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第213話

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 ――やるやん。

 ふわわはヨシナリの成長に感心しつつも驚いていた。
 自分もそれなりに場数を踏んでこのゲームに慣れて来たと思って生きたが、順応性で言うならヨシナリの方が上だと認めざるを得ない。 いや、この場合は「熱意」か。

 この短期間でキマイラタイプのフレームを手に入れる事がどれだけ困難な事かを考えるとここ最近、随分と金策に力を入れた事が窺える。 何が彼をここまで突き動かしたのだろうか?
 次のイベントで勝つ為? それとも単純に自分の強化が楽しいから?

 ――もしかしてウチに勝つ為だったりする?

 ふわわはヨシナリの事を非常に気に入っている。 
 行動を拘束してこないしうるさい事も言ってこない。 これは彼自身が過度な束縛を嫌うからだろう。
 そういった意味でもこの『星座盤』というユニオンは居心地がよかった。

 だが、ふわわがヨシナリの事を最も評価している点は負けず嫌いな面だ。
 前回の模擬戦を見れば分かる。 彼は本気でふわわを潰す為に研究を繰り返し、持てる力の全てを以って挑んだのだ。 仲間である以上、多少は慣れ合う関係にはなるだろうが、ヨシナリの場合はその裏で機会があれば必ず潰してやるといった戦意のような物を漲らせている。

 だから今回、模擬戦を申し込まれた時は内心で笑いを抑えるのに必死だった。
 
 ――ウチを仕留める準備ができたんやね。

 ヨシナリは表面上、新装備の調整とお披露目ですよとにこやかに言っていたが、ふわわにはお見通しだった。 

 ――「お前をぶっ潰す準備ができた」って内心で笑ってるのがみえみえやわ。

 最初は狙撃一辺倒。 狙いが正確なだけのお行儀のいい戦い方。
 次は素晴らしい強敵。 仲間として共に戦い、互いの事をある程度知った上で策を練り、それを凌駕するべく専用の戦い方を模索して挑んできた。

 特に最後の攻防は今思い出しても最高の時間だ。 罠、地形、経験、知識と持てる全てを利用し、機体の機動性を捥ぎ取り、攻撃の傾向を読んでの防御。
 あの動きは相当の研究を積み重ねないと無理な行動だ。 念の為に仕込んだニードルガンがなければ負けて居たのは自分だと確信できるほどのギリギリで――そして熱い勝負だった。

 あの時間をまた味わえるのかと考えるとふわわは堪らなく楽しくなる。 
 左手に小太刀、右手に太刀を構えてホロスコープへと突っ込んでいく。
 二挺拳銃での緩急をつけた牽制は上手いが、わざわざ降りてきてくれた理由はなんだ?

 ――何かあるんやろ?
 
 拳銃の連射を小太刀で叩き落しながら距離を瞬く間に潰して間合いに収める。
 完全に狩れる間合いだ。 これまでの戦いで防御に小太刀だけしか使っていないのは散々見せて来た。 なら、攻撃は高確率で太刀で来ると読んで来るだろう。

 だから、ふわわは裏を突いて小太刀での刺突を選択。 
 リアルでは使用できないがゲームなら使い放題だと開き直った彼女は一撃で機体を射抜く矢のような一撃を放つ。 間合いを考えるなら左はないと判断するはずだ。

 少なくとも彼女の知っているヨシナリはそう考える。 
 それともそれすらも読み切って裏をかく? 次のアクションはヨシナリの行動を見てから決めればいい。 彼女の刺突をヨシナリは機体を僅かに傾けるだけで回避した。

 「うっそー!?」

 思わず声が出る。 この距離で刺突を躱されたのは少し経験がなかった。
 しかもアクションに入る前ではなく、明らかに引き付けてから・・・・・・・躱している。
 つまりヨシナリはふわわの動きが見えているのだ。 回避と同時に拳銃を構える。
 
 ――これはあかん。

 発射。 小太刀を使ったので太刀では長さが邪魔になって振れない。
 回避以外に選択肢がなかった。 機体を強引に捻って半回転させつつ間合いを取る。
 銃弾は機体を僅かに掠めたが、ダメージ自体はほぼゼロ。 だが、精神的な動揺は大きい。

 反応で上回られた? こんな経験は初めてだった。
 ヨシナリの動きはそうでなければ説明が付かない。 明らかにふわわの刺突を見てから躱したのだ。
 前回のイベントの時とは完全に別人だ。 短期間でどうやってこんな動きを身に付けたのだろうか? そしてヨシナリは一度躱した程度で諦めるような性格ではない。 連射音、アノマリーに持ち替えて実弾をばら撒き始めた。

 崩れた体勢で打ち落としは難しいと判断して畳みかけに来たのだ。
 自分が何をされると嫌なのかを熟知している動きだった。 堪らずにふわわは後退し、近くのビルに身を隠す。 刃の届く間合いでここまで一方的に競り負けたのは経験がない。

 逃げなければさっきの連射で負けていた。 そう考えるとゾクゾクと背筋が震える。
 遮蔽物の先からヨシナリの殺気が伝わってきた。 これで新装備の調整とお披露目とか言っているのだ。 

 ――こんなん、笑ってしまうやろ。 

 断言できる。 
 ヨシナリの頭の中はふわわをどうやって仕留めようかという気持ちでいっぱいのはずだ。

 彼女がこのゲームを好んでいる理由の一つであるリアルさ。
 他のVRゲームでは感じなかった対戦相手の殺気を感じるほどの作り込み。 
 疑似的にではあるが「死合い」ができるのだ。 相手の必ず殺すといった殺意を上回り、逆に相手を殺す。 この電脳空間だからこそ感じられる圧倒的なリアルが彼女の心を掴んで離さない。

 他がどう感じているのかまでは知らないし興味がなかった。
 ただ、自身の楽しみと快楽の為に彼女はこのゲームに、この戦いに没頭する。
 地を蹴って遮蔽物から飛び出す。 一瞬、遅れて彼女の居た場所に銃弾が降り注ぐ。
 
 速い。 もう上を取られた。 
 上位の機種だけあってソルジャータイプよりも最高速度に乗るのが速いのだ。
 距離があるのでタイミングは取れる。 当たりそうな弾を小太刀で叩き落しながら市街地の入り組んだ場所へと移動。 空を取っている以上、地形は味方ではななく射線を阻む障害物でしかない。

 「――どうしよっかなぁ……」

 追い込まれている。 ここまで圧倒されるとは思っていなかった。
 性能差もあるだろうがそれ以上にヨシナリの動きが良すぎる。
 攻撃に対する反応もそうだが、位置取りポジショニングも秀逸だ。

 常にふわわの後方から銃撃して打ち落としをやり辛くしてくる。
 振り返るというアクションを取らせて後手に回らされている感覚。
 まるで袋小路に追いつめられているみたいだ。 このままだと遠からず行き止まりに追いつめられて負ける。

 脳裏に敗北の二文字がちらちらと明滅するのを感じ、ふわわはアバターの奥で歯をむき出しにして笑う。

 「おもろいやん」
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