている人間離れした反応、天が与えたギフトともいえる特性がその無謀な戦い方を成立させていたのだ。
 ラーガストは攻撃を防がれた事に一切の動揺を示さずにスピードに物を言わせ、至近距離にもかかわらず機体が速すぎて見えない。 正面に捉えようとすればその時点で既に死角に入り込まれ即死の一撃が繰り出される。 ライランドはその全てを驚異的な反応で防御。

 テラゾ・テスタメントの両腕「マグナ・ビスマス」は強度と重量で相手を叩き潰す文字通りの鉄拳だが、それ以外にも様々な機能を有している。 
 その内の一つが斥力場の発生。 斥力とは反発により物体を遠ざける力の事だ。

 それにより、並の機体、並の武器であるならこの斥力場を突破する事は出来ない。
 エイコサテトラの斬撃ですら見事に防ぎきるその防御性能はこのゲームでもトップクラスといえるだろう。 ただ、その防御も無敵ではなかった。

 分かり易い弱点としては腕を中心に盾のように展開されるので全面のカバーができない事。
 加えてエネルギー消費が非常に高く、長時間の展開が不可能である点。
 ライランドはその欠点を自らの能力で完全に埋めていた。 

 ラーガストの斬撃をフィールドを展開して弾く。 
 鈍重な見た目からは想像もつかない反応でエイコサテトラの斬撃を無傷で捌いている。
 当然ながらラーガストも黙って防がれる訳もなく、徐々にギアを上げていく。
 
 正面、左右、背後。 あらゆる場所へと繰り出させる斬撃は回転を上げ、まるで竜巻のようだ。
 ライランドはアバターの下で汗を滲ませる。 確かにギリギリではあるが反応は出来ていた。
 だが、それだけで反撃ができない。 ジャパンのSランク。

 進捗的に後進サーバーだと侮っていた面は確かにあったが、ラーガストを見た瞬間そんな考えは消し飛んだ。 一目見て分かった。 こいつは前に戦った第一サーバーのSランクと同類だと。
 ライランドは知りたかった。 何をどうやればあの境地へと至れるのかを。

 『――君はβテスター・・・・・なのか?』
 
 反応は分かり易かった。 ラーガストは攻撃を止め、ライランドから僅かに距離を取る。
 それは雄弁に彼の質問に対する答えを示していたからだ。 

 『やはりか。 教えてくれ! 君の他に俺はもう一人βを経験したプレイヤーを知っている。 君達は一体何を視たんだ!?』
 「お前に教える必要はない」

 ラーガストの声は露骨に不愉快といった様子が窺える。
 やはりダメかとライランドは思ったが、もう一つだけ聞いておくべきだと質問を口にした。

 『ならこれだけでも教えてくれ■■■■■■■■■■■■■とは何なの――チッ、NGワードか!』

 ライランドの言葉の中に不都合なワードが含まれていたらしく、ノイズのような物に掻き消される。
 だが、ラーガストには正確に伝わったようで、彼の感情を伝えるようにエイコサテトラが微かに震えた。

 「……大方、上位ランカー用の緊急ミッションで触りを聞いたんだろうが、くだらねぇ質問をしてるんじゃねぇぞ。 不愉快な名前を出しやがって、ただで帰れると思うなよ」
 
 ラーガストからは明らかに怒りとそれを上回る憎悪の感情が渦を巻いている。
 地雷を踏んだ自覚はあるが、想定していた反応でもあった。
 前回に遭遇したもう一人のβテスター――第一サーバーのSランカーもラーガストとまったく同じ反応だったからだ。

 ――聞き出すのは無理か。

 可能であれば知っておきたかったが、難しそうだ。
 なら、せめて挑戦者として強敵へと挑み、自らの糧としよう。 
 ライランドは拳を握る。 それに呼応するようにエイコサテトラのエネルギーウイングが展開。

 さっきまでと明確に違う点があった。 展開したウイングが二枚から四枚になったのだ。
 それを見てライランドの背筋にゾクゾクと恐怖にも似た何かが通り抜ける。
 恐らく自分はラーガストの逆鱗に触れたのだろう。 だが、それでいい。

 世界の猛者と全力で戦う。 それこそがこの戦いの意義だと彼は思っていた。
 だから、今の自分がどれだけ通用するのか、それとも打倒する事ができるのか。
 それが試される時だ。 エイコサテトラの姿が霞み――戦闘が再開された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...