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第223話

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 日本側に攻撃衛星をコントロールする手段がない以上、空に浮かんでいる巨大な砲代は脅威でしかない。
 その為、破壊は理に適っていると言っていい。
 ラーガストはその点をよく理解しており、攻撃が始まったと同時にエイコサテトラのスピードを最大限に活かし、宇宙に上がると惑星を周回している衛星を破壊しただけではなく、落下させる事で攻撃手段としたのだ。

 無数の破壊された衛星が凄まじい速度で落下し、アメリカの基地周辺に砲弾のように降り注ぐ。
 凄まじい轟音と爆発。 そして破壊される無数のトルーパー。 
 その被害規模は衛星攻撃と同等かそれ以上だった。


 「ま、マジかよ……」

 アメリカ側の被害を見てヨシナリは思わずそう呟く。
 ラーガストが居ないと思っていたらあんな事をやっていたのか。
 恐らく衛星兵器は中立ではあるだろうが、制御権が向こうにだけある以上は敵でしかない。

 その為、破壊は妥当ではあったが、敵目掛けて落とす発想はなかった。
 まだ降りてこない所を見ると全部落とすまで戻ってこないなと察する。

 ――それにしても予定が狂ったな。

 元々、日本側の作戦は未知数の相手に突っ込むような真似は避け、相手の出方を窺いつつ戦線を押し上げる方針だったのだが、初手の衛星攻撃でそれも破綻した。
 突出した敵のキマイラタイプはほぼ全滅させたが、後続が次々と突っ込んでくる。

 「向こうの連中は随分と好戦的だな!」

 後続との戦闘に突入したツガルがそう叫びながら敵機を撃破。
 ヨシナリもそれに混ざりながら内心で同感だと思う。
 レーダー表示で敵味方の動きの推移を見れば、もう策も何もなく完全に乱戦状態だ。

 アメリカ側はこの乱戦を狙っていたのか? 
 最初の衛星攻撃からのキマイラタイプによる強襲以降は完全に力押しだ。
 何かを企んでいる可能性は高いが、動きから正面から殴りに来ている事以外は読み取れない。

 ――まさかとは思うが、殴り合いなら勝てると思っているのか?
 
 可能性はある。 サーバーの人口は層の厚さの目安だ。
 三つもサーバーがあるアメリカ地区は単純計算で日本の三倍以上のプレイヤーを抱えているのだ。
 人数に上限がない日本と違って相手側には枠があった以上、平均値は向こうが上といえる。

 だったら正面から殴り合えば勝てると考えるのはそこまで不自然ではない。
 ヨシナリはちらりとレーダー表示で仲間の安否を確認する。 
 マルメルは『栄光』と『豹変』の連合に混ざって荒野を進んでいた。 

 ふわわはかなり突出している。 作戦が破綻した事を察して好きに動く事にしたようだ。
 彼女らしいと思いながらもヨシナリは敵のキマイラタイプと空中戦を繰り広げる。
 足の速いキマイラタイプは可能な限り減らしておかないと下位のプレイヤーが一方的にやられることになるのでここから動けないのだ。 何かをするにせよ、目の前の敵を片付けない事にはどうにもならない。

 戦場のあちこちで普通ではない爆発や戦闘の物と思われる衝撃が響く。
 
 ――始まったか。

 恐らくはAランク以上の機体が衝突したのだろう。
 Aランクは同格以上でないと話にならない。 それだけ彼等の存在は戦局を左右するといえる。
 この戦いの主役はエースである彼等。 そして勝敗の要因として最も大きなものと言えるだろう。

 「……まぁ、それでも脇役なりに足掻くとするさ」

 そう呟いてヨシナリは後ろに張り付こうとしている敵のキマイラタイプを振り切るべくホロスコープを加速させた。


 ヨシナリの考えは正しかった。
 このサーバー対抗戦で最も重要なのは最高戦力であるAランク以上の戦力をどれだけ減らせるかにかかっている。 それだけ彼等の力は隔絶しているといえた。

 事実、下位の機体では特注されたジェネシスフレームには敵わない。
 
 「Shoot! Shoot! Shoot!」
 「Damn! What the hell is that guy!?」
 
 突撃銃を連射するⅡ型が次々と破壊されていく。 
 闇色のエネルギー弾に貫かれ、暗黒のエネルギーブレードに切り裂かれた機体が次々と爆散。
 それを成した黒い機体は自身の体を抱きしめるような謎のポーズを取っている。

 「ふ、異邦の者達よ。 海の向こうから闇に挑むとは、な。 その勇気は賞賛されるべきものだが、闇の深さを知らずに踏み込む事は無謀と言わざるを得ない」

 ベリアルだ。 彼は単騎で敵陣深くまで切り込み、目につく敵機を片端から仕留めて回っていた。

 「What is that guy talking about?」
 「I don't know! I don't know. My trooper doesn't have a translator on it!」

 突出したハイランカーの出現にアメリカ側のプレイヤー達はこれ幸いにと群がったが、結果は周囲に転がった大量の残骸が物語っている。
 
 「ふ、言の葉は異なるが手に取るように分かるぞ。 貴様らの恐怖が! 困惑が! 見るがいい、これこそが我がプセウドテイの操る闇! 恥じる事はない! 人が闇を恐れるのは本能なのだから!」

 ベリアルは両手を広げて迎え入れるようなポーズ。 
 アメリカ側のプレイヤー達はそれを「かかってこい」と挑発していると解釈。

 「You stupid cunt!」
 「Call for reinforcements! Crush them in numbers!」
 
 ヒートアップする敵のプレイヤーにベリアルは満足気に笑う。
 
 「いいぞ。 さぁ、俺に貴様らの光を魅せてくれ」

 二機のソルジャータイプが僅かに浮き上がりベリアルを中心に周囲を飛ぶ。
 常に視界に入り続ける事で意識を削ぐ事を念頭に置いての攪乱。 平面起動による挟撃。
 スペックの近い同機種で行う連携の中でもかなり高等といえる動きだ。

 だが、Aランクはその程度では揺るがない。 ベリアルの機体から闇が噴き出しその機体を隠す。
 詳細が不明の攻撃にソルジャータイプは迷わずに突撃銃を連射。 無数の銃弾は闇を突き抜けるが手応えがない。 訝しむ間もなく、闇から帯状の何かが飛び出して機体を串刺しにする。

 「Damn! Damn! Damn!」
 「ふ、恐怖したな?」

 残った機体はいつの間にか背後にいたベリアルの腕に貫かれる。 
 貫かれたプレイヤーは何が起こったのかを理解する間もなく脱落となった。
 ベリアルがぐるりと周囲を見回すと動いている敵機は居ない。 この辺りは敵は粗方片付けた。
 
 だが、彼は油断せず、アバターの向こうで口の端を小さく吊り上げる。
 何故なら濃密な死の気配を撒き散らす何かが接近している事を感じたからだ。
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