上 下
211 / 351

第211話

しおりを挟む
 光陰矢の如しとはよくいった物で日々は過ぎ去り、年が明けて新年を迎えた。
 同時にサーバー対抗戦というイベント開催が近づきつつある。
 そんな中、マルメルは自主訓練に明け暮れており、時間が合えばふわわとの模擬戦を幾度となく繰り返すといった日々を過ごす。

 地味な行動だとは思うが、あまり苦と感じなかったのはこのゲームに対してそれだけ真剣になっている所為だろうか? これに関しては正直、少し意外と思ってしまっていた。
 段々とそろそろ友達から親友と呼んでもいいヨシナリのレベルアップに置いて行かれてきた事に焦りを感じ始め、ひたすらに腕を磨いた。 彼はヨシナリほど分析力に長けている訳でないのでどうすれば効率良く強くなれるのかは分からなかったが、それでも分かる事はある。

 自身に突出した武器はない。 何をやらせてもそこそこはこなせる自信はあるが、それだけだ。
 だからこそヨシナリも必殺――要は切り札的な物を手に入れろとアドバイスしてくれたのだ。
 ハンドレールキャノンは威力はあるがエネルギー消費が激しいという欠点が存在する。 だが、飛行の頻度が低いマルメルにとってはあまりデメリットを感じない武器でもあった。

 だからこそヨシナリはこの武器を薦めてくれたのだろう。
 その辺りは理解でき、ヨシナリが自分の事をよく見てくれているという事も同時に理解できた。
 逆にマルメルはヨシナリの事をどこまで理解できているのかと聞かれると咄嗟に答える事は難しい。
 
 ここ最近は時間が合わずに一緒にプレイする時間を取れていないが、他所のユニオンプレイヤーと共同ミッションで金を稼ぎつつ、集団戦の訓練をしているとの事。
 少し前からヨシナリは金を稼がなきゃと積極的にミッションを受けているようだ。

 一度、尋ねたが、ヨシナリは「新装備を買おうと思ってる。 詳細は勝ってからのお楽しみだ。 びっくりさせてやるからな!」と言ってきたので追及はしなかったが、強くなるべく何かをしているのは確かだ。 

 ――俺も負けてられない。

 これまでの経験で自分に必要なものは何かは大方理解している。
 繰り返しになるが、マルメルには突出した武器はない。 代わりに分かり易い欠点もない。
 その為、マルメルに必要なのは全体的なレベルアップといった割とあやふやなものになってしまう。
 
 だが、あやふやでも道は見えている。 機体は装備とパーツを、自身は場数を踏んで腕を磨く。
 だからこそ彼は今の自分にできるプレイの練度を上げるべく特訓を繰り返した。
 ヨシナリがやっていたようなトレーニングルームを利用しての命中精度の向上や地形に応じての立ち回り、ポジショニング、満遍なく鍛えていけば少なくとも一段上の動きができる。 

 彼はそう信じて今日も訓練を行っていたのだが、ふとカレンダーを見るとイベント開催まであと一週間となっている。 年が明けてから随分と時間が経つのが早いなと思っているとウインドウにメッセージ受信を知らせる通知が届いた。 なんだと思ったらヨシナリからだ。

 内容はそろそろイベントが近いので話さないかというものだった。
 マルメルは即座に了承の返事を送ってユニオンホームへ。
 
 「お、来た。 マルメル君おっすー」
 「よ、最近、頑張ってるらしいじゃん」

 移動するとヨシナリとふわわが待っていた。

 「おっす、そっちも新装備買う為に頑張ってるって話だけど、どうなったん?」
 「ふっふっふ、聞いて驚け。 ついに金が溜まったので買っちまったよ」
 「聞いても教えてくれへんから、これからウチと模擬戦しようって話になってん。 前みたいに審判よろしく」
 「マジか。 新装備の調整にふわわさんと戦んの?」
 「まぁな。 今回はちょっと自身あるからそう簡単には行きませんよ」
 「へぇ、言うやん。 ウチも装備も機体も強化してるから前とは違うよ~」

 二人は既にやる気満々でそのまま模擬戦用のフィールドに移動。
 
 「フィールドやらはいつもの市街地でええね?」
 「はい。 配置も西と東の端スタートで」
 「オッケー。 じゃあ、ヨシナリ君の特訓の成果、見せて貰おうか?」
 「負けても泣かないでくださいよ?」
 「あはは、その自信粉々にしたるわ」

 普段は仲がいいのだが、こうなるとすぐに好戦的になるなと思いながらマルメルは観戦モードに移行。 二人が移動し、アバター状態から機体へと姿が変わる。
 まずはふわわ。 クリーム色のソルジャーⅡ型だが、装備がかなり変わっていた。
 
 細かった機体はやや厚みを帯びて見えるのは装備が変わったからだろう。
 両肩には野太刀。 腰には太刀とやや短い刀――脇差というのだろうか?――が左右に二セット。
 腕も手首と肘の間が太くなっている所を見ると何か仕込んでいると見ていい。

 メインブースターは元々両肩に着いていたのだが野太刀と干渉するので大型の物を背中の真ん中に一つ。 恐らくは以前まで使っていた物よりもグレードを上げたのだろう。 そのほか各所に付けられたスラスターもアップグレードされているので、以前よりは重そうに見えるが機動性に関しては寧ろ向上していると見ていい。

 ――てか、武器が刀に偏ったな。

 元々、リアルで扱った事があるという事でブレードよりも刀の方が扱い易かったのだろう。
 そして対するヨシナリだが――

 「は?」

 思わずマルメルは目を丸くした。 
 彼のホロスコープは見た目が変わっているなんてものではなかったからだ。
 人型ではあるがやや鋭角的なフォルムは可変を前提としているだろう。

 キマイラタイプ。 ヨシナリはフレームを買ったようだ。
 頭部は特徴的でスリット状のカメラではなく六つのカメラアイが妖しく輝く。
 カラーリングも星空をイメージしたのか黒に金を塗したかのような色合い。 そして肩には星座盤をイメージしたエンブレム。

 武器は相変わらずのアノマリーだが、銃床ストック部分にアタッチメントのようなものが付いており、機体に伸びていた。 恐らくは落下を防止する為の物だろう。
 他には腰に二挺の自動拳銃が見える。 

 「ヨシナリお前、それ買ったのか?」
 「あぁ、びっくりしただろ? 苦労したぞマジで」
 「マジかよ。 ってかフレーム買えてもパーツ一式もいい値段するんじゃなかったか?」 
 「そうなんだが、一緒に組んだ人達が格安で譲ってくれたんだ。 まぁ、それでも足りなくて今まで使ってたパーツや武器類は軒並み売り払ってしまったがな」

 ヨシナリは小さく息を吐き――

 「それよりもウチのエンブレム考えてみたんだけどどう? 恰好よくね?」
 
 ――そんな事を言い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...