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第200話

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 一つ。 ヨシナリは敵機を撃墜した事に大きな手応えを感じていた。
 当初の狙いとしては敵の情報収集に徹する為、全員で散って捕捉されない程度に観察に入るつもりだったが、それは早々に破綻した。 良い意味で。

 何故なら敵は連携に慣れ過ぎており、開始と同時に自分達の得意なスタイルを見せつけに来たからだ。
 リーダーのポンポンは目立つ位置に陣取る。 その時点でこちらを誘いつつ出方を窺うタイプ、つまり自分と同じように相手の情報を集めようとしている事を理解した。

 重装備のまんまるは後方、オーソドックスな装備構成のニャーコは前に出る。
 役割としては前衛、後衛、指揮としっかりと別れているのはヨシナリにとってありがたかった。
 何故ならそれだけ分かればどこから崩せばいいかの指針になるからだ。

 これが大規模戦であったなら真っ先に指揮官機を狙うのだが、今回は三対三なので指揮官を崩しても総崩れは期待できない。 ならストレートに落としやすい奴を集中して狙えばいい。
 まんまるは距離と機体の防御力の関係で除外、ポンポンはデカい釣り針をぶら下げて待っているので消去法で向かってきたニャーコで決まりだった。

 何も言わなくても突っ込んでいったふわわとぶつかるのでヨシナリはマルメルと連携を取って仕留めに行けばいい。 あれからマシにはなったがふわわの個人プレイは多少ではあるが改善されたので、動きを合わせやすくはなかったがまだまだ課題は多い。 その為、彼女に動きを合わせて貰うよりもこちらの連携に組み込む形にした方が良い。 要は大雑把な指示だけ与えて後は自分達で合わせるのだ。

 仕留める相手は決まったが、相手の技量はまだ見ていない。
 ふわわよりも上であった場合、無理に仕留めに行かず削る方向で考えていたがそれは杞憂となった。
 仕掛けたふわわの近接スキルを脅威を感じて下がったのだ。 これなら問題はない。

 マルメルに持たせた遠隔の発射機構と狙撃銃を預け、指定のポイントに設置。
 そこから先は簡単だった。 遠隔操作した狙撃銃での牽制でポンポンの気を逸らし、まんまるに狙わせる。 同時にマルメルが奇襲を仕掛けて全員の居場所が割れたように見せかけた。

 ヨシナリが欲しかったのはこの僅かな時間。 よく見れば遠隔操作という事がバレるが即座ではない。 数秒は保つ、その数秒の間、自分の存在は戦場の死角となる。
 後はその優位を最大限に活かしての狙撃での一撃。 これで外せば最悪だが、敵の横槍がなく相手は自分に気が付いていない。 この美味しい状況で外すなんて真似ができる訳がなかった。

 ふわわの一撃で空中に上がり、その先を狙ったマルメルの一撃を防御。
 動きが完全に止まる。 

 ――ここだ。 

 エンジェルタイプのエネルギーシールドに関しては頭に入っている。
 防御力が高い反面、範囲が限られている。 あくまで盾なのでその裏側は非常に脆い。
 しかも背中を向けている。 この状況でどうしくじれというのだ?

 アノマリーを慣れた動きですっと構え、深く一つ深呼吸。
 一瞬だけ手振れが止まる。 発射。
 放ったエネルギー弾は吸い込まれるように敵機に命中。 一撃で胴体を貫通し、機体は爆散。

 確認するまでもなく即死だ。 
 エンジェルタイプは高出力のジェネレーターを積んでいるので、撃ち抜くと爆発が派手だった。
 これで一機。 相手を崩せたのは大きいが、これが通用するのは今回だけだ。

 相手はこちらの位置を完全に把握し、手札の大半も晒してしまった。
 恐らくは機体の性能を活かしたゴリ押しで来る。 二人になった以上、前衛と後衛を完全に分けた戦い方で対応するだろう。 ヨシナリが逆の立場ならそうする。

 同格なら勝負を投げたくなるかもしれないが、向こうからすればヨシナリ達は遥かな格下。
 このままやられっぱなしで終われない。 

 ――特にあのチビは露骨に見下してたし、熱くなってきそうだな。

 さぁ、どう来る? そう思考を巡らせながらもう隠れる必要のないヨシナリは後衛のまんまるを狙って発射。 当然のようにエネルギーフィールドに弾かれる。
 こちらはシールドと違って機体の全周を覆うタイプの防御機構なので抜くのは少し骨だが、使わせる事に意味があった。 プリンシパリティのエネルギーキャノンは大した威力だが、フィールドとの併用はできないのでこうして防御をさせておけば気軽に撃てなくなる。

 下手に連射すれば狙撃に対する防御手段を失うからだ。
 この状況で使用エネルギーを超過して強制冷却にでもなれば致命的な隙を晒す。
 その為、簡単には撃てない。 そしてあの位置に届く攻撃手段を持っているのはヨシナリだけ。

 なら、まんまるの執れる選択はヨシナリを排除する事。
 つまり、ポンポンの援護よりヨシナリへの対処にリソースを割かなければならないので援護が難しい。 後はマルメルとふわわが二人でポンポンを仕留めてくれればいいのだが――


 首尾よく一機撃墜。 後はこのまま勢いに任せて押し切る。
 そうなれば良かったのだが、相手はBランク。 正面から挑むには中々に厳しい相手だった。
 マルメルはビルの陰から突撃銃を構えるが、ポンポンの姿は既にない。
 
 「おせーんだよ!」

 マルメルは舌打ちしながら振り返って射撃しつつ近くの路地に入る。
 ヨシナリから徹底されている事はいくつかあったが、中でも強く言われていたのは直線的な動きは絶対にするなという事だ。 相手は主兵装はエネルギー兵器で直線での貫通力は非常に高い。

 反面、真っすぐにしか飛ばないので射線を通さなければ躱しようはある。
 その為、絶対に空に上がるなとも釘を刺されていた。 

 ――いやぁ、人の忠告は素直に聞くものだな。

 サンキュー相棒と思いながらマルメルは銃弾をばら撒きながらビルの隙間を縫うように移動。 
 これをやってなかったらもう二、三回は死んでるなと思いながら突破口を探る。
 ポンポン。 名前とは裏腹に非常にバランスの取れたプレイヤーだ。

 攻撃、回避を器用にこなし、マルメルの移動先を読んで先回りをしてくる等、非常にやり難い相手だった。 
 
 ――ってかこの戦い方。 得意レンジが違うだけで似てるんだよなぁ……。

 まんまヨシナリの得意レンジを遠距離から中距離に変えたような戦い方だった。
 的確にこちらの嫌がる事をしてくる点は共通していたが、こいつには決定的に違う点がある。
 それは――

 「えー? また、逃げるの~。 ザーコ、ザーコ!」

 ――こうして躱す度に煽ってくる事だ。

 「……うぜぇ」

 マルメルは思わずそう呟いた。
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