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第216話

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 ――凄い。 凄すぎる。

 ふわわは感動していた。 目の前のヨシナリに対してだ。
 以前に模擬戦をした時からそこまでの時間は経過していないはずだったが、まるで別人だった。
 戦い方もそうだが、殺気の練り方が段違いだ。

 ここで疑問なのだが、殺気とは何か? 人によって多少の解釈の違いはあるが、ふわわは「どれだけ相手を真剣に殺そうとしているかの度合い」と定義していた。
 ふわわの感覚では殺気が強く、濃ければそれだけ相手が自分を殺したいと思っていると認識している。

 彼女はそういった相手が大好物だった。 死合いに真剣である事もそうだが、それ以上に感じるのだ。
 殺気が何処に向かうのかを。 だから何処を狙われるのかが何となく分かる。
 知人や友人、妹は勘違いじゃないかと首を捻っていたが、ふわわはそうは思えない。
 
 何故ならそこを狙って剣を振れば銃弾を叩き落せたのだから。
 恐らくこれは他人には理解できない自分だけの感覚なんだろうなと少しだけ思っていた。
 父親や母親にも話したが、父親は渋い顔で「その感覚は大事にしておいた方が良い。 ただ、無暗に他人に話さない方がいい」と少し変わった意見を貰った。 母親は首を傾げるだけだったが。

 だから、日常では気にしないようにしていたが、このゲームを始めて様々な殺気に触れる事ができる悦びを知ってしまった以上はもう辞められない。
 そう、悦びなのだ。 他者の殺意を自らの殺意で両断する。

 彼女は表にこそ出さないが、他者を叩き潰す事――中でも強敵を叩き潰す事を何よりも好んでいた。
 そして目の前にいるヨシナリはこれまでに見た中でも最高クラスの相手だ。
 最初はそこまでではなかった。 ただ、真っすぐに射抜くような殺気が気に入ったのでユニオンに入っただけ。 飽きたら適当な理由を付けて離れる事も視野に入っていたのだ。

 ――だが、二回目に戦ったあの日。

 彼は自分を殺す為だけに策を練り、腕を磨いて現れた。
 最後の攻防の際に見せたヨシナリの放つ殺気はこれまでに経験した事のないほどに甘美な物を感じたのだ。 最高だった。 何せ、自分の為だけに練り上げた殺気、殺意。

 本人は「練習頑張りました」と軽い調子で言っていたが、ふわわにはお見通しだった。
 裏でヨシナリはこう思っていただろう。 次は絶対に殺してやる、と。 
 
 ――いや、ヨシナリ君は男の子だから「ぶち殺してやる」かな?

 あぁ、こっちの方が乱暴な感じがしてしっくりくる。
 並行してヨシナリの戦い方を分析。 これまでの長所を残しつつ、全体的にレベルアップしているといった印象。 まさか、キマイラタイプまで用意してくるとは思わなかった。

 武装は見た所、ソルジャータイプの時から使っている実弾、エネルギー弾を撃ち分ける狙撃銃「アノマリー」後は腰に拳銃が二挺。 使っている所を見た事がないタイプだったが、銃身が太く口径も大きい。 そして装弾数も多いので中々弾切れにならない。

 挙動に関しても乗り換えたばかりとは思えないほどに滑らかだ。 ただ、動きがイベント戦で見たツガルの動きに似ているので、機体の扱いは彼から技術を盗んだか学んだかのどちらかだろう。 直線加速時は変形、旋回等の細やかな動きが必要な場合は人型と綺麗に使い分けているのは変則にまだ慣れていないからと思われる。 

 できない事はできないと割り切るのはヨシナリらしいとも言えた。
 攻め方もシンプルではあるが巧みだ。 こちらの届かない距離を維持しつつ隙があれば接近を試みようとしている。 理由は単純でふわわ相手に一対一での遠距離攻撃はまず当たらないからだ。

 大抵は躱すか打ち落とされる。 その為、ヨシナリはどうしてもある程度――要は反応は出来ても打ち落とせない距離まで近寄らなければならない。 
 相手のミスを待つという消極的な手段を取るといった選択肢もあるはずだが、ふわわはそれはないと断言できる。 何故ならヨシナリは一刻も早く自分を殺したがっているのだから。

 だらだらと時間をかけるような真似はしない。 
 勝利というごちそうを我慢できるほど彼の自制心は強くない。 

 ――まぁ、その辺はウチもやけどな。

 武器の構成もシンプルで扱いも分かり易い。 遠距離はアノマリーによる狙撃。
 中距離は実弾による連射だが、接近を試みようとしている場合は拳銃に持ち代える。
 時折、無理に拳銃に切り替えている場面もあったが、恐らくだがアノマリーのエネルギーが尽きかけているので回復の為の時間を稼ぐ為だろう。 前回とは違い、今回は正面から行くようだ。

 性能差があるので自信がある? それもあるだろう。
 だが、ヨシナリの殺気は違うと否定する。 元々、前の戦いが不本意だったのだ。
 罠を仕掛け、相手の意識を散らした上で、キルゾーンに誘い込んで仕留めに行く。

 ふわわを仕留める上での最適解ともいえる内容ではあったが、彼女は何となくだが理解していた。
 こんな勝ち方ではなく、正面から叩きのめして自分が上だと証明したいといったヨシナリの裏に蠢く欲望を。 それを感じたからこそ彼女はヨシナリの事を高く評価していた。

 次はもっと殺意を練ってから自分の前に現れるだろう。 ならその最高の瞬間を味わう為、そして自分を殺すのに必要な糧を与える為に近くで待っていた方がいい。 彼は必ず感想戦を行うのでその際にしっかりと敵味方の動きを研究する。 裏ではどう仕留めてやろうかと考えながら。

 そして三度目の今回。 ヨシナリは自分の想定を遥かに超える成長を見せた。
 驚いた事に接近戦で自分に付いてきたのだ。 刺突を軽々と回避し、カウンターの銃撃。
 あの動きに関しては本当に驚いた。 動きが完全に読まれている。 

 一朝一夕で反応をあそこまで上げる事は難しい。
 なら、システムからのアシストを受けていると見ていい。
 恐らくはセンサー関係。 かなり精度の高い物を導入したのだろう。
 だからと言って躱せるのかは別問題なので、後押しこそあるが間違いなく彼の技量と言える。

 ――最高、最高やわ。

 願わくばこの時間がもっと長く続いて欲しい。
 だが、それは出来ないだろう。 こんなものを見せられたのなら自分も熱くなって来てしまう。
 今ならもう一段上の動きが出来る気がする。 いや、できる。
 
 そんな素晴らしい予感を感じながらふわわはアバターの下で歓喜の笑みを浮かべながら太刀を握る手に力を込めた。
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