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第226話

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 それを知ったベリアルは迷わずに他の装備を扱う余地を四肢と共に捨てた。
 攻撃だけでなく、推進装置の役割も全て担うのだ。 ならば完全に依存する形が合理的だと判断した結果だ。 そして何より、闇を操る闇の王という彼のイメージする戦い方と完全に合致している。

 機能を見た瞬間、ベリアルはこれで戦い抜くと決めていたので、迷いはなかった。
 運命すら感じるその機体を彼は心から愛し、その力を最大限に――いや、性能以上の力を引き出す為にひたすらに腕を磨いたのだ。 それこそがAランカーベリアルをここまで強くした矜持とも呼べるものである。

 致命的な弱点はあるが、些細な問題だった。
 ケヴィンのエンジェル・パニッシャーによる不可視の無効化攻撃はプセウドテイから闇を奪い、その輪郭を崩し、真の姿を浮き彫りにしようとする。 圧倒的な危機。

 だが、ベリアルは笑う。 敗色濃厚で笑うしかない?
 違う。 真のICpwプレイヤーはピンチですら楽しむのだ。
 それに――不利ではあるが、勝算がない訳ではない。

 「ふ、本来であるなら初披露は宿敵である煉獄の化身にと思っていたが、いいだろう。 貴様らを強者と認め、我がプセウドテイに宿った新たな力を見せるとしよう。 さぁ、戦慄しろ! これから貴様らの身に起こる絶望と! 恐怖に!」
 「へ、この状況で逃げない上にガッツを失わないとは尊敬するぜ! ジャパンのAランク!」
 「言ってる事はよく分からんが、勇敢なファイターだ。 こちらも敬意を以って全力で叩き潰してやる!」

 ケヴィンとジャンは目の前の敵に敬意を抱かずにはいられなかった。
 この圧倒的な不利な状況でも逃げずに正面から殴り合う度胸が自分達にあるだろうか?
 
 ――難しい。

 彼等はこのゲームで勝ち上がり、Pを売却する事で生計を立てる事に成功したプレイヤーだ。
 元々は貧しい生活を送っていた事もあって勝ちには誰よりもこだわっている。
 だから勝てる勝負には全力で挑み、勝てない勝負には可能な限り傷を浅く済ませたい。

 そんな思考が染みついているのだ。
 
 「ジャン! 分かってるな?」
 「あぁ、奴の手足は中身がない。 狙うならヘッドパーツかボディだ」

 決着が近い。 それは二人もよく理解していた。 
 恐らく次の攻防で決着、もしくは勝敗を決定付ける何かが起こる。
 そんな確信をその場に居た全員が抱き――同時に動き出した。

 地形は何もない荒野。 ベリアルのプセウドテイを挟むように左右にケヴィンとジャン。
 ベリアルは迷いなく真っ直ぐにケヴィンの機体へと肉薄する。 
 
 「こっちに来るとは思い切ったな!」

 ケヴィンは胸部装甲を展開。 エンジェル・パニッシャーを起動する。
 同時に効果範囲に収められるように後退。 当然、その間にジャンも黙って見ている訳もなく、ガトリング砲の斉射を開始する。 無数の弾丸がマーキングされたプセウドテイへと微妙に軌道を変えながらその喉笛を食い破らんと殺到した。

 これまでの攻防でプセウドテイのスペックは凡そではあるが見切っている。
 充分に当てられる距離だ。 遮蔽物もないので躱しようがない。
 これまでのように機動力に物を言わせての攪乱をせずに真っ直ぐに突っ込んで来る事に対して警戒心が持ち上がるが、何かを仕込んでいる様子はなかった。 自棄になったかと思いつつもエネルギーを無効化する波動がプセウドテイへ直撃し、機体を覆う闇が吹き散らされる。

 それを見計らったかのように弾丸が次々と突き刺さり――

 ――ケヴィンの機体の胸部に穴が開いた。

 「――What?」

 ケヴィンは思わず困惑の声を漏らす。 意味が分からなかった。 
 エンジェル・パニッシャーは確実にベリアルの機体から闇の守りを剥がし、ジャンの弾丸がハチの巣にした。 その筈なのに何故、自分は背後・・から攻撃されたのか?

 ゆるゆると視線を落とすと機体の胸部から闇を凝縮した腕が生えていた。
 プセウドテイの腕だ。 訳が分からない。 ついさっきまで目の前に居た機体が何故背後に――

 「最初に言ったはずだ。 俺は闇の王だと。 そして闇は影をも司る。 この意味が分からん貴様等ではなかろう」
 
 ベリアルは暗に察しは付いているのだろうと言っているのだろうが、ケヴィンにはさっぱり分からなかった。 

 「ふ、闇に呑まれよ!」

 ケヴィンの機体を貫いた腕から闇色の波動が噴き出し、内部から機体を完全に破壊した。
 
 「ケヴィン!」
 「何を呆けている? 次は貴様の番だぞ?」

 ベリアルが正面から突っ込んで来るのでジャンはガトリング砲で迎撃。
 誘導された弾丸はプセウドテイを次々と射抜くが手応えが全くないどころかその姿が消失する。
 まるで亡霊を相手にしているかのような感覚を覚えつつもジャンは思考を回す。

 これはゲームだ。 ならシステム的に説明が付く挙動のはずだった。
 つまり何らかの手品で確実に種がある。
 光学迷彩? 考え難い、当たる直前までベリアルはそこに居た。 

 各種センサーも霧散する直前までしっかりとプセウドテイの発するエネルギーを捉えていたのだ。
 
 「いや、待て。 エネルギー?」

 疑問に対する着地点がぼんやりと見えて来た。 
 思考と並行してジャンは振り返ってガトリング砲を連射。
 死角を作る事は不味い。 たった今、ケヴィンがやられるのを見ていたので猶更だ。

 センサーで捉えられない以上、勘で行くしか――ズンと小さな衝撃。
 いつの間にかベリアルは目の前。 そしてその腕はジャンの機体を貫いていた。
 
 「そう、言う事かよ……」
 「ふ、気付いたようだが、もう遅い。 我が闇に囚われた者は逃げること能わず。 貴様の運命はこのまま光すら届かぬ深淵に沈む事のみ」
 「は、相変わらず何を言ってるのか理解できねぇ。 翻訳機、ちゃんと動いてんのか?」
 「闇に吞まれよ!」

 ジャンの機体もケヴィンの機体と同様に爆散。 二人のAランカーは退場となった。
 ベリアルはふうと小さく息を吐く。 かなり危ない戦いだった。
 先日、Pが溜まったのでプセウドテイの強化を実行したのだが、それがなかったら負けて居たのは自分だろうと闇の祝福に感謝を捧げ、自身が強くなった手応えに拳を握る。

 同時に世界の強敵に自身の戦いが通用する事が嬉しかった。 
 
 ――俺はまだまだ強くなれる。 

 コンデンサー内に溜め込んだエネルギーを随分と消費してしまったので回復までどこかで休息を――ぼんやりとこの先の行動方針を決めようとした時だった。

 ――それが現れたのは。
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