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第204話

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 「く、どこから――」

 ポンポンは反射的に飛んできた方向を見てアバターの奥で表情を引きつらせた。
 ビルの隙間。 しかも複数のだ。 
 針の穴を通すような隙間の向こうでヨシナリの銃口がこちらを向いていた。
 
 「嘘だろ、Fランクがこの精度の狙撃を決めるのかよ!?」

 エネルギー弾は実弾よりも弾道の補正が楽ではあるが、狙った位置に通すのはそう簡単な事ではない。
 こんな精密射撃は特にだ。 ポンポンが状況を把握し、我に返ると同時に彼女の機体が地面に接触しガリガリと擦りながら停止。 本来なら即座に立て直しを図る所だが、片足がない以上立ち上がる事も難しく、仮にできたとしてもどうにもならない。

 何故なら視線を上げるとそこには長い刀を大上段に振りかぶったふわわの機体がいたからだ。

 「完敗だナ」

 斬。 ポンポンがそう呟いたと同時に振り下ろされた野太刀が彼女の機体を両断。
 確認するまでもなく即死だ。 それにより豹変の機体が全滅となり試合終了。
 

 「お見事。 正直、ランクも機体性能も上だったからウチの子達が負けると思ってなかったわ。 流石はあのラーガストのお仲間ってところかしら?」

 試合が終わって全員がアバター状態で合流。
 最初に口を開いたのはツェツィーリエだ。 彼女はヨシナリ達に拍手しつつ素直に勝利を讃えているようにも見えたが、ヨシナリは内心で面白くないだろうなと少し思いつつ表面上はいえいえと謙遜する。

 「いやいや、運が良かっただけですよ。 後、言っときますけど、ラーガストさん達と組んだのは成り行きなので個人的な繋がりはないですよ」

 運があったのは事実だ。 相手がヨシナリ達の情報を持っていなかった事、格下と侮っていた事、この二つは勝因としてかなり大きい。 相手が格下でも戦い方などを深堀りして事前に対策を練っておくタイプであるなら結果は逆になっていた可能性は高い。

 「ふーん、以外に謙虚ね。 格上に買ったんだからもうちょっと派手なリアクションを想像してたんだけど?」
 「他の人は知らないですけど、俺の場合はそれをやると後で痛い目に遭うんで勝ったからって気は抜けないんですよ」

 そうはいったが内心で自分達の事を舐めた態度で見ていた奴に分からせてやったので実は少しだけ気持ち良くなっていたが表には出さない。
 
 「ま、いいわ。 それにしてもアンタ達ぐらいの腕だったら大手でもやっていけるでしょうに勿体ない」
 「よく言われますが、俺達は身内で楽しみたいんでデカい所とはプレイスタイルの面で噛み合わないんですよ」
 「そう? まぁ、これからウチは反省会だからこれで失礼させて貰うわ。 イベント戦では味方だからよろしくね?」
 「えぇ、頼りにしてるんで、ピンチになったら助けて下さい」
 「ふふ、面白い子ねぇ。 えぇ、ピンチになっている所を見かけたら助けてあげるわ」

 ツェツィーリエはヨシナリの返しが面白かったのか少しだけ笑った後、小さく手を振ってアバターの姿が消失。 それに続く形でまんまるとニャーコが小さく「対戦、ありがとうございました」と会釈して移動。 ポンポンだけがその場に残っていた。

 「どうかしましたか?」
 「一つ教えて欲しい事がある」

 ヨシナリがそう尋ねるとポンポンは少しだけ躊躇うそうな素振りを見せたがややあってそう言った。

 「はぁ、何でしょうか?」
 「最後の狙撃。 何で当てられたんだ? あたしの移動経路を読んでないとアレは当てられない」
 「あぁ、アレですか――」

 ヨシナリはどうしたものかと振り返るとマルメルは小さく肩を竦め、ふわわは何も言わない。
 
 ――まぁ、いいか。

 「えーと、ポンポンさんって基本的に相手を見て分析してから動く人ですよね」

 ヨシナリは早い段階でポンポンの性質を見抜いていた。 
 自分と同じように情報を集めてから相手を仕留めるタイプだと。
 初手で目立つ上空に陣取ったのも相手を釣り出す以上に動きを見る為の物だったと解釈していたのだ。 そしてその後の動きから推測がそう外れていないと確信したので、逆の立場なら自分がやりそうな事、やりそうな動きを想定して行動した。 特にふわわに追いかけ回される場合、執れる選択肢はそう多くない。 

 彼女はプレイヤーである以上に敵を刈り取るハンターに近い。
 追い込まれた獲物がどうなるのかは身を以て知っているので、どのような逃走経路を選ばされるのかも何となく想像できた。 あの場所で張っていたのは可能性が高かったからだ。

 「――つまりあたしの動きを読んだってことか?」
 「はい、ふわわさんに追いかけ回されて余裕がなくなった奴は大抵、似たような挙動をするので上へ逃げる選択肢を奪えばまぁ、あの辺に来るだろうなって思ったんで」
 「そ、そうか。 お前凄いナ」
 「はぁ、どうも」
 「おねーたまにはああ言ってたが、あたしと組む気はないか?」

 意図が今一つ掴み切れずにヨシナリは内心で首を傾げる。

 「……豹変に来いって話ですか? だったらお断りします」
 「むぅ、お前のスキルは集団戦でこそ活きる。 勿体ないゾ!」
 「買ってくれるのはありがたいんですが、俺は楽しくやりたいんですよ」
 
 そう返すとポンポンは少しだけ肩を落とす。
 正直、舐めた態度を取ってくる奴だと思っていたので、ここまで素直な反応をされると対応に困るなとヨシナリは内心でどうしたものかと首を捻る。

 「そうか。 もしも気が変わったらいつでも連絡してくれ! 待ってるからナ!」
 「はは、何かあったら頼みますよ」

 ポンポンはフレンド申請を送るとじゃあなと手を上げて去っていった。

 「なーんか、思ったよりもかわいい反応やったね」
 「最後までクソガキ感を出してくれた方がこっちとしてはやり易かったんですけどね」
 「まぁ、勝てたしやったな!」

 微笑ましいといった様子のふわわと素直に勝利を喜ぶマルメル。
 ヨシナリも同調したいところではあったが、そうも行かない。

 「取り敢えずホームに戻って感想戦やるぞ。 特にマルメルはやられたから反省会も兼ねるからな」
 「はは、面目ない」
 「いや、真面目な話、格上相手によく頑張ってくれた。 充分と言いたいところだけど、改善できる所はいくらでもあるからその辺を見直せばお前はもっと強くなれる」

 反省会と言っているが、ヨシナリはマルメルの仕事ぶりには満足していた。
 やられこそしたが、序盤から中盤にかけて牽制、連携などで戦況のバランスをしっかり取ってくれていたので後は生存力が上がれば中衛としての完成度はまだまだ高まる。

 「そう言ってくれて助かるぜ。 よし、もっと頑張るぞ!」
 「まずはやられへん努力からやね!」
 
 三人はそんな話をしながらフィールドを後にし、ユニオンホームへと移動した。
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