Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第228話

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 こうして戦ってみるとシックスセンスの欠点が浮き彫りになる。
 とにかく情報量が多い。 その為、必要な情報が取捨選択できないのだ。
 数百万単位の機体数が派手に潰し合っているこの戦場では不要な情報が多すぎる。

 ――これは慣れなきゃなぁ……。

 ホロスコープの後ろに張り付こうとしている敵機にフォーカス。
 かなりカスタムされたキマイラタイプ。 推進装置はエネルギーの流動と熱量からエンジェルタイプが使用しているような高出力のエネルギー式とプロペラントタンクを搭載している所からノーマルとのハイブリッド。 恐らく最高速度を長く維持する為のパーツ構成だろう。 

 中々に豪快な構成だ。  少なくともヨシナリには思いつかない。
 内蔵武装はエネルギー式の機銃、小型のミサイルポッド、アタッチメントに接続されているのはエネルギーライフル。 銃口が縦に並んでいる事からアノマリーと同系列の実弾と併用できるタイプ。 ランクは推定B以上。

 ツガルと同じでキマイラタイプに強いこだわりがあるプレイヤー。
 要はこのフレームの特性を高いレベルで理解し、ポテンシャルを最大限に引き出せる技量の持ち主だ。
 
 ――同じ土俵でやると厳しい。

 重量差があるにも関わらず、しっかりと付いてくる。 上手い。 
 機動で振り切れないのはスペック差もあるが根本的な技量差だ。
 射線を切る為に他の敵機を間に挟む形で飛び回るが、とにかくしつこい。
 シックスセンスのお陰でマーキングしておけば動きは常に把握できているからこそ、撃墜されずにいられるのだがじりじりと追いつめられる。 

 基本的にキマイラタイプによるドッグファイトは通常の戦闘機のそれとは違う。
 何故なら戦闘機と違いキマイラタイプには変形機能があるからだ。
 可変による減速と携行武器ヘの攻撃移行。 この組み合わせが重要になる。

 「どーでもいいんですけど、何で俺?」
 『真っ先に上がって来たのと、そのクールなカラーリングにビビっと来たんだ。 だからちょっと遊んでくれよ』
 「あぁ、そうですか。 まぁ、個人戦じゃないんで悪いんですけどご期待に沿えそうにないですがね!」

 そう返しながらヨシナリは厄介なと内心で表情を歪める。

 ――振り切れない。

 動き自体は見えているが、純粋な技量差で後ろを取られるのだ。
 個人戦であったならもうとっくに後ろに張り付かれていただろう。 
 集団戦だからこそ今の状況を維持できているがあまりいい状態とは言えない。 

 『ヘイヘイ、そろそろケツを頂く――っと』

 敵機の下から別のキマイラタイプが機銃を連射しながら上がってくる。
 
 「よぉ! いつの間にか人気者だな!」

 ツガルだ。 彼はヨシナリを追いかけ回していた敵機の背後を取ろうと加速。
 
 「しつこくて困ってたんで助かりましたよ」
 「礼は早ぇよ。 こいつかなりやるな。 合わせろ、二人で仕留めるぞ」
 「了解」

 ツガルに張り付けれた敵機は機銃の射線に入る事を嫌って機首をピッチアップ――上向きにして滑らかな軌跡を描いて上昇、その間に横回転を加える事により縦方向へのUターンを決める。
 インメルマンターンと呼ばれる空戦機動マニューバの一つだ。

 ――上手い。

 純粋な操縦技術もそうだが、他の機体が密集している地点を通過する事でヨシナリに攻撃を躊躇させる事で安全にツガルの背後を取りに行った。 
 
 「うぉ、やるな! だが、俺達の扱ってるマシンは戦闘機じゃなくてトルーパーだ」

 ツガルは即座に機体を変形させ、携行武器のエネルギーライフルを構えながら振り向く。
 ――が、その時点で敵機も既に変形を完了させており、手首の部分に格納していたエネルギー式のナイフを展開していた。 

 「マジかよ」

 ツガルは驚きつつも銃口を向けるが、敵機の腕に払いのけられる。
 ナイフがそのままコックピット部分を貫きかけるが、ツガルの脇から飛んできたエネルギー弾が敵機の腕を射抜く。 命中した事により、敵機が大きく仰け反った。

 その隙を逃さずツガルは敵機に蹴りを入れて強引に距離を離して拳銃を抜いて連射するが、敵機は即座に変形して回避運動。 凄まじい反応だったが、距離が近すぎた事もあって足に被弾。
 推進装置に命中した事で誘爆する。 敵機はコントロールが効かずに煙を吹きながら墜落。

 『――! ――!!』

 何か言っていたが、それをツガルが理解する前に爆発。
 敵機がレーダーから消えた。 

 「ふぃー、助けに来たつもりが助けられちまったな」
 「いぇ、こっちこそ気を引いてくれて助かりましたよ」

 ツガルが振り返るとアノマリーを構えたヨシナリのホロスコープの姿が見えた。
 ヨシナリも内心でほっと胸を撫で下ろす。 かなり危ない相手だった。
 シックスセンスのお陰で動き自体は見えていたので、僅かな時間でもフリーになれば撃破は何とかなる。 その時間をツガルが稼いでくれたので感謝しかなかった。

 「戦況はどうよ?」
 「見た感じ、あんまりよくないですね」

 ヨシナリはレーダーを確認しながらそう返す。
 そろそろ二時間を過ぎる頃だが、損耗率は日本側は四割、アメリカ側は三割弱といった所だろう。
 
 「総合力の違いがモロに出ていますね」
 「そもそものプレイ人口がなぁ……」

 ルール上、出撃数は多い方が少ない方に合わせる形になるので必然的に合わせに来たアメリカ側の方が総プレイヤー数が多い事になる。 日本側はHやIランクも動員しているが、相手側には一切いない点からもそれは明らかだ。

 アメリカ側は薄く包囲する形で侵攻しているのに対して日本側は密集して中央突破を狙う形となっているが、徐々に削り落とされているのが上から見ればよく分かる。
 よくよく見ればあちこちでAランクが潰し合っている姿が見られるが、そもそもの数が違うので劣勢を強いられてしまうのだ。 同ランク帯で実力が同等なら物を言うのは数。

 一機より二機の方が強い。 酷く単純な算数だ。 
 この状況を打開する方法は――なくはない。 ヨシナリはちらりと空を仰ぐ。
 僅かに傾き、徐々に夜になろうとしている空に一つの流れ星。 全ての攻撃衛星を排除した最強が戦場へと降り立とうとしていた。 

 ――ほんと、ずるいよなぁ……。

 たった一機で戦況を変える実力者。 正しく英雄と呼ぶに相応しい存在だ。
 何かに吸い寄せられるように流れ星――ラーガストはとある場所を目指し、真っすぐに向かっていった。 ヨシナリはそれを複雑な感情で眺める。

 果たして自分はあの域に至れるのだろうか? そんな疑問を僅かな憧憬と共に抱きながら。

 
 ベリアルを葬ったライランドはその場に留まってじっと時を待っていた。
 来る。 これは理屈ではなかったが、確信に近い何かがあった。
 そしてそれは正しく、空から一筋の流星が大地に降り立つ。

 『待っていたぞ。 ジャパンのタイトルホルダー』

 ライランドはそれを歓喜と共に迎え入れた。
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