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第229話
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ラーガストはライランドと無言で対峙。
ライランドは目の前の敵に対して僅かに震える。 強敵、それも自分よりも同格以上の。
これほどの相手は三人目だった。
最初の一人は初めての大規模イベント。 基地の防衛戦の最後に現れた謎の有人エネミー。
圧倒的な力でプレイヤーを蹂躙し、一人残らず虐殺されたのは記憶に新しい。
何故かプレイヤーを全滅させた後、基地には手を出さなかったのでミッション自体はクリア扱いとなったのだが、ライランドからすれば勝った気が全くしなかった。
屈辱的な勝利ではあったが、勝ちは勝ちでイベントは進む。
二回目のトライで成功した事もあって、アメリカ第三サーバーは日本サーバーよりも早く対抗戦への参加資格を得た。 最初の対戦相手はアメリカ第一サーバー。
この地区で最も早く成立したサーバーだ。
先行している分、格上ではあったがSランクとして自分の力はこのサーバー外でも通用する事を証明する為に勝利を誓い戦いを挑んだのだが――
――結果は惨敗だった。
ライランドの力は通用しなかった。 同じSランクでもここまでの差が出るのか。
それが二人目の相手。 そして三人目の相手が目の前にいる。
理屈ではなく本能に近い物が囁くのだ。 彼我の実力差を。
これは挑戦だ。 ライランドは自身を最強とは思っていない。
常に挑戦者と認識している。 強者を打倒する事で更に上に行けると彼は根拠なく信じていたからだ。
――それに――
どうしても確かめたい事があった。
ラーガストの機体がブレードを展開。 背中のエネルギーウイングが輝きを強める。
次の瞬間、エイコサテトラの姿が消失。 ライランドは右腕持ち上げてガード。
右腕に衝撃。 斬撃とは思えない重たさだ。
恐らくは瞬間的に加速する事で威力をブーストしているのだろう。
ライランドとその機体『テラゾ・テスタメント』はラーガストのエイコサテトラとは対極の性能の機体と言える。 自身は動かずに両腕と内蔵武装によって正面から相手を叩き潰すといった戦い方を得意とする機体だ。
本来ならランクが上がる度に高速、高火力が要求されるこのゲームで戦い抜くのは難しい機体構成。
防御を固めるのであれば多少は通用するだろう。 だが、Aランク以上となると論外だ。
だが、ライランドはこの戦闘スタイルでSランクの称号を手に入れた。
――それは何故か?
答えは彼に備わっている人間離れした反応、天が与えたギフトともいえる特性がその無謀な戦い方を成立させていたのだ。
ラーガストは攻撃を防がれた事に一切の動揺を示さずにスピードに物を言わせ、至近距離にもかかわらず機体が速すぎて見えない。 正面に捉えようとすればその時点で既に死角に入り込まれ即死の一撃が繰り出される。 ライランドはその全てを驚異的な反応で防御。
テラゾ・テスタメントの両腕「マグナ・ビスマス」は強度と重量で相手を叩き潰す文字通りの鉄拳だが、それ以外にも様々な機能を有している。
その内の一つが斥力場の発生。 斥力とは反発により物体を遠ざける力の事だ。
それにより、並の機体、並の武器であるならこの斥力場を突破する事は出来ない。
エイコサテトラの斬撃ですら見事に防ぎきるその防御性能はこのゲームでもトップクラスといえるだろう。 ただ、その防御も無敵ではなかった。
分かり易い弱点としては腕を中心に盾のように展開されるので全面のカバーができない事。
加えてエネルギー消費が非常に高く、長時間の展開が不可能である点。
ライランドはその欠点を自らの能力で完全に埋めていた。
ラーガストの斬撃をフィールドを展開して弾く。
鈍重な見た目からは想像もつかない反応でエイコサテトラの斬撃を無傷で捌いている。
当然ながらラーガストも黙って防がれる訳もなく、徐々にギアを上げていく。
正面、左右、背後。 あらゆる場所へと繰り出させる斬撃は回転を上げ、まるで竜巻のようだ。
ライランドはアバターの下で汗を滲ませる。 確かにギリギリではあるが反応は出来ていた。
だが、それだけで反撃ができない。 ジャパンのSランク。
進捗的に後進サーバーだと侮っていた面は確かにあったが、ラーガストを見た瞬間そんな考えは消し飛んだ。 一目見て分かった。 こいつは前に戦った第一サーバーのSランクと同類だと。
ライランドは知りたかった。 何をどうやればあの境地へと至れるのかを。
『――君はβテスターなのか?』
反応は分かり易かった。 ラーガストは攻撃を止め、ライランドから僅かに距離を取る。
それは雄弁に彼の質問に対する答えを示していたからだ。
『やはりか。 教えてくれ! 君の他に俺はもう一人βを経験したプレイヤーを知っている。 君達は一体何を視たんだ!?』
「お前に教える必要はない」
ラーガストの声は露骨に不愉快といった様子が窺える。
やはりダメかとライランドは思ったが、もう一つだけ聞いておくべきだと質問を口にした。
『ならこれだけでも教えてくれ■■■■■■■とは何なの――チッ、NGワードか!』
ライランドの言葉の中に不都合なワードが含まれていたらしく、ノイズのような物に掻き消される。
だが、ラーガストには正確に伝わったようで、彼の感情を伝えるようにエイコサテトラが微かに震えた。
「……大方、上位ランカー用の緊急ミッションで触りを聞いたんだろうが、くだらねぇ質問をしてるんじゃねぇぞ。 不愉快な名前を出しやがって、ただで帰れると思うなよ」
ラーガストからは明らかに怒りとそれを上回る憎悪の感情が渦を巻いている。
地雷を踏んだ自覚はあるが、想定していた反応でもあった。
前回に遭遇したもう一人のβテスター――第一サーバーのSランカーもラーガストとまったく同じ反応だったからだ。
――聞き出すのは無理か。
可能であれば知っておきたかったが、難しそうだ。
なら、せめて挑戦者として強敵へと挑み、自らの糧としよう。
ライランドは拳を握る。 それに呼応するようにエイコサテトラのエネルギーウイングが展開。
さっきまでと明確に違う点があった。 展開したウイングが二枚から四枚になったのだ。
それを見てライランドの背筋にゾクゾクと恐怖にも似た何かが通り抜ける。
恐らく自分はラーガストの逆鱗に触れたのだろう。 だが、それでいい。
世界の猛者と全力で戦う。 それこそがこの戦いの意義だと彼は思っていた。
だから、今の自分がどれだけ通用するのか、それとも打倒する事ができるのか。
それが試される時だ。 エイコサテトラの姿が霞み――戦闘が再開された。
ライランドは目の前の敵に対して僅かに震える。 強敵、それも自分よりも同格以上の。
これほどの相手は三人目だった。
最初の一人は初めての大規模イベント。 基地の防衛戦の最後に現れた謎の有人エネミー。
圧倒的な力でプレイヤーを蹂躙し、一人残らず虐殺されたのは記憶に新しい。
何故かプレイヤーを全滅させた後、基地には手を出さなかったのでミッション自体はクリア扱いとなったのだが、ライランドからすれば勝った気が全くしなかった。
屈辱的な勝利ではあったが、勝ちは勝ちでイベントは進む。
二回目のトライで成功した事もあって、アメリカ第三サーバーは日本サーバーよりも早く対抗戦への参加資格を得た。 最初の対戦相手はアメリカ第一サーバー。
この地区で最も早く成立したサーバーだ。
先行している分、格上ではあったがSランクとして自分の力はこのサーバー外でも通用する事を証明する為に勝利を誓い戦いを挑んだのだが――
――結果は惨敗だった。
ライランドの力は通用しなかった。 同じSランクでもここまでの差が出るのか。
それが二人目の相手。 そして三人目の相手が目の前にいる。
理屈ではなく本能に近い物が囁くのだ。 彼我の実力差を。
これは挑戦だ。 ライランドは自身を最強とは思っていない。
常に挑戦者と認識している。 強者を打倒する事で更に上に行けると彼は根拠なく信じていたからだ。
――それに――
どうしても確かめたい事があった。
ラーガストの機体がブレードを展開。 背中のエネルギーウイングが輝きを強める。
次の瞬間、エイコサテトラの姿が消失。 ライランドは右腕持ち上げてガード。
右腕に衝撃。 斬撃とは思えない重たさだ。
恐らくは瞬間的に加速する事で威力をブーストしているのだろう。
ライランドとその機体『テラゾ・テスタメント』はラーガストのエイコサテトラとは対極の性能の機体と言える。 自身は動かずに両腕と内蔵武装によって正面から相手を叩き潰すといった戦い方を得意とする機体だ。
本来ならランクが上がる度に高速、高火力が要求されるこのゲームで戦い抜くのは難しい機体構成。
防御を固めるのであれば多少は通用するだろう。 だが、Aランク以上となると論外だ。
だが、ライランドはこの戦闘スタイルでSランクの称号を手に入れた。
――それは何故か?
答えは彼に備わっている人間離れした反応、天が与えたギフトともいえる特性がその無謀な戦い方を成立させていたのだ。
ラーガストは攻撃を防がれた事に一切の動揺を示さずにスピードに物を言わせ、至近距離にもかかわらず機体が速すぎて見えない。 正面に捉えようとすればその時点で既に死角に入り込まれ即死の一撃が繰り出される。 ライランドはその全てを驚異的な反応で防御。
テラゾ・テスタメントの両腕「マグナ・ビスマス」は強度と重量で相手を叩き潰す文字通りの鉄拳だが、それ以外にも様々な機能を有している。
その内の一つが斥力場の発生。 斥力とは反発により物体を遠ざける力の事だ。
それにより、並の機体、並の武器であるならこの斥力場を突破する事は出来ない。
エイコサテトラの斬撃ですら見事に防ぎきるその防御性能はこのゲームでもトップクラスといえるだろう。 ただ、その防御も無敵ではなかった。
分かり易い弱点としては腕を中心に盾のように展開されるので全面のカバーができない事。
加えてエネルギー消費が非常に高く、長時間の展開が不可能である点。
ライランドはその欠点を自らの能力で完全に埋めていた。
ラーガストの斬撃をフィールドを展開して弾く。
鈍重な見た目からは想像もつかない反応でエイコサテトラの斬撃を無傷で捌いている。
当然ながらラーガストも黙って防がれる訳もなく、徐々にギアを上げていく。
正面、左右、背後。 あらゆる場所へと繰り出させる斬撃は回転を上げ、まるで竜巻のようだ。
ライランドはアバターの下で汗を滲ませる。 確かにギリギリではあるが反応は出来ていた。
だが、それだけで反撃ができない。 ジャパンのSランク。
進捗的に後進サーバーだと侮っていた面は確かにあったが、ラーガストを見た瞬間そんな考えは消し飛んだ。 一目見て分かった。 こいつは前に戦った第一サーバーのSランクと同類だと。
ライランドは知りたかった。 何をどうやればあの境地へと至れるのかを。
『――君はβテスターなのか?』
反応は分かり易かった。 ラーガストは攻撃を止め、ライランドから僅かに距離を取る。
それは雄弁に彼の質問に対する答えを示していたからだ。
『やはりか。 教えてくれ! 君の他に俺はもう一人βを経験したプレイヤーを知っている。 君達は一体何を視たんだ!?』
「お前に教える必要はない」
ラーガストの声は露骨に不愉快といった様子が窺える。
やはりダメかとライランドは思ったが、もう一つだけ聞いておくべきだと質問を口にした。
『ならこれだけでも教えてくれ■■■■■■■とは何なの――チッ、NGワードか!』
ライランドの言葉の中に不都合なワードが含まれていたらしく、ノイズのような物に掻き消される。
だが、ラーガストには正確に伝わったようで、彼の感情を伝えるようにエイコサテトラが微かに震えた。
「……大方、上位ランカー用の緊急ミッションで触りを聞いたんだろうが、くだらねぇ質問をしてるんじゃねぇぞ。 不愉快な名前を出しやがって、ただで帰れると思うなよ」
ラーガストからは明らかに怒りとそれを上回る憎悪の感情が渦を巻いている。
地雷を踏んだ自覚はあるが、想定していた反応でもあった。
前回に遭遇したもう一人のβテスター――第一サーバーのSランカーもラーガストとまったく同じ反応だったからだ。
――聞き出すのは無理か。
可能であれば知っておきたかったが、難しそうだ。
なら、せめて挑戦者として強敵へと挑み、自らの糧としよう。
ライランドは拳を握る。 それに呼応するようにエイコサテトラのエネルギーウイングが展開。
さっきまでと明確に違う点があった。 展開したウイングが二枚から四枚になったのだ。
それを見てライランドの背筋にゾクゾクと恐怖にも似た何かが通り抜ける。
恐らく自分はラーガストの逆鱗に触れたのだろう。 だが、それでいい。
世界の猛者と全力で戦う。 それこそがこの戦いの意義だと彼は思っていた。
だから、今の自分がどれだけ通用するのか、それとも打倒する事ができるのか。
それが試される時だ。 エイコサテトラの姿が霞み――戦闘が再開された。
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